落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 番外編まとめ   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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天狗の武神と無垢なるお姫様
第1真「近いうちにどうしようもない塵になる」


 

 その男は突然現れた。

 イ・ウーにおける決戦から数週間後。ついでにレキが後輩から強奪したヘッドギアによって俺に新たなトラウマを植えつけられてから数日後。八月十四日。修行したりゲームしたり家族団欒したり出かけたり。残り半月ほどの休暇を謳歌している間だった。

 昼過ぎ頃、何時ものメンツで集まっていたらインターホンが鳴り、ドアの向こうに彼は現れた。

 獣のような男だった。 

 ケダモノのような老人だった。

 二メートルは超えているであろう長身に鬣のような金髪と顎鬚に口髭、さらに爛々と輝く金眼。鍛え上げられた筋肉を包む執事服は今にもはちきれそうで。顔の皺を見ればかなりの年を取っているように見えるが、老いは見えても衰えは見えない。その強面だけで子供なら泣き出しそうなのに、不敵な笑みを浮かべていて大の大人でも腰を抜かしそうだ。

 

「あわ、あわわわわ! キー君ー! ソー君! なんか出たぁー! なまはげだぁー! おばけだぁー! 化け物だぁー!」

 

 実際に、扉を開けた理子が腰を抜かした。

 がくがくと全身を震わせて。

 生まれたての小鹿のように。

 四つん這いになって泣きついてきた。

 だが、老人は震える理子を無視してずかずかとリビングに入り込んで来て、

 

「久しいな赤子よ」

 

 誰もが絶句するか、身構える中。俺を見て、まっすぐに言った。

 その男を俺は知っていた。というより、数度だけ会ったことがある。

 

「ヒューム・ヘルシング……」

 

「年上を呼び捨てにするのはいただけないが、まぁいいだろう。邪魔をするぞ」

 

「……」

 

 邪魔をするぞ、という言葉のタイミングがおかしい気がした。だが、ヒュームから発せられる獣じみた覇気に誰も何も言えず、

 

「お、おい蒼一っ」

 

「ちょっとこっち来なさいよッ」

 

 キンジとアリアに引っ張られて、ついでに無言のレキもついてきて寝室に連れてかれる。

 その間、

 

「あ、粗茶ですが」

 

「お構いなく」

 

「いえいえ、そんなこと言わずに」 

 

 白雪と遙歌が接客に回って時間稼ぎをしていた。

 寝室に入って、開口一番にアリアが小さく叫んだ。

 

「ちょ、なんであんなのここに来てんのよ! あれ、『串刺し公』でしょ!? 九鬼のヒューム・ヘルシング!」

 

「知ってるのか」

 

「知ってるも何も有名人よ。欧州行けば知らない人間なんてそうはいないわよ」

 

「九鬼って、あの九鬼か?」

 

「なんでもやってるとんでも企業ですね」

 

「そうよ、その九鬼。日本だけじゃなくて欧州でもいろいろやってるし、『串刺し公』自身があっち出身だからかなり有名よ。欧州超人ランクにもトップランカーだったし……。そんなのとどうして知り合いなのよ」

 

「あー、うん」

 

 ちょっと頬を掻いて、

 

「ほら、この前昔の話の時にも少し話したけどさ。俺って、高校入るまで修行で世界飛び回ってたわけじゃんか。んで、まぁ日本もちょこちょこ回って、九鬼んとこも顔出したんだよ。あの川神に」

 

「あの川神か」

 

「あの川神ですか」

 

「あの川神?」

 

 三人が三人ともゴクリと唾を飲んで、 

 

「あの川神だ。とまぁ、そこで何度か顔を合わせて、それっきりなんだけど。いやマジなんで来たんだろなあの人」

 

「使えないわね」

 

「うっせ」

 

「使えないですね」

 

「えぇー」

 

「ふふん」

 

 アリアの勝ち誇りがムカつくがレキには言い返すことができない俺である。

 

「……まぁ戻ろうぜ。遙歌が心配だよ。あんな不良爺と一緒にしてるとか」

 

「白雪も一緒だから大丈夫だと思けどな」

 

 ともあれリビングに戻る。

 

「誰が不良爺だ」

 

 すっげー睨まれた。

 理子はいまだ震えていて、キンジたちも引き気味だった。正直言うと俺も怖い。

 

「はは、まぁいいじゃないですか。……それで、何の用ですか?」

 

「ほう、敬語を覚えたのか。関心だな、数年前は碌に使ってなかったが」

 

「……いや、あの、悪かったとは思ってるので個人的に黒歴史時代のことは話に上げないでほしいというか。嫁と妹と親友と友人の視線が痛いのですが」

 

