実況パワフルプロ野球 サクセス 立ち上がれ!恋恋ナイン編   作:柿の樹

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第九話 自分を知ること

ある日曜日。

天気は澄み渡るような快晴。

照りつける日差しの熱さが、もう夏なんだという事をジリジリと教えてくれる。

 

……ていうか、本当に熱い。

 

正直部屋にこもりたい。クーラーをかけた部屋でアイス食いながら野球の専門誌読みたい。

 

「まぁ、少なくとも体を動かすつもりはあったけど……」

 

時間は午前十時すぎ。

炎天下の河川敷グラウンドに今オレはいる。そして目の前では諏訪部が黙々と素振りをしている。

 

「……っ……っ!」

「…………」

 

そういえば、何でこんなところに居るんだろう―――

 

 

第九話 自分を知ること

 

 

 

 

『なあ、パワプロ』

『ん?』

『実は、お前に頼みがある』

『頼み?』

『ああ。……お前、名門でクリーンナップを打っていたんだろう。だから、それを見込んでお願いしたい……俺を鍛えてくれ』

『それは別にかまわないけど、なんだよ急に』

『今日の試合で……俺は四打席全てで三振だった。正直浮かれていた、マシンの140キロが打てるからと、クリーンナップに入っているからと……。でも違った。アイツの球には、一球もかすりもしなかった……怖くなった、悔しかった。甲子園に行くには、甲子園で勝つにはアイツの様な奴らを打てなければならない。俺は打てるようになりたい。だから、俺鍛えてくれ……頼む、パワプロ……!』

 

 

 

 

―――ああ、あの時こんなやりとりがあったんだっけ。

 

確かに向上心があるのは良い。オレだって諏訪部の成長には期待してるから、こういう特訓は喜んで引き受ける。

ただ、普段黙々と練習メニューをこなしている諏訪部が自分からこうしてくれ、ああしてくれと言ってくるのがあまりにも珍しかったので、少し驚いた。

 

周りの意見を聞けるほど心に余裕ができたのか、ただ()いているだけか。それは分からないけど、強くなりたいと言うならそれを拒む理由は無い。

なのでオレが付きっきりで指導しているんだが……。

 

「―――プロ……ワ……パワプロ!」

「―――ひ!?な、なんだ諏訪部、急に話しかけるなよ」

「……。……練習に付き合ってもらって文句を言うつもりはないが、一人だけたそがれて放置されても困るんだが」

「ゴ、ゴメン……」

 

―――諏訪部の評価が下がった―――

 

「で、何なんだよ?」

「……どうも違和感がぬぐえない。俺のスイングを見ていてどう思った?」

「どう、か。そうだな―――」

 

俺は一つ一つ気になった点を説明していった。

 

ステップが大きすぎて体が突っ込んでいることや、回転が巧く使えておらず腕だけのスイングになっていること等々。

 

「多分、お前のフォームが崩れ出したのは試合からだと思う。試合前のお前は結構どっしりと構えてたけど、初心者でまだフォームの固まりきって無かったお前は、いざ試合となって色んな球に手を出してるうちに、次第にフォームを崩されていったんだ。特にお前はあの試合中、どんな球でも打ち返そうとして遠くのボール球にも手を出していた。しかも、内角高めにボール球を投げられたことで、投球自体にも恐怖心を持った。だから更に腰が引けて……」

「つまり……フォームを矯正しなければならないと?」

「まぁ、簡潔にいえばそうだな。でさ、諏訪部……今のフォーム、っていうか最初に教えられたフォーム。打ちやすいか?」

「いや、分からん。……一応、極々基本的なフォームを教えられたんだが」

 

そうか……。でも、もししっくりこないっていうなら色々なやつを試してみた方がいい。

オレはスクエアスタンスで、割と顔らへんの高さでバットを構えるけど、柿原はオープンスタンスでバットの位置は高い。

それぞれに振りやすい、打ちやすい形ってやつがあるから、諏訪部はまずそれを見つけないと。

 

とりあえず、諏訪部が今一番振りやすいと思う形で素振りをさせてみた。

 

