実況パワフルプロ野球 サクセス 立ち上がれ!恋恋ナイン編 作:柿の樹
「という訳で、今日から厄介になります。自己紹介……いる?」
周りからは「知ってるぞ~」という声が聞こえる。
まぁ、此処の連中とは全員面識あるものな。昨日練習に参加してもらったし。
「まかせる」
「ふむ……。柿原宏樹、パワフル第三中出身。ポジションは主にピッチャーでリリーフ専門。一応ファーストとサードの経験もある。まぁそれなりによろしく」
そう言えば内野の経験あるってあおいちゃんが言ってたっけ。
青木をファーストにしてるし、ショートもまだ本決まりじゃないからな。オレがショートをやってる間はサード、オレがサードに戻ったら青木をレフトにしてファーストに行ってもらおうかな。
「パワプロ」
「何だ柿原?」
「いや、せっかく入部したんだしさ。一応監督に挨拶しときたいんだけど」
「監督?」
「ああ、監督」
「そういえばうちの監督って見たことないでやんすね」
「パワプロ君、監督って誰がやってくれてるの?」
「そうだぜキャプテ~ン。一度も練習見に来てないよな、監督って」
「…………」
「どうしたパワプロ?」
「「…………?」」
「…………」
「…………」
「…………わ」
「…………わ?」
「監督探すの忘れてたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「「―――えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ(でやんすっ)!?」」
第五話 悩めるキミに、愛の拳を!
「ゴメンナサイ……」
「まったくだ」柿
「パワプロ君、キミって……」早
「失望しちゃいます……」七
「何のために名門の誘いを蹴ってきたでやんすか……」矢
「「……はぁ……」」
お願い、皆そんな目で見ないでくれ……。
確かに忘れてたよ。部員集めに必死で全然覚えてなかったよ。
むしろ急に部員が四人も増えたことでなおさら頭の隅に追いやられてたよ!
一応顧問は保健医の加藤先生がやってくれてるけど……うん、やっぱり監督は必要だよね……。
「ま、落ち込むのは勝手だけどさぁ、とにかく探そうや、監督やってくれる人」
「うん。でも見つかるかなぁ?うちの先生たちって、どう見ても文系ばかりで……」
「野球やソフトを経験してるような人はいなさそうでやんすね。かろうじてソフト部の監督くらいでやんす」
「でも、流石に兼任なんて酷な事はお願いできませんし……」
「「……はぁ……」」
「だからこっちを見て溜め息なんて
分かったよ分かったよ!俺が責任もって監督探すよ!キャプテンだし、部長だし!
この際直談判、勧誘のポスター、賄賂etc...何でもやってやる!
「さっすがキャプテン。頼りになる!」
「頑張ってね、パワプロ君!」
「出来れば美人さんを所望するでやんす!」
「私もお、応援しています……」
「誰も手伝うって言ってくれないのかよ!?」
この薄情な部員共め……!そして矢部君、お前は自重しろ!
・・・・・・・・・・・・
その後はるかちゃんが手伝うと言ってくれたので、二人で監督の勧誘をすることにした。
ちなみに柿原と矢部君は初心者二人組の面倒をみるため、あおいちゃんは小沢の捕球練習に付き合うためグラウンドに残っている。
「まずは、監督募集のポスターでも作りましょうか」
「そうだね。紙はA3ぐらいでいいかなぁ」
とりあえず、オレ達は職員室でポスターの掲示許可とA3サイズのコピー用紙を一枚もらい、部室に戻ってからポスターの製作を始めた。
ポスターと言っても非情に簡素である。用紙いっぱいに『野球愛好会、監督募集』、そして下の方に『経験不問。詳しくは、愛好会部室まで』と小さく書かれているのみ。シンプルなことこの上ない。
変に凝ったデザインを考えるよりも、こういうものはシンプルかつストレートに書く方がインパクトがあるし目立つだろう。
その後印刷室へ行って、このお粗末極まりないポスターを校内にある掲示板の数だけコピーしてもらった。
そして、はるかちゃんと一緒に校内中の掲示板にポスターを貼って回る。
半分くらい貼ったところで、はるかちゃんがだるそうにしているのが目に入った。
「はるかちゃん。疲れてるなら、部室か保健室で待っててもいいよ。後は一人でやっとくからさ」
「でも、それだとパワプロさんに悪いです」
「いいんだよ。監督の事忘れてたのはオレの責任だし、野球部の言い出しっぺはオレだしさ。それに、はるかちゃんにはあんまり無理させられないしね……あおいちゃんに怒られるし」
「い、いえ。私だって頑張れます!……パ、パワプロさんと一緒なら……」
「ん?何か言ったはるかちゃん?」
「い、いえ……何でもありません。分かりました。では、お言葉に甘えて……先に部室に戻っていますね」
「うん。オレもちゃっちゃと片づけてすぐに戻るよ」
ペコリと一礼してはるかちゃんは部室へと向かっていった。
最後の方に何かボソボソと言っていたけど何だったんだろう?
