落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 番外編まとめ   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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第4真「あぁ、今確信した」

 若獅子タッグマッチトーナメント、エキシビジョンマッチ。

 『拳士最強』那須蒼一VS『武神』川神百代。落ちこぼれと天才。拳士の最強と武の神。俺と彼女をどちらも知っているのならば一度は考えたことがあるであろう組み合わせ。それでもこれまでその機会はなく、今回九鬼紋白の依頼なかったらなかったであろう一戦。

 すでに試合会場に俺たち二人以外はいない。

 観客席の前にそれぞれマスターランクの達人が四人に俺の後方に遙歌、川神の後方に松永、それに左右をヒュームと九鬼揚羽が試合会場を八方向から囲んでいる。言うまでもなく試合の被害を観客席に出さないためだ。

 観客席は不気味なほど静まり返っている。これから行わる激闘を今か今かと待ち望み、固唾をのんで見守っていた。

 そして俺の正面で、川神は腕を組み、初戦終了時から変わらない様子でゾッとするような笑みを浮かべていて、

 

「くはっ」

 

 声に出して笑う。ゾッとするのを通り越して最早背筋が凍るような嗤い。実際これこそが観客席を沈黙させている原因であり、各方面を守る達人たちすらも冷や汗を浮かばずにはいられない。

 

「あは、あはは、くははは――」

 

「楽しそうだなぁおい」

 

「あぁ、もちろんだ」

 

 俺の言葉に組んでいた腕が広がる。

 

「ずっと、ずっと渇いてたんだよ。ここ最近はずっとな、揚羽さんと戦ってからまったく満たされないままだ。せっかく現れた燕もヒュームも戦ってくれない。まゆっちも本気を出すことはまずない。爺も戦う気はない。群がってくるのは雑魚ばっか……。このトーナメントはちょっとは期待してたんだよ、燕が勝ち進んでくると思ってたからな。そうしたらどうだ、お前が来たじゃないか那須」

 

 心底楽しそうに、川神が笑う。無邪気な子供の様に。子供の様に残酷に。

 

「『拳士最強』ずっと戦いたかったんだよ、私を倒してもいないのにそんなのを名乗るのも気に食わないしな。あぁお前を倒したら私がもらうぞ?」

 

 チリチリと焼き付けるように空気が歪んでいくほどの馬鹿げた気だ。実際に川神の周囲が歪んで見える。

 

「好きにしろよ。俺は別に『武神』なんて称号いらねぇし」

 

「おいおい、私に勝つ気かお前」

 

「当たり前だろ、負けねぇよ。というかお前自分が負けないとか思ってんのか?」

 

「それこそ当たり前だ」

 

「根拠は?」

 

 

「この私が――私だからよ。私は強い。私は負けない。私が負ける理由なんてこの世のどこにもない。お前を倒して、私はもっと強くなる」

 

 

 根拠になんかまったくなっていないそれを当たり前のように川神百代は語る。そこにあるのはただ己。ただひたすらな我欲。自分しか、この何百人と観客が見ているにも関わらず己しかない唯我。自分以外の強者を打ち倒し、自分はより高みへ登ろうとする狂気。

 どうしようもなくどうしようもなくどうしようもない。

 それはまさしく――。

 

「やれやれ、こりゃぁマジで他人ごとじゃあねぇな」

 

 拳を構える。それに伴う様に川神も構える。不敵な笑みはそのまま、発せられる唯我はより色を増して。

 

「さぁ来い落ちこぼれ。私の飢えを満たしてくれよ!」

 

「その落ちこぼれに負けてアンタは超落ちこぼれになるけどな!」

 

 

 

 

 

「川神流――無双正拳突き!」

 

「おおッ!」

 

 まず最初の一撃の激突で試合会場に亀裂が入った。互いの右拳が会場中央でぶつかりあい、衝撃波を生み、

 

「ハハハーー!」

 

 それで止まるはずなく、連撃が襲い掛かる。『武神』の名は伊達ではなく一撃一撃が馬鹿げた重さ。並の武人ならそれだけで沈むほどの一撃だが、

 

「効くかよ」

 

 並の武人どころか『拳士最強』には届かない。川神が放つ拳は確かに速く重いが、しかしそれだけだ。強くて、強すぎて、真っ直ぐすぎてむしろ読みやすい。緩急のない正拳突き。それは確かに基本を突き詰めた技なのだろうけど、使いどころが悪いのだ。