「どうだ?」

「……う~ん、ぎこちない」

「ふむ」

 

まぁ、マシンとはいえ速い球を打ち返せるんだから、動体視力は良いしスイングスピードも初心者にしてはそこそこ速い。ただよく見ていると、下と上があまり連動していないしかなり筋力に頼った腕振りだという事が分かる。

正直、マシン打撃の時のインパクトが強すぎて諏訪部の事を見誤っていたんだと思う。なまじ球への反応がいいし、恵まれた体格もあって前に打球が飛ぶだけにオレ自身舞い上がっていた。コイツは勝手に育つだろうと。

 

でも違った。

確かに素質はあるだろうが諏訪部は初心者なんだ。よくよく思い返してみれば、練習中だって本気を出した柿原やあおいちゃんからクリーンヒットを打てたことは全くなかった。手を抜かれててもほとんどファールばかりであまり前にはとんでいなかった。

つまり、マシンの140の球も”打てる”んじゃなくて”ただ当たっている”だけだったのだろう、だからマシンじゃない林のキレのある球が打てなかったのは、至極当然だったのかもしれない。

 

「とにかく、今は全部真っ白にして自分に合うフォームを見つけよう」

「ああ。己惚れる訳じゃないが、俺が打てないことにはチームの勝ちは見えてこない。いい打者が一人でも欲しい状況だ……お前たちの負担をできるだけ減らしてやりたい」

「うん。俺もお前には主軸として成長してほしい……諏訪部なら絶対いい打者になれるさ、だから一緒に頑張ろう!おー!」

「ああ……!」

 

かくしてオレ達は練習を再開した、諏訪部の理想のフォームを探すために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後も河川敷グラウンドで、フォームを変えつつ素振りとトスバッティングを繰り返していたオレ達だったが、時間も午後十二時を回りそろそろ腹も減ってきたなとコンビニへ昼飯を買いに行こうとした矢先、ある聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

『なんだ、もう終わりかい?』

 

そう、忘れるはずの無いあの声が……

 

「い、猪狩!?」

「……まったく無様なスイングだったよ。僕を笑い殺させる気かな?」

 

猪狩が得意げに笑う。

 

「パワプロ……こいつは?」

「ふん、自己紹介が遅れたね。僕は猪狩守……あかつき大付属高校のピッチャーで、そこの馬鹿と昔チームメイトだった者だよ」

「む……馬鹿とはなんだ馬鹿とは。お前だってツンデレのくせによぉ!って言うかこんなところで何してんだよお前は」

「つ、ツン……!?そのような低俗な言葉で僕を形容するな汚らわしい。……まあいい。ランニングをしていたら偶々見知った顔が目に入ったものでね」

 

へ~え、それで茶々入れに来たと。

 

「で、彼は君のチームメイトかい?」

「ああ、諏訪部って―――」

「パワプロ、自己紹介くらい自分で出来る……」

 

諏訪部が割って入ってきた。

なにか、物凄い形相で睨んでいる気もするが、猪狩も涼しい顔で受け流している。

こ、怖えーよ諏訪部……。

 

「俺は諏訪部吾郎。コイツと同じチームで外野手をやっている。お前の噂はパワプロや他のチームメイトからも聞き及んでいる……天才、だそうだな」

「天才か……ふふ、周りがそう言うのならそうかもしれないね。で、その天才の僕に何か用かな?」

(……話しかけてきたのお前じゃん)

「バッティングも上手いと聞いている……そのお前から見て、俺はどう映った?」

 

諏訪部の質問に猪狩が眼を細める。

しばし視線を切った後、ゆっくりと言葉を発した。

 

「君は初心者かな?」

「ああ、まだ初めて一カ月だ」

「そうか……。そうだね、一言で言うなら”荒い”な。力まかせに振るのはバッティングじゃない……腕振りのように見える外国人選手でもちゃんと腰を使っているからね。君のはただバットを振っているだけで、バッティングになっていない……それだけの体格を持っているだけに惜しいな。適正なスイングをすれば、そこいらの有象無象などとは比べ物にならない力を引き出せるだろうに。このままでは、ただの案山子か、木偶の坊だよ」

