実況パワフルプロ野球 サクセス 立ち上がれ!恋恋ナイン編 作:柿の樹
6月3週目。
今頃あちこちの高校では、甲子園出場をかけた戦いがまさに始まろうとしているところだろう。
ただ、オレ達恋恋高校は今年の夏の大会には参加しない。まずはじっくりと力を蓄え、秋の大会……そしてその先のセンバツに全てをぶつけるために。
しかし、そんなオレ達も戦わない訳じゃない。
今日はときめき青春高校との練習試合。チームが出来上がってから一カ月、待ちに待った初の実戦だ。
先週唐突に試合をすることが決まったためか、皆どことなく緊張しているようだった。
まぁ、柿原に関しては今も横で鼻歌を歌っているあたり、まったく緊張感が感じられないが。
「さて、着いたわよ」
いつしか、オレ達はときめき青春高校の正門前へとたどり着いていた。
そして、そこには―――ずっと待っていたのだろうか、ユニフォーム姿の少年とジャージを着た女の子が立っていた。
「大空さんに林君、お出迎えありがとうね」
「いえ、三ツ沢先生。恋恋高校の皆様、お待ちしておりました。マネージャーの大空美代子です」
「野球部キャプテンの林啓太です。グラウンドへは私たちがご案内いたします」
「分かったわ。じゃあ、今日はよろしくお願いね」
「…………」
「ほらっ、パワプロ君も挨拶する!(バシッ!)」
「痛゛っ!……ええ、恋恋高校野球部キャプテンのパワプロです。よろしくお願いします」
「ふふ……じゃあ皆さん、グラウンドへご案内いたしますね」
マネージャーの大空さんに率いられて、オレ達はグラウンドへと向かっていく。
それにしても、アイツが林か……イケメンじゃねぇかこの野郎……。猪狩と言い、天才は顔も天才だって言うのかよ……チクショウ。
大空さんも美人だよなぁ。あのふんわりとした感じ……
「―――っ!!?」
ひっ!?
今、何だか物凄く強烈な殺意を複数感じたような……き、気のせいだよなうん。
「パワプロ君……」
「パワプロさん……」
「キャプテン……」
「は、はい……」
「「「背中に気をつけてね」」」
「ひぃぃぃぃ!!」
こ、こえーよ三人とも。
試合に集中しなけりゃ、このままじゃ命が危ないかもしれない。
ちなみに、矢部君は大空さんに電話番号を聞こうとしたところ監督にねじ伏せられた。
女の子って怖いですね……今日知りました。
・・・・・・・・・・・・
グラウンドに着くと、とき春の選手たちが練習をしていた。うわ、がら悪いな……。
オレ達はひとまず三塁側ベンチに荷物を置き、各自ウォーミングアップを始めた。
「パワプロ、早川、ちょっと来てくれ」
「ん?」
「なに?」
準備運動をしていると、ふと柿原に呼ばれた。
柿原の方を向くと、とき春の選手が二人―――一人は林、そしてもう一人、金髪をポニーテールにした子がこちらに駆け足でやってくるのが見えた。
「紹介する。こいつらが中学の時の知り合いの、林と小山だ。んで啓太、雅。こっちがキャプテンのパワプロと、ウチのエース早川だ」
「さっきも挨拶はしたけど……改めて、初めまして。キャプテンの林啓太だ、今日はよろしく」
「小山雅です……ショートをやってます。その、今日は、よろしくお願いします」
「恋恋野球部キャプテンのパワプロだ。こっちこそ今日はよろしく頼む。練習試合を受けてくれてホント感謝してるよ」
「ピッチャーの早川です。キミ達の事は柿原君から聞いてるよ。お互い、良い勝負をしようね」