 直線には曲線を。

 見切って、見抜いて、見取って。

 拳撃を弾いて逸らして受け流す。

 

「ハッ、器用だな! だったら、これは、どうだッ!」

 

 拳による連撃から動きが切り替わる。後方へと大きく飛び退いて、

 

「川神流――畳返し!」

 

 拳をコンクリートの会場に叩き付け、粉砕される破片が即席の砲弾となって迫る。大きいので数メートル、小さいので数十センチ。

 

「うおっ、と!」

 

 それも避ける。避けきれないのは弾いて、潜り抜けて、

 

「川神流――超加速」

 

「!」

 

「からの、川神流――炙り肉!」

 

 いきなり川神の速度が跳ね上がり、一瞬見失ったと思ったら背後。右手は紅蓮に染まり、灼熱を宿し大気を焦がす。超高熱の気を宿した川神院の奥義。まともに喰らえば骨まで消し炭の必殺技。炙り肉じゃなくて焦がし肉の間違いだ。

 

「喰らえ!」

 

「喰らうかぁー!」

 

 跳躍して回避。脇腹を紅蓮が掠めてたが、なんとか炙り程度で済む。熱い。痛覚に激痛が走るが、行動に支障はないので無視。

 

「よく避けるなおい! 私の攻撃をここまで完全に避けるのはお前が初めてだ!」

 

「そうかい、この程度なら俺の周りには結構いるぜ」

 

「言って、くれる! 川神流――致死蛍!」

 

 炙り肉の回避によって空いた距離を埋めるようにばらまかれる川神の気弾。視界が先行で埋まる。背後にいた松永が慌てるが、

 

「蒼の一撃第五番」

 

 焦ることなく右足を振り上げ、

 

「支蒼滅裂!」

 

 叩き落とす! 発生した衝撃波は飛来する気弾を余すことなく粉砕し、威力をわずかに損ないながら川神に跳ぶ。

 

「チッ、川神流――地球砕き!」

 

 迫る衝撃波を川神も地面に拳を叩き付け衝撃波を発生させることで相殺。わずかに川神の奥義を逃れた衝撃波も、遙歌がきっちりと防いでくれた。

 だから互いに止まることはない。

 

「ハハハハッハハハハハーーーー!」

 

「フッ!」

 

 今度は先ほどのように川神が一方的に攻めるだけではなく俺も反撃する。交わされあう拳と拳は激しさを増し続け、交叉の度に互いに傷が増えていく。それは決定打にはならないし致命傷には程遠い。動きを損なわせることもない。

 

「期待以上だ、那須! もっと来いよ! お前みたいな強い奴を倒して私はもっと強くなるんだ!」

 

 笑う。血を流しながら、それでも川神は笑っていた。自分の敗北を微塵も疑うことはなく、自らの勝利を当然として笑っていた。

 その姿はどうしようもなく不愉快で。哀れになるほど滑稽で。吐き気がするほどに気持ち悪くて。

 

「それで、どうするんだよ」

 

「あ?」

 

「俺を倒したらどうせヒュームさんとか松永も倒すんだろ? 遙歌や俺の戦友や、ほかの世界のもっと強い連中も倒して、それでどうするんだ」

 

 思わずこぼれた問いに、しかし川神は心底くだらなさそうに、

 

「はぁ? なにいってるんだよ。馬鹿かお前」

 

 失笑する。

 

「強くなるのに理由なんかいらない。強い奴倒して強くなって、もっと強い奴倒してもっと強くなって。終わりなんかないだろ?」

 

「その強い奴全部倒したら、どうなんだよ」

 

「んー?」

 

 問いかけにわずかに考えて、

 

「知らない。そんなの全部倒してから考えればいいだろ」

 

「……だったら弱い奴はどうでもいいのか」

 

「あぁ、どうでもいいな。弱い奴なんて下らない。羽虫みたいなのにいちいち構ってられるか。私は私が強くなれるやつと戦いたいんだ」

 

 そうやって笑う。発せられる唯我はさらに強なって止まることを知らない。己のことしか考えない。己しか見ていない。下劣畜生天狗の理、その具現が今ここに存在していた。ただ、今この瞬間も高まっていく己の武威を喝采し、果てしない修羅の道を突き進んでいく。

 その姿は、そのあり方は。かつていたどうしようもない屑と被って、

 

「なんだ、お前も下らないのか」

 

