落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 番外編まとめ   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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エピローグ 「私の――負けだよ」

 

 

 「人は独りじゃ生きられないんだよ」

 

 全身ボロボロで、ある意味いつも通り戦いの後。体中が痛くて思わず亀裂が入った地面に座り込みながら言う。

 

「……」

 

 仰向けに倒れて、指一つ碌に動かすことのできなくなった川神へと。酷い有様だった。俺が傷だらけなのは言うまでもないにしろ、川神も相当だ。白い制服はほとんど血塗れで髪もぐちゃぐちゃ、吐血や鼻血の跡も明確に残っている。瞬間回復を多用したからか、体力はすっからかん。ダメ押しとばかりの最後の一撃。いまだ未完成のアレは俺のイロカネの特性を限界まで高めた一撃だ。それを受けて、もう瞬間回復できる余裕があるはずもない。意識はいまだ残っているが、僅かに目を開けて呆けていた。

 自分の敗北が信じれないのだろう。今の勝敗を夢か幻か何かのように思っているのだ。

 それでも、構わず俺は言葉を続ける。

 

「俺もさ、昔あったぜ。一人で十分、弱い奴とか下らねぇし、強い奴と戦ってもっと強くなってもっと強くなってもっと、もっともっと――。そう、思っていた時期が俺もあったさ」

 

 思い出したくもない、でも忘れるなんてできない。かつて屑だった頃の俺の話だ。

 

「解るぜ、楽だもんなその方が。どんな馬鹿だって、どんな屑だってできる生き方だ。他人見下して、蹴落としてぶん殴って。自分以外全部どうでもいいって思って、自分は違う、自分は特別だって思っていれば……そりゃ簡単だよ。楽さ、人ぶん殴っていればいいんだから」

 

 でも、それは。

 

「浮遊してる。自分なんてない。なぁ、わかるか? 昔の俺も今のお前もさ、ただの天狗だよ。自分自分俺は私は素晴らしい、他人なんて自分の糧でしかない。お前ら俺をもっと輝かせろよ――。そうだろ? 俺はそうだった。お前は?」

 

 答えはない。それでも聞いているという気配はなんとなくあったから、

 

「馬鹿だよなぁ。どうしようもなくどうしようもなくどうしようもない。救いようのない屑だ。死んだ方がましってもんだ。でも、結局俺はそれに気づかずに、いや気づいていても目をそらして、行き着いたんだ」

 

「……な、に?」

 

「お前が言ってた場所だ。なるようにならない最終。戦うだけのための存在。人を外れた人外。突き詰めて、上りつめて、至った先は――ただの地獄だ」

 

 そう。あの日、あの人と戦っていた時はまさしく地獄だったのだ。

 

「川神、よく聞いておけよ。先人からの忠告だ。お前がぼっち精神丸出しで行こうとしている場所にはなにもない。ただの掃き溜めだ。人間として間違ってる。最初からそうだったのならともかく、人間が行き着いたら駄目な境地だ。後戻りも、一人じゃ無理で、前も後ろも何もかもなくなっちまうんだ」

 

「だったら」

 

「ん?」

 

 初めて川神がはっきりとした言葉で声を出した。

 

「だったら、お前は……どうやって、そこから帰って来たんだよ。なんで……お前は今、そうやって笑ってんだよ」

 

「そりゃ、お前」

 

 答えようとして、視界に飛び込んできたものがあったから苦笑して、

 

「その答えはお前だって持ってるはずだぜ?」

 

 川神が、疑問を返す前にそれはたどり着いた。

 

 

 

 

 

「姉さん!」

 

「百代ちゃん!」

 

 一番早く来たのは『知性チーム』の二人。直江と松永だった。二人は俺に目もくれず川神に駆け寄って、

 

「大丈夫!? あぁ、いや、そんなわけないか!」

 

「ちょ、大和君、無理に動かさない方がいいって!」

 

「そ、そっか。おーい岳人! キャップ! モロ! 担架早くー!」

 

「モモ先輩がこんなになるなんて……」

 

「お姉さまぁ! 大丈夫!? 死なないでぇ!」

 

