実況パワフルプロ野球 サクセス 立ち上がれ!恋恋ナイン編   作:柿の樹

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第六話 もうひとつの道

「っしゃあ!!バックホーム練習いくぞ。センタァー!」

「バッチ来いでやんす―!!」

 

バッターボックスから柿原の檄が飛ぶ。

 

創部から一月以上が経ち、すでに五月三週目となった。しかし、いまだ正外野手はセンターの矢部君だけしかいない。

内野陣だけは暫定ながら、ファースト:柿原、セカンド:高橋、サード:青木、ショート:オレとなっている。青木に関しては、柿原にファースト経験がある事と、投手交代時にあおいちゃんにファーストに入ってもらいたいからサードに回ってもらった。初心者に一、三塁を兼任しろと言っても酷な話だし。

 

それはそれとして、外野が一人だけというのはいただけない。幸いと言うかなんというか、本格的な守備練習はいまだ出来ていないので、内野のうち誰かをコンバートさせる手もある。

あと、矢部君はお世辞にも強肩とは言い難い。守備自体は安定しているし、脚が速いからかなり広範囲をカバーできる。でも、肩が強くなければランナーを刺したり足止めすることは難しい。

 

男子生徒はあと諏訪部一人しかいないし。諏訪部が入ったとしても八人しかいないから、それに加えて女子生徒を後一人入れなければ、今年度中に試合ができるかどうかすらも分からない。

まぁ、今年を我慢するというのなら、来年の新入生に期待するしかないんだけど。

 

諏訪部ってどうなんだろうな……一度柿原に聞いてもらうか。

 

 

 

 

 

第六話 もうひとつの道

 

 

 

「と言う訳で、諏訪部を誘ってきて欲しいんだが」

「な~んだ。まぁ、僕も一応聞いておこうとは思っていたし」

「え、マジで?」

「おお、マジ。ちなみに諏訪っちゃん、ああ見えて中学の頃は槍投げの選手だったからな……肩は強いと思うんだよなぁ」

 

へぇ、槍投げか。なんだか物凄く期待できそうな響きだ……さぞかし肩は強いんだろうな。槍ってそこそこ重たいらしいし。そんな物投げたりするんだしさ。

 

「とにかく、諏訪っちゃんの事は僕が聞いとくわ」

「ありがとう。たのむよ」

「おう。でも……後一人欲しいよな」

「まあね……。でも、男子は諏訪部以外全員入ってくれた訳だし、今は贅沢言えないよ」

 

ホントは贅沢言いたいんだけどなぁ。

とりあえず、今は柿原が無事諏訪部を連れてくる事を期待しておこう。

 

「さ~て練習も終わった事だし、TSUDAYAで※サバカンのCDでもあさるかな~」

 

※サバカン=SURVIVAL・COUNTRY・GENERATIONの略称。そこそこ人気の四人組ロックバンド。

 

「切り替え早いな。自主練とかしようと思わないのか?あおいちゃんはさっさとロードワークに行ったっていうのに」

「フィジカルだけが練習じゃないさ。技術研究も立派な鍛錬なのですよ」

 

そう得意げに言いながら鼻歌交じりに柿原は行ってしまった。

 

「技術研究ねぇ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ―――ハッ―――」

 

ボクは今、走っている。

ピッチャーが走り込みをする理由には、大きく分けて二つあると思う。

一つは、スタミナをつけるため。そしてもう一つは、下半身を強くし、フォームを安定させるため。

 

一つ目の理由は簡単だ。長いイニングを投げ切るには、体力が要るから。二つ目は……フォームが安定すれば、球速も上がるし、制球も球持ちも良くなる。そしてそれはそのまま、無駄な体力消費の減少にもつながる。

 

「新フォーム……か……」

 

今ボクが走っているのは、新しいフォームに耐えうるだけの下半身を作る為である。

何故今、新しいフォーム作りなんてするのかと言うと―――

 

『どうしたの柿原君。そんな神妙な顔して』

『ん?いや、な。お前のフォームについて考えててさぁ』

『フォーム?ボクの?』

『ああ。打席で見てて気づいたんだけど。お前のアンダースローってさ、今は低めのサイドに近い感じだよな。まぁ、それ自体は悪い事じゃないんだけど、見てたらなんかさ……下半身が踏ん張りきれないから結果上半身が上ずって、サイドみたいな投げ方になってると思うんだわな』