 わずかに動きが鈍った所を、川神は当然見逃さない。今度こそ川神流奥義無双正拳突きを、外しようがない場面で繰り出した。

 

「ガハーーッ!!」

 

 肋骨が粉砕され、口から大量に吐血。今度こそ行動に支障が生じるレベルでの大ダメージ。胸部を穿つ拳がそのまま俺の体を吹き飛ばして観客席とのしきりに激突した。

 

「ごふっ……ぺっ」

 

 血の塊がこぼし、残った血を痛みに耐えながら捨てる。血で染まり霞む視界の中で川神を右手を掲げ、

 

「川神流――星殺し」

 

 その手に莫大な気が集まる。人一人どころかスタジアム全体を焼野原にしてもまだ有り余るだけの規模。あんなものを喰らえば達人だろうと一瞬で消滅するだけの威力を内包していた。地球に飛来する星天すらもあるいは砕きかねいそれを川神は生み出していた。

 

「兄さんっ!」

「いかん!」

「止めるネ!」

「百代ちゃんだめ!」

「まずいぞおい!」

「馬鹿野郎!」

「赤子め、やりすぎだぞ!」

「全員なんとしても防ぐのじゃ! 『顕現の五――」

 

 遙歌たちが叫び、川神鉄心は闘気による神降ろしの奥義を発動するが、それも遅い。技の溜めは終わっている。発動を止めるのは不可能だった。

 そしてそれを目にし、俺は川神に問いかけた。

 

「お前……それでも武の神か」

 

「あぁそうだ。私こそが武神だ」

 

 星すら砕く極光が放たれる。最早制止は間に合わず、炸裂した場合軌道上を欠片も残さず薙ぎ払う奥義。

 

 そして、

 

 

「あぁ、今確信した――お前はここで完膚無きまでに敗北するべきだ」

 

 

 瑠璃神之道理への変生により星を砕く極光は霧散し、

 

「天下無蒼――()

 

 第一番 『乾坤一蒼』第二番 『拳蒼発破』第三番 『勇蒼邁進』第四番 『螺旋蒼黒』第五番 『支蒼滅裂』第六番 『天蒼行空』第七番 『翠蒼鎖縛』第八番 『蒼刀開眼』第九番 『豪快奔蒼』第十番 『蒼風十雨』第十一番 『疾風蒼雷』第十二番 『蒼和雷同』第十三番 『明鏡止蒼』。

 全十三種蒼の一撃、それら全てを光速機動(・・・・)によって全く同じ(・・・・)タイミング(・・・・・)で繰り出される『天下無蒼・改』が川神百代を蹂躙する。

 

「……!」

 

 全方位から同時に迫る奥義を余すことなく喰らって崩れ落ちながらも、

 

「っ、あああああああ!」

 

 淡い燐光と共に全身の傷が修復する。瞬間回復という奥義。川神百代を『武神』足らしめる要素の一つ。それは今回も違うことなく発動し、満身創痍から復活していた。

 それでも、

 

「あ、がっ、は……っ」

 

「痛みや体力が復活するわけじゃあないよな、しかもまったく同時に十三回分。ただで済むわけがないだろう」

 

「っ……!?」

 

 睨みつけてきた川神の目が驚愕に見開かれる。

 

「瑠璃神之道理、瑠璃神モードって言うんだ、覚えておけ」

 

 黒かった髪は蒼く染まり、肩まで伸びていく。着流しから上でを引き抜いた上半身には幾何学的な蒼い模様がはしり、胸の十字傷も蒼く染まる。瞳はさらに爛々と輝く蒼に。あらゆる気もイロカネの強化も最早燐光とはならず、刺青として顕現し、体内で一切の無駄なく循環させる。璃色金の護り手、イロカネの巫女のと心を通わせた守護者。森羅万象あらゆる災厄より巫女を護る益荒男。

 緋緋色金が司るのは激しさと不条理であり、この瑠璃色金は――静かさと道理を司る。

 曰く、人の魂の輝き。人外たちが羨み、礼賛し、そのあり方に影響を与えてしまう閃光。

 彼女と生きると誓った俺の証。

 

「あんまり説教とか嫌いなんだけどさ、人のこと言えた義理じゃねぇし。でも、お前だけは例外だ」

 

「な、に」

 

「立てよ、『武神』。神っていうならその力を見せてみろ。あぁ言っておくけど、俺は神なんか認めないから」

 

「っ……上等!」

 

 川神は激情で顔を歪めながら立ち上がって、

 

