実況パワフルプロ野球 サクセス 立ち上がれ!恋恋ナイン編   作:柿の樹

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第三話 過ちの価値は・前編

いつもやっていることだ。

立つ位置はプレートの右端、ノーワインドアップで振りかぶり、トルネード気味に上体を捻る。

体は軽く沈みこませ、ステップはややインステップに……。

腕を鞭のようにしならせ、ボールを……放つ!

 

『ピンポーン!ビンゴッ!』

「よしっ!」

 

ここはバッティングセンターのストラックアウトのコーナー。

先ほどの投球で最後のボールだったが、ビンゴを達成したので、ボーナスでもう一球投げられるようになった。

ビンゴボーナスのボールを受け取り、再度構えをとる。

 

一度深呼吸をした後投球モーションへ……流れる様なサイドスローから放たれたボールは、吸い込まれるように的へと向かっていった。

 

 

 

 

 

第三話 過ちの価値は・前編

 

 

 

野球愛好会ができて、一週間……。

ソフト部の引っ越しも滞りなく完了している。

 

「という訳で、新入部員の方々です」

「……"という訳で"って、そんな話の流れだったっけ?」

「気にしてはいけません」

「そ、そう……。まぁ、ありがとうはるかちゃん!助かるよ!」

「いえいえ。では、入ってきてください」

 

ぞろぞろと三人、ジャージに身を包んだ男子生徒がグラウンドに入ってくる。

三人とも見たことがある顔だ……お前ら一度断ってるだろ……。

こいつらの顔には渋々という感じは無い……すごいな、はるかちゃん。どうやったんだ?

 

「えぇ、知ってると思うけど、オレがキャプテンのパワプロだ。とりあえず、右の人から自己紹介していってくれ!」

 

ザッ!と三人が前に出る。

 

「小沢です。野球経験は無いけど、小学校の時に町内会でソフトボールやってました。ポジはキャッチャー」

「青木です。俺はスポーツはやったことないなぁ……」

「高橋です!俺も経験は全くないけど、はるかさんの頼みなら断れないッス!ヨロシク!」

「そ、そう……」

 

これで部員は七人、内プレイヤーは六人……男子は五人か。

すごいな。全校生徒中男子は七人しかいないけど、そのうち五人も野球部に入ったのか。はるかちゃんには、本当に感謝だよな。

ソフト出身だけど、キャッチャーが居てるのも心強い。あとは、野手が三人そろえば試合ができるぞ!

 

「とにかく、入部してくれてありがとう。まだ創部したばかりだし試合できる人数じゃないけど、甲子園目指して頑張ろう!」

「「お~!(でやんすっ!)」」

 

―――チームメイトが増えた!―――

―――みんなのやる気が上がった!―――

 

 

 

 

「じゃあ、練習を始める前に。守備位置決めようか」

「そうでやんすね。ポジションが決まってないと、出来る練習も限られてくるでやんす」

「とりあえず、遠投と50m走の結果で判断しよう」

 

という訳で、ストレッチの後ポジション選考のための体力測定をすることにした。

その測定の結果順位は―――

 

50m走 高橋 青木 小沢

遠投  小沢 高橋 青木

 

―――という風になった。

 

 

ピッチャーのあおいちゃん、センターの矢部君は確定として……。

小沢はキャッチャー確定だな、ソフトとは言え経験者だし。

青木は脚も遅いし、肩も弱いな。まぁ、初心者だから仕方ないけど……。とりあえず、ファーストかレフトかな。

高橋が意外に身体能力あるんだよな。肩の強さも、小沢と大して変りがなかったし。脚もそこそこか。

迷うな……オレはあんまり動きたくないけど、先にセンターラインを固めたいし。

高橋をとりあえずセカンドに置いて、オレがショートに行くかな。

後は柿原次第だけど……無い物ねだりはダメだな。

……よし、決めた!