「…………」

「体格は目に見える才能だ……しかし、当たれば飛ぶで勝ち進めるほど、この地区は甘くは無い。才能を殺したければ、今の練習を続けるといいさ……倒し甲斐は無くなるが、対抗馬が減ればそれに越したことなないのでね。……まったく少し喋りすぎてしまったよ。普通凡人の事など気にかけないのだけれどね、パワプロの手前友人の(よしみ)だ」

 

あー久々に聞いたよ猪狩節。相変わらず憎ったらしいな~もう。

諏訪部のヤツ、表情強張らせたままだよ。まったく、選手相手には初心者、初対面でも厳しいな毎度々々。

 

『せいぜい無駄にならない努力を見つける事だね』と言って猪狩がその場を去ろうとする。

しかし、それを諏訪部は制止して

 

「お前の力を見込んで頼みがある。俺と一打席だけでいい……勝負してくれ」

 

と言い放った。

 

「お、おい諏訪部……」

「キミ……僕に勝負を挑むという事の意味を分かっているのかい?」

「それは重々分かっているつもりだ。天才であるお前の相手をすれば、分からなかった何かがつかめるかもしれない」

「初心者である君に僕の球が打てるとでも?」

「それは分からない……。だた、俺は今無性にお前の事を打ちたくてたまらない。闘争心というのだろうか、持てる者への嫉妬なのだろうか……それは分からんが、この(たぎ)りは本物だ」

「…………」

 

珍しく諏訪部が熱くなっている。こんなに感情をむき出しにした諏訪部をみるのは、たぶん初めてだ……。

猪狩は相変わらず涼しい顔をしている。表情からは読み取れないが、多分その想いや熱意は伝わっている筈だと思う。

 

「まったく、この猪狩守が舐められたものだね」

「雑魚が相手とはいえ天才が、勝負を避けるのか?」

「いいや、むしろその逆さ。僕としては勝負を申し込まれればそれを断るつもりはない。むしろ、現実を教えるために全力で潰しにかかるよ。ただ、残念ながら今はキャッチャーもグラブもないんでね」

「……………」

「どうしてもというなら、前哨戦として6割の力で投げてあげるよ」

「前哨戦?」

「そうだ、今日のところはね。ただ、今日の結果によらず後日……そうだね、3日後にまた全力で相手をしてあげよう」

 

二人はさも当然のようにマウンドへ、そしてバッターボックスへと向かい睨み合った。

 

「6割でいいのか?」

「十分だよ」

 

猪狩が凄む。諏訪部も鋭い視線を絶やさない。

俺は見ているだけなのに、二人の威圧感にのみ込まれそうだった。

 

「あいつ、猪狩を前にしても全く物怖じしてない。むしろ……」

 

むしろ、強打者の風格すら漂わせている。

なんだろう、諏訪部は初心者のはずなのに物凄く頼もしく、恐ろしく見える。

あ、そう言えば……猪狩にアレ言っておこうかな。

 

「猪狩!」

「なんだい?」

「なんだってなんだよ。お前肩作ってないだろ?だからウォーミングアップがてら、少し話を聞いてくれ」

「そうか、そう言えばそうだったね。僕とした事が頭に血が上っていたよ。キミ、少し待っていたまえ」

 

一旦仕切り直して、オレと猪狩はキャッチボールを始める。

諏訪部もバットを掲げたまま瞑想を始めた。

 

猪狩はグラブがないので、返す時は素手でも捕れるくらいゆるい球を投げかえす。

ちょうど方が温まってきたころ合いを見計らって、オレは猪狩に告げた。

 

「なあ猪狩。オレ達この前練習試合してさ」

「へえ。で、それがどうかしたのかい?」

「いや。その時諏訪部コテンパンにされてさ……まぁ、それはオレもだけど」

「何が言いたい?」

「その時の相手投手……お前並みのレベルだったぞ」

「…………」

「そんな奴の全力投球を見た後なんだ、6割で足りるか?」

 

