落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 番外編まとめ 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
若獅子タッグマッチトーナメント 本選二回戦。
『知性チーム』VS『無敵童貞軍』、『知性チーム』の勝利。
『デス・ミッショネルズ』VS『源氏紅蓮隊』、『源氏紅蓮隊』の勝利
『ザ・プレミアムズ』VS『ファイヤーストーム』、『ザ・プレミアムズ』の勝利。
そして、残すところ『源氏万歳』VS『チャレンジャーズ』なのだが、
「うふふ。宣言、いえ予言しましょう。川神一子さん、五秒です。試合開始から五秒後には貴方は血反吐をまき散らしながらたおれ伏していると予言します」
妹がドヤ顔で敗北フラグを立てていた。
事の始まりは川神妹が俺との決闘を申し込んできたことだ。タッグマッチでありながらの一騎打ち。タッグマッチの意味もないに等しいが、マスタークラスの達人との戦闘を積みたいという向上心溢れる理由とあっては無下にし難い。
それでも今ここで彼女と戦うわけにはいかなかった。
言うまでもなく今回の主題、川神百代の打倒を考えてのことである。話に聞くだけでも『武神』はあの『串刺し公』と同等ないし近いだけの実力があるということは『拳士最強』とて全身全霊を以て挑まなければならないだろう。
だからこそ今回のトーナメントにおいて俺の戦闘行為はなるべく避けなければならない。もちろん、正直な所、同年代でありながら壁を越えた、あるいはそれに近い彼女たちと互いの武威を競い合いたいと思うがしかし、今回はそういうわけでにはいかないのだ。
だから一騎打ちを断って。
それからが問題だった。
問題というか問題への妥協案を遙歌が提案したのだ。
「私の兄さんは『拳士最強』、いえ『世界最強』、いやさ『宇宙最強』と言ってもいいくらいの強さですが、私も同レベルですからね。私で我慢してください」
かなりの誇張を含めてそう言った遙歌に川神妹は、嫌な顔一つせずに承諾してくれた。糞とか言われている姉とは違って、先ほど俺が姿を現してから獣じみた気を垂れ流しにして黙って薄ら笑いを浮かべている川神姉とは違って随分人間できた妹だ。
問題はその提案への川神妹の喜びように遙歌が調子に乗ったのが問題だった。
そう、調子に乗ったのだ。
考えてみればイ・ウーで殺し殺され知識を奪い奪われという殺伐とした環境で生きてきたのだからこういう純粋な感情には弱かったらしい。
「達人になりたいのでしょう? ならばここで味わってください。壁を越えた存在を。今日初めて会ったから気を遣う理由もないでしょう。だからここで知ってください。肉親でも友人でも親友でも仲間でもない、容赦の欠片もない壁を超えた存在の本気というものを。……あぁ安心してください。私はスキルは一つも使わないので、純粋な実力で相対しましょう」
ご丁寧に川神妹の持つ十字槍と全く同じ物をスキルで作って構える妹。
「ちょ、おま……っ。遙歌ぁー? 妹ちゃんー? お前、その言い方はどうかと思うよー? いろいろ、フラグっていうか……」
「うふふ、大丈夫ですよ兄さん。安心してください。この万能系妹那須遙歌ちゃんにお任せあれです」
あくまで、遙歌に悪意はない。純粋な好意で彼女は言っている。そしてだから天真爛漫な川神妹はにっこり笑って、
「じゃあ、こっちも頑張らせてもらうわ!」
意気揚々と十字槍を構え、遙歌と向かい合う。
そんな感じ、兄貴分二人、俺と源二人を置いてけぼりにして。
『試合――開始!』
始まって五秒後に終了した。
●
「いぃーち」
開始のしのが発せられた瞬間、遙歌は川神妹の眼前にいた。会場のマスターランクにしか理解できないほどの速度。無論、川神妹に認識できるわけもない。
だから遙歌の刺突が炸裂するのも川神妹は認識できなかった。
当然ながら今回使われる武装は刃が潰されているから刃物としての機能はなく、いうなれば細長い鈍器だ。だから威力が炸裂して、くの字に折れ曲がりながら吹き飛んだ。
「にぃー、さぁーん」
吹き飛んだ先にすでに遙歌はいた。会場の外縁ギリギリで十字槍を叩き込む。斬撃刺突打撃薙ぎ払い引き裂き叩き斬りエトセトラ。十字槍でできる攻撃行為をありったけ二秒間叩き込み、
「よぉーん」
