落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 番外編まとめ   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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第二海「行きなさい駄犬」

 倉庫の扉を潜り抜けた先には月の海が広がっていた。どれだけのリソースを使っているのか視界いっぱいに淡い光が溢れる深海のような光景が広がっている。

 

「ここがアリーナ、ですか」

 

「応。ひとまず一週間の俺と主殿の戦場だぜ」

 

 背後にアサシン現れ声をかけてくる。これから先をどうするのにしろ、弱体化した彼のステ―タスをどうにかしなければどうにもならない。アリーナでは試練(タスク)を攻略しなければ先に進めない。それらを含めてもここでエネミーと戦っていかなければならない。

 

「行こう主殿」

 

 促され足を進める。一歩分後ろにアサシンだ。殴り合いが趣味ということあるらしく、歩みを止まれば無手で周囲を警戒している。

 

「時に主殿、戦い方は解ってるか?」

 

「私に戦闘力など皆無だけれど……マスターとしての戦いのことね」

 

「無論」

 

「一応、は。マスターが魔力を供給して指示をする……だったかしら」

 

 これまで敬語を使うことが多かったが、従僕に敬語はおかしいということで慣れないながらも普通に話しながら答える。

 一応オートマタを使役した時と同じ要領でいいはずだ。

 

「そういうことだ。俺のステータスの問題はなくても主殿自身の実力もなきゃ話にならん。幸い俺はどっちかっていうとボロボロであればボロボロであるほど燃える性質だから、今の内は気楽にやってくれて構わんぜ」

 

「……あなたマゾなのかしら?」

 

「ちげぇ」

 

 進んでいく。少し歩いていけば体力や魔力を回復する噴水があり、その周囲に二つの箱を繋げたようなエネミーがいる。とりあえず気楽にと言われたので気楽に指示を出す。

 

「行きなさい駄犬」

 

「委細しょ……え?」

 

「早く」

 

「あ、はい」

 

 首を傾げながらアサシンが前に出る。

 エネミーが力を貯めようとした所を右の正拳突き。さらに左の直蹴り。とどめに両手の拳を使った連撃を叩き込んだ。

 

「はい、終わりっと」

 

「案外簡単なものね」

 

「まぁ、今のはエネミーでもかなり下位だからな。もっと進めば複雑になるだろうし、相手がマスターなら言わずもがな。そうだな……今日はあそこらへんくらいまで行けばいいんじゃないかな」

 

 アサシンが指したのは少し先にいた蜂のような形のエネミーだ。なるほど強そうに見えるというか、情報量が今のよりも大分多いのだろう。道を閉ざすように存在しているので、進むためには倒す必要があるが今はいいというのならいいだろう。

 

「そう。では行きましょうか」

 

「委細承知……て、一つ聞いていいか?」

 

「なにかしら?」

 

「さっきの駄犬って」

 

「気楽に、というから気楽に言ったら気づいたら口にしていたのだけれど……問題でも」

 

「あぁ、うん。いやまぁいいんだけど……俺の周囲の女ってこんなんばっかだなぁ」

 

 

 

 

 

 

 一通りの探索を終えて学校へ帰還する。マスターにはそれぞれ個室が与えらえるのでそこで体を休める。基本的に机と椅子しかない簡素な空間だ。高位の魔術師はそれこそ高級家具を生み出したりするらしいがそんなことはもちろんできない。

 それでもアサシンが適当に机を並べてシーツを張ったりして即席のベッドを作っていた。彼は残った椅子に腰かけて、

 

「お疲れさん主殿。魔術師じゃなっていうなら大変だっただろ。こんなとこで寝かせるとか従僕として心苦しいけど我慢してくれ」

 

「構わないわ。もっと酷い所で寝たこともあるし……。それより実際のところどうなのかしら?」

 

「なにが?」

 

「私と貴方の現状、よ」

 

 我ながら単刀直入な言い方だったがアサシンは肩をすくめて苦笑しながら、

 

「まぁ、やばいな。主殿の魔術師スキルがゼロってことは記憶喪失の救世系主人公と変わらねぇ。俺はもともと魔力や幸運は低いから構わないがそれ以外はちとキツイ。スキルも今の魔力じゃ使えるものがないしなぁ」

 

「……そう」

 

 自分のせいとはいえ頭が痛くなってくる。アサシンの言う通りこれでは記憶喪失と変わらないではないか。

 

「まぁ気にしなさんな。もともとそういう風に俺は生きてきたし? あれだぜ? 戦友と命懸けバトったら知り合いが嫁と妹以外向こうについたときに比べればなんてことねぇ」

 

「……貴方、友達いなかったのかしら?」

 

「ばっ、ちげぇよ。いたぜ? そりゃあ昔はいなかったけど、この肉体年齢くらいの時は友達めっちゃいたぜ? ただのそいつがすげぇ人気者だったというだけで」

 

 若干アサシンが涙目になっていじけだした。

 結構フランクというか人間味の多いサーヴァントだ。思わず吹きだしてしまって、 

 

「お、やっと笑ったな」

 

「え?」

 

「契約してからずっと表情重かったしな。どうせなら笑おうぜ? こんなの最悪には程遠い。俺や主殿の知らないとこで最悪が、あー具体的には記憶喪失で自分の名前しか解んない上に、サーヴァントがすげぇピーキとかいうのとかに比べたらマシだろうさ。幸いにも……」

 

 言って、自分の拳を掲げて、

 

「俺の固有スキルは健在だ。コイツがありゃあステ最弱でもなんとかなる。とりあえず今この瞬間を必死で生きていればそれで案外なんとなるもんだぜ」

 

 気楽に言うが、しかしその気楽さは今までの人生において得難かったものだ。優しさも気遣いも。これまでのカレン・オルテシアの生には存在していなかった。

 だから素直になれなかったのは、慣れていないが故の戸惑いで。

 

「……」

 

 思わず顔を背けてしまった。口の端がわずかに緩んでいるのは自覚していた。それを知ってか知らずかアサシンは苦笑して、

 

「おやすみ主殿。明日は対戦発表とかあるけど、まぁ今日はゆっくり休めよ」

 

 そういって一日が終わる。

 いつ終わるともしれない一日だけれど。

 それでも生きていきたいのだから。




MATRIX
CLASS:アサシン
NAME:那須蒼一
MASTER:カレン・オルテシア
筋力:E 耐久:E 敏捷D- 魔力:E 幸運:E
NOBLE PHANTASM:???
KEYWORD:拳士最強 ???

SKILL
近接格闘術:A+++
人間として至れる領域の限界。現存するありとあらゆる格闘技術を習得済み。ただし本人の趣味で打撃に偏っている。ある程度身体能力が落ちていても状況に対応できる。A+++は達人中の達人である。
???
???
SETTING
???
???

敏捷と耐久ミスってたので修正しました
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