とりあえずオレは、まだ手元に残っているポスターを掲示板に貼って回るため、その場を後にした。
・・・・・・・・・・・・
「よし、全部貼り終わったぞ」
そんなこんなで全てのポスターが張り終わり、部室へと向かう……が、何やら騒がしい。何があったんだろう。
部室前に行くと、あおいちゃんと金髪ロングの如何にもお嬢様といった感じの女子生徒が物々しい雰囲気で睨み合っていた。はるかちゃんは、二人にはさまれオロオロとしてしまっている。
「揉め事、かなぁ……?」
一抹の不安を胸に、オレは部室へと向かった。
「あら、このわたくしをご存じない?」
「え、ええ……」
「む。入学時の学力テストで三番だった倉橋彩乃ですわっ!貴女と諏訪部吾郎さえいなければわたくしが学年トップでしたのに……よくもわたくしのプライドを傷つけてくれましたわね!」
そ、そんなこと言われても……。
でも、私って入学テスト一位だったんだ。順位表見てなかったから知らなかったな。それに諏訪部君って、たまに柿原君と一緒に見学に来ていた人だよね。へぇ、諏訪部君も頭いいんだ。
「―――なのに貴女は―――って、聞いていますの、七瀬はるかっ!?」
「ひゃうっ!」
倉橋さんはたじろぐ私を鬼の形相でにらんできている。こ、怖いよぉ……。
「どうしたの、はるか?」
「あ、あおい……」
そこに、あおいがやってきた。
倉橋さんは、あおいを見るなり「ふ~ん。へ~え」と言い不敵に笑った。
それに気を悪くしたのかあおいも倉橋さんを睨みつける。
「言いたい事があるならハッキリ言いなさいよ!」
「あら、これは失礼。わたくしは倉橋彩乃ですわ。貴女が噂の野球少女早川あおいですわね」
「そうだけど一体何の用?」
「別に用と言うほどのものではありませんわ」
「そ。じゃあ部外者はすぐに出て行った方がいいと思うけど?手元が狂ってボールが当たっても知らないわよ」
「…あら、わたくしにそんな事を言ってもよろしいのかしら?」
倉橋さんが得意げに笑う。
なんとも、聞けば彼女はこの学校の理事長の孫であるらしい。故に、自分が理事長にねだれば野球愛好会をつぶすことくらい造作も無い事だなどと言い放った。
そんな事……いいはずがない。
パワプロさんが、あおいが立ち上げたこの愛好会を、矢部さんや柿原君、部員の皆が甲子園を目指して頑張っているこの愛好会を、理事長の孫だからといって一人のワガママで潰されていい訳がありません!
しばらく二人がにらみ合っていると、ポスターを貼り終えたらしいパワプロさんが戻ってきた。
「いったいどうしたのさ、二人とも」
「あ、パワプロ君いいところに!この娘がさ―――」
「ん?」
「あ―――」
倉橋さんはパワプロ君を見るなり、急に顔を赤らめて走り去ってしまった。
「パワプロ君……倉橋さんに何かしたの?」
「え!?なんでそうなるのさ!全くの初対面だよっ!」
「そぉ?……でも、いったいなんだったのかしら?」
「さ、さぁ……?」
パワプロ君が来た途端、急に倉橋さんの態度が変わったな。それに、アレって……いや、まさかね。
・・・・・・・・・・・・
『いやぁ、初心者を指導するのって案外疲れるのな』
『まったくでやんす。おちおちサボってもいられないでやんす!』
『矢部……お前、サボる気だったのか?』
『い、言い間違えたでやんす!束の間の休息を手に入れたいと言おうとしてたでやんすっ!』
『ホントか……?』
「―――っ、お退きになって!」
『おぁ!?』
『やんすっ!?』
『な、何だ今のは……?』
『あの人は、倉橋彩乃でやんす!詳しくは上記をでやんす!』
『……メタ発言ど~も』
あの方を見た瞬間、私はその場から逃げるように走り去っていた。
