落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 番外編まとめ   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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落ちこぼれの主従と月天の聖杯
プロローグ「問おう、アンタが俺のマスターか?」


視界の中で粗末なドールが崩れ落ちて行くのをカレン・オルテシアは見た。

 

 青い光と足元のステンドグラスのような足場に照らされた世界だった。正円の硝子細工、それはまるで物語に出てくる魔法陣のようで。

 

  敗残者たちを無慈悲に晒していた。

 

 そう、敗残者。この月で行われる聖杯戦争。128人の魔術師たち己の願いの為に英霊を召喚し競い合う戦争。電子の海で万能の願望機を奪い合う。伝説や神話をこの月の観測機収集し、ムーンセルは再現する。そしてコレはその聖杯戦争への参加資格を得る為の試練だった。

 つまりは予選だ。

 地上から月へと赴いた無数の魔術師たちへの選別行為。仮初めの日常を与えられ、そこより脱しオートマタを近衛としてオートマタを撃退する。これはいうほど簡単ではなく、もう何人も、何十人も、あるいはそれ以上の夢を取りこぼした者たちが命を落としていた。

 

 そしてカレンもまた。

 

 オートマタを使役し、そしてこの場で敗北した。

 

 これでいい、とカレンは思った。だって自分はこうなるために月の聖杯戦争に参加したのだから。

 ここで誰に迷惑を書けるわけでもなくのたれ死ぬ。幼い頃から呪われた子。悪魔の娘。不浄の徒。穢れた祓い手。父も母いなく、誰一人味方はいなかった。欠陥性品、人間失格、失敗作、落ちこぼれ。

 そうやってどうしようもない人間未満の烙印を押されてきた自分には相応しい末路だろう。

 カレンだって自分の体質はよくわかっている。数十年前ならばともかく今の世でこんな体は排斥されるしかない。

 家族はいない。友人もいない。恋人なんて言うまでもない。

 だからこれでいい。

 これでいいのだ。

 あぁ、そう。わかっている。セラフに侵入させた聖堂協会の人間もそういっていたし、自分はそれを受け入れた。

 あぁ、なのに。なのにどうして、

 

 私は目を閉じないのだろう?

 

『――』

 

 死ぬために来てもう死は間近だ。だからこの展開は至極真っ当だ。だから目を閉じて、闇に沈んで、終わりという安息を受け入れればいい。碌な人生じゃなかった。迫害され、異端と蔑まれてきた生だ。固執する理由なんてない。未練なんてないはずだ。例えここで生き残ったとしても待ち受けるのは百戦錬磨の魔術師と神代の英霊たちが跳梁跋扈する月天の海。ただのシスター見習いの自分が勝ち抜けるはずもない。

 だから、

 

『だから、諦めるのか?』

 

 声が聞こえた。若い男の声だった。

 唐突に聞こえた声に、しかしカレンは不思議に思うことはなく、むしろ今際の際の幻聴だと思って。

 

 諦める。そう、諦めるべきなのです私は。

 

『ハッ。べきとかそんなあからさまに義務感感じた言葉とか聞いてねぇよ。というか答えになってねぇ。アンタ自身が諦めるかどうかって聞いてるんだ』

 

 私は、私は、私は……

 思考は堂々巡り。諦めると言ってしまえばそれで終わりなのに。それで楽になれるのに。

 どうして、どうして、どうして、

 

 私は思考を続けているのだろう。

 

『おいおい、それは愚問じゃね? アンタだって解ってるだろ? アンタの言葉を、アンタの魂の叫びを聞かせてくれよ』

 

 私は。

 私は。

 カレン・オルテシアは――

 

「生き、たい……! こんなところで死にたくないのです……!」

 

 何もしていない。何も為していない。自分の生きてきた証を何一つ残していない――!

 

『――極めて諒解。聞き届けたぜアンタの願い!』

 

 

 

 

 周囲のステンドグラスから光は溢れ、今にも崩れ落ちそうなカレンの横に集まる。それは輝きを増して人の形を得て行く。青みを帯びたそれが弾けて蒼い衣の男が現れた。

 カレンとそう変わらないか、少し上程度の青年。真っ青な髪と瞳。同色の着流しと袴。首には短い髪と共にヘッドホンがある。空いた胸からは心臓を中心とした大きな十字傷が刻まれていた。

 現れた彼はカレンを庇うように前に出る。

 

「問おう、アンタが俺のマスターか? ……って様式美に浸る暇もないか」

 

 青年は苦笑気味に言って、顔だけをカレンへと向けながら、

 

「サーヴァントアサシン、召喚に従い参上した。今より俺はアンタの刀で、アンタの盾だ」

 

 それを告げて前を向き、拳を構える。

 

「とりあえず、アンタの刀の切れ味魅せてやるよ。あ、応援してくれたらなるべく派手な技決めるぜ?」

 

 そして前に出る。先のオートマタとは比べものにならない速度。

 

「ん?」

 

 しかしそれをアサシンは不服に思ったらしく少し顔を歪め、

 

「とぉ!」

 

 オートマタの蹴りを防ぐ。流れるような、バレリーナのような動き。それをアサシンは十字にした腕で防ぎ、

 

「はァ!」

 

 コンパクトなレバーブロウ。続いて逆の腕を振りかぶる。同時にオートマタが防御するように体を丸めるが、

 

「しゃら、くせぇ!」

 

 防御ごと鉄拳がオートマタを打ち抜く。

 すぐに反撃の為にオートマタが次なる攻撃の為に力を溜めるが、

 

「遅い!」

 

 それよりも早くアサシンの正拳が突き刺さる。三撃を連続で受けオートマタの大勢が完全に崩れ、

 

「ちぇりおー!」

 

 飛び上がったアサシンの踵を斧刀に見たてた三回転かかと落とし直撃する。

 それで決まりだった。圧倒的な力量差。数多の予選参加者の壁になってきたとは思えない。決定的な一撃を受けたオートマタは瞬く間に体を崩壊させ消滅する。始まりへと至る門番はこうして終わった。

 そして、

 

「ん、んー。なんかアレだけどまあなんとかなったな。このくらいなら何時ものことだし。というわけでよろしくな、我が主」

 

 言うがしかし答えはなかった。

 そこでカレンの意識は途絶えていたから。死ななかったことへの安心感、これから先への不安。現れた青年への疑問。それらは彼女の中で弾けてパンクし意識を奪う。薄れゆく意識の中でようやく瞼が閉じて行きながら、

 

『――これによりムーンセルにおける聖杯戦争の最後の予選通過者とする――』

 

「おい、マスター!?」

 

 意識が完全に遮断する。

 そして始まって行く。 

 落ちこぼれのシスターと落ちこぼれの英霊の聖杯戦争が。

 




エクストラ仕様というか半オリキャラのカレンさんがマスターです。
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