「フッ、やはり少しはましになったようだな」

 

 聞いていないようだった。

 

「……とりあえず座っては?」

 

「座るべきお方は別にいるので遠慮させてもらおう。……おい! もういいぞ!」

 

「お待ちしておりました」

 

 白髪の爺さんが現れてきたがもう驚かなかった。

 ヒュームに比べれば細見の片メガネの老人である。この人も見覚えがあった。クラウディオ・ネエロ、確かそんな名前だったはず。

 この人には驚かなかった。

 驚いたのは、

 

「フハハ! 九鬼紋白、降臨である!」

 

 額に十字傷、銀髪銀目、真っ白な袴姿の小柄な少女の存在にだ。

 九鬼紋白。

 さすがに俺たちは残らず絶句した。

 九鬼である。

 九鬼財閥だ。

 先ほどレキやキンジたちも口に出したいたが、いわゆる大企業。いや、大どころか超、あるいは超巨大を付けてもいいくらいの規模。冗談抜きで世界を股にかける企業だ。神奈川県の川神という土地に本拠地を構えながら世界中に支部を持っている上に、日用品から軍事業、日々の補佐からテロ対策やら無節操なまでに多方面に手を出しているのが九鬼財閥。従者部隊とかいう軍隊もどきもあったはずだし。

 そして九鬼(・・)紋白だ。その姓を持つということはつまり九鬼の系譜であるということをはっきりと示している。

 かなり小柄な少女だが銀髪や額の十字傷は九鬼の一族の証としては有名な話で、

 

「遙歌ぁー! ロリコンがフラグ立てて面倒起こす前に放り出せ!」

 

「は、はい!」

 

「え、ちょ、ま――!?」

 

 キンジがリビングから窓へと吹き飛んだ。

 じゃぼーんとかいう音がしたが、海に落ちたくらいで死ぬほど柔ではないので大丈夫だろう。

 ロリコニア王国の住人に会わせたら拙いと直観である。

 

「キンジーー!?」

 

「キンちゃんーー!?」

 

「ほう」

 

「糸ですか、素晴らしい手際ですね」

 

「あ、どうも」

 

「ちょ、アンタなにしてんのよ!?」

 

「き、ききききき、キンちゃぁん!」 

 

 アリアが突っかかってきて、白雪が錯乱したように叫ぶが、

 

「あのな、お前ら。考えてみろよ。キンジだぞ? あのロリコンの名をほしいがままにした上に、相手が誰だろうと構わずフラグ立てまくる遠山キンジだぞ? そんなキンジをこのロリ美少女と同じ空間にいせていいと思うか? うん?」

 

「……」

 

 アリアと白雪は同時に黙って、

 

「よくやったわ!」

 

「さすがだよ!」

 

 笑顔で親指を立てた。ちなみに理子は隅っこで爆笑していた。レキも無表情だが同じく。

 ともあれ、

 

「話を進めてもよいか……?」

 

「どうぞどうぞ」

 

 

 

 

 

 

「改めて――我、降臨である!」

 

「おー」

 

 全員で拍手。

 えへへ、とはにかむ紋様(ヒュームにそう呼ぶように強制された)にそれぞれ自己紹介をする。

 

「さて、貴重な夏休みにここまで出向いたのは他でもない、那須蒼一。お前に依頼があって来たのだ」

 

「依頼? そういうことならまず武偵高に連絡を」

 

「すでにしている。蘭豹先生には話をつけた。それで、これは武偵への依頼ではない――『拳士最強』。お前への依頼なのだ」

 

 空気が一瞬にして張りつめた。

 『拳士最強』。

 その称号は気安く語れる言葉ではない。それを襲名した一連の出来事はすでに遙歌やアリアたちにも説明済み。ヒュームやクラウディオも武人としてその重さはしっているだろう。

 故に見る限り拳士どころか戦士でもないこの少女は理解できるのか。那須蒼一として譲れないことの一つである父との絆の証明だ。 

 だからこそ妥協はできず、九鬼紋白への視線が強まり、

 

「……」

 

 それ紋様はしっかりと受け止める。

 

「……」

 

「……ふむ。まぁ続きをどうぞ」

 

「う、うむ」

 

 紋様は少し拍子抜けしたようだったが、すぐに持ち直して、

 

「単刀直入に言おう。六日後に行わる若獅子タッグマッチトーナメントに出場してほしい」

 

「トーナメント……そいやなんか一時期テレビとかで宣伝してたな。俺豪華客船ぶっ壊したり原潜でバトったり入院中だったりして見る暇なかったけど。でもそれって八月のはじめくらいじゃなかったか?」