顔が熱い……心臓がいつもより激しく脈打っている……。
そして、いつしか中庭の一角へと行きついていた。私はいまだ高鳴っている胸をおさえ、近くのベンチに力無く腰を落とした。
あの方は、野球のユニフォームを着ていた……。まさか、あの方が早川あおいと……七瀬はるかと同じ野球愛好会に所属していたなんて……。
これでは、あの愛好会を潰そうにも潰せませんわ。
「嫌われでもしたら……わたくし……」
わたくしはそう、力なく呟くしかできなかった……。
四月三週。
ポスターを貼り出してから一週間が経った。しかし、今だ誰一人として名乗りを上げてくれた先生はいない。
加藤先生も、顧問としては頑張ってくれているらしいが、「大事な研究がある」と言って監督は引き受けてはくれなかった。
「つ~訳で、野手として出場してた時には、大体二、三番を打ってたな。パワーは無いけど、ミートとカッティングにはそこそこ自信がある。期待してもいいレベルだと思うけどな」
「そうか、それは心強い!」
「投手としてはどうなの?投球練習とフリーバッティングを見た限りじゃ、変化球もそこそこ投げられるようだけど?」
「ん~まぁ、一応変化球はスライダー、シンカー、ツーシームが投げられるかな。スライダーは打たせて取るための高速スライダーと、大きく曲がる斜めのスライダーを投げ分けてるから、都合四球種だな」
「へぇ~。そんなに投げられるんだ、すごいね!ボクはカーブとシンカーが投げられるけど、投げ分けまではできないなぁ」
「あんだけキレがありゃ十分だと思うけど?」
今は部室でそれぞれの中学時代のプレースタイルについて話し合っている。
まずはオレの事。クリーンナップを打っていて、広角打法が持ち味だとか、肩と送球には自信があるとか。
あおいちゃんは短気だとか、キュ・キュ・ボンだとか、腰回りがエロいだとか弾道が―――ゲフンゲフン。
ともかく、聞けば聞くほど柿原はとんでも無い奴だな。
MAX141km/hのストレートと四つの変化球を操るサイドスローの高校一年生。おまけに打撃にも自信があると来た。名門からスカウトされていてもおかしくないレベルだよ。素質は猪狩並なんじゃないのか?
ホントこいつが恋恋を選んでくれて助かった。敵なら、絶対に相手にしたくないよこんなの。
でも、勿体ないな。これでリリーフしかやる気ないんだから。
普通に実力はあおいちゃんよりあると思うんだけどな。でも当の本人は「ウチのエースは早川だ!」って言ってるし。
いや、決してあおいちゃんが弱いピッチャーだって言ってる訳じゃない。
アンダースローでかつ制球力もあって、球種は少ないけど変化球のキレは抜群で、気合の籠った投球には底知れぬ威圧感がある。球速にだけ目を瞑れば、エースとしては十分すぎるくらいだ。
ただ、現状では柿原がチートすぎるだけで……。
そうやいやい話していると、矢部君が何やら必死の形相で部室に駆け込んできた。
「ビ、ビッグニュースでやんすっ!」
「うお!?なんだ?」
「ど、どうしたの矢部君!?」
「ビッグがニュースで☆◇@……!」
「と、とりあえず落ち着いて。」
物凄くテンパっているようだ、既に言葉になっていない。
とりあえず「うるさいわよ、メガネっ!」の一撃で矢部君を黙らせ、意識を取り戻したところで何があったのか聞いてみた。
「まだ意識がモ~ロ~とするでやんす……」
「やり過ぎだぞ早川」
「ゴ、ゴメンね……」
「しっかりしてよ……で、何があったのさ矢部君?」
「う~ン……ハっ!思い出したでやんす!?愛好会に監督が来るでやんすよっ!」
「「えぇ!?」」
そ、それはホントか矢部君!?