 

「んじゃ、ポジション発表するぞ」

 

 

―――小沢 キャッチャー

「まぁ、当然だよなぁ~」

 

―――高橋 セカンド

「オッケー!頑張るぜ!」

 

―――青木 ファースト

「分かった」

 

「まだ部員は少ないから、小沢以外は暫定的なものと思っていいよ。新入部員の能力によっては、移動させるかもしれないしね!じゃあ、まずは基礎トレから、練習始めようか!」

「「お~!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが恋恋高校か……」

 

ノートをめくる。

恋恋高校。去年まで女子高だったが、今年に共学となり……しかも野球部を創ったと聞いて、やってきたのだが……。

随分と人が少ないな。ふむ、少し聞いてみるか……。

正門の警備員に名刺を渡して事情を説明し、入校手続きをとる。

そして私は、野球部が練習している大グラウンドへと向かった。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「ちょっとウォータークーラーに行ってくるでやんす!」

「あいよ~!」

 

ふむ、あの子に聞いてみようか。

ちょうど通りかかった、ビン底眼鏡の少年を呼びとめる。

 

「ちょっとすまん。そこのキミ」

「何でやんすか?」

「キミは野球部員かね?」

「見ての通りでやんす」

「随分と部員が少ないようだが、全員で何人だね?」

「七人でやんす。と言っても、内一人はマネージャーでやんすから、実質六人でやんす」

「そ、そうか……」

 

なんと……たった六人とは……。

これでは練習もそうだが、試合も碌にできないではないか。

 

「ところでおじさんは誰でやんすか?見たところ、この学校の人ではないようでやんすが」

「む。いや、そんな事は気にしなくてよろしい。練習に戻ってくれたまえ。ではな」

「あ……行ってしまったでやんす」

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

まさか、碌にメンバーも揃っていないとは……参ったな、これではスカウト以前の問題だ。

有力な選手が入ったという情報も聞いていない。無駄足だったか。

しかたがないな、恋恋は当面チェックリストから外しておこう……。

 

「さて、次はパワフル高校にでも行くか……おや?」

 

男子生徒が一人、大グラウンドへと歩いて行くのが見えた……はて、部員は六人だったはずだが。

しかしあの男子生徒、どこか見覚えがあるような……あ!

 

あの子は---

 

「キミ、ちょっと待ってくれないか!?」

「はい?何か御用で……影山さん!?」

「やはり柿原君か。久しぶりだね」

 

柿原宏樹。

シニア時代、一時期注目していた選手だ。あかつきや帝王等、強豪校の名簿に彼の名前がなかったので、どこに行ったのかと思っていたら、何と恋恋に来ていたとは……。

 

「一体こんなところにどうして……まさか、視察ですか?」

「まぁそうだが。ときに柿原君。キミは野球部には入っていないのかね?」

「え、ええまぁ……。誘われてはいるんですが……色々と、迷ってまして……」

「まだ、気にしているのかね、アレを……」

「…………ええ」

 

大層困ったような顔で、彼は苦笑いをする。

 

「気にしていないと言えば嘘になりますよ。入部自体は前向きに検討していますし、僕だってまだ野球は好きです、やりたいという気持ちもあります……でも、あんな事をした僕がまた野球をやっていいのか……そう思ってしまうので、イマイチ踏ん切りがつきません」

「そうか……キミには、期待していたのだがね」

「ありがとうございます。中学時代、僕を唯一評価してくれたのが、影山さんでした……でも、僕はそんなあなたの期待を裏切り、チームも裏切ったんですよ。過程はどうであり、あれは僕の意思です」

「…………」

 

一年前。シニアリーグの地区予選第二試合……。

彼の所属する西之都シニアはサヨナラ負けを喫した。その時の敗戦投手が、この柿原君だった。

九回一死走者無しでエースからリリーフするも、ヒット、連続四球で満塁となり、最後はサヨナラ満塁本塁打で敗戦……。

傍目にはただの炎上に見えていたらしい。しかし、普段の彼を知る私には分かった……あの時だけは、あからさまに雰囲気が違っていた……あれは故意だったと、私はそう直感した。

柿原宏樹は、そんな事をやるような選手ではなかったはず……いったい何があったのか、あの時は動揺を隠せなかった。

 

「しかし、キミはあの事を今でも悔いている……他人のために後悔できる人間は、優しい人だと、私は思うがね……」

「そう、ですかね……」

 

そう言って、彼はいったん空を仰ぐ……。そして、また苦笑いをしながら、「知ってますか?」と言葉を発した。

 