「!?」

 

「遅い」

 

 顔面に拳を受けて吹き飛んだ。

 

「な、に、が」

 

「見えないか、見えないよな。なんたって――光速で動いてるんだからな」

 

「な……!?」

 

「ちょっと前によ。俺は俺の力の意味を知って、わけのわからんところで妖怪と殴り合って、負けたんだよ」

 

 この俺が。レキの従僕であり刀であり、『拳士最強』であるはず俺が。相手云々の問題ではなく、負けたという事実は重い。それはあってはならないことだから。俺は俺の為に、彼女の為に、あの人の為に負けてはならないんだ。

 

「光速の拳出したけど止められた。だから今度は光速で動けるようになったんだよ。」

 

 実際には練習してて完成していなかったけど、ついさっき完成した。コレを見て、完成させざるを得ない。

 

「名付けて『蒼天疾光』。俺はもう止まらない。どこまでも駆け抜けて見せる。この身が宿す光は俺の魂の正銘なんだから」

 

 光速機動はその誓い。光速という速度のハイエンド、でもこれで止まらない、これで終わらない。俺はこれからも進み続けてみせる。

 

「負担は大きいけど、それでもお前には見えないだろ。そしてお前は見るに堪えない。イライラするんだよ、どっかの屑を思い出す」

 

 だから、

 

「お前はここで負かすぜ」

 

 告げて、往く。

 

「くっ……!?」

 

 『蒼天疾光』は使わずとも瑠璃神之道理を発動した俺は音速を遥かに超える。音速超過の一撃も川神を打撃し、

 

「ふ、ざけるなぁあああああああああああ!」

 

 それでも川神は全身から気を振り絞る。瞬間回復の多用に度重なるダメージは確かに積もっているはずなのに、しかし彼女は止まらない。体力は消耗しているはずなのに、全身を焦がす激情が肉体を凌駕しているのだ。一撃一撃が必殺級で、込められた唯我は薄まることはなく、

 

「私が、負けるわけがない……! あぁ、そうだ、この私が、負けるなんてあるはずがッ……!」

 

「そんなこと言ってるから、お前は負けるんだよ!」

 

「黙れええええええええええ!」

 

 川神の拳は止まらない。それを一つ一つ見切って俺の拳とぶつかり合い衝撃波を生む。たった数秒で試合会場は原型をなくし、あるのは大地のみ。その大地にすら亀裂を入れながら俺たちは拳を叩き付け合う。

 

「おおおおおおおおおお!」

 

「ああああああああああああ!」

 

 互いの雄叫びは大気を揺るがし、互の体を穿つ一撃によって少しずつ削れていく。

 単純な破壊力だけならば川神の方が上で速度や技術では俺の方が上で、そしてなにより、

 

「魂じゃあ負けねぇ……!」

 

「なにが……!」

 

「負けるわけにはいかねぇんだよ、お前には、お前だけには!」

 

 ――だってお前は昔の俺だから。去年までの俺と全く同じなんよだよ。どうしようもなくどうしようもなくどうしようもない。生きる理由も戦う意味もないただの屑でしかなかった俺と変わらない。見ていて腹立たしい。同族嫌悪なのだ。弱い奴を下らないとか、何も解っていない癖に。解ったような気になって天狗になっている。

 そんな奴の末路はどうしようもない地獄だ。

 あの寒くて、冷たくて、暗い地獄、戦うだけしかない修羅道。

 

「あんなところは、もう沢山なんだよ」

 

 これからこの先、俺はもうあんな所には行かない。

 

「そんなの私に関係あるかぁ! 私のことは私が……!」

 

「先輩からの忠告はちゃんと聞いた方がいいぜ。……周りってやつをもうちょっと見てみろよ」

 

「な、に……?」

 

「ま、その先は自分で気づかなきゃ意味がないぜ」

 

 だから今、この瞬間は。川神百代は敗北するべきだ。 

 構えは常と変らず、しかし込められたイロカネの波動は尋常ではない。欠片の漏れもなく、完全に拳に内包しているからそれは決殺であることを気取られることはない。

 静かな強さを突き詰め、レキと共にありたいという俺の祈りに結晶。曇りなき我が求道。守ると誓った己が魂。この一撃こそが那須蒼一の存在証明。荒削りで、名前も決まっていなくて、完成にも、完了にも程遠いその一撃。しかしそれは、

 

「ちぇりおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 川神百代を打倒するには十分だった。

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