実況パワフルプロ野球 サクセス 立ち上がれ!恋恋ナイン編 作:柿の樹
八月一週目。
夏、真っ盛りである。
蝉の鳴き声けたたましいけふこの頃……夏の甲子園大会に向けた予選も大詰めを迎え、各都道府県の代表校があれよあれよと決まっていく。
ちなみに、"激戦区""あそこだけ戦国時代"などと評されるウチの地区ではあるが、最近はあかつき大付属と帝王実業の二強となっているのが実情である。しかし、そのほかの学校が弱い
訳ではなく全体としてのレベルはむしろ高い……のだが、その中でも前の二校が飛び抜けて強いために二強の様相となっている。
とまぁ、そんな予選大会を見事というか当たり前というか勝ち抜いてきたのは、言うまでも無くあかつき大付属。
事実上の決勝戦と言われた準々決勝で帝王実業を退け、準決勝・決勝とストレートに完封勝ちで甲子園への切符を手にした。
そのあかつき大付属メンバーの中でひと際存在感を放っていたのが、一年生の猪狩守である。
最速146km/hのストレートとキレのいいスライダー、カーブ、フォークを操る本格派サウスポー。
前エースの三年生を抑えに追いやり、一年生にしてあかつきのエースに君臨した彼を……
誰もがその威圧感に呑まれ、圧倒的な投球で9回を文字通り支配していくその姿を……
だれもが皆"怪物"と呼んだ――――――
第十話 合宿
ときめき青春高校との練習試合からすでにひと月以上が経過した。
この一カ月でオレ達が進歩した事といえば、タマキせんせーがやっと基本的なルールを理解し始めた事と諏訪部のバッティングが格段に上達したことぐらいである。
……あ、そうそう。
諏訪部のバッティングといえば、河川敷での一件から三日後、宣言通り猪狩がウチ(恋々)に来て諏訪部と全力の一打席勝負をした。
結果は……なんとライト前へゴロヒットを放つ大金星(?)であった。
いつも通りポーカーフェイスを繕っていた猪狩だったが、諏訪部の成長を讃えつつもなんだか心なしか不機嫌そうだった……夏の予選のあの快進撃は、もしかしたらあの時のイライラを
ぶつけていたのかもしれない。そうだとしたら、八つ当たりの的にされた他校の面々が不憫でならない……合掌。
ちなみに諏訪部はフォームが固まってからというもの、さっきも言ったが加速度的にバッティングが上達していっている。
もともと高そうだった長打力にはさらに磨きがかかり、次から次へとライナーで柵外へぶち込んでいく。変化球や難しいコースの球も右に左に難なく打ち返すなど、確実性も劇的にアッ
プしていた。そりゃもう成長というより”覚醒”というレベルで。
『うわー諏訪部君すごーい!』
『飛距離更新したんじゃないの?』
『これもう4番で確定じゃね?』
『まじでカッコよすぎるぜ~!』
『フォーム一つであそこまで変わるもんかねぇ』
『まだまだオイラの足元にも及ばないでやんす!』
「…………」
確かに次の試合からは諏訪部が4番でもいいかもしれない。打撃力に関して言えばすでにチームの中では群を抜いている。
だけど、なんだけど―――
「オレ、もしかして抜かれてる?」
っていうか、あいつもしかして……いや、もしかしなくても天才じゃね?
オレだって伊達にあかつき中のクリーンナップを打っていた訳じゃない。中学時代はそこそこに騒がれたり、色々な名門校から勧誘を受けていたくらいだし今でも自分の実力が周りに劣
っているとは思っていない……ただあいつの成長が驚くほど著しい。
諏訪部、なんと恐ろしい子……こんなに早く“4番”が手に入ったのはうれしい誤算ではあるのだが―――
「あかつき大付属中クリーンナップというオレのアドバンテージは一体……?」
まさかこんなに早く抜かれるとは思わなかった……野球歴たった二カ月のヤツに。
オレ、泣いていいかな?