噂によれば、その人はまったくのド素人らしい……いや、期待はしてなかったけど、やっぱり素人なんだね。
まぁ、素人でも野球の事に詳しければそれはそれでいいんだけど。
―――ガチャッ!―――
そのとき、部室のドアが勢いよく開け放たれた。オレ達は「今度は誰だ?」と思い入口の方を見る。
するとそこには、恋恋高校のユニフォームに身を包み、バットを担いだ女性が仁王立ちしていた。後ろには加藤先生も付き添いなのか、姿が確認できる。
その人は暫し部室を見渡した後、つかつかとオレ達の方へ歩み寄ってきた。
「ここが野球愛好会ね」
「うぉぉぉぉ!美人さんでやんす!」
「うるさい矢部……はい、そうですけど。加藤先生、この方はどちらさまで……?」
「それは今から説明するから、とりあえず部室に皆を集めて頂戴」
「あ、はい」
・・・・・・・・・・・・
そしてしばらくした後、野球愛好会一同は部室に集合していた。
「皆集まったわね。じゃ、自己紹介してもらおうかしら……三ツ沢先生」
「はいっ!」
三ツ沢先生。そう呼ばれた彼女は一歩前に出て、元気な声で喋り出した。
「私は、今日から野球部の監督をすることになった
「野球愛好会部長のパワプロです。こちらこそよろしくお願いします」
オレと三ツ沢先生の自己紹介が終わると、「じゃあ後は適当に親睦を深めてね~」と言って加藤先生は退出してしまった。
詳しい説明は無しですか。そう思うオレを尻目に、矢部・小沢・高橋・青木の男子四人は早速三ツ沢先生に突撃して行く。
オレ、あおいちゃん、はるかちゃんは呆れてものが言えなかった。
「はいはい、質問は順番ね~」
「彼氏はいますか!?」
「家はこの近所ですか!?」
「妹さんいたりしますか!?」
「ガンダーロボ好きでやんすか!?」
「あ……あははは。そうねぇ……」
「お前らもっとまともな質問しろって……!」
「ふぎゃ!」
「ほげ!」
「きゃん!」
「や゛ん゛!」
三ツ沢先生にたかる四人を見かねたのか、柿原から静かに鉄拳と共に喝が入る。
そのまま柿原は先生の前に立ち、自らも質問をし始めた。
「ええと、三ツ沢先生?」
「なぁに?」
「失礼は承知で聞きますけど。随分とお若いようですが、お歳は……?」
「ってオイ!お前もかよ!」
「バカヤロウ。僕はいたって真剣に聞いてんだよ。下心なんてあるか!」
「まぁまぁ。うん、歳は22よ」
「22……って事は、教員歴は……?」
「今年が最初よ。ちなみに野球の経験も無いけど、大丈夫。これから覚えていくわ」
「は、はぁ……」
って事は三ツ沢先生、今年が教師一年目の新人!?
そんでもって野球も全くのど素人。う、嘘でしょ……。
柿原もあまりの衝撃にたじろいでしまう。そして今度は入れ替わりにあおいちゃんが質問をする。
「あの、三ツ沢先生。じゃあ、何で野球部の監督になったんですか?」
「私おじいちゃんっ子だったんだけど、おじいちゃんが野球大好きだったのよ。だから、いつか野球にかかわりたいなって、漠然と考えてたの」
「はい……」
「そしたら偶然!タイミング良く募集があって、顧問の加藤先生に相談してみたら快くOKしてくれたのよ!」
なるほど、そう言うことか。
それなら名乗りを上げてくれたのもうなずけるんだけど……
「でも、心配しないで。小さいころからスポーツはやってたの!」
「へ、へぇ……それって、何ですか?」
スポーツはやってるのか。もしかして、ソフトかな……それなら野球が素人でもまだいいんだけど。
しかしそう思う、いや、そう願っていたオレの思いは次の一言であっけなく打ち砕かれた。
「空手よ!」
「「か、空手ぇ!?」」
「そう、空手。これでも全国大会に出た事もあるのよ」
空手って……もはや球技関係ないじゃん!加藤先生、よく快諾したな……。
でも、全国大会って、何気に凄い事を言っちゃってるよこの人。
「たとえば、こんな人形くらいなら……」
「あ、オイラのケロ左右衛門!!」
先生は近くにあった矢部君のフィギュアに照準を合わせ、正拳突きを放つべく構えをとる。
矢部君は己が半身を守るべく、フィギュアと先生の間に飛び込んでいった。
そして……気合のこもった右正拳突きが放たれ……
「ちぇすとー!」
「ケロざえもぉぉぉぉぉん!!!」
次の瞬間。矢部君はドアを突き破り、空の彼方へと消えていった……
「矢部くぅぅぅぅぅぅぅぅん!!」
・・・・・・・・・・・・
「さ、逆らわない方がよさそうだな……」
「矢部さん、大丈夫ですか?」
「だめね、まだ気を失ってるわ……」
「「ぞぞーっ!」」
「皆、これからビシバシいくから、よろしくネ!気合の足りない子には、タマキパンチよ!」
「「は、はい。よろしくおねがいしま~す!」」
「大丈夫かしら……」
「さあ、な……」
「私は楽しそうでいいと思います」
「け、けろざえも……ん……」
「あ、あはははは……」
何はともあれ、恋恋高校野球愛好会に監督がやってきた。
前途は多難だろうが、何かが変わる気がした……
―――チームのやる気が上がった!―――
はい、実況パワフルプロ野球ポータブル4 パワフォー大学編から、タマキちゃんこと三ツ沢監督の登場です。まぁ、ストーリー通り加藤先生が監督をやってもよかったんですがね、タマキちゃんは好きなキャラなので、登場させちゃいました。これからの展開でも、他タイトルのキャラ達が登場する予定です。そしてラストには……