『うん……』

『だから、もっと足腰を鍛えたら踏ん張りが利くようになって、もうちょいリリースポイントを下げられるようになると思うんだよな。そしたら、今よりもっと角度のついたアンダーになって、相手も打ちにくくなると思うんだけど』

『……まさかボクの腰回りをずっと見てたのって、そのため?』

『おうよ!』

 

―――練習中にこんなやりとりがあったからだ。

 

夏の大会には出られない。だから、今は個々人のレベルアップのために時間を割こうというのが現在の愛好会の方針で、今までよりリリースポイントを下げるフォームを作るのもその為だ。

柿原君はボクがエースだと言ってくれた。そして、謙遜するピッチャー、簡単にマウンドを譲るピッチャーはいらないとも言っていた。……リリーフ専門の彼が言うのはどうかと思うけど。

でも、それがボクの成長を願ってのものだったら、ボクはその期待に応えなければならない。

 

先発として、エースとして。

 

「背番号1って、意外と重たいんだね……」

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

そうして走っていると、いつしかソフト部新グラウンド近くへとやってきた。

 

「……いつ見ても大きいなぁ。ほとんど球場にしか見えないよこんなの」

 

こんなもの造るお金があるんなら、うちにもいくらか投資してほしいよね。

……まだ愛好会だから、現実には無理な話だけど。コレを見るとそう思いたくもなるよ。

 

「―――あれ?」

 

ふと駐車場の方に目をやると、ソフト部の部員だろうか、誰かが一人黙々と素振りをやっていた。

 

ソフト部はグラウンド内の施設で練習をしている筈だ、今もグラウンドの方からずっと掛け声が聞こえている。それに、外に出ているのはこの子一人だけの様だし。

 

ちょっと、話をしてみようか。何かだ、落ち込んでるような雰囲気がするし。

 

「ねぇ、ちょっといい?」

「―――ん?なに。今練習中なんだけど」

「ごめん。―――キミ、もしかして落ち込んでる?」

「な……!?お、落ち込んでなんかないわよ」

「そお?でも、素振りしてるキミを見ていたら、なんだか悲しそうな、悔しそうな顔してたし」

「何でアンタにそんなこと言われなきゃいけないのよ。それに、そのユニフォーム……あなた野球部の人?」

「うん。ボクは早川あおい。野球部……と言ってもまだ愛好会だけど、ピッチャーやってるんだ」

「ふうん、ピッチャーね。……アタシは夏野向日葵。ソフト部でショートを……やってたわ」

 

やってた?何か引っかかる言い方だな。

何でか聞こうと思った矢先、頭に鉢巻きを巻いた少女がこちらに駆け寄ってきた。

 

「夏野!」

「―――あ、さっちゃん」

「急に居なくなったと思ったら……またここで素振りしてたのかい?」

「まぁね」

「夏野……あんた最近そっけないわよ。悩みなら、あたしが聞いてあげるじゃない」

「…………強いし、居場所のあるさっちゃんにアタシの悩みなんて分からないよ」

「あ、夏野……!」

 

夏野さんは、逃げるようにして新グラウンドへと走って行った。

 

「行っちゃったね」

「まったくみっともないとこ見られちまったね……。あんた、野球部の早川あおいね」

「そうだけど、キミは?」

「あたしは高木幸子。あの子と同じ、ソフト部員よ。ついでにあんたと同じ、一年生」

 

彼女は、鉢巻きをたなびかせながらこちらに向き直った。

 

「夏野さんと何かあったの?」

 

ボクは気になっていた事を聞いた。高木さんはしばらく押し黙った後、ポツポツと話をしてくれた。

 

夏野さんとは、中学の頃からの友人だという事。昔は、二人で野球をやっていた事。自分の誘いでソフト部に入った事。自分はレギュラーを取って、夏野さんはいまだベンチにすら入れていないこと。そのほかにもいろいろと話してくれた。

 

「あの子はたぶん、あたしの事がコンプレックスになってるんだよ。一緒にやってきて、一緒に入部して、あたしだけレギュラーを取れて、期待の新星だとかちやほやされて。あたしと何かにつけて比べられて……そういうのがつらいんだと思う」

「でも、それだけじゃないよね。そういうことなら、どんな部活でもよくあることだよ」

「あたしもそう思うよ。ソフト部には半ば強制的に入れちゃったしね……、……あの子、まだ野球やりたいんだと思うよ」

「―――え?」

「最初は純粋にソフトを楽しんでたと思う。でも、野球部ができて……こみ上げて来たんじゃないかな、またやりたいって」

 

