落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 番外編まとめ 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
間桐慎二が一回戦の相手だったのは本当に幸運だった。
彼以外だったら自分はきっと諦めかけていただろう。碌に使えない魔術。慣れない電脳空間。唯一頼りになるアサシンは、未熟な自分のせいで本来よりもかなり弱体化している。本来の力には程遠い。
その自分が諦観に浸ることなく足を前に進められるのは彼の存在がほとんどだが、間桐慎二が対戦相手というのもあるに違いない。
それほどまでに間桐慎二はどうかしていた。
昨日図書館の情報をアリーナにばらまいた彼はどういうつもりかアリーナへの出入り口をふさいだ。
それで足止めのつもりだったのだろうが――あそこは他のマスターも共通だ。つまり、他の百二十六人のマスターの動きを阻害したのである。
怒られて当然だ。
なにやら見ていて不愉快になる神父が達人染みた体捌きの拳撃一発で慎二の障壁を粉砕してくれたので、そのまま通った。あのあと夜まであの神父から説教されたとかなんとか。NPCから説教されるというのはあのプライドの高そうな間桐慎二からしたらたまったものじゃないだろう。自分だったら絶対に嫌だ。
ともあれ六日目にしてトリガーはすでに揃い、相手のマトリクスも揃っている。あとはそれらの情報整理と、
「経験値稼ぎってなぁ。こういうのじゃあ王道だぜ」
「そんな王道私は知らないわ」
アサシンを伴ってアリーナへと向かう。既に教会へ行って魂の改竄は済ませた。一応聖職者として教会に居座るあの姉妹はどうかと思うけれど、利用させてもらう身としては何も言えない。アサシンのレベルを上げるということはすなわちカレン・オルテンシアの鍛錬であるから、
「もうちょっとでスキル解放できそうだ主殿。今日は一層頑張ろう」
「ええ、そっちは解っているわよ」
アリーナの出入り口にたどり着く。
そこに若布が生えていた。
「主殿も毒舌キャラが板についてきたなぁ」
そこまで毒舌言っていないと思う。
ともあれは若布こと間桐慎二とライダーだ。二人は凝りもせずなにやら細工をしているようで、
「シンジィ、もっと報酬くれないとやる気でないね」
「解ってるよ。だから今こうしてアリーナにハッキングして宝箱生み出してるんじゃないかっ」
察するには守銭奴のライダーのやる気を増幅させるためにアリーナに金の入った宝箱を作っているらしい。それらを盗み見して、
「だってよ。どうする主殿?」
「決まっています――いただきましょう」
「ですよねー」
苦笑して、
「一気に駆け抜けるぜ。つかまってろ」
「ええ」
アサシンが背中と腰に手をまわして抱き上げてくる。いわゆるお姫様だっこというやつだが、緊急事態だ。後で締める。
「まじか」
「まじよ」
「できた!」
「よし来た! お宝探しの――」
叫んでいた二人の間をアサシンが駆け抜ける。
「ああーー!!」
●
アリーナの二層目は一層目よりも深海というイメージが強い。下の方に大きな船が沈んでいてアサシンがなにやら嫌そうな顔をしていたが、今はそんな暇はなく、
「はっはー! 元気いいなぁ何かいいことあったかぁ?」
「私からお宝を盗むとか在りえなねぇ!」
背後からライダーの怒声と足音。これまでの遭遇では常に笑みを絶やさなかった彼女が怒りの形相だった。背後から大量の弾丸が降ってくるが、なんとかアサシンは避ける。自分を抱えているのに大した動きだ。
「感心はありがたいけど、お宝の場所教えてくれよ」
「解ってるわ。真っ直ぐよ」
見つけた。
「とったどー!」
「そういうのはいいから次行きなさい」
「あぁクソ!」
「お宝はアタシのものだよーー!」
ライダーの背後の虚空から砲身が生じる。四つあるそれはライダーの腕の振りによって火を放ち、
「あ、くそ痛ぇ!」
直撃とは言わないがアサシンの速度が落ちた。
「ったくこれだから無法者は……!」
「アンタには絶対できない方法よ!」
ライダーはしたり顔で笑う。遭遇が多かったからこちらのマトリクスもすぐに集まったが、向こうもアサシンの真名を解っているらしい。それを彼も理解しているか苦笑し、
「でも二個目だ!」
失速しながらもなんとか二個目の宝箱へとたどり着く。それを開けながら同時にエーテルの欠片を使ってアサシンの体力を回復させる。
「恩に着るぜ、主殿」
それでもその間に間桐慎二たちの自由が増え、
「財宝ゲット!」
「やっぱこうでなくっちゃね!」
「……ぽるかみぜーりあ」
「主殿主殿! ヒロイン的にやばいこと言ってないで次だ!」
再びアサシンが疾走を開始する。ライダーの銃弾になるべく被弾しないように身を低くし壁をけったりして駆ける。さっきので後れを取ったがそれはすぐに縮まる程度で、
「コードキャスト、move_speed!」
間桐慎二間桐慎二が加速する。アサシン程ではないが速い。
「アサシン、あっちはもういい。最後の一つを狙いましょう」
「ちなみにその心は?」
「最後の一個を取られて悔しがる彼の顔を見てみたいと思わない?」
「主殿まじどS」
言っている間にも間桐慎二たちが二つ目の宝箱を取った。歓声がいささかうざいが、
「最後のは頂いたわ」
「いい性格してるよホント」
「なっ」
「ありゃ、やられちまったねぇ」
「なにのんきに言ってんだよ!」
「アタシのせいだっていうのかい?」
「それ以外になにがあるんだよ、あんな落ちこぼれ連中に負けるなんて!」
それだけそっちが舐めていたという話だろう。実に見苦しい――愉快だ。
「糞、オルテンシア、明日はこうはいかないからな! 覚えてろ!」
「ま、そういうことさね。明日はよろしく頼むよ」
そうやって間桐慎二とライダーは迷宮から去って行った。
「お疲れ主殿」
「……えぇ。早く貴方のレベルを上げて帰りましょうか」
「あいあい」
そう、明日。聖杯戦争七日目。
カレン・オルテンシアと間桐慎二。
二人のうち一人は生きて進み――もう一人は死んで終わるのだ。
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