実況パワフルプロ野球 サクセス 立ち上がれ!恋恋ナイン編   作:柿の樹

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第二話 その男、サイドスロー

「…………フッ!」

 

 

42……43……44……

 

70……71……72……

 

恋恋高校大グラウンドの一角。

時間は午前7時半。生徒もまだ疎らにしか来ていない。

ヴンッ!とバットのスイング音だけが響いている。

 

98……99……100……

 

「……ふぅ。とりあえず、100スイング終わったな」

 

朝学校に来てからの素振り百回は、オレの日課だ。

中学で野球を始めた時から、欠かさずに行っている。

独りで素振りをしていると落ち着くし、何より基礎練習は大事だしね。

だから、いつもは人気の少ないところを選んでやっているんだけれど……

今日は珍しくギャラリーが居る様だ。

こんな早い時間、部活でもやっていないと来る用事は無いだろうに……特に男子生徒なんて。

とりあえずオレは、バットをフェンスに立て掛け、こちらを見ている少年に向き直った。

 

「ん?もう終わりか……」

「えぇと……君は?もしかして、入部希望者?」

「いや、ただ見学してただけだ。ソフト部以外で素振りしている奴なんて珍しいからな」

「まぁそうだろうね。野球部……と言ってもまだ愛好会だけど、ついこの前できたばかりだしね」

「でも、もうそこそこ有名だぞ?」

「え、そうなの?」

「ああ、あんたのところの連れが、学校中の男子を勧誘して回ってるからな。いい反応は無いにしろ」

「あ、あはははは……」

 

いい反応は無い、か……。

確かに、昨日皆で勧誘して回ってみたけど。昨日の時点では入部希望者はゼロだったな。

 

「甲子園を目指すか。ま、悪くは無いけど、ちょっと無謀すぎやしないか……?男子生徒、七人しかいないっていうのに」

「うう……それは……」

「あの女ピッチャーを入れても八人。到底試合ができる人数ではないわな」

 

言われてみればそうなんだよな。

たった七人しかいない男子生徒が全員野球部に入ったとしても一人足りないし、それに全員が入ってくれるとは限らない。

リトルとかで野球の経験がある女子生徒のほとんどは、ソフト部に入るって噂だし。

ここのソフト部って、全国区なんだよなぁ……相手が悪いよ。

 

「で、君はどうなのさ?」

「ん?いや、僕は……」

「君も一緒に野球やろうよ!今は無理でもさ、不可能じゃないよ!甲子園を目指そうよ!」

 

とりあえず、ダメもとで聞いてみた。

しかし……

 

途端、彼は渋い表情をして歩きだしてしまった。

 

「悪いけど。僕は野球部には入らねぇよ……あかつき大付属中のパワプロさんよ」

「―――え?」

 

何でそれを……。

 

「ち、ちょっとま……行っちゃった……」

 

何故自分の事を知っているのか、聞き出そうと思ったが彼はそそくさとこの場から立ち去ってしまった。

オレの事を知っているってことは……中学野球経験者かもしれない。それも、かなり活発なチームの……。

でも、部の大会や練習試合で彼を見た事は無いし、シニアの選手でもあの顔は見たことがない。

もしかして、彼があおいちゃんの言っていた子なのかな……。

 

 

 

 

 

第二話 その男、サイドスロー

 

 

 

あいつが、あかつき中でクリーンナップを打っていたパワプロか……。

典型的な熱血野球バカって感じだな。邪気は感じなかった。

本気で甲子園を目指しているのかね……いや、本気なんだろうな。

全く僕とは大違いだよ。こちとら、もう燃え尽きかけてるって言うのに……。

 

「甲子園ね……夢があっていいじゃないか。なぁ諏訪っちゃん?」

「さあ、俺にはよく分からないな」

「だろうな。まぁ興味がなかったらそんなもんでしょ~よ」

「じゃあ聞くな……」

 