また吹き飛んで、またまた先回りした遙歌が十字槍の腹を叩き付ける。試合会場の中心から亀裂が入って衝撃波がまき散らされ、
「ごぉー」
叩き付けの勢いでバウンドした川神妹の体を十字槍の柄で瓦解した会場に繋ぎ止めて、
「はい終わり」
残ったのは血反吐をまき散らしながらたおれ伏している川神妹。
周囲唖然である。
「うふふ、露骨に敗北フラグ立ててたらなんだかんだで負けるなんて、浅はかすぎますよ? そういうセオリーを打ち破ってこその万能系妹遙歌ちゃんです、てへ」
「自重しろ」
ともあれ。
『源氏万歳』VS『チャレンジャーズ』
チャレンジ惜しくも『チャレンジャーズ』の敗北であり、俺たちの勝利だった。
●
若獅子タッグマッチトーナメント三回戦。
『知性チーム』VS『源氏紅蓮隊』、『知性チーム』の勝利。
そして『源氏万歳』VS『ザ・プレミアムズ』
これで決勝戦の出場が決定する。そしておそらく今回のトーナメントで今回の試合が最も問題だった。
『剣聖』の娘、黛由紀江。もし彼女が父親の才能を受け継いでいるとしたらだいぶ拙いなぁと思っていたが、その予想は悪い方に的中した。
ほぼ間違いなく俺と同じ世代の剣士では最高峰。かなり大人しめの控え目な少女だがそれでも、一たび刀を抜けば、別人になるだろう。それを確信させるほど体に秘めた静かな強さ。川神姉よりも俺からしたら彼女のほうが恐ろしい。
だから、だからこそ。
彼女との試合に当たって。俺はらしくもなく小細工を弄するしかなかったのだ。
『試合――開始!』
そのアナウンスと同時に俺と遙歌は動いた。俺は前に出て、遙歌はその右手を前に掲げて。
「っ――」
黛は微かに同様しながらも、よどみない動作で鯉口を切る。律儀にも試合開始の合図まで納刀状態を保っていたのだ。もっともそれが悪手だったというわではなく彼女も居合や抜刀術の類のスキルを持っているだろうからそういう動きも考えての行為だったのだろう。
しかしこの場合は悪手であった。
鯉口を切る。切って、切ろうとして、
「――え?」
鯉口を切ることはできなかった。
黛がおそらく、何千、何万、あるいはそれ以上の回数を行ってきた抜刀という動作が出来なかったのだ。
それは言うまでもなく、
「重力操作のスキル『
遙歌のスキルだ。重力操作によって黛の鞘と刀の接合部分に超重力を掛けて離れなくしたのだ。最大百倍の重力を掛けるとかいう
「――」
今度こそ鯉口を切る。通常の百倍の負荷を掛けながら、それでも黛は抜刀していく。刀身が四分の一まで抜かれ掛け、
「抜かせないぜ」
「ッカハーー!」
飛び出し現れた俺が腹と柄へ拳を叩き込んで抜刀を阻害し、黛を場外の端へとぶっ飛ばす。端の壁に彼女の体が激突し、粉塵が巻き上がり、
「遙歌!」
「解ってますって!」
遙歌が広げた五指を手のひらを下にして叩き付ける。遠くの黛を押し潰すように。
ようにではなく実際に黛の体が地面へと押し潰された。
「……!」
嗚咽にも似たようなうめき声が数秒響き渡り、
「――!」
凛ッ、という音ともに荷重が両断された。
斬撃である。
阿頼耶。
そう呼ばれる剣撃の極地。黛家が何十年、何百年と研鑽を続けてきた結晶。ただただ一片の曇りもなく、純粋な剣気によってのみ構成された斬撃。驚くべきことにただ剣を振るという行為だけで彼女は達人の壁を超えようとしていた。俺やキンジ、拳裂、シャーロックのように半ば狂気に塗れた意志とは違う混じりけのない剣気。これが秘めているのを一目見て直観したからこそ、俺は彼女を川神姉よりも評価していたのだ。
「――」
一振り一振りことで大気がビリビリと震える。
「このっ」
一振りごとに足を進める黛に遙歌が多種多様な遠距離攻撃スキルを叩き込むが、どれもを黛が両断していく。
試合会場に戻るのは時間の問題だった。だからこそ俺は会場の外縁ギリギリに立って、彼女を待ちかまえる。
「――」
俺と黛の視線が交叉し、黛の斬撃が俺へと届くその直前、
「それまで! 場外テンカウントネ!」
場外十秒ルールの発動によって黛由紀江の斬撃は停止し、勝敗は決した。
●
「悪かったな」
「ごめんさい」
「え? え、いや、あのぉ……」
試合後、会場から退場していく途中で俺たちは黛に謝罪した。
「あんな後味の悪い展開にしてな。悪かった。ごめんない」
「い、いえ、そんなことないです。ちゃんとルールにあったわけですから、場外へと飛ばされたこちらの不手際で……」