「君達の方こそ、噂はかねがね。件の女ピッチャー、そしてあかつき中OBの実力、見せてもらうよ」
「へっ!それを言われると、手を抜く訳にはいかないな」
「ふふ。僕達だって、練習試合だからって負けるつもりはないよ」
「ま、お互い正々堂々フェアプレーでいこうじゃないか。雅、啓太、完封されないように気ぃつけろよ?」
「そっちこそ。コールドになるのだけは、避けてくれよ宏樹」
「はは。お前との投げ合い、楽しみにしてるぜ」
「うん……。三人とも、マウンドで待ってるよ……。行こうか、雅ちゃん」
「え、あ、うん。じゃあヒロ君、早川さん、パワプロさん、今日はよろしくお願いします」
先に戻っていった林をトテトテと小山さんが追いかけていく。か、かわいいなぁもう……。
「パワプロ君」
「は、はひっ!?」
ごめんなさい、もう睨まないでください、怖いです。怖いと言った事も謝ります、スミマセン。
「それにしても、"ヒロ君"なんて言わせてるんだ、ヒロ君?」
「馬鹿。幼馴染なんだ、普通だろ。僕だって下で呼び捨てにしてるしな、イチイチ突っ込むなよ」
「ふ~ん。……あの子も、女の子なんだよね」
「……ああ。でも、アイツはここでは"男"として振る舞ってる。そうして、甲子園を目指すそうだ……」
「そう、なんだ……」
「…………」
あおいちゃんと柿原、なんだか悲しそうな顔をしている。
男として、か……。やっぱり、女の子として野球をやり続けてるあおいちゃんにも、小山さんとずっと野球をやり続けてきた柿原にも、思う所があるのか……。それはきっと、今のオレには分からない事なんだろうな。……それだけは分かる。
「まぁ、しんみりするのは後でもできるよ。今は、早くアップを済ませよう二人とも」
「そうだな……。じゃあ、頼むぜキャプテン、エース」
「まかせろよ、守護神」
「期待には応えるよ」
両校のノックが終わり、やがて試合開始の時間となった。まず塁審がグラウンドに入り、続いてときめき青春の選手達が守備位置につく。林は、先ほどの発言通りマウンドで待ち構えていた。
グラウンドの外には、ちらほらと見物客や、どこから嗅ぎつけてきたのか見知ったスカウトの人達もいた。
ちなみに、今回審判をしてくれるのは地元の草野球チームの皆様、そしてウグイス嬢はとき春放送部の部長さんである。ご協力感謝いたします。
ウグイス嬢により、スターティングメンバーが発表される。
『先攻、恋恋高校のスターティングメンバーを発表します。
一番センター 矢部
二番ショート 夏野
三番ファースト 柿原
四番サード パワプロ
五番ライト 諏訪部
六番レフト 青木
七番セカンド 高橋
八番キャッチャー 小沢
九番ピッチャー 早川
以上でございます』
この前言ったものからは特に変更は無い。まぁ、これでいくって言ったしね。
『続きまして、ときめき青春高校のスターティングメンバーを発表します。
一番レフト 三森左京
二番ショート 小山
三番ファースト 神宮寺
四番キャッチャー 鬼力
五番サード 稲田
六番ピッチャー 林
七番セカンド 茶来
八番センター 矢作
九番ライト 三森右京
以上でございます』
林は六番か……という事は、それなりに打力もあるのか。
ふむ、強打者・巧打者が集まった上位打線の破壊力は抜群。下位打線も、一度茶来で仕切り直してから矢作と三森兄弟の機動力で攻めてくる布陣か。リードオフマンが三人……さしずめ、下位打線からのスーパーカートリオだな。実質下位打線は無いものと考えてもいいか……なんとも厄介な打線だ。