「なんだね」

「この高校には、パワプロがいます」

「パワプロ……!?なんと、あかつき大付属中のパワプロ君かね!?」

 

パワプロ……まさか、あかつき大付属中でクリーンナップを打っていた彼までもがこの恋恋に来ていたとは。

 

「ええ。あいつは、この恋恋高校で甲子園を目指しています」

「甲子園を?ここでかね?」

「もちろん今は無理でしょうけど、いずれは……」

「そうか。しかし、それを知っていてキミはどうするのだね」

「分かりません。でも、あいつらをずっと見ていれば……また、やれるようになるかなって。だから……」

「いや、それ以上言わなくていいよ。キミの心境は分かったつもりだ」

「影山さん……」

「いずれ、キミがマウンドに戻ってくる時を、期待しながら待っているよ、柿原君。……ふむ、随分話し込んでしまったな。では、私はここで失礼するよ」

「パワプロは、見ていかないんですか?」

「いや、生憎と私が見なければいけない選手はいっぱいいるのでね」

「そうですか。……ありがとうございました、色々話してもらって。少し気が楽になりましたよ」

「ふむ」

 

最後に彼は「お気をつけて」と言いグラウンドへと行ってしまった。

それにしても、柿原とパワプロ。片や無名シニアの出身だが中学での注目選手が二人も……これは、認識を改めなければならないな。

 

『あ、柿原君でやんす!』

『なんだ、今日も見学か~!』

『はは、まあな~!口出しはしてやるから、しっかり練習しやがれよ~!』

『うるせ~!口出しするぐらいならさっさと入部しやがれ~!』

 

恋恋高校……いずれ、この学校は台風の目となるだろうな。甲子園も、夢ではないか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ずっと見学しかしてないけどさ。ホントに入る気あるの?」

「ん~実はまだ迷ってるかな。あとひと押し何かあれば、踏ん切りはつきそうなんだけどな」

「もうかれこれ一週間なんだけど……」

「ふむ……」

 

恒例となっている早川とのキャッチボール。

毎朝これで会うたびに入部するかどうか聞かれている。正直、煩わしい以外の何物でもないんだが……向こうの気持も分からんでもない。僕としても、そろそろ明確な返答をすべきだとも思っている。

でもまぁ、ソレはソレでコレはコレ。

基本的には半分流しつつ、キャッチボールを楽しんでいる。早川の方も同じだ。

でも……な……

 

「なぁ早川……」

「何?」

「わざと負けようとする奴って……お前、どう思う?」

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「なんて事を朝聞かれてさ、しかも物凄く真剣な顔で。びっくりしちゃったよ」

 

練習の休憩時間中。

あおいちゃんが唐突にこんな話を切り出した。いや、オレもびっくりなんだけど。

 

「ん~それは、なんだか意味深でやんすねぇ~」

「でしょ?なんだか空気が重すぎて結局答えられずじまいだったけど」

「わざと負けるか……いったい、何があったんだアイツに?」

「さあ、シニア時代の事は何にも話してくれないから」

 

ここ一週間、アイツはずっと練習を見に来ているけど、一度も後ろめたいような素振りは見せた事がなかった。

オレ達は基本的に練習中にしか柿原とは合わないので、同じクラスで毎朝会っているあおいちゃんでも知らないとなると、オレ達には全く見当がつかない。

さて、休憩もそろそろ切り上げて練習に戻ろうかと思ったその時、見計らっていたかのように柿原がやってきた。

噂をすればなんとやらだな……。

 

「よう。今日も例の如く来てやったぞ~」

「まったく、顔出すくらいなら入れよな……。でさ柿原。ちょっと頼みがあるんだけど」

「ん?」

 

全く気の抜けた顔だよなぁ……さっきの話題が嘘の様だよ。

まぁ、そんな事は今は関係ない。勘繰っても仕方がないので、さっさと本題に入ろう。

 

「お前がピッチャーだってのを見込んで頼みがあるんだ。うちのキャッチャーの捕球練習に付き合ってくれないか?」

「何でまたそんな。ピッチャーなら早川が居るじゃないのさ。それに、練習に参加したら入部しろなんていうのもなしだぜ?」

「いや、そんなつもりはまったくないよ」

「ふむ……」

 