僕が今話しているのは中学からの友人、諏訪部(すわべ)吾郎。

教師を目指してるらしい……朝っぱらから小難しい本を読みふけっていなさる。

まぁそれはどうでもいいとして。

あの後、僕は教室に居た諏訪部と合流して、南グラウンドの一角へと移動していた。

とある人物との約束があったので……。で、その人物とは……

 

「遅いよ、柿原君。どこに行ってたのさ」

「悪ぃ早川。……ちょっと、とある野球少年と話し込んでたもんでな」

 

早川あおい。

世にも珍しい、アンダースローの女性ピッチャー。

ずっと一人で壁当てをしながら待っていたらしい。額は薄ら汗ばんでおり、左手にはグローブが付けられていた。

 

何で僕がこんなところで彼女と会っているかって?

そりゃあ……

 

「その野球少年って、もしかしてパワプロ君?」

「ああ。あんたら野球部の部長様だ……うっし」

 

僕は自分のカバンからグローブを取り出し、左手にはめた。

そして、感触を確かめた後、ゆっくりと胸の前で構える。

それを見た諏訪っちゃんはベンチに移動し、また本を黙読し始めた。

 

「とりあえず、誰かさんのせいで投げすぎちゃったから、軽くね」

「ああ、それで構わないよ。時間も無いしな」

「じゃあいくよ!」

「ああ、ちゃっちゃとこい」

 

早川からボールが投げられ、パシッ!と心地よい音を残してグローブに収まる。そして僕も早川のグローブにめがけ、ボールを投げ返す。また、パシッ!という音が響く。

キャッチボール。こんな時間から早川と会っているのはそのためだ。

 

「まったく……野球部入ったんなら、部員とやってればいいだろうに」

「それは、そうだけどさぁ。君が付き合ってくれるって言ったんでしょ、キャッチボール」

「あんときは野球部なんて無かったろうに。だから僕がやったげようかって、そういう話だった」

 

ホントそう思うよ。野球部ができるなんて知ってたら、付き合わなかったっちゅーに。

 

「でも、約束は約束だよ」

「そんなにこやかに言われてもねぇ。まぁ、今さら反故にはできないけど……さ!」

「で、結局パワプロ君とはどんな話したの?まさか、野球部に誘われた?」

「御明察。すっごく熱く誘われた」

「ふうん……で、どうするの?」

「どうするって……やらねぇよ、高校では」

 

早川にボールを投げるが。キャッチした後投げ返してくる気配はない。

 

「でも、経験者でしょ。ボクからもお願いするよ。野球部に入ってよ」

「……でもなぁ、たった三人だろ?それに……」

「それに?」

「もう燃え尽きかけてんだよ、僕は。リトルで四年……シニアで三年……それも、最後の方ではあんまりやる気も無かったし。中途半端なやつがいても、面倒なだけだろ?」

「でもさ、君の実力なら十分―――」

「そういうお前はどうなんだよ、早川」

「―――え!?」

 

一度視線を切ってから、もう一度強く向き直る。

 

「お前こそ、本気でやろうと思ってんのか……。お前だって、言ってたじゃないか。高校野球やる気なんてなかったって……やめよう、って思ってたくせによ」

「でもボクは、甲子園……!」

「―――そういうの、おこがましいと思うぜ」

「な、なんですって……!?」

「そりゃそうだろうよ」

 

お互い無言になってにらみ合う。重苦しい空気が流れるが、そんな物気にしてはいない。

「もう引き上げるぞ」と言いつつ、僕はグローブをカバンの中にしまった。

そしてカバンを担いで立ち上がった瞬間……

 

「痛゛っ!!」

 

背中にボールが直撃した。

 

「ゴメン、手が滑っちゃった」

 

んなろう……硬球ぶつけやがって……!しかも手が滑っただぁ……んな訳ゃねぇだろ!