「パワプロ君、何ビビってるでやんすか?」
「い、いやそんなことないぞ!ただ、すごい打線だなって……」
「それをビビってるって言うでやんす。キャプテンが弱気でどうするでやんすか」
そうだよな。あっちはあっち、こっちはこっち。
よし、気合入れ直さなくちゃな。
「よし、円陣だ。皆集まれ!」
「「おー」」
絶対勝ちたい。オレが頑張らなきゃ、皆だって頑張れない。
それに―――
「皆が頑張れるから、オレも頑張れる。オレ達の第一歩だ、気を抜かず行くぞ」
「「…………」」
あれ?何でみんな黙るのさ……
「……カッコつけんなよ。分かり切った事じゃないの」
「ぬぬ……じゃあ盛り上げ隊長、なんか言えよ」
「ふふん、じゃあ
―――絶っってー勝つ。気ぃ緩めんじゃねえぞ!行くぜ野郎ども!恋恋、ファイっ―――
―――おぉー!!―――
「まず初回、思い切っていくわよー!」
「矢部君、まずは出鼻を挫いてやれ」
「合点でやんす!」
皆ベンチへと戻り、矢部君はバットを担ぎ打席へと向かう。
そして、審判からプレイボールが宣言され、いよいよ試合が始まった。
・・・・・・・・・・・・
『ストーライッ!』
個性は無いが、安定感のあるフォームから投げ込まれた球は寸分の狂いも無く、キャッチャーの構えたアウトローのコースへと決まる。
速い。恐らくストレートかツーシームだろうか、矢部君は一瞬あっけにとられていた。
第二球目はインコースへの恐らくカットボール。
コレを矢部君は空振りしてしまい、2ストライク。
最後は低めのチェンジアップを引っかけてしまいボテボテのサードゴロでワンナウト。
しょんぼりとした表情で矢部君が戻ってくる。
「ドンマイ、矢部っち」
「あのカットボールとツーシームはエグイでやんす。手元に来るまでストレートにしか見えないでやんすよ。気をつけるでやんすよ夏野」
「分かってますって」
ふむ……やっぱり投手の生きた球は違うか。
130キロ台のムーヴィングファストなんて、高校一年生が打てるような球じゃないよな。
練習試合とはいえ、初っ端から猪狩級の投手と対戦か。
中学の時に猪狩の剛速球をずっと見てたし、柿原もサイドで141とか出すからなんか感覚がマヒしてたけど……高一で、しかもサウスポーで143キロ出す林も、考えてみれば相当なバケモンだよな、うん。しかも、変化球も多彩だし。
でも、コレはいい経験になると思う。
『二番、ショート夏野さん』
「さあ、こい!」
夏野さんがバットを構える。
林から放たれたボールは―――遅い、チェンジアップだ……。
速球を待っていたのか、タイミングを外された夏野さんは豪快に空振ってしまう。
二球目は内角へ落ちるチェンジアップ。これも空振りしてしまう。
三球目の高めに外したストレートを見送った後―――
『ストライッ!バッターアウト!』
外角へ逃げていくスクリューを振ってしまい空振り三振となる。
ここから見てても分かる、物凄い変化量だ。
「ヤバいよアイツ。どの球もフォームがほとんど変わんないから、全然球種が絞れない」
見分けのつきにくいリリースに、多彩な変化球か……鬼に金棒だな。
「打てるか、柿原?」
「さあな。でも、アイツ相手にバッティング練習やったこともあるんだ、そうそう簡単には打ち取られないぜ?」
「そうなのか、じゃあ期待できるな。頼―――」
「……まあ、勝率物凄く低いけどな……グス」
「―――むぞ……?」
期待、していいんだよな……?