 

「どこぞの落ちこぼれがその原潜を沈めてくれたおかげでな。我々九鬼としてもトーナメントの日程をずらさずをえなかったのだ。トーナメントは六日後の八月二〇日に行われる」

 

「さ、さいですか……」

 

 思わず視線をずらす。アリアやレキに遙歌も気まずそうにあらぬ方を向いて、白雪は苦笑い。理子はニヤニヤ。

 この過負荷実にムカつく。

 まぁ言われてみれば裏世界に名を届かせ、時空を股にかける『ただ知っているだけの人外』シャーロック・ホームズと秘密結社イ・ウーが諸共滅び去ったのだ。九鬼財閥ともなればそれ相応の処理があっただろう。逆に二〇日程度の遅れで済むのがびっくりである。

 

「まぁ、それで? そのトーナメントに出ろって? なんでもまた。あの川神でやるんだろ? 武芸者なんて腐るほどいるだろに」

 

「武芸者は確かにあそこは腐るほどいるな。いや、腐っている者はいないが。若獅子と言っているだろう? 我と同世代の若手の武芸者が出場するトーナメントなのだ。……っと話が逸れたか。まぁ確かに武芸者は多い。だが」

 

 紋様はそこで溜めて、

 

「――『武神』ともなれば一人しかいない」

 

 

 

 

 

 

 『武神』川神百代。

 その名前は前『拳士最強』握拳裂や九鬼従者部隊序列第零位『串刺し公』ヒューム・ヘルシング、と同等に武芸者の間では有名な名前だ。先日の戦いで現『拳士最強』那須蒼一や遠山侍『緋裂緋道(スカーレット・アリア)』遠山キンジもこれから名が広まっていくだろうが彼女に遠く及ばないのは明白だ。

 俺自身直接的な面識はない。

 数年前に川神に訪れたことはあるが手合せはおろか世間話すらしていない。修行の一環で戦わせられたのは彼女の祖父の川神鉄心や川神院の師範代数名だった。だから遠目で数度見たのがせいぜいだ。

 あいまいな記憶ではレキやアリアに負けず劣らずの容姿だった。体系に関してはレキやアリアをあっさりと打倒しているがそこらへんを突っ込むと風穴地獄になるので置いておくとして。

 全体的な印象を言うならば、獣のような少女だった。

 獣。

 もっと言うならば、飢えた獣。

 今かくある全てに何一つ満足せず、飽き飢えて、欲することをやめない獣。

 そんな彼女。

 と言っても数年前、遠くから見た、あくまでも印象という曖昧模糊とした俺の寸評なので信用してもらっては困る。

 それでも。

 

「あれはこのまま放っておけば――近いうちにどうしようもない塵になる」

 

 俺よりもずっと『武神』川神百代という存在に近いヒューム・ヘルシングをして、そう言わしめるということは俺の評価もあながち間違っていないのかもしれない。

 

「糞、ね」

 

 それはまぁ、なんというか。他人ごとではない。

 

「それで? 放っておけばって、放っておかなかればいいんじゃね?」

 

「だからこそ、我はお前に依頼するのだ。若獅子タッグマッチトーナメントに出場し、優勝して、『武神』川神百代を打倒してほしい」

 

「……」

 

 なんかさっきより増えてね? とか思ったけどヒュームの目が光ってたのが怖くて言い出せなかった。

 

「……『武神』を倒すなら、それこそヒュームさんじゃだめなんですか?  兄さんが出張る必要はないと思うんですが」

 

「俺が出てアレを倒すことは可能だろう。だが、俺はすでに引退した身であり、今の九鬼は若手に任せるというのが基本方針だ。それに、たとえ俺や倒しても年の功、戦闘経験の差ということでアレは敗北を受け入れることはないだろう。たとえ負けてもこう思うはずだ『自分が負けたのは間が悪かった、運が悪かった、相手が悪かった、自分は悪くない、本当の意味では負けていない』と」

 

「あっはっはー、それってつまり私たち(マイナス)よりひどいじゃん」

 

 普段ならお前に言われたくねーとその場にいた全員が思うところだが、今回に限ってはそうはならなかった。ヒュームの話通りならば理子の言っていることは間違いない。紋様もヒュームもクラウディオもふざけている様子はないようだし。

 

「だから、同年代の俺に倒せって?」

 

「そうだ。あれをこのまま放置しておくわけにはいかん。九鬼従者部隊とし、一人の武人としてもだ」

 

「残念ながら従者部隊には若手でそこまでの実力者はいませんから」

 