遠くの方を見つめながら高木さんが言う。

その顔はなんだか、とても悲しそうだった。

 

「でもあの子は、自分はソフト部だからって言い聞かせて。必死にそれを考えないようにしてる。レギュラーを取ろうと努力してる。でも……それが余計に忘れられなくしてるんだよ。なまじ、あんたみたいなのが野球部に居るからね」

「それって……!?」

「ただの八つ当たりだよ。でも、同じ女の子が野球をやってるって、そこそこ刺激の強かった事だと思うよ」

「…………」

「ごめんね、湿っぽい話で。じゃあ、あたしも練習があるから……」

 

高木さんは行ってしまった。

 

それにしても、野球に未練、か……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

昼休みの食堂、テラスにて。

 

「野球?俺がか?」

「そ。お願いだよ諏訪っちゃん~」

「お前な……何で俺が恋恋に来てるのか知ってるだろう」

「おうよ、進学のため!」

「分かってるなら誘うな。俺は勉強に専念したいんだ」

「でもよ。諏訪っちゃん目指してるのって、体育教師だろ?なら、高校で何もしないって……キャリアが中学までって、拙いだろ?」

「陸上は大学で再開するつもりだ。それならキャリアは問題ない。トレーニング自体は続けてるしな」

「実戦から遠ざかったら、体は鍛えてても、技術は鈍るぜ。それに、部活やってても勉強と両立できるやつはいるし、一流大学や企業に行くやつだっている。本当に体育教師になりたいってんなら、それこそ何かスポーツやるべきだぜ、今。そこら辺、どう思うのよ?」

 

諏訪っちゃんは腕組みをして考え込んでしまった。

いや、でも道理だよね。だって、諏訪っちゃん課外活動やってる訳じゃないし。このままにしておくのはもったいないよな~。

そもそも諏訪っちゃんは頭がいいから、両立はできると思うし。

 

「お願いっ!諏訪っちゃんの肩が必要なんだ、野球部に入ってくれ!外野を守ってくれ!」

 

僕はテーブルに顔を擦りつけんとばかりに頭を下げる。

正直、来年男子がそれだけ入るかなんてわからないし、僕らの代で甲子園を目指す以上あまり悠長には待ってられない。

活躍するためには、有力な選手がいる。そして有力な選手を呼び込むためには……やっぱり活躍するしかないんだ。だからメンバーがいる。

諏訪っちゃんには、一流になれるだけの素質がある!……と、思う。

 

「ふむ……。素人だぞ?」

「―――え?」

「素人でもいいのかと聞いてるんだ」

「いいよいいよ大歓迎~!」

「そうか……じゃあ、何で俺が陸上の強豪校じゃなくて、この恋恋に来ていると思う?」

「え?……そりゃあ進学校だからじゃないの?」

「それもある。けど、それだけじゃない。……実を言うと、一度陸上から距離を置きたかったんだ」

「何でまたそんな」

「中学ではあくまで"楽しく"やっていただけだからな。それを引きずらないよう、気持ちを整理する時間が欲しかったんだ。だから、気持ちの整理がついてから陸上を再開しようと思ってた」

「うわ、なんかイメージと違ぇ……諏訪っちゃんはもっと真摯にやってると思ってた」

「それはお前の幻想だ」

「いや、手厳しい」

「……だから、続けるならそれもよし。諦めるならそれもよしと考えてる」

「ふむ……ってことは!?」

「まぁ寄り道するのもいいだろう。素人でよければ、野球部に入ってやる」

「おおぉ!!」

 

マジか、マジか、マジですか諏訪っちゃん!?

