落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 番外編まとめ   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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裏二理「『怪盗覽目《ドロップウインク》』

 

 

 

「よー、教授(プロフェシオン)。どうした? 珍しいな電話なんて。あれか? クリスマスプレゼントでもくれるのか?

 

「あ? なんだよ、俺が、過負荷(マイナス)が、クリスマス祝っちゃだめなのかよ。いいじゃねえか、キリスト万歳。サンタさん大好きだぜ、俺ら

 

「んで、なんだよ。

 

「……ええー、仕事かよ。めんどくせぇ

 

「うるせぇ、ニートとかいうな。ちゃんと働いてるよ

 

「自宅警備員だけどな!

 

「………………スルーすんなよ

 

「……はぁ? 勧誘? 誰を

 

「んー? なーんか聞いたことある名前だなぁ。なんだっけなぁ

 

「まぁ、いいや

 

「ああ、わかったよ。やってやる

 

「任せろよ、仲間だろ?

 

「安心してくれよ

 

「無駄な努力

 

「無意味な勝利

 

「そして、温い友情

 

「俺たち過負荷(マイナス)の三原則だぜ

 

「新しい仲間っていうなら

 

「ダラダラヘラヘラしながら和気藹々と、帰りにマックでも寄ってくるからよぉ

 

 

 

「…………って、なんだよ。折角うまく終わったんだから

 

「………………ああ、そうかよ。言われなくても好きにさせてもらうぜ」

 

 

 

 

 

 

「――う、がぁっ!?」

 

 12月24日。

 我らが秘密結社イ・ウーの新メンバーと顔合わせの為なんかやたら豪華な客船に乗り込んだ俺、那須蒼一だったが。

 件の人物を発見して、声を掛けたら――蹴り飛ばされていた。

 人気のないデッキを無様に転がって咳き込む。

 

「ゴホッ、ゴホッ……!」

 

「あら……?」

 

 俺を蹴った張本人。三つ編みの茶髪に冗談みたいな美貌。ロングコートに編み上げブーツというやたら絵になるソイツは、頬に手を当てて、

 

「いきなり後ろからなんとも言えない気持ち悪いのから声をかけられたから思わず蹴ってしまったけど……だれかしら?」

 

「……っ、ザケ、んじゃ、ねぇ……!」

 

 クソ痛い。ちゃんと防弾使用の軍服着てきたのに。ちゃんとクリーニングにも出したのに。

 

「……あ、ありえねぇ。なんだよコイツ。ちょっと声掛けただけじゃん、なんで蹴られるんだよ。酷いよコイツ。くそう教授(プロフェシオン)のヤツ、どうせこうなるのも知ってたんだろうに、なんか言えよ」

 

 クソ、クソ、クソクソクソクソ。今度あったらあのパイプへし折ってやる。ふらりと、立ち上がる。

 

「なんだよ、人格者じゃなかったのかよ。マトモなヤツじゃなかったのかよ。クソッ、あのじじいが。いきなり蹴り飛ばすヤツのどこが人格者だ。なんてヤツだよ」

 

「ちょっと? もしかしてあなた……?」

 

「そんなヤツは死ね」

 

 軍服の懐から抜き放つ。

 右手に持つは回転式連発拳銃。

 左手に持つは自動式連発拳銃。

 炎刀『銃』。隠密性と連射性と速射性に特化された一対の刀。それの贋作。さらに過負荷(マイナス)才覚反転(リバースプレミアム)』を発動。できないことができることに。できることができないことに。使えない銃は使える銃に。

 

 左右合わせて十七発。それは三つ編みの女へとぶち込まれ、

 

「は?」

 

 全てが弾かれた。

 

「まったく、確かにこちらも悪かったけどいきなり発砲もどうかと思うわよ」

 

 なにかしたようには見えない。しかし、なにかをしたには違いない。わからない、というわけでもない。なにも見えなかったけど、発砲音はした。今の俺は『才覚反転(リバースプレミアム)』によって射撃スキルが振り切れている。銃に関してなら今の俺に理解できないことはないといっていい。その上で今起きたことを頭の中でリフレインさせて、

 

「………は、マジかよ。アンタ今、特別なことしたわけじゃないな」

 

「……なにかわかったのかしら?」

 

「ああ、わかったよ。アンタはただ撃っただけだろ。ただそれが目に見えない速度だったってだけだろ? スキルでもなんでよない」

 

「……………驚いたわね」

 

「ん?」

 

「これを見切られたのは初めてよ」

 

「そうかい。気をつけろよ、それはすぐバレのフラグだぜ」

 

「あなた、イ・ウーね?」

 

 軽口につきあわずにソイツは、

 

「カナよ。あなたが迎えと言うことでいいのかしら?」

 

「おお、そうだ、そうだよ。アンタがこれから入る組織の先輩だよそれなのにいきなり蹴り入れやがって、頭おかしいんじゃねぇのかよ」

 

「悪かったわよ、でもいきなり後ろ取られた私の身にもなってほしいわ――それにしても、イ・ウーというのはあなたみたいのばかりなのかしら? だとしたら私も自分の選択を疑わざるをえないのだけれど」

 

「ああ、安心してくれ? でいいのか? 俺みたいなのは特別だよ」

 

 今現在イ・ウーにいる過負荷(マイナス)は俺と理子だけだ。遙歌は飛びっきりの異常だし、教授(プロフェシオン)はよくわからん。ジャンヌとココは今引きずり込んでいる最中だ。あとよく見るパトラは………まぁ、いいや。

 

「そう、ならいいわ」

 