「おいおい、まゆっちー! そんなこと言わずに思いっきり責め立てちまえよ! この卑怯者ってさぁ!」
いきなり黛の口調が変わった。
「え?」
「え?」
「あ、すいません。こちら付喪神の松風です」
「おーう、よろしくなー。おれっち松風だぜ、付喪神だからよろしくなー」
黛の手の平に乗っていたのは馬の人形だった。付喪神といえば物に宿る神霊のことだ。
「へぇー、本物とか久しぶりに見るなぁ。ガキの頃、俺がアンタの道場の行ったときから持ってたのか?」
「え? いえ、あの頃はありませんでしたけど」
「そうですかー、かわいいですねー。よろしくです、松風」
「お、おうーよろしくなー。ってか普通に信じてびっくりだわー。まず信じらないんだけど」
「まぁこういうのは慣れてるし、それに水臭いこと言うなよ」
「はい?」
きょとんと首をかしげる黛。それにあぁこいつは俺と同類だなぁとか思う。つまりコミュ障である。いや、俺は卒業したけど。
「仮にも一度拳と刀を交えたんだぜ。これはもう俺たち友達だろ」
「ですです」
「……っ、はい! ありがとうございます!」
「だからこんなことで礼なんていうなよ水臭い」
こんな感じで三回戦は俺と遙歌に友達ができて終わったのだった。
「あれ? プレミアムな私の出番は?」
●
若獅子タッグマッチトーナメント決勝戦。
『知性チーム』VS『源氏万歳』。那須蒼一と那須遙歌、松永燕と直江大和。俺は川神との戦いのために今は戦えず、直江は戦闘要員ではない。
だからこの決勝戦は事実上、遙歌と松永の一騎打ちだ。
これまで数度なく行われてきた展開だが、しかしこれまでと決定的に違う要素があった。
周囲だ。それまで、会場の周囲は四方をマスターランクで囲み、場外フィールドがあり、そのさらに外を観客席があった。
武器である。
刀剣、曲刀、ククリ刀、居合い、小太刀、ナイフ、メス、細剣、手裏剣、鉈、斧、二刀、ツーハンドソード、堰月刀、フランベンジェ、忍者刀、槍、三叉槍、ハルバート、投げ槍、薙刀、戟、蛇矛、布槍、十字槍、棍棒、根、トンファー、ブラックジャック、ハンマー小槌、錫杖、杖、狼牙棒、モーニングスター、鉄球、処刑鎌、針、鎌、鞭、紐、薬物、鉄扇、鋏、鋼糸、かぎ爪、ヌンチャク、十手、投石、戦輪、ブーメラン、弓、銃、銃剣、突撃銃、狙撃銃、機関銃 、散弾銃、爆弾、パイルバンカー、吹き矢、大砲、盾、鎧、兜、籠手、脚甲、、防護服。
それらの武器防具が場外フィールドを塗りつぶすように揃えらえていた。
単なる武器の類だけではなく、ゴム弾に換装したとはいえ重火器をも用意しているのは恐れ入る。
「思うんだけど、私と遙歌ちゃんて似てると思うんだよね」
それらに囲まれて松永は言う。言うまでもなくこれらの武器防具は松永が用意させたもの。松永が大量の武装の配置を申請し遙歌が受諾したことによって完成した変則的試合会場だ。
「と、いうと?」
「ほら、さっきまでの試合とか見てて思ったんだけど。私たちって、いわゆる器用貧乏でしょ? 何か一つに特化するんじゃなくて、万遍なくいろいろを修めていく。それが君や私じゃないかな?」
「ふむふむなるほど」
両腕を交叉させながら構える松永に数度頷き、それから周囲の武器防具を見渡して、
「これ、私も使っていいんですか?」
「どうぞどうぞ。器用貧乏同志よろしく、貧乏度を競い合おうよ?」
「まぁいいですけど、ね」
珍しく歯切れの悪い遙歌だった。それでもそんな歯切れの悪さは試合開始の合図は待ってくれなくて、
『試合――』
「そうですねぇ……一応訂正させてもらいましょうか」
「へ?」
『――開始!』
開始の合図と同時、二回戦と同じように遙歌は松永の眼前へと疾走し、
●
刀剣をうまく使うスキル 『
●
駆け抜けた瞬間には終わっていた。
「………………!!!」
絶句である。絶句どころではない。言葉がないどころか動きさえだせない絶体だった。わずか一瞬で周囲に散らばった全ての武装防具を使用し、それを用いて攻撃を叩き込んでいた。
「……!」
今度は松永の声にならない悲鳴だった。
「訂正させてもらいます。あなたは確かに器用貧乏かもしれないですけどね。私は違いますよ。――器用貧乏のスキル『
いや、遙歌さん聞こえてないと思うよ。完全気絶してる。というかよく生きてるな。
それでも我が妹は構わず続けて、
「これが自殺志願も自虐キャラも抜けた完全版万能系妹那須遙歌ならぬ生き遙歌ちゃん――笑うとこですよここ?」
笑えない。