ありがとう!やっぱり持つべきものは親友だよなぁ、うん。

 

これで右翼手ゲットだ。試合ができる人数まで、あと一人か。

 

「さんきゅ、諏訪っちゃん」

「ああ、とりあえず宜しくな」

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「と言う訳で、諏訪っちゃんが入ってくれました。バンザ~イ!」

「よろしくね諏訪部君!」

「オイラの華麗な守備に見とれるなでやんすよ!」

「強肩の外野手が入ってくれて心強いよ。ありがとう諏訪部」

「礼には及ばない。オレも甲子園と言うやつを目指したくなったからな。とりあえず、ユニフォームもジャージも無いから今日のところは練習に参加できないが、明日から宜しく頼む」

 

諏訪部が愛好会に加わり、これで選手は八人になった。

レフトか、ショートか。あと一人……あと一人で試合ができるようになる。

 

「皆~そろってる?」

「あ、タマキせんせー。どうしたんですか?」

「ちょっと皆にお知らせがあってね―――って、あれ?見慣れない子がいるわね」

「ああ、アイツですか。諏訪部」

 

諏訪部に自己紹介をするように促す。

 

「今日から愛好会に入りました、諏訪部です。宜しくお願いします」

「へぇ~新入部員ね。私は野球愛好会副顧問で監督の三ツ沢よ。よろしくね諏訪部君」

「―――で、タマキせんせー。お知らせってなんですか?」

「ああ、それはみんなが揃ってから説明するわねパワプロ君。だから、皆を集めてきてくれない?」

「わかりました」

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

そして三塁ベンチ前に愛好会部員全員が集合し、監督からの発表を皆そわそわしながら待っている。

 

「皆集まったわね。皆にお知らせなんだけど……来週の土曜日、うちのソフト部の紅白戦があるんだけれど……それの見学に行くわよ」

「ソフト部の見学、ですか?」

「ええ、そうよ。まぁ青木君の疑問も尤もだわ、違うスポーツですもの。でも、ソフトボールも元をただせば野球と同じ。それにうちは初心者が半分を占めてるから、まずベテランの動きを見てみることも経験になるはずよ」

 

まぁそうだよな。実際生で試合を見ることはオレも中学の頃やっていたし、ビデオなどでは気づかない、伝わらない部分をたくさん見つけることもできる。それにソフトは、グラウンドや細かなルールの違い以外はほとんど野球と同じだしな。通ずる事ばかりだ。見に行って損は無い。

 

「ソフト部……」

「ん?あおいちゃんどうしたの?」

「いや、ちょっとソフト部に気になる子がいて」

「恋か?」

「違うわよっ!」

「柿原、そんな暑苦しい笑顔で茶々入れないでくれ、疲れるから……。で、気になる子って?」

「そこ、まだ話の途中よ。私語をしない!特にパワプロ君、キャプテンでしょ!」

「す、すみません……。あおいちゃん、また後で聞かせてよ」

「うん」

 

怒られちゃったよ……。

とにかく、来週のソフト部の紅白戦見学は12:30にソフト部新グラウンド、通称恋恋球場へ現地集合の運びとなり、この場は解散となった。

 

「パワプロ君」

「あ、あおいちゃん」

「ソフト部のこの事なんだけど、実は―――」

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「―――ということなの」

「成程。ソフトに転向してもまだ野球がやりたい、か……」

「まだそうときまった訳じゃないけど、そうかもしれないって」

「でも、ソフト部員なんでしょ……オレ達にはどうにも」

「何だよ、そんな辛気臭くなってよ。そんな難しく考えることか?」

「でも……高木さんも気にかけてるみたいだったし、元気づけてあげたいよ」

「別に元気づけてやるのは僕らの仕事ではないだろーよ。……にしても、未練ねぇ。耳が痛いな」

 

柿原がなんだか不敵な笑みを浮かべている。

それに気付いたのか諏訪部がすかさず突っ込みを入れる。

 

「宏樹……お前、何か企んでないか?……まさかとは思うが」

「ふふふ、まぁそう心配し為さんな御三方。この柿原君に任しときゃいいのよ」

 

諏訪部の突っ込みに、笑顔満点のサムズアップで応える柿原。

俺は、苦笑いしながら無意識に胃のあたりをさすっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうしてソフト部の紅白戦当日。ユニフォームに身を包んだ恋恋部員たちは恋恋球場の前に集結していた。

ちなみに三ツ沢監督はユニフォームの上にグラウンドコートを羽織り、はるかちゃんはキャップに制服姿といういでたちである。

 

「それでは竹中主将、今日はよろしくお願いします」

「いえ三ツ沢先生。つたないプレーを見せると思いますが、どうぞ参考にしていってください」

 

監督とソフト部主将のあいさつが終わり、いよいよ球場内へと入っていく。

そこはまさに、プロ顔負けのそれはそれは素晴らしい球場であった。

 