『三番、ファースト柿原君』
「っしゃあ!」
気合と共に柿原がバッターボックスへ入る。その顔は、どこか楽しそうだった。
マウンド上の林も、待ってましたとばかりに一瞬笑みを浮かべる。
柿原がバットを構えるのを見届けると、林は投球モーションに入った。
初球はインハイ、胸元近くへのカットボール。
恐らく仰け反らせてフォームを崩させるためのボールだったのだろうが、読んでいたのか、柿原は少し体を引いただけで平然と見送る。
二球目はアウトローへのチェンジアップ。スイングを堪えて見送るも、僅かに入っていたのかストライク。
三球目のカットボールを打つもファウルで2ストライク。
追い込まれながらもそこから五球ファウルで粘り、九球目……。
僅かに甘く入ったスローカーブを引っ張り、レフト前へとはじき返した。
レフトがショートへ送球する間に、柿原は一塁を悠々と駆け抜ける。その時の顔は、まさにしてやったりというものだった。
「ナイスだ宏樹!」
「流石柿原君!」
「かっきーやるー!」
チーム初安打にベンチが盛り上がる。よし、オレも続かないとな。
ヘルメットをかぶり直し気合を入れると、オレはネクストから打席へと向かった。
『四番、サードパワプロ君』
「とにかく繋げるでやんすよパワプロ君!」
「期待してるわよキャプテン!」
打席から林を睨みつける。
ブレ無いリリースとキレのある変化球、そしてそれを支える制球力。球速だってある。
前の打者三人の話から、怖い投手だってことは十分に分かった……あとは、実感だけ。
まずは球筋を見極める。
林が初球を投じる。
インローへとカットボールが決まる。曲がりすぎず、曲がらなさすぎず絶妙な変化量だ。
おまけに、矢部君の言った通りかなりのキレだ、手元に来るまでストレートにしか見えない。まさに、理想的なカットボールだよ。
次は恐らくチェンジアップかな。
今までの投球を見る限りじゃ、速球とチェンジアップのコンビネーションで組み立てている感じだ、確率は高い。
読み通り、二球目はチェンジアップだった。しかし、低めに外れてボール。
三球目、ツーシームかフォーシームかカットボールか……速い球に狙いを絞る。
そうして投じられた球は外角へ……ツーシームだ。
ほんの少し腕を伸ばしてボールを打ちにいくが―――
(!?曲がらない……ストレート!?)
外角はツーシームだと思い込んでいたために、裏をかかれた。
腕を伸ばしていた分だけ芯を外され、勢いの無い打球がセカンド方向へと飛ぶ。
しかし、打球はわずかに二塁手茶来の頭を超え、ライト前へのラッキーなヒットとなった。
「あぶねぇ……」
「ラッキーラッキー。ツイてるぞキャプテ~ン」
何はともあれこれで2アウト一、二塁。一打先制の場面だ。
ホームを見ると、諏訪部が静かに打席に入っていた。
「すっちー楽にね~!」
「諏訪部君ガンバ~!」
「一発見せつけるでやんすっ!」
バットを構える、しかしそれは何処か緊張しているようだった。
無理も無いな。まだあいつは野球を始めて一カ月で、試合は初めてだ……緊張もするだろう。ましてや得点圏で、自分はクリーンナップだったらなおさらな。
一球目、二球目と豪快に空振る。どっちもカットボールだろう。
やっぱり140キロを打てると言っても所詮はマシンの球か。投手の生きた球は怖いんだろうな。
いつもはどっしりと構えているのに、今は腰が砕けている。
三球目はバットに当てるも一塁側へのファウル。
そして四球目、外へ変化するスクリューを空振りし、三振でスリーアウトチェンジ。
初回先制はならなかった。
「すまない……」
「ドンマイ諏訪っちゃん。気にすんなって、相手の方が強いってだけだ」
「そうそう。ダメもとで気楽に振っていけよ。な?」
「ああ……」
さて、今度はこっちが守る番だ。
初回はまずきっちり抑えていきたいな。
「頼んだよ、小沢、あおいちゃん」
「まぁやれるだけは頑張るぜ~!」
「うん。三者凡退でサクッと終わらせるよ!」
バッテリーの二人に声をかけるが、いつになく気合が入っている。まぁ、デビュー戦だものな。
あおいちゃんがマウンドに立ち投球練習を始めると、向こうのベンチがざわつきだした。
アンダースローは珍しいから、そりゃ驚くよな。
投球練習も終わり、トップバッターの三森左京が打席に入る。
三森兄弟は足が速いらしい……内野安打を警戒しないとな。
初球、外角低めのストレートを見送る。
ボールは、キャッチャーが構えたストライクゾーンぎりぎりのコースへとピシャリと決まっていた。
二球目は外角高め、僅かに外したストレート。
コレを三森左京は振りにいくが、ファーストへの弱々しいフライとなり、柿原が捕球してワンナウト。
『二番、ショート小山さん』
小山さんが左打席に入る。そういえば、両打ちだったっけ。
柿原が"巧い"と言うくらいの選手だ。簡単に打ち取られてはくれないはず。
あおいちゃんが初球を投じる。
インローへのシンカー。決して甘くは無いその球を―――
『―――ふっ!』
「なに!?」
小山さんは体をくるりと回転させ、コンパクトなスイングでライト前へとはじき返した。
「っ!ライトォ!」
「まかせろ!」
打球はライト方向、浅めに守っていた諏訪部の前でワンバウンドするが、それを諏訪部は素早い動作で捕球し、一塁へと投げ返す。そして―――
『アウトォ!』
速い―――!