「パワプロ君なにやってるでやんすか?」
「い、いやなんでもないよ。諏訪部はすごいなー、あはは」
「……物凄い棒読みだよ」
そうやってオレが悶々としていると、矢部君達が集まってきた。
「キャプテンさ、すわっちが成長してんのは喜ばしい事じゃない。悔しいかもしんないけど、男の嫉妬は見苦しいわよ見ていて」
「うう……」
夏野さんの言葉がグサリと刺さる。
嫉妬か……そうだな、みっともないよな。こんな程度で取り乱して……オレより凄いヤツらなんてごまんといるのにさ。慢心はよくないよな、心を入れ替えなきゃ。
「にしてもホント……諏訪部はすげーよな。これだけ打てたら、クリーンナップがすごく厚くなる」
「うん。シート打撃でもボクくらいじゃもう全然抑えられなくなっちゃったし、ちょっと悔しいよね。でも、ああいうのが天才っていうのかな……そう考えると、先発としては物凄く頼
もしいと思うよ」
「秋の大会、もしかしたらもしかするでやんす!」
「ああ、オレもすげーわくわくしてきた」
エースに守護神に4番……矢部君の言うとおり秋の大会、何かひと波乱起こせるかもしれない。そのためにも、1・2番はもちろんクリーンナップであるオレがもっとレベルアップして
脇を固めないと。
この夏は猛特訓か……それなら―――
・・・・・・・・・・・・
「合宿がしたいですって?」
「はい……駄目でしょうか?」
ところ変わってクラブハウス内の監督室。
思い立ったが吉日でタマキせんせーに相談しに来たけど、この難しい顔を見る限りもしかしたらダメっぽい。
各々のさらなるレベルアップのためもあるけど、"合宿"と云うキーワードはそれだけで気分の乗るものだから、モチベーションを保つためにもやっておきたいんだけどな。
「う~ん、させてあげたい気持ちはあるけど……うちはまだ創部したばかりだから部費に余裕はないし、理事長に頼み込もうにも実績が無いから厳しいわよ?」
「そうですか……うぬぬぬ」
「まぁそう唸ったって仕方が無いわよ……一応この件は加藤先生とも相談してみるから私が預かっておくわ。だから今日はもう帰りなさい」
「分かりました。じゃあ合宿の事はお願いします。お疲れさまでした!」
「はいはい。じゃあまた明日ねー」
すぐにOKというわけにはいかなかったけど、一応考えてみてはくれるらしい。
とりあえず今日のところはタマキせんせーにまかせて、オレは帰路についた。
「さて、もう三日である」
「合宿どーなったんだろうね……あ、柿原君とはるかだ」
「よっ。二人きりで昼食とは仲睦まじいね御二人さん」
「う、うるさいっ!そんなこと無いわよ。ねぇパワプロ君!?」
「え?あ、ああ……うん……で、そっちこそ二人でデートか?」
「ちげーよ」
「三ツ沢先生から皆部室に集まってほしいとの伝言です」
「せんせーから?って事はまさか」
合宿の事について何が進展があったのかな?
・・・・・・・・・・・・
「さぁ皆集まったわね。よってたかってはいどうぞ、皆に朗報よ!」
「朗報って事は、アレでやんすか!?」
「そうアレよ!皆お待ちかねの合宿に行けるようになりました!」
「「「おお~~!!!!!」」」
「田舎にある古い施設なんだけど、近くには海もあるから泳げるわよ。ちなみに宿泊費はタダ!」
「うわー、かっきー海だって!アタシどんな水着持っていこうかな~」
「おいおい本分は練習だぜ?まぁどうせならとびきりのを所望するけど」
「そこイチャつくなでやんす!リア充爆発しろで―――」
「はいはい分かったから少し黙ろうね矢部君。とにかく、週明けから二週間みっちり合宿よ!前日は休みにするけど、後のタイムスケジュールは配ったしおりを見てね」
矢部君がタマキせんせーに制止されて沈黙する。
ついに合宿か……た、タマキせんせーや加藤先生も水着になるのかな。ゴクリ。
…………
いやいやいやいやいや!
柿原も言っていたが本分は練習練習!この二週間でみっちりがっちり鍛え上げるぞ!