「おい犬、縁起でもないこというな! このくらいで死ぬわけがないだろう!」

 

「そ、そうですよ。大丈夫です」

 

「そうそうー、だから負けたって笑っちゃおうぜー」

 

「こら松風!」

 

 二人だけじゃあない。椎名に、川神妹、フリードリヒ、黛、松風。それに担架やら応急処置セットを運んでくる男衆三人。松永を加えて風間ファミリーとかいう面子だったはずの連中だ。

 

「お前ら……な、なんで」

 

 茫然と言葉を漏らした川神だが、周囲の連中は何を言っているんだという顔をして、

 

「そんな傷だらけで心配するに決まってるじゃん」

 

 異口同音に言う。そのことに、川神は信じられないというように、視線を泳がせて、

 

「な? 言ったとおりだろ。お前はさっきの問いの答えを持ってる」

 

 俺の言葉に、

 

「……くそ」

 

 双眸から涙を流した。一滴毎、それは少しずつ量を増していき、溢れていく。

 

「あぁ……そうか。そうかよ」

 

 顔をくしゃくしゃにして、涙を流しながら笑う。それまでのような唯我に取りつかれた笑みではなくて、一人の少女としての笑みで。大切な仲間たちに囲まれながら、

 

「私の――負けだよ」

 

 天狗であった武神は己の敗北を認めたのだった。

 

 

 

 

 担架で運ばれる川神の周囲には次々と人が増えていく。

 どうにも昔の俺と違って人気者のようだ。完全俺忘れられてるし。頑張って『武神』に勝ったんだけどなぁ。これがいわゆるアウェーか。不人気者は辛いね。思って、痛む体に鞭打って立ち上がる。

 ぶっちゃけフラフラだ。

 光速機動『蒼天疾光』。川神の星砕きの前を使わざるを得なくて、それから『天下無蒼・改』へと繋いで、その後にも光速の一撃を叩き込んだわけだが、あそこで限界だった。予想以上にキツイ。『天下無蒼・改』のような複雑な動きをすればそれだけでバテる。それでも戦ったのは同族嫌悪とかあってのことだろうけど。

 ともあれアウェーの選手はさっさと退場する。我ながら足取りはなんとも拙い。満身創痍で動くことに関しては一家言あるつもりだが、それにしたって今回は骨が折れた。

 

「あ」

 

 考え事をしていたら瓦礫に躓いた。そのまま地面へと落ちて行って、受け身を取る余裕もなく、

 

「いつも通りにボロボロだな、お前」

 

 いつの間にか現れたキンジに受け止められた。もちろんこれは倒れた俺をキンジがその胸で抱き留めたなんていう気持ち悪い展開ではなくて。俺の左肩にキンジが右肩をぶつけて転倒を無理やり防いだというものだ。

 

「……なんだよ。勝ったからいいだろ」

 

「たまには無傷で勝利っていうのもやって見せろよ」

 

「うるせぇ」

 

 軽口を叩きあいながらキンジに肩を借りて、なんとか歩く。

 

「お疲れ様」

 

「おう」

 

 そうやって会場の出入り口までたどり着く。そこには遙歌やレキやアリアもいた。いたがしかし全員不機嫌そうである。

 

「ぬぐぐ……ここで兄さんを受け止めるのはここまで一緒に戦ってきた私か、百歩譲ってレキさんでしょうに……!」

 

「くっ……このタイミングは気に食わないですが、蒼一さん×キンジさんだと思っていましたがキンジさん×蒼一さんも悪くないですね……」

 

「やっぱり、一番のライバルは蒼一……」

 

「おいこらやめろお前ら」

 なにやら俺たちのヒロイン二人がおぞましいことを言っていたので記憶から消去しておこう。俺たちにそんな気はないのだ。というかアリアもうツンデレでもなんでもないな。ただのデレだよ。

 とか、現実逃避に専念していたら、

 

「那須!」

 

 後ろから声が。振り返っていたのは九鬼紋白。今回の一件の発端だ。彼女はこれまで通り堂々と、しかしどこか居心地悪そうで、

 