「す、すげぇ……」

「見ろよこれ、総天然芝って書いてあるぜ!」

「贅沢ここに極まれりってかんじでやんす!羨ましすぎるでやんす!」

 

矢部君たちが驚きを隠せずワイワイと騒いでいる。

無理も無い、オレだって驚いたくらいだ。流石は金持ち学校……やる事の次元が違うぜ。

 

「これに使う金を、僕らにも分けてくれたらなぁ……」

「ソフト部が強豪だからこそだろう。俺達もこうして欲しければ、甲子園へ行くしかない……そう煽られてるようにも感じられるよ」

 

柿原と諏訪部もたまらず驚嘆の声を出してしまっている。

確かに、こんなものを見てモチベーションが上がらない訳ないよな。

 

そして、試合開始時間が近づきオレ達は客席へと向かうことになったのだが、それぞれの守備陣ごとに別々の位置で試合を観戦することにした。

オレ、青木、高橋は三塁側に、矢部君と諏訪部は右翼席に、柿原とあおいちゃんは小沢を連れてバックネット後方に、監督とはるかちゃんはソフト部監督、ウグイス嬢と共に放送席へそれぞれ移動した。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

両チームの先発オーダーが発表され、いよいよ試合が開始する。

高木さんは紅組の四番キャッチャーか。件の夏野さんは、先発じゃないみたいだな。

 

試合は終始紅組が優勢だった。

高木さんがここまで長打二本を含む三打数三安打一四球三打点と大暴れしており、八回の時点でスコアは紅6―1白。この回も白組は連続ヒットでピンチとなり、失点こそ防いだが既に大勢は決しているように見えた。

 

9回表、白組は6、7番と立て続けに代打攻勢に出るが、虚しく凡退してしまう。

そして、最後の打者として代打夏野がコールされた。

帽子を後ろ向きに被った少女が打席に立つ。成程、あれが夏野さんか。

 

最後の意地とばかりに8球ほど粘るも、敢え無くファーストフライに倒れ紅白戦は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合後のロッカールーム。

今日の試合は、代打でノーヒット……ついに、紅白戦でもスタメン出場は叶わなかった。守備固めにも起用されなかった。

 

「夏野、何?あのスイングは、もっと気合を入れなさいよ」

「すみません、先輩」

 

確かに、最近全然練習身が入らない。今日の試合も半ば怠惰的だったように、自分でも思う。

 

「そんなんだからいつまで経ってもダメなのよあんたは。野球をやってたかどうか知んないけど、高木とはえらい違いだわ」

「…………」

 

確かに、さっちゃんは上手い。中学の軟式野球でも、ずっとクリーンナップを打ってたし、此処でもすぐに二軍のレギュラーを勝ち取った。今度の大会からは一軍に上がるとの噂もある。

それに比べてアタシは、レギュラーどころか二軍のベンチ入りすら危うい。期待度なんて、比べるべくもない。

 

ホントは比べることすらおこがましいと思う。でも、アタシ達は比べられる。

さっちゃんとアタシじゃ、全然勝負にならないっていうのに。

 

さっちゃんだって、気にかけてくれてはいる。でも、肝心のアタシの実力がこれじゃね……。

 

「ちょっと聞いてるの夏野?……まったく、やる気がないんなら、あんたソフト部やめなさいな」

「…………」

「こんなあんたと比べられる、高木がかわいそうだわ」

 

そう言って先輩はロッカールームから出ていってしまった。

かわいそうか……確かに、そうかもしんないな。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

球場から出ると、何やら人だかりができていた。

竹中キャプテンと、部員数人……そして―――

 

「あのユニフォームは……まったく、野球部が何の用なのよ」

 

野球部の面々が数人いた。その中にはこの前ここで出会ったおさげの子もいた。

アタシは面倒に巻き込まれるのが嫌で素通りしようと思ったが、キャプテンに呼び止められてしまった。

 

「ごめんねぇ夏野ちゃん。この人たちがどうしてもお話があるって」

「話って……アタシにですか?いったい―――」

「それは僕から話そう」

 

なんだか軽いのか暑苦しいのかよく分からないやつが出てきた。

 

「僕は柿原。野球愛好会のピッチャー兼ファーストだ。ちょっと君に……っていうか、ソフト部にちょいと相談があってな」

「……何よ?」

「まぁそう睨むなよ……部長さんも、心して聞いてほしいんですが」

「はい。何でしょう?」

 

一体何だっていうのよ……。

どうせ碌でもない話だろうと思う私の予想の斜め上の発言を―――

 

「夏野さんを、下さい……!」

 

―――綺麗なお辞儀をしながら、彼はサラっと言ってのけた。

 

「……な、なんですってぇ!!?」

「は、はぁ!?」

「な、何言ってるの柿原君!?」

 

…………!?