「……と、言うわけだ。那須よ。是非この依頼を受けてほしい。これは我からの正式な依頼だ。任務完了の暁には相応の報酬を出そう」

 

「具体的には?」

 

「現金報酬か……九鬼系列店舗における数年間分の無料利用権とかどうだ?」

 

「やりましょう。この『拳士最強』にお任せください」

 

「あの、レキさん。少し黙ってってもらえますか?」

 

「おぉ!」

 

「あ、おい。見ろよこの紋様の目のキラキラ具合。もし断るとしたら断りにくいだろうが」

 

「断る、だと?」

 

「いや、睨まないでくれますか? まだ断ってないし……」

 

 いかん、カオスって来た。

 受けても断っても面倒臭そうなので真面目に話しておきたいのだ。

 

「……ちなみに、そのトーナメントって『武神』以外にどんなのが出てるんだ?」

 

「有名どころだと、九鬼の武士道プランで生まれた源義経、武蔵坊弁慶、那須与一。天下五弓の椎名京。『剣聖』黛十一段の娘黛由紀江。関西の納豆小町松永燕。このあたりだろう。……お前にとっては中々無視できぬ名もあるだろう?」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 無視できぬどころか、できるだけ無視していた名前があった。

 源義経。

 武蔵坊弁慶。

 那須与一。

 言うまでもなく、俺や遙歌、レキの先祖。クローンであってもご先祖様のクローンというのに間違いない。武蔵坊弁慶なんてまんま(・・)だ。九鬼の武士道プランでその三人が誕生ならぬ再誕していたのは知っていたが、積極的に会ったりするつもりはなかった。

 

 ぶっちゃけ合わせる顔がありません。

 

 才能をまったく、これっぽちも、微塵も受け継がなかった俺。

 才能を受け付けすぎて、癇癪で一族郎党自身と兄を除いて根絶やしにしてしまった遙歌。

 “風”という血の束縛を砕き、色々な意味でアレな感じになったレキ。

 こんな三人である。

 

「……ま、まぁいいや。なんとでもなるだろ。んで、なんだったけ? 『剣聖』の娘ね」

 

 『剣聖』黛十一段なら会ったことあったりする。例によって修行時代、東北方面に行ったとき彼と手合せをした。ヒュームやキンジのような派手な強さではなくて、俺のみたいな静かな強さを極めた剣士だった。その娘も、この語の及んで言うまでもないが、遠目に見ただけだ。

 我ながらかつてのコミュ症振りに泣けてくる。

 天下五弓とか納豆小町は有名は有名だけど、俺自身の直接関係はないはずだ。

 

「……」

 

 少し思考をまとめる。

 と言っても、受けてどうなるかは先ほど紋様が解りやすく言ってくれた。

 若獅子タッグマッチトーナメントに出場し、優勝して、『武神』川神百代を打倒する。

 まぁこれはいい。

 ヒュームの言う話も理解できる。あそこまで言わせるような存在ならば一度完膚なきまでに敗北するべきというのは俺自身よくわかっている。

 それでも、違和感というかしこりはあって、

 

「……」

 

「……」

 

 それでも紋様のまっすぐな視線を見て、思考を止める。

 

「なぁ紋様」

 

「なんだ」

 

「アンタって、川神百代仲いいのか?」

 

「? いや、知識として知っているし映像でなら見たことがあるが、面識はないな」

 

「……ふぅん。じゃあ、家族は?」

 

「っ」

 

 その問いに紋様の体が硬直した。一瞬だけで、すぐに取り繕ったが、

 

「姉上や兄上は面識はある。同じ学園に通ってる。姉上は数年前に卒業したがな……それがどうかした?」

 

「……いいや」

 

 なるほど。確証はないし、違和感そのものは消えないけど、返答の決定には意味があった。

 レキに視線を送ったら目が物欲に塗れていたのですぐにそらした。こいつをご先祖様に合わせるのはやめようと固く誓いながら、

 

「いいぜ。その依頼受けよう」

 

「本当か!?」

 

「あぁ、委細承知、極めて諒解。『拳士最強』の名に懸けて全身全霊で請け負わせてもらぜ」

 

「おお! 恩に着るぞ!」

 

「いいっていいって。ま、その分報酬とかは頼むぜ、うちのお姫様がうるさいからそういうの」

 

「うむ、まかせるがいい!」

 

 ハイテンション幼女である。

 まぁともあれ。

 時空を股にかける名探偵。幻想郷の真紅の処刑人。夏休みになって色々頭のおかしい人外連中と戦ってきたわけだが。

 次の対戦相手は――『武神』と相成ったわけである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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