ボールは小山さんが到達するよりも早く柿原のファーストミットへと収まり、結果はライトゴロとなった。
打球が意外に速かったのと、たまたま位置取りがよかったのもあるけど、いきなりナイスプレーだ。相手ベンチも審判も驚いている。
「ナイス諏訪っちゃん」
「ありがと、諏訪部君」
軽く手をあげて答え、諏訪部は守備位置に戻っていく。
これで2アウトだ。
続く三番の神宮寺は、あっさりとショートゴロに打ち取られてスリーアウトチェンジ。
宣言通りあおいちゃんは三者凡退で初回を抑えきった。
「ナイスピッチあおいちゃん」
「皆の守備のおかげだよ」
「謙遜しなさんなって。神宮寺を打ちとったシンカー、絶妙だったぜ?」
「どーいたしまして」
これで初回が終わり、互いに0―0でスタートした。
林とあおいちゃんの投球、柿原と小山さんのバッティング、諏訪部の好守備等々。
どちらも初回は驚きでいっぱいだろう。序盤からいいものを見せてくれる。
それから、二回は互いに三者凡退。
三回はワンナウトから矢部君がポテンヒットで出塁するも、後続が続かずチェンジ。ときめき青春も、三塁までランナーを進めるが点を取れず。
しかし四回。オレと諏訪部が連続三振、青木が投ゴロに倒れた後、試合は動き出した。
・・・・・・・・・・・・
「……クっ」
「たった二点だ、これから取り返して行けばいいよ」
「そーだよ。まだ四回が終わったところなんだしさ、チャンスはあるって!」
四回裏。二順目になって、あおいちゃんが捕まり出した。
先頭打者の小山さんにシングルヒット、続く神宮寺にツーベースを打たれノーアウト三塁、二塁。
そこから四番の鬼力君に犠牲フライを打たれ先制される。五番稲田を打ち取った後は、六番の林にもタイムリーを打たれ、この回二失点目。
茶来にもヒットを許すが、続く矢作を内野フライに打ち取りスリーアウトチェンジ。
先に二点も先取された……相当悔しいはずだ。
あおいちゃんはベンチに戻ると、帽子を深くかぶりうつむいてしまった。
五回表の攻撃も三者凡退に終わる。
打席から戻ってくるあおいちゃんを、柿原は険しい表情で出迎えた。
「せんせーが、このイニング投げ終えたら交代だってさ」
「交代?……そう。交代なんだ」
「……お前、なんだよその反応。まだこの回投げるんだぞ」
「わかってるよ」
「いいや分かってないね」
「お、おい二人とも……」
二人とも睨み合ったまま動かない。ベンチ前に険悪な空気が流れる。
「少し打ち込まれたくらいで動揺してんじゃねぇよ。何か、もう負け試合を決め込んでるって言うのか?えぇ?」
「そんな訳ない!ボクはまだ投げられるよ、信頼してよ!」
「なら一々落ち込むな、先発だろ!投球だけじゃなくて、気持ちでも試合を作れよ!」
「なん、ですって……」
「打たれる度にそんなんじゃ、他の奴らまでやる気をなくすんだよ。投げる気があるんなら、それらしく振る舞え」
「早くしなさい。あまり長引くようだと没収試合にするよ」
「う……スンマセン、すぐに行きます。早川、しゃきっとしてくれよ?」
「言われなくても分かってるよ」
お互いギクシャクしたまま二人はそれぞれの守備位置へと戻っていく。
"気持ちでも試合を作れ"か。投手の柿原には、何か思う所があったんだろうけれど、あんなにケンカ腰にならなくてもよかったんじゃないかな。
・・・・・・・・・・・・
五回裏、先頭バッターの三森右京をフォアボールで出塁させた後、続く一番、三森左京に痛恨の2ランを浴びてしまった。
……やはりあおいちゃんの投球にはキレがなくなっている。