いや、これは朝からずっと考えてた事だ。小沢はソフト出身だしブランクもあるから、硬球のキャッチングに慣れさせる必要がある。でも、うちのピッチャーは今のところアンダースローのあおいちゃんしかいないから、ほかの球筋も……特に、そこそこに球の速い奴を経験させたい。

だからお前に白羽の矢を立てたと、柿原に説明する。

 

「別に入部しろとは言わないから。な?小沢のレベルアップのためだと思って―――」

「分かった分かった。そんなに言うなら手伝ってやるよ!その代わりスパイク貸してくれよ?」

「そのくらい分かってるって。---矢部く~ん!」

 

矢部君に部室から予備のスパイクを、そしてスピードガンも持ってくるように伝える。

 

「球速まで測るのかよ」

「まぁ、気になるものは気になるからね」

「さいですか……」

 

ブツブツ言いながらも、柿原は小沢とキャッチボールを始めた。

やっぱり経験者だな、スローイングが綺麗だ。

そうしみじみ思っているうちに、矢部君がスパイクとスピードガンを持って部室から戻ってきた。

それに気付いたのか、柿原はキャッチボールを中断し靴をスパイクに履き替える。そして感触とフォームを確かめながらもう一度キャッチボールを始め、そしていよいよマウンドへと上がった。

 

「コースは投げ分けるけど、とりあえずストレートだけな」

「おう!じゃあよろしく頼むぜ~!」

 

マウンドを均し、プレートの右端に立ってキャッチャーに正対する。

……思えば、アイツの投球を見るのはこれが初めてだったな。あおいちゃんは一度見た事があるって言ってたけど、さて、どんな感じなんだろう。

 

「よし、じゃあ行くぞ!」

「おっけ~!」

 

投球フォームに入る柿原を、皆かたずをのんで見守っていた。

 

ノーワインドアップから体を捻る、トルネード気味のサイドスロー。ややインステップするそのフォームから投じられた球は―――

 

「―――っ!!」

 

―――"ッパァァン!"と乾いた音を立てて、小沢のミットへと収まった。

 

「うわ、速っ!ちょっとビビったぜ~!」

「そらそうだろうよ。全力投球だし、そもそも早川のアンダーよりも数段速いからな」

 

その投球に、オレは見とれてしまっていた。

速い……フォームが綺麗なのもそうだけど、ボールが予想以上に速い。

スピードガンを見ると、そこには"138km/h"と表示されていた。

 

「か、柿原っ!」

「なんだよ、まだ始めたばっかなのに」

「お前、中学の時最速何キロだった!?」

 

驚きを隠せないオレは、我を忘れて柿原に詰め寄っていた。柿原は少し引いている。

高校一年。しかもまだ入学したてで、つい最近まで中学生のやつが138キロ……それも変則フォームで投げ込んでいるんだ、驚くなという方がおかしい。

 

「ま、まぁ落ち着けや。最速は一応141キロだけど?」

「ひゃ、ひゃくよんじゅういち……」

 

ヤバい。マジ金の卵だこいつ。何でこんなやつが無名なんだよ。

……もしかして、変化球がどうしようもないとかか?いや、でも---

 

「キャプテ~ン!早く続きやりたいんだけど~!」

「え、あ、あぁゴメン!」

「…………」

 

小沢の言葉で我に返る。ふと柿原の顔を見ると、眉間にしわを寄せていた。い、いや怖くなんかないぞ!

オレはとりあえずベンチに戻り、スピードガンの電源を落としたあと、自分の練習を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

練習が終わった後、柿原に飯に誘われた。

どうしようか迷ったが「色々と聞きたい事あるんだろ?」と言われたので、誘いに乗ることにした。

シニア時代の事とか、わざと負ける発言とか色々気になっているものもあるし……向こうから何か話す気になってくれたっていうなら、断る理由は無い。

 

そしてオレ達は、柿原の行きつけらしい牛丼チェーン店に行くことにした。




柿原のピッチングフォームは、千葉ロッテ中後投手のフォームに、若干トルネードを加えた感じです。中後のフォームかっこいいよ……コントロール悪いけど。ちなみにパワプロのバッティングフォームはサブロー打法。
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