もう一言吐いてやろうかと後ろを向いたが、険しい顔をしながら項垂れている早川の姿を見て思いとどまった。

そして、まだ痛みの残る背中をさすりながら彼女のところまで歩み寄り、ボールを手渡しながら言った。

 

「いや、その……悪かったな。少し言いすぎた」

「…………」

「まぁでも―――って、なんか言えよ」

「……何よ」

「やめようって思ってたお前が、またやろうって思えるようになったんだろ。程度こそすれ、甲子園に行きたいって思ったんだろ……思わせてくれたんだろ、アイツが」

「―――え」

「だったらいいじゃんか。コッチだって、今はやる気は無いけど……お前らを見てたら、その内やる気が戻ってくるかもしれない。野球が嫌いになってるって訳じゃないしな。いつか、僕も入れてくれって、ひょっこり顔を出すかもしれないから、とりあえずは、期待してていいんじゃないかな」

「それって……」

「まぁ、入部は前向きに検討しておく。アイツにも言っといてくれ、入らないって言った事、少し語弊があるって」

 

 

"キーン・コーン・カーン・コーン"

 

「おろ?」

「あ!?」

 

チャイム鳴っちまったな。

 

「とりあえず、教室行くか」

「……うん。ありがとう、柿原君」

「まぁ、まだ何もしてないけど」

 

荷物をまとめて、僕らは教室へと移動し始めた。

甲子園か……まだ入ると決めた訳じゃないが、コッチだってそういう馬鹿は期待したくなる。

さて、僕自身のエンジンはいつになったらかかり始めるかな……。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「あれ、そういえば諏訪部君は?見当たらないけど」

「あり?どこ行ったんだ―――あ、メール……諏訪っちゃんからだ」

「なになに?」

 

 

----------------------------------

 

from 諏訪部吾朗

to [email protected]

cc

 

件名 只今教室

 

本文

 

先生来てるぞ

 

 

 

 

----------------------------------

 

 

「「あ゛!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気合入ってるか矢部君!?」

「満タンでやんす!今のオイラにはガンダーパワーが乗り移っているでやんすっ!」

「あ、ああそう……」

 

放課後、オレと矢部君は練習のために大グラウンドに来ていた。

矢部君やけに気合が入ってるな……何かいい事でもあったのかな?まあ、それはそれとして。

現在この大グラウンドはソフト部と共用である。

ただ、恋恋高校近郊にソフト部専用のグラウンド(と言っても、ほぼ球場)が新設されたため、整備が整い次第ソフト部はそちらに引っ越すそうだ……さすが金持ち学校、全国レベルの部活への投資は半端じゃないな。

と言う訳で、ソフト部が引っ越しした後は暫定的に我ら野球愛好会が使用できるよう一応の許可を得た。

つまり、練習環境は保障されているようなものだ。最初はどうなることかと思ったけど……。

 

「パワプロくーん、矢部くーん、おまたせー!」

「あ。あおいちゃん!」

「その子はどちら様でやんすか?」

「紹介するね。この子ははるか。ボクの中学からの親友で、ウチのマネージャーをしてくれることになったの」

「「おー(でやんす)」」

「は、初めまして……七瀬はるかです。体が弱いので迷惑をかけることもあるかもしれませんが……その、よ、よろしくお願い……します?」

「いや、聞かれても……コホン。キャプテンのパワプロだよ、ヨロシクねはるかちゃん!」

「はい……」

「オイラ矢部でやんす!美人さんでやんすね、是非電話番号とアドレごふぁぁぁ!!」

「調子乗るなこのメガネ!」

「あ、あの……喧嘩は……」

「ははは……。まぁ、まだ愛好会だし部員も三人だけだけど、仲良くやっていこうね!」

「は、はいっ!」

 

あおいちゃん、マネージャーを探してきてくれてたのか。本当に感謝だね。

 

 

―――七瀬はるかがマネージャーになった!―――

 

 

 

 

そう言えば、経験者の男子がいるって言ってたけど、それはどうなったのかな?