負けん気の強いあおいちゃんだから、なんとか林に負けまいと、相手を抑え込んでやろうと躍起になっているからだろう。だから余分な力が入りすぎて、余計な気を遣いすぎて、思ってる以上にスタミナを消費してしまい、結果投球の質が下がる。
オレ達はタイムを取り、マウンドへと集まった。
「ドンマイドンマイ。球自体は良いの来てるから、コースさえ気をつければそうそう打たれないって」
小沢が当たり障りのない言葉をかける。
しかし、それが気に食わないのか、奴がまたしゃしゃり出てきた。
「お前ら、甘やかすな。それじゃこいつの為にはならない」
「何だよ柿原、いいたい事があるのは分かるけど、これ以上あおいちゃんを責めるのはやめろよ」
「別に、投球自体を責めはしないさ……僕が文句あんのは、気構えの方だ。お前もかばうな」
「何だって……!?」
「いいよパワプロ君。ごめんね打たれちゃってさ……エース失格だよね」
「馬鹿言え。お前以外に誰がエースをやれるってんだよ」
「でもさ―――」
「ウチのエースはお前だ。エースが勝手に自分を貶めるな」
「!?……何で、何でなのよ―――」
その言葉にあおいちゃんが顔をしかめる。
そして、柿原に言い放った。
「―――何でボクなの!?何でボクがエースなの!?柿原君の方が上手いのに、何でボクに投げさせるのさ。君が投げればいいじゃない。君がエースになればいいじゃない!ボクこそリリーフに行けばいいんだよ、その方が勝て―――」
「馬鹿野郎!!」
柿原も声を荒げる。その顔は怒りと失望に満ちていた。
「僕はな……お前だからエースを任せたんだ。お前の投球を始めて見た時にも、練習で改めて見たときにも、"僕はこいつの後ろで投げたい"って本気で思った、だから任せた」
「…………」
「お前がもっとだめなピッチャーだったら、僕が投げてたさ。でも僕はお前に投げさせてる、それだけの素質がお前にはあるからだ」
「でもボクは、もう四点も―――」
「それはお前が自分を信じなくなったからだ。……いいか、早川」
「……っ。なに?」
「先発はな、投球で、何より気持ちで試合を作っていかなきゃならない。だから圧倒的な投球を求められる。そしてリリーフは、先発がつくった試合を壊さないように……それ以上に、圧倒的な投球をしなけりゃならない。何でか分かるか?」
「それは……」
あおいちゃんが言い淀む。
柿原は一度眼を閉じ一呼吸置いた後、言葉をつづけた。
「相手に、"もうこれ以上手が出せないな"って思わせるためだ。リリーフっていうのはそういうモンだ。だから、今のお前の様な少し打たれたら動揺するような奴や、それを分かってないやつに、後ろを任せたいとは思わない。リリーフは、先発崩れが来るような場所じゃない……」
「―――!?」
「僕は、お前に成長してほしい、先発として、エースとして。投球で負けてもいい、でも、気持ちで負けるな。それがお前の役割だ。お前が負かされた分は、僕らが打撃で取り返す!」
「気持ちで、負けない……」
柿原……お前。
「エースは自分でなるもんじゃない、ましてや譲ったり、譲られるものでもない。周りから求められて、初めてそう在る事が出来るもんだ。だから頼むぞ、早川……。っつーわけで―――」
「?」
「?」
柿原が怪しげな笑みを浮かべる。
そして
「元気出せ!」
「え……?」
「「―――あ゛!?」」
「ひ、ひゃぁぁぁぁぁぁ!」
―――思い切りあおいちゃんのお尻をつかんだ。
あまりの衝撃にあおいちゃんは赤面し、皆絶句する……そして、
「な……何すんのよ……この、ヘンタァァァァァァイっ!!」
「ふべっ!!」
柿原に強烈な右アッパーを喰らわせた。