心外だとばかりに、一瞬猪狩の眉間にしわが寄る。

しかし、すぐ何事も無かったかのようにマウンドに向かった。

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

改めて猪狩と諏訪部が正対する。

少し中断が入ったが、二人の緊張感は微塵も解けていなかった。

 

「全部ストレートでいくよ。キミを打ち取るくらいならそれで十分だ」

「それでいい。俺も今の自分で変化球まで打ち返せるとは思っていない」

「そうか……なら、いくぞ」

 

猪狩が一球目を投げる。宣言通りストレートだ、しかもど真ん中。

6割というが、速い!

諏訪部はバットを振るそぶりも見せずに見送った。いや、振らさせなかったのか。何しろ猪狩のストレートは伸びがある分体感ではもっと速いはずだ。

 

二球目もど真ん中だったが、諏訪部はこれを豪快に空振った。

 

そして三球目―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やはりこの程度か。

なかなかいい眼をしていたが、所詮は素人……ど真ん中すらかすりもしない。

久々に楽しめると思っていたんだけれどね。

 

しかし、あのオーラ……そそられるものがあるな、まるで強打者と戦っているかのようだ。

名残惜しいが、次で確実に仕留める。

 

「―――っ!」

 

これで終わりだ……!

 

『……、っ!!!!!!!!!』

 

諏訪部がバットを出す。コースはさっきよりも少し高め、今の彼なら疑いなく三振だろう……そう思っていた。

しかし―――

 

(なに……)

 

甲高い金属音と共に、頭上にボールが現れた。

そしてボールはゆっくりと自分のもとへ落下し、吸い込まれるようにグラブに収まった。

 

「やはり、ストレートだけで十分だったようだね。これが現実さ……今のキミなら、全力でなくともこうして打ち取れる。分かっただろう、力の差が」

「そうだな。ただ、掠らせることはできた。我がままに付き合ってくれてありがとう、次の”真剣勝負”も、期待して待っている。また、会うときは成長した俺を見せる番だ」

「3日で出来る成長など知れているが、キミがもし”本物”なのだとしたらその3日も馬鹿にはならないのかもしれないね」

「どうだろうか。ただ、こんな素人に一定の期待を寄せてくれてうれしく思う。お前から受けた助言は忘れずにとどめておく」

「はて、僕は助言などしたつもりはないのだけれどね」

「俺は”体格がいいから外国人の様なフォームで打てばいい”のだろう?先の言葉を深読みすればそういうことになる。お前は俺にどんなスイングがあるか一瞬で見抜いていたんだ」

「さあどうだろうね。凡人に投げかけた言葉など一々覚えてはいないよ」

 

『勝負の約束は忘れていないけどね』と付け足し、僕はグラウンドを後にした。

 

『やったぞ諏訪部!あの猪狩のストレートに当てるなんて!』

『いや、運よく当たっただけだ。だが、フォームの方向性は決まった。これで、前に進める……!』

『よーし飯食ったら猛特訓だぁぁぁ!!』

『ああ!!』

 

後ろから彼らの喧騒が聞こえる。

 

まったく。

最後の一球……あれは無意識に7割半くらいの力で投げていたはず。それを内野フライとはいえ前に飛ばすとは……。

 

「パワプロ、キミはいい素材を見つけたな」

 

彼は必ず大きな壁となって、僕達の前に立ちはだかるだろう。

諏訪部吾郎か……再戦がこれほど楽しみなのは、キミ以来だよパワプロ。

 

―――猪狩の評価が上がった!―――

―――猪狩のやる気が上がった!―――

―――諏訪部のフォームがフェルナンデス打法に変わった!―――

 




はいはーい久方ぶりの本編投稿ですわ。

諏訪っちゃんのフォームはコレ連載開始時からずーと悩んでて、小谷野・松中・フェルナンデスと候補は上げていたんですが、今日改めてフェルナンデスのバッティング動画見て「これだ!」と思い、フェルナンデスのフォームに決定しました。

次回、目覚める力   まもなく、プレイボールです!
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