朝会ったアイツの事も気になるし……名前聞いておけばよかったなぁ。

 

「あおいちゃん」

「なぁに、パワプロ君」

「実は……」

 

オレは、今朝の自主連中に出会ったアイツの事をあおいちゃんに話してみた。

あおいちゃんは「あ~柿原君ね」と、妙に納得した表情をしている。

成程、柿原っていうのかあいつは……。

その後あおいちゃんの話を聞くと、あの後あおいちゃんも柿原と会っていたらしい。

誘ってみたけど、やっぱり駄目だったそうだ。でも「前向きに検討している」とも言っていたらしい。

真偽は兎も角として、それはそれで収穫かな。一歩……いや、半歩前進だ。

 

「で、その柿原の経歴とか知ってる?知ってたら教えて欲しいんだけど」

「いいよ。ええっとね……」

 

柿原宏樹。

出身中学はパワフル第三中。野球経験は……聞いたことが無いところだけど、西之都(にしのみやこ)リトル、シニアで七年間。右投右打のピッチャーで、フォームはサイドスロー。内野手の経験もあるらしい。

 

「へぇ~。それだけ?プレースタイルとかは聞いてない?」

「うん。今のところ聞いているのはそれだけだよ。一度だけストレートを見せてもらったけど、球は結構速かったなぁ」

「二人とも~何やってるでやんすか?早くランニングに行くでやんすよ!」

「あ、うん、分かった!じゃあ行こうか、あおいちゃん」

「うん」

 

柿原の事は気になるけど、今は目の前の事をやっていくしかないよな。

とりあえず話を切り、矢部君達と一緒にランニングへと向かった。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「西之都のピッチャー、柿原でやんすか。聞いたことないでやんすね」

「そうなんだ。矢部君でもしらないか~」

 

練習が終わり、片付けも済んだ後。更衣室で柿原の事を矢部君に聞いてみた。

矢部君はシニア出身らしいから、もしかしたら知ってるかもって期待してたんだけどなぁ。

 

「力になれず申し訳ないでやんす。でも、その柿原って人、それだけ固執するに値する人なんでやんすか?」

 

確かに言われてみればそうだけど……でも"経験者"って事だからポイント高いんだよなぁ。

ピッチャーっていうのは、ほかのポジションと比べても一朝一夕でモノに出来たりするポジションじゃない。

だから今は一人でも即戦力が欲しい。

それに……

 

「高校生でサイドスローっていうのも珍しいし、サイドはそれ自体が武器になったりするからね。あと、もしもあおいちゃんが投げられなくなった時には、二番手ピッチャーって必要だからさ」

「あおいちゃんも変則投法でやんすから、その子が控えに居れば相手に苦手意識を植えつけることもできるでやんすね」

「うん。それに、内野経験者っていうのもポイント高いよ。ファーストあたり任せられるかな」

「外野はさせないでやんすか?」

「サイドスローだから、外野向きの肩じゃないよたぶん。それに、内野のスナップスローはサイドに近いしさ」

「成程でやんす」

「さて、着替えも終わったし。帰ろうか」

「やんす」

 

しっかりと施錠の確認をした後、更衣室を後にする。

正門へと向かう途中、大グラウンドのフェンス前で人影を見つけた。

あれは……

 

「パワプロ君、あの人は……」

「ああ、あいつが……」

 

柿原だ。

こんな時間にこんなところに居るなんて、一体どうしたんだろう。

ずっとグラウンドの方を見つめている……なんだか、物凄く遠い目をしているように感じるな。

 

「未練、か……、……ん?」

 

こちらに気づいたようだ。視線が重なる。

互いに無言……にらみ合うこと数秒、柿原は視線を切った後軽く目を閉じた。

そしてそのまま身を翻し、何も語ることなく立ち去ってしまった。

前向きに検討している、か……色々と迷っているんだろうか。

 

その後あおいちゃんたちと合流したオレ達は、正門を出た後、それぞれの帰路についた。

 

 

 

 

次の日からだった。柿原が練習を見に来るようになったのは……。




途中まで書いていたのが消えてしまったので、書きなおすことに……orz

西之都。由来は西宮です。
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