柿原はしばらくの間宙を舞い、数秒後地面へと落着した。向こうのベンチも、審判も、目が点になっていた。
「エッチ!サイテー!何考えてんのよこの片頭痛持ち!」
「かっきー……せっかくカッコよかったのに、減滅だよ」
「柿原、コレは無いよ……」
「…………馬鹿が」
ムクリと起き上がってきた柿原に対し、皆して罵声を浴びせる。
しかし柿原は、それに堪えた様子も無く、顎をさすりながらマウンドへと戻ってきた。
「っ痛……なんだ、まだ元気あんじゃねぇの。だったら、この後きっちり抑えてくれよ。ランナーはいないんだ、伸び伸びとやりたいように投げろ」
「わ、分かってるわよ……余計なお世話だよ、馬鹿……」
「あっそ……。んじゃ、期待してるぜ、エース様よ」
そういうと柿原はファーストへと戻っていった。
これ以上時間はとってられないので、オレ達もそれぞれの守備位置へと戻っていった。
まさか、気持ちを切り替えさせるためにやったっていうのかよ。
……羨ましい。後で感触とか聞いてみようかな……。
「…………」
「ひっ!?」
そう邪まな考えをしていると、あおいちゃんが物凄い殺気と共にこちらを睨んでいた。
スミマセン、怖いです。怖いと言ったことも謝ります。試合に集中します。
兎にも角にも、さっきので吹っ切れたのか後続を三者凡退に切って取り、スリーアウトチェンジ。
あおいちゃんは、マウンド上で小さくガッツポーズを決めていた。
その後、六回表の攻撃では―――
先頭バッターの矢部君からライト前ヒット、フォアボール、センター前ヒットでそれぞれ出塁しノーアウト満塁。一発入れば同点と言う場面で、オレがショートゴロに打ち取られ、6-4-3のゲッツー。
その間に矢部君が生還し一点を返すものの、続く諏訪部が今日三度目の三振に打ち取られ、スリーアウトチェンジ。
そしてこの回からは柿原がマウンドに上がり、何事も無いかのように三者凡退に打ち取る。
七回以降。
さっきの一点か、柿原の登板でスイッチが入ったのかは分からないが、林の投球は明らかにすごみが増していた。
柿原もそれに応えるべく全力投球し、それぞれ九回まで互いの打線をパーフェクトに抑え込み、そして抑え込まれた。
そして、オレ達とときめき青春高校の初試合は4-1でときめき青春高校が勝利し幕を閉じた。
恋恋 000 001 000 | 1
とき春 000 220 000 | 4
「いい試合だったよ」
「いや、こっちこそ。凄いピッチャーに出会えてうれしかったぜ」
「そうかな……俺なんてまだまだだと思うよ。でも、ありがとう。また、いつか試合をしよう」
「ああ、次こそは負けないぜ」
西日がまぶしいグラウンドの中、オレ達は再戦を誓い握手を交わす。
別の場所では、あおいちゃんと小山さんが何やら真剣な表情で見つめ合っている。
・・・・・・・・・・・・
「小山さん。君、女の子なんだよね。柿原君から聞いたよ」
「……そうですか。もう、ヒロ君ったら!」
「ふふ。あと、君の事情も聞いたよ……」
「え……」
「大丈夫。今バレたら大変だもんね、誰にも言わないよ」
「ありがとうございます。後でヒロ君を叱っておいてください、何でもかんでもしゃべらないでって」
「分かったよ!まったく、乙女の秘密をばらすなんてね」
「あはは。……早川さん」
「なぁに?」
「早川さんは、甲子園目指してるんですか?」
「……うん、目指してるよ。皆で、甲子園に行きたいからさ。それに―――」
「はい」
「ボクはボクとして、甲子園に出たいと思ってるから」
「……。早川さんは凄いですね。私にはそんな勇気は無かったなぁ……」
