落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 番外編まとめ   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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第三海「誰が若布だ!」

 月の聖杯戦争二日目。

 一階の廊下に向かえば自分の対戦相手の名が表示されており、

 

「間桐、慎二」

 

「知ってるか? 主殿」

 

 アサシンが背後に現れて聞いてくるが、

 

「いえ、知りません。聞いたこともないですね」

 

「そうかい。だったらとりあえずアリーナに行こうぜ」

 

 頷きながらアリーナへと足を向ける。

 

「それにしても間桐慎二ね。一体どんな相手なんだろうなぁ、記念すべき主殿の最初の対戦相手なんだからとりあえず噛ませっぽいのを期待するね」

 

「……そんなに都合良く行くかしら?」

 

「さて、願うのは勝手だしな。まぁ俺の経験でいえば噛ませ役っていうのはそのうちすっげぇことしだすから油断できねぇんだよ」

 

「これはトーナメント方式だから心配いらなわよ」

 

「ならウェルカム噛ませだな」

 

 そうしてアリーナへと足を踏み入れる。昨日目にした深海の海が今日も目の前に広がり、

 

「……」

 

 視線を感じる。地上でこれまで感じてきたものによく似ている。好機と恐れと軽蔑が入り混じった視線。へばりつく様な厭味ったらしいソレだ。戦闘の素人とはいえこういうのには慣れている。

 

「気づいたか、主殿」

 

「えぇ、勿論」

 

「見られてるなぁ。こりゃあ噛ませキャラというの予測は撤回したほうがよさそうだ」

 

「そうね、アリーナに入って同時ということは私たちの動きを予測して絶妙のタイミングで見入っていたのでしょう。私たちには不可能な芸当よ」

 

「全くだ。これは気を引き締めて行かなきゃならんな、行こう主殿。ここはもう戦場だ」

 

 

 

 

 

 

「へぇアンタがあの(・・)カレン・オルテンシア? 嗤っちゃうなぁ、君みたいな落ちこぼれの人間がこの僕の相手なんて。どうせ予選もギリギリ通過のおこぼれだったんだろう? いやはや、運がないねぇ」

 

 昨日の蜂もどきのエネミーを倒した先に彼らがいた。

 青い髪に着崩した制服の少年。それに付き添う女。流れるような赤い髪とコート。腰に二丁拳銃を下げ、顔には目立つ傷があった。

 

「あぁ、そうだ。アンタ棄権しなよ、いい案だろ? どうせアンタみたいな人間未満がこの僕に勝てるわけがないんだからさ。そうだぁ、僕が優勝したら少しくらい聖杯使わせてやるよ。いい話だろ?」

 

 少年のほうがベラベラと喋っていた。

 いた、が。

 

「おかしいわね。私たちは一回戦の相手の間桐慎二とかいう者を探しに来たのだけれど。それおそらくものすごく腕の立つ魔術師(ウィザード)の。なのに目の前には……なんだったかしら、これ。極東で見た海草類に似ているのだけど……」

 

「ワカメだな、ワカメ。若布、漢字で書くと難しいんだよ。……しかしおかしいな、アリーナにはマスター二人とサーヴァント二体しか入れないはずなのに。あっちの姉ちゃんはサーヴァントだとしても隣にいる若布はなんだ……?」

 

「これはセラフに報告しなければならないわね」

 

「違うよ! 僕が間桐慎二だよ! 誰が若布だ!」

 

「ははは! 面白いことを言うやつらだねぇ!」

 

 少年は顔を真っ赤にして怒って、隣のサーヴァントはカラカラと笑う。

 

「おいこの馬鹿女! お前はどっちの味方だ!」

 

「勿論の上官のアンタだよ。金を貰ってるうちはアタシはアンタの副官だ。と、いう訳だお二人さん、この若布はただの若布じゃなくてアタシのマスターの若布なんだ」

 

「おい! ……あぁもう、とっとこいつらを痛めつけてよ! こんなやつらさっさと蜂の巣にしちゃって!」

 

「ハッ! いい悪党振りだ、報酬たっぷり用意しといてくれよ!」

 

「来るぜマスター。気楽に行こうぜ」

 

 アサシンが前に出る。間桐慎二のサーヴァントも二丁拳銃を構えながら。拳対銃。普通に考えれば圧倒的にアサシンの不利だが、アサシンは変わらず口端を歪め、ライダーもあざける様子はなく楽しそうに笑っている。

 

「……えぇ、行きなさい」

 

「極めて諒解!」

 

 快活にアサシンが応えた瞬間、

 

『――アリーナ内での戦闘行為は禁止されています。ただちに戦闘行為を終了してください――』

 

 視界が若干赤く染まり、警告文が走る。まだセラフが感知されたわけではなくアリーナのオート機能だろう。ほどなく見つかって介入される。それまではおそらくたった数分だが、

 

「それだけあれば十分だぜ!」

 

「はっはー! いいねぇ、英霊同士の戦い滾るさね!」

 

 アサシンも間桐慎二のサーヴァントも躊躇わない。

 接近するアサシンは早い。敏捷値が下がっているにも関わらずかなりの速度だ。

 