"みーん、みーん、みーん……、……"
夏、真っ盛りである。
蝉の鳴き声けたたましいけふこの頃……オレ達は合宿先である施設に到着した。
せんせーも田舎と言っていたが、本当に結構な田舎だった。
矢部君も模型屋もゲーセンも無いと喚き散らしていたが―――
「周りに何もない。あの、せんせーここは?」
「ああここはね、大学時代の野球部の友達が紹介してくれたところなの。なんでも古い小学校の校舎とグラウンドを自分たちで整備して合宿所として使ってたらしいわ。ほらあそこに、
パワフォー大学って書いてあるでしょ?」
あ、ホントだ。
手製の看板に"パワフォー大学野球部宿舎By片倉"と書いてある―――
「荷物を置いたらまずは昼休みね。自主練したければご自由に。あと、少し歩いたら小さなスーパーが近くにあるから買い物はそこで……じゃあ、一旦解散」
「「「はーい」」」
「ねぇパワプロ君?」
「ん?なに、あおいちゃん」
「ちょっと探検してみない?」
―――オレとあおいちゃんは荷物を置いてしばらく宿舎内を見回ってみた。
パワフォー大学と云えば、近年のどん底とも言われた低迷期から這い上がり、現在は強豪であった頃の勢いを取り戻しているという。
広い校舎やグラウンドのあちこちに補修やラクガキの跡がある……さっきの看板もそうだけど、苦労だったり熱意だったり……必死に這い上がろうともがいて、努力して、そういう想い
が染みついているようで、なんだか胸が打たれて熱くなった。
「パワプロ君……」
「大丈夫だよあおいちゃん。まったく、感傷的になるなんてまだ早いっての……」
タマキせんせーの繋がりがあるとはいえ、縁も所縁もないオレ達に施設を使わせてくれるんだ―――
「頑張らないと、罰が当たるよなオレ達」
「うん……頑張って、出ようね、センバツ」
「ああ」
そろそろ昼休みも終わるな。
絶対に秋の大会で結果を出さないと……そう胸に刻みつけ、オレ達はグラウンドに向かった
・・・・・・・・・・・・
さて、先程のしっぽりとした雰囲気は何処へやら、合宿初の練習とあってオレ達は燃えに燃えていた。
「よっしゃあ!これから二週間気合い入れていくぞ野郎ども!」
「「「おおーー!!!!」」」」
「ちょっとぉ、ボク達は野郎じゃないんですけど」
「まぁ細かい事は気にしなさんな早川さんよ」
「そーそー、気にしちゃ負けよ?まずはエンジョイ&ハッスル、ぶっ飛んで行くわよ!」
「で、何をするんだキャプテン」
「とりあえず、まずは入念にストレッチと柔軟体操な。その後は筋トレ、ランニング、ポール間、反復横とび―――」
「体力トレばっかりでやんす!ボールは使わないでやんすか!?」
「そりゃオレ達は初心者ばっかりで基礎体力が低いからね、この二週間は徹底して体力作りに専念させるつもりだよ。まぁ全くボールを使わないって事もないから。ちなみにグラウンド
でのトレーニングが終われば海で水中歩きと水泳トレだよ。そして明日は砂浜ランニングも入る」
「鬼でやんす!ろーどー基準法違反でやんす!」
「はいはい文句言わないの。じゃあ始め!」
そう、今のオレ達は初心者組を始め体力に不安がある。技術を身につけるにはその土台となる体が必要だし、九回を戦い抜くのも、トーナメントを戦い抜くのも体力がいる。
うちは普段の練習がそれほどハードではないから、この機会にしっかりとした体作りをしたい。そのためにタマキせんせーにも色々な体幹トレーニングの方法を教わったし、それを随時
実践していくつもりだ。
『腹筋、背筋、スクワット……に、肉が千切れる……』
『ぜぇぜぇ、まだ走るのかよ……もう太ももプルプルしてるぜ……』
『』
とまぁ何だかんだやっているうちにグラウンドでの練習が一通り終わり、休憩の後全員で海に向かったのだが―――
『やーんハルカちゃん可愛いー!』
『な、夏野さん……恥ずかしいです……』
『そうよナッチ―――ってコラ!何処触ってんのよもぉ!』
『いいじゃんいいじゃん、減るもんじゃないんだしぃ』
『あはは。皆ほどほどにね』
『ふふ、日差しが気持ちいいわ』
「おぉ…………」
「こ、これは……」
「「「「ゴクリ……」」」
「ふ、フォォォォォォォォォ!」
そこには、
見渡す限り水着、水着、水着……女神たちが薄い布切れ一枚であちら、こちらと戯れている様の何と神々しい事か。
「こんなもの見れて……い、生きてて良かったでやんす……感無量でやんす」
「ハハ……こりゃあ想像以上だ。カメラ持ってきたらよかったかな?」
「お、俺今日死んでもいいや……」
「加藤先生、エロすぎる……あの黒ビキニは反則だろ!」
「監督も凄え。なんだあのスタイルの良さは!?」
Glamorous、Beauty、Pretty……より取り見取り色とりどり。
神様、楽しい合宿になりそうです……ありがとう。
そんな逆上せた妄言を頭の中で吐きながら、オレ達はビーチへと疾走した。
ちなみに、隠し撮りしようとした矢部くんは早々にばれて女子たちにリンチされたのだった。