「今回は、御苦労であった。礼を言う」

 

「あぁ、いいって。気にすんなよ紋様よ。こっちもいい経験になった」

 

 精神的にも肉体的にも。昔の自分はあんなんだったと今更ながら再確認できたし。

 

「いや、昔のお前はもっと酷かったからな」

 

「え、まじ?」

 

「まじ」

 

 ちょっとショック。

 

「な、なぁ?」

 

「なんだ……」

 

「き、聞かないのか? なぜ我が今回このような依頼を出したのかを」

 

「川神の天狗道ひゃっはーしてるから一回負かせとけって話だろう?」

 

「そ、それはそうだが……」

 

 というかちょっと泣きそうになるのやめてくれ。背後でヒュームのおっさんが俺にだけすげぇ殺気飛ばしてくるんだ。正直怖い。特に今の状況ではこの気配浴びるだけでも消耗する。

 だからまぁ、

 

「ま、気にすんな」

 

「え……?」

 

 ふらつきながら自分の足で歩いて紋様に近づいて頭をなでる。

 

「お前さんがまぁ……どういうつもりで、今回のことを起こしたのかは、まぁ、なんとなく解る。言いづらいのもな?」

 

「なっ……!」

 

「生憎、俺の周囲そういうやつばっかでよぉ。妹兄貴実家故郷先祖。家族関係で問題あるやつばっか集まってるから解るんだよ」

 

 いやマジでうちのパーティー家族関係に問題あるやつしかいない。問題ない奴が一人もいないというのはこれいかに。

 

「だからお前の行いも想いも俺はなにもいわねぇ。こいつらもな。……たぶん同じようなことあったら俺も似たようなことするさ」

 遙歌が誰かに負かされた、絶対俺復讐しに行く。間違いない。

 

「……そうか。全部お見通しか」

 

「ま、ほんとのところうちの情報担当に調べてもらったわけだが」

 

「おい」

 

「ははは、気にすんな」

 

 紋様の半目は受け流す。ヒュームの殺気は頑張って受け流す。とりあえず笑ってごまかしておく。というか後ろの連中、人に任せすぎじゃね。何かやらかしたら俺のせいかよ。

 

「ふむ……なぁ、那須」

 

「ん?」

 

「お前、それに遙歌、レキ、遠山に神崎……あとお前のパーティーも含めてだが、武偵高卒業したら九鬼に来ないか?」

 

「は?」

 

「我は人脈を作るのが趣味なのだ。お前たちのように将来有望な連中は特にな。九鬼に来て、その才能を生かしてはくれぬか」

 

「……つまり、スカウト」

 

「うむ」

 

 まさかこんなことが俺にあるとは。武偵高の生徒が在校中に企業から引き抜きされるのは結構よくあることだ。優秀な人材というのはどこに行ってもどこの時代でも変わらない。自画自賛にってしまうけど確かに今の俺たちなんかは引く手数多と言ってもいい。

 だが、

 

「断る」

 

「悪いが」

 

「お断りさせていただきます」

 

「すいません」

 

「悪いわね」

 

 俺たち五人が五人ともすぐに断った。あまりにも全員即答だったから、気を悪くするんじゃないか心配だったが、

 

「そうか」

 

 紋様は笑っていた。

 

「ありゃ、意外に軽いな」

 

「まぁ、今すぐ決まる話でもないし。こういう話を一度したっていうのが大事なのだ」

 

 わお策士。うちのなんちゃって策士のジャンヌに見習わせたいところである。最近いろいろボロが出ているのだあいつは。

 

「……まぁ、俺の主はレキだけで。この馬鹿はそっちの元ツンデレにベタ惚れだから、期待しない方がいいと思うぜ」

 

「おい」

 

「ベタっ!?」

 

 緋色のバカップルは放っておいて。

 結構正直な気持ちで言ったことで、真面目な話九鬼に入るようなことはないだろうなと思っているのに、

 

「構わんぞ。勝手に期待させてもらうからの」

 

 純白の無垢なるお姫様はにっこりと笑った。

 

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