「そんなことする君も、十分勇気あると思うけど?」
「あはは……耳が痛いです。また、試合してくれますよね。グラウンドで会えますよね」
「うん、野球を続けている限り、またきっと会えるよ」
「楽しみにしています!」
「うふふ、ボクも!」
ここにも、女同士の熱い友情が結ばれたのだった。
「皆、今日の試合はお疲れ様。残念だったわね……」
ときめき青春高校との練習試合が終わり、オレ達は恋恋高校へと戻ってきていた。
確かに今日は勝てなかった。それは悔しい……けど残念だとは思ってない。
自分たちの実力を知れたのもそう、林という好投手に出会えたのもそう―――負けたことも含めて、色々を収穫を得ることができたこの練習試合は、とても有意義だったように感じる。
決して残念ではなかった……そう思う。
「とにかく、勝てなかった事は気にしない。各自、今日の試合での自分の良かったところ、悪いところを見つめ直して、秋の大会に向けて頑張っていきましょう」
「「はいっ!」」
「それじゃ、キャプテンから何か一言頂戴」
「ん?あ、はい……」
何か一言か。そうだな……
「ええと、今日の試合で改めて分かった事がある。オレ達は弱い。正直今日の試合は勝てると思ってたし、オレや矢部君、柿原や諏訪部、夏野さん達上位打線が打ちまくってある程度得点できるだろうって、あおいちゃんや柿原が押さえてくれて危なげなく勝てるだろうって、そう思ってた。でも、それは己惚れ以外の何物でもなかった。自分が名門出身だからって天狗になっていたし、諏訪部の予想外の成長や、皆の実力に浮かれてもいた。……だから、負けたのはよかったのかもしれない。これで自分達の現状を知ることができた。だからオレ達は、今日負けたことによって勝った時よりも自分達の事を成長させられるはずだと思う」
「「…………」」
「オレ達は弱い、それを重々理解したうえで、これからの練習に取り組んでほしいと思う。秋の大会まではまだ二ヶ月以上もある。レベルアップしていくには十分すぎる時間だ。甲子園に……まずはセンバツに出るために、頑張ろう皆!」
「「はいっ!」」
「じゃあ、今日はここで解散ね。明日は休みにするから、また月曜から練習頑張るわよ。それじゃあ皆、お疲れ様!」
「「有難うございましたっ!!」」
今日負けた事を、オレは忘れない。そして、今日の敗北には感謝をしたい。
ここは常勝あかつきじゃない。ただの恋恋高校なんだ。
その己惚れから今日改めて目が覚めた。
甲子園に行くには、あの林や、猪狩の様な好投手を倒さなければならない。
そしてそいつらを倒すには、皆で強くならなければいけない。
オレだけじゃない、あおいちゃんだけじゃない、もちろん矢部君、柿原、諏訪部だけじゃない。
……野球部全員が強くならないとな。
「なあ、パワプロ」
「ん?」
「実は―――」
林啓太のパーソナルデータ(一年目六月三週時点)
林啓太 ときめき青春高校#1
基本情報
国籍:日本 誕生日:6月18日(16歳)
身長:178cm 体重:71kg
選手情報
投球・打席:左投左打
ポジション:投手
投球フォーム:スリークォーター11(ノーワインドアップ・グラブ顔/セットポジション・腹)
打撃フォーム:スタンダード1
経歴
パワフル第三中学→ときめき青春高校
ステータス(一年目6月時点)
143km/h BC 先発◎、中継ぎ○、抑え○ キレ4、リリース○、緩急○、低め○、ポーカーフェイス
カットボール2、スローカーブ1、SFF3、チェンジアップ2、スクリュー4、Hシュート1
3DCDCBD 広角打法
注:フォームの番号はパワプロ2012決定版での表記