な、なななななな何を言ってんのよこいつは!?あ、アタシを下さいって……まさか、ぷ、プロぽ……いやいやいやいやいや、そんな事は無いはずよ、だって初対面だもの!

 

「あ~わざと紛らわしい言い方したのは謝る。まあアレだ……ヘッドハンティングってやつだな」

「へ、ヘッドハンティング……?」

「ああ。お前をスカウトしに来た」

「柿原……オレ全然聞いてないんだけど」

「だって言ってねーもんよ」

「宏樹。これがお前の企みか……」

「御明察。なかなかのインパクトっしょ?」

「インパクトがありすぎて、驚きを通り越しちゃったよ……」

 

な、なんだ……スカウトか……っていうか、わざとかい!ちょっと期待したアタシが馬鹿だったかも。

それでも十分に予想外すぎるんだけど。

 

「ス、スカウトって……そんなことできる訳ないでしょう!夏野ちゃんは大事なうちの部員よ!」

 

ですよねー。

案の定キャプテンは反論する。しかし、柿原はまったく動じることなく、勝ち誇った顔で懐から何かを取り出した。

 

「ふふふふふ。そういうと思ってましたよ部長さん……。しかぁし!この柿原君には秘策があるのさ!さあ、こいつが眼に入らぬか。ならばしかと見、恐れ慄け畏怖を抱け!」

 

あれは……写真?まさか……!?

 

「まさか、ソフト部の盗撮写真とか……」

 

皆ゴクリと息をのむ。この発言に、周りの温度が一気に下がったような気がした。

そして、柿原は一人ずっこけていた……。

 

「……アホか。んなモンするわきゃねぇだろうさ……」

「いや、でもそういう展開期待するし」

「しなくていいの!」

「で……結局何の写真ですか?」

「ぬぬぬ……コホン。あ~よくぞ聞いてくれました。コレは、最近巷で大人気のジョニーズ発高校生イケメンバンド!御子息隊のブロマイド二十枚セット、サイン入りフォトブック付きだぁぁぁぁ!!」

 

柿原が高らかに宣言した途端、周りから―――主にソフト部員から歓声が上がる。

御子息隊。涼風希望(ホープ)、星空星光、黒珠真の三人からなるバンドで、現在女性人気がうなぎのぼりだという。しかし、アタシは生憎と興味がない。

 

「柿原、よくそんな物持ってたな……」

「いやぁ、こんな事もあろうかと。備えあれば憂いなしってね。で、どうですか部長さん?部の共有財産にするもよし、醜く奪い合うもよし……コレと夏野さんの、交換トレードって言うのは」

「キャプテェン……まさかOKしたりは―――」

「もちろんOKよ!!不束者だけど、どうぞ貰っていってらっしゃいな」

「あざーす!」

「―――なんですってぇ!」

 

あ、あんまりだよキャプテン……。たかが写真で、部員を売り飛ばすなんて。

 

「夏野さん、同情するよ……」

「しなくてもいいわよ!ねぇ、さっちゃんからも何とか言ってよ!」

 

せめて、せめてさっちゃんだけでも引きとめてくれれば。

 

「いいんじゃないのかい」

「え、さっちゃんまで……何を言い出すの。まさか、アンタも写真に釣られたっていうの!?」

「違うわよ。ねぇ夏野……あんた、まだ野球好きなんでしょ?」

「そ、それは……」

「隠してても分かる。あんたは、心の奥底ではまだ野球がやりたいんだよ。それに、野球部ができて余計にそれが強くなった。今の夏野じゃ、うちでレギュラーを取るどころか、一軍にも上がれやしない。そんなあんたを燻ぶったままソフト部で使い潰すよりも、あたしは野球部で伸び伸びとやってもらいたい」

「で、でも……!」

「ごめんね。アタシがソフト部に誘ったばかりに……ずっと比べられて。辛かったんじゃないの」

「……謝んないでよ。アタシだって比べられるのは嫌だけど―――」

「お願い向日葵!」

「―――!?さ、さっちゃん……」

「お願い。野球部に入って……向日葵。あたしに、もう一度野球やってる姿を見せてよ……。あんたがあたしの事で比べられて、貶められるような事を言われるのは、もう嫌なんだよ……」