「器用な足運びさね!」

 

 しかしそれでも相手のほうが速い。右の拳銃を構え、無造作に引き金を引く。さらに左銃を射撃。止まることなく宙返りしながら連射をする。雨あられと弾丸が降り注ぐ中で、

 

「避けなさい!」

 

「正気か!」

 

 正気だ。指示を受けたアサシンは戸惑うことなく、速度を高め、

 

 弾丸の雨を避けながら疾走する。

 

「マジかよ!?」

 

「やるねぇ!」 

 

 近接格闘A+++。

 アサシンの固有スキルだ。マトリクスにも『拳士最強』というキーワードがある彼は文字通り近接格闘技能を極めた存在であるらしい。本人曰く達人中の達人しか保有できないスキルであると自慢していたが、その有用性はここに示された。ほぼ最低のステータスであるにも関わらず、サーヴァントの銃弾を潜り抜けるのがその証拠だ。勿論完全回避とはいかず端々に掠って、アサシンのHPを少しづつ削っていくが、

 

「構うかよ!」

 

「チィ!」

 

 接近しきったアサシンがレバーブロウ叩き込む。一度体を沈め、力強い震脚と共に肘打ち。サーヴァントの体がくの字に折れ曲がったところを両の掌底、いや張り手を叩き込み、

 

「飛花落――」

 

「舐めるんじゃないよ!」

 

 体をひねって肩でガードし、脇下から突き出された銃口から弾丸が吐き出される。

 

「くっー!」

 

 肩口に弾丸が命中し、

 

「今度はこっちの番さね!」

 

 ほぼ零距離で二丁拳銃が連射される。アサシンのHPが一気に三割ほど削れる。

 

「こなくそ!」

 

「はっはー!」

 

 アサシンの正拳と相手の弾丸が激突して弾かれあう。そのままお互いに一度大きく飛び退いてマスターの下へ。

 

『――アリーナ内での戦闘行為は禁止されています。ただちに戦闘行為を終了してください――』

 

 再びの警告音と赤い文字。アサシンのHPは半分と少し程度にまで減っており、初戦闘に初サーヴァント戦ということも考えれば引いてもいいのかもしれないが、

 

「まだだぜ主殿。せめてクラスくらいは暴いていこう。つか、さっきの暴言はトサカにきてんだよ。落ちこぼれ舐めるなって話さ」

 

 アサシンの闘気は潰えていない。口端の血のエフェクトをぬぐいながらも拳を構えていた。だからこそ、震えそうになる体を押さえつけ、

 

「行きなさい我が従僕」

 

「委細承知」

 

 行く。

 五日後に行われる決戦の為にも相手のサーヴァントの情報は必須だ。トリガーも重要だが、こういった遭遇戦が今後何度もあるとは思えない。だから得られるものは今得るべきだ。それを解っているからこそアサシンは引かないのだ。

 

「いいねぇ、英霊の矜持は好きだよ!」

 

「ばぁーか、落ちこぼれの意地だよこれは!」

 

 交わされる銃弾と拳がアリーナを震わせるほどの衝撃が何度も走る。

 

「くそっ、さっさと終わらせろよ!」

 

「はっはー! アンタのアーチャー大したことねぇな、こりゃマスターもたかが知れるぜ」

 

「なんだと貴様ァ馬鹿にしやがって、というか僕のサーヴァントはアーチャーなんかじゃ」

 

「シンジ!」

 

「っ!」

 

「聞いたか主殿!」

 

「無論です」

 

 再度距離を開ける。

 そしてアーチャーでない。見る限りバーサーカーやキャスターでもないし、剣や槍を扱う様子もない。アサシンというにはうるさすぎる。つまりは、

 

「ライダー、ですか」

 

「は、ど、どうだかなぁー!?」

 

「主殿、これはライダーで決定だぜ」

 

「はははは! 嘘が下手だねぇシンジ」

 

『――最終勧告です。アリーナ内での戦闘行為は禁止されています。ただちに戦闘行為を終了してください。最終勧告です――』

 

「ちっ、潮時か……!」

 

「退くときに退けるのが悪党の素質さねぇ」

 

 三度目の通告に間桐慎二とライダーはすぐさま距離を取ってアリーナを脱出した。

 気配は完全に消失し、後に残るのは静寂。それでもしばらくはアサシンは警戒していたけれど、構えを解いてから息を吐く。

 

「いやはや、あんな鎌掛け成功するとはなぁ。お手柄だぜ主殿、最初俺マジでアーチャーだと思ってた」

 

「そうね。クラスが解ったのは僥倖だったわ。続けてトリガー、も……」

 

 ふらりと視界が揺れた。足に力が入らなくなり、視界が床いっぱいに広がって、

 

「大丈夫か、主殿?」

 

 アサシンに抱きかかえられる。思ったよりも大分逞しい腕で、サーヴァント戦で予想以上に疲弊していた身としては不覚に身体を預けそうになったが、

 

「えぇ、トリガーは今日中に取っておきましょう」

 

「あぁ、もうちょっとだ。頑張ろうぜ主殿」

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