 いいのかよ。

 いや、まあいいんだろうけどさ。

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、あなた。正義ってどう思う?」

 

「さあ?」

 

「…………」

 

 小型ボード置き場に向かう途中だった。そんなくだらないことを聞いてきたのは。やれやれ、(マイナス)にそれを聞いてくるかね。

 

「正義? なんだよそれ。ああ、あのスーパーに並んでるヤツね。398円。さんきゅっぱ」

 

「…………」

 

 なんか呆然としてるが知らん。

 

「それを(マイナス)に聞くのが最悪(マイナス)だぜ? 俺たちはよう、耐え難きを耐え、忍び難きを忍び、負け難きを負け、生き難きを生きてきたんだぜ?」

 

 そこに正義なんてない。

 そこに悪だってない。

 そんなことはどうでもいい。

 どうでもいいんだよ、そんなこと。

 くだらねぇ。

 

「俺たちのモットーはな、『温い友情』、『無意味な勝利』、『無駄な努力』だ。だけど、そうだな『揺れる正義』──なんてのを付け加えてもいいんだぜ?」

 

「揺れる──正義」

 

「勝った方が正義──なんて、今更言うことじゃないだろ? だけどさぁ、負けた方が悪、とかいうわけでもない。実質問題、負けたが正義っていう場合がないわけじゃないだろ? むしろ、そういう場合のほうが多いだろ」

 

 不安定で。

 不確定で。

 不平等で。

 不鮮明で。

 安定しないし、確定しないし、平等でないし、鮮明じゃあない。

 そんなのに興味なんてない。

 

「正義の味方? 悪の天敵? 好きにやってくれ。そんなの頭おかしいだけだろ。俺から言わせたら正義も悪も、中立も中庸も、善も悪も変わらんよ」

 

 俺みたいな最低(マイナス)からしたらどれを相手にしたって同じなんだよ。

  

 全部纏めて────引っ掻き回すだけだ。

 

「それ、は」

 

 カナが、なにか続けようとして、

 

「お、そろそろいいんじゃね?」

 

「ん、わかった」

 

「え────?」

 

 始めからずっと俺の隣いたドレス姿の理子に気付いて、

 

「─────『怪盗覽目(ドロップウインク)

 

「────」

 

 理子の過負荷(マイナス)を受けた。

 ガクリ、と膝をつき、

 

「………っえ、こ、れ、は……?」

 

「えっとねー、カナちゃんの味覚と嗅覚と固有感覚を奪っちゃいましたー! どう?」

 

「あな、たは……」

 

「あはははー! おひさ、かなー? そっちで会ったのは初めてだね?」

 

「ん? 知り合いかよ」

 

「ほら、キーくんのお兄ちゃんだよ、この人」

 

「ふーん………ってお兄ちゃん!?」

 

 こいつが!?

 お兄ちゃん!? 

 男!? 

 こんなべっぴんさんが!?

 

「まじかー、そりゃないわー、反則だろー」

 

 ありえねえー。

 

「っく……!?」

 

 カナは震えながら、なんとか立ち上がる。その姿には今までの余裕はない。当然だろう。理子のスキル『怪盗覽目(ドロップウインク)』で感覚をうばわれているのだから。

 

 『怪盗覽目(ドロップウインク)』。簡単に言えば相手からなにかしらを奪うスキルだ。最初からずっと隣に理子がいたのに気づかなかったのは、最初から理子に対する認識を奪われていたから。膝から崩れ落ちたのは固有感覚を奪ったから。自分に対する認識が得られないから立つに立てない。

 

「どういう……?」

 

「だってよー、教授(プロフェシオン)からの推薦でもさぁ、なんにも入社試験がないのもどうかと思うだろ?」

 

「というわけでー、りこりんが、この船のいろんな所に爆弾仕掛けてみましたー! どう? すごいでしょ!?」

 

「なっ!?」

 

「おー、さすがだな。ちなみに全部爆発したらどうなる!?」

 

「爆薬調整したからねー、最初の方はまぁ、沈没で済むだろうけど、最後の一個がドカンしたら沈んでなくともこの船ごと吹っ飛ぶね! イエーイ!」

 

「イエーイ! さっすが俺の嫁! やることがえげつない!」

 

「ちゃっかり、他の乗客の才能を無闇やたらにひっくり返したそーくんに言われたくなーい!」

 

「あ、バレた?」

 

「な、あ……!」

 

 実はそうなのだ。

 カナと会うまでにすれ違った乗客の方々の持つ才能をテキトーに反転させた。  

 

「なん、の為に……!」

 

「だからさー、テストだって、テスト。アンタ正義の味方の一族なんだろー? だからさっき今時少年ジャンプでも聞かないようなこと聞いてきたんだろー? だからよー、教えてやるよ、正義なんて簡単にぐちゃぐちゃに引っ掻き回せるっことをさー」

 

「おーい、そーくん。ボート準備できたよー! さっさとズラかろー」

 

「おー、今行くー」

 

 だから、

 

「どうするよー正義の味方(ヒーロー)。流石に今のアンタに、今の乗客を助けるなんて無理だろ? 選べよ」

 

 ─────無様に特攻して誰も救えない方か。

 ─────全員見捨てて誰も救わないか方か。

 

 選べ。

 

「まあ、どっちも救えないけど。選べ」

 

「な、っ……あ……な、た……たち……! 」

 

「くふっ」

 

「かかか」

 

 カナは愕然とし。

 理子が笑い。

 俺も笑う。

 

「最悪よ…………!」

 

「知ってるよ」

 

「知ってるよー」

 

  

 

 

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