「……さっちゃん」

 

さっちゃんが涙ながらに懇願する。こんな彼女は、見た事がなかった。

それほどまでに、さっちゃんはアタシの事を想っていてくれたというのだろうか。

 

「夏野さん……」

「あんたは……?」

「オレは野球愛好会部長のパワプロ。ねぇ夏野さん、オレからも頼むよ。愛好会に入ってくれないか」

「…………」

「柿原の手が多少強引だったのは謝る。けど、それはアイツがキミの事を必要だって、コストを払ってまで採る価値があるって思ったからなんだよ。オレだってそうだ。夏野さん、キミの力が必要だ……オレ達と一緒に野球しようよ!」

 

その時アタシの胸にズンと衝撃が走った。

自然と、涙がこみ上げていた。

 

「い、いいの……アタシが、野球やっても……?」

「いいのよ向日葵。頑張って、甲子園目指すんだよ……」

「グス……さっちゃぁん……。うわぁぁぁん!」

「……よしよし」

 

アタシは、さっちゃんの胸に飛び込み、溜まったものを吐き出すかのように泣いて、涙で濡らした。

……ちょっとふかふかで気持ちいいなぁとか、羨ましいなぁとか思ったのは秘密だ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日。

 

「えぇ、ソフト部の夏野さんがうちに移籍した!?パワプロ君、私全然聞いてないんだけど!?」

「いで、いででででで!!せ、せんせー……首を締めないで下さい。墜ちます……」

「いや~スンマセンねぇ。当日まで内緒にしてたもんですから、あはは!」

「柿原君もなんで相談しないのよ!」

「ん~いや、コレは強行策しかないと思いまして。相談したら、たぶん却下されてたと思いますし」

「まぁ、今回は成功したから良しとするでやんすよ監督」

「も~次こんなことしたら、タマキパンチだからね!」

「肝に銘じておきます」

「……お願いだから、放してください……本気で、墜ちそうです」

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「パワプロ君、どーしたのその首の痣」

「いや、タマキせんせーにね……誰かさんのとばっちりで」

 

柿原がこっちを見てサムズアップをする。ちょっとイラっとしたのは言うまでも無い。

 

「御愁傷さま……」

「同情してくれてありがとう……」

「皆~来たわよー!」

 

お、夏野さんが来たみたいだ。

今はソフト部から野球愛好会のユニフォームへと着替えているが、なかなかに様になってるじゃないか。

 

「よし。じゃあ皆集合!」

 

号令をかけると。キビキビとした動きで皆が整列した。

 

「これで九人そろった訳だが……。現時点を以って、オレ達野球愛好会は、野球部へと昇格した。今、タマキせんせーが書類の申請をしてくれている。……これから、本格的にやっていきたいと思う。……目指すぞ、甲子園!」

 

『おお!』とそこかしこで歓声が上がる。皆思い思いに喜びを表現しているようだ。俺だって嬉しいよ!

 

「おい、エースからも何か一言、言えよっ!」

「え、う、うわぁ!?」

 

柿原に背中を叩かれてあおいちゃんが前に出てくる。そして、「私が甲子園に皆を連れていきます」と言ってこの場を締めた。

 

何はともあれ……これでやっと選手が九人そろったな。

夏の大会はもう出ないことにしているけど、秋季地区大会……ここにまずは全てをぶつける!

これから、改めてよろしく頼むぜ、皆!

 

 

 

 

オレ達の"夏"が、今始まろうとしていた!

 

 

 

 




またまたポータブル4キャラの登場。今回はナッチこと夏野向日葵。
P4内では特に触れられなかった内野守備ですが、まぁアレ以前に守備経験があって、大学で投手転向→更に野手に戻ったという事で。


諏訪っちゃんのパーソナルデータ(一年目5月時点)

諏訪部吾郎 恋恋高校#9

基本情報
国籍:日本 誕生日:(15歳)
身長:182cm 体重:78kg

選手情報
投球・打席:右投右打
ポジション:右翼手
打撃フォーム:スタンダード1
ステータス:3GCDAEF

経歴
パワフル第三中学校(陸上部:槍投げ)→恋恋高校

ナッチに関しては公式キャラなので割愛します。
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