落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 番外編まとめ   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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第六海「勝ちなさいアサシン!」

 

 聖杯戦争一回戦七日目――すなわち決戦日だ。

 朝早くから購買部でアイテムを買い込み、教会にて魂の改竄を済まし、サーヴァントライダーの情報整理も行った。アサシンの様子は変わらず好調であり、自分もまた不備はない。服装にしても普段着ているカソックではなく自分用のカスタマイズの衣装の一つである法衣。カソックよりも体のラインが浮き出ているがその分機能的だ。礼装も鳳凰のマフラーを首に巻き、自前の赤い布を体に緩く纏えば準備完了。

 

「主殿、スカートスカート」

 

「これはファッションです」

 

「ええー」

 

 そして昇降口へと行く。静まり返った校舎、決戦場への扉の前には黒衣の神父が立ち塞がっており、

 

「そこを退きなさいダニ神父」

 

「ふ、随分ないいようだなカレン・オルテンシア。アリーナで見つけたトリガーをここにはめるがいい。さすれば決戦場への扉は開かれる。己の望みのために存分に殺し合いたまえ」

 

 気取った言い方で告げた後、ダニ神父は横にずれる。それに向けて舌打ちしながら、端末からトリガーが具現し、扉を覆っていた鎖が消え去る。

 

「いつでも行けるぜ」

 

「……えぇ、行きましょう」

 

 自分とアサシンの勝利を信じて。

 

 

 

 

 

 

「聖杯戦争で一体どんな相手が最初かと思えばあの『不浄な聖女』とは思わなかったねぇ。いやまぁ、僕としてはラッキーだったけどさ」

 

 エレベータ―は静かに落下していく。数メートル四方の箱の中は二つに区切られて自分とアサシン、間桐慎二とライダーで分けられている。アサシンもライダーもこの期に及んで姿を隠すようなことはしない。互いに笑みを浮かべながら無言を保っていた。

 

「あぁ、もしかして君が聖杯戦争に参加したのって自分のその体をどうにかしたかったわけ? 困るなぁ、せっかくの聖杯をそんなことに使われちゃあ。解るかい? アジアゲームチャンプの僕みたいに優秀な人間が使うべきなんだよ、聖杯っていうのはさ。今ならまだ間に合うぜ、棄権しちゃえば?」

 

「黙れ海草」

 

「んなっ」

 

「ははははは!」

 

 うるさかったので一括したらアサシンとライダーが一緒になって笑っていた。

 

「おいおい、ここまでくればびっくりするくらいの小物っぷりだな、逆に関心するぜ」

 

「だろう? うちのシンジは小悪党の才能だけは誰にも負けないんだよ」

 

「おいライダー! だからお前はどっちの味方だよ!」

 

「勿論アンタだよ。アタシはアンタの副官だ。貰ってる分は働くよ。でもねぇ、八百長なんてのはつまらない。そんなことをするのは小悪党どころかただのど三流だ。あたしゃ宵越しの弾は持たない主義なんだ。派手にやろうぜ、マスター、アサシン、オルテンシアちゃんよぉ。何事も真っ向勝負が一番だよ!」

 

「いいねぇ、悪党の矜持ってやつかい。かっこいいぜ」

 

「話が分かる男は好きだよ」

 

「だーかーらー、お前はどっちの味方なんだっていうの!」

 

 そうこう言っている内にエレベーターが止まった。決戦場にたどり着いたのだ。

 

「あぁ、もういいさ。僕とエル・ドラゴの無敵艦隊で沈ませてやる! 覚悟しろよな!」

 

 先に間桐慎二が出て、ライダーが続く。残されたのは自分とアサシン。すぐに行かなければと思ったが、

 

「……っ」

 

 わずかに躊躇。これからあの少年と殺し合いをするというのに全く現実味がない。これまでカレン・オルテンシアの人生で誰かを蹴落として前に進もうとすることはなかったから。それゆえに生じる不安と恐怖。身体の動きが止まってしまい、

 

「大丈夫だ、主殿」

 

 アサシンが背中を押す。この七日間、手を取り合ってきた彼。いまだに自分の体質のことを詳しく説明していないのに彼は変わらず口端に笑みを浮かべて、隣にいてくれる。

 だから、

 

「行きましょう、アサシン」

 

「委細承知」

 

 

 

 

 

 

 そこは海底の開けた空間だった。二階層のアリーナのさらに下なのか、あの時見えた沈没船らしきものも見える。ここが決戦場だ。すでにアサシンとライダーは前で向かい合い、自分と間桐慎二もそれぞれの従僕の背後に控えている。

 

「さぁて、アンタの刀の切れ味を見せてやるよ主殿!」

 

「破産する覚悟はいいかいシンジ? 一切合財派手に散らそうじゃないか!」

 

 二人のサーヴァントはそれぞれの主に言葉を放ち、

 

「さぁ行くぜドレイク閣下! 歴史を創ったアンタと戦えるなんてまじ光栄だ! 精々かっこいいところ見せてくれよ!」

 

「いいねぇ、あたしゃの時代でも裸一つで特攻する馬鹿なんていなかった! 『拳士最強』っていうなら、それだけの力を見せなよ!」

 

 互いに叫び合いながら激突する。初手は互角。互いの一撃は弾かれるがアサシンは距離を縮め、ライダー――エル・ドラゴは距離を開けようとする。最初の立ち位置はアサシンの間合いだった。だからこそ、最初に戦った時のように銃を乱射するエル・ドラゴとそれを避けながら回避するアサシンという構図が出来上がる。

 それでもまだ近い。 

 

「アサシン!」

 

「応よ!」

 

 アサシンの攻撃が届く。拳を叩き込み、即座に次の動きに繋げる。右拳を叩き込んだ瞬間にはその勢いを使って逆の拳を打ち込みながら蹴りを放つ。完全に決まるわけではないが、それでもエル・ドラゴの体力を削っていき、

 

「ライダー!」

 

 間桐慎二から魔力を多めに供給され速度を上げたエル・ドラゴが大きく背後に跳躍する。

 

「やるねシンジ――こっちも行くよォ!」

 

 エル・ドラゴが腕を振り上げたと同時に背後に砲身――カルバリン砲が生み出される。高まる魔力によって生み出されたそれらは轟音と共に砲弾をはじき出す。当たれば今のアサシンでは体力を大きく削られる。

 

「避けなさい!」

 

 先ほどの間桐慎二のように魔力を過多に送って回避に専念させ、ダメージを最小限に抑える。だが、

 

「まだまだぁー!」

 

 カルバリン砲は止まない。雨あられと降り注ぐ砲弾はアサシンの体術を以てしても抑えきるのは難しい。数発直撃する。

 

「heal(16)――進みなさいアサシン」

 

「極めて諒解」

 

 礼装のコードキャストによって損害を修復したアサシンが速度を上げる。加速して接近すればそこは彼の間合いだ。

 

「おお……!」

 

「がっ!」

 

 アサシンの掌底がエル・ドラゴの胸部へと叩き込まれる。それでも彼女はただやられるだけではなく、自己強化のスキルを用いて攻撃力を上げる。だが、アサシンは止まらない。マトリクスを取得し、真名を明かすまで行ったのだ。動きの三分の一くらいは読める。それに従ってアサシンへと指示を送れる。掌底から逆の手での貫き手。前二つの勢いを載せたままの膝蹴り。三撃は余すことなくエル・ドラゴへと突き刺さる。

 

「やられたねぇ……!」

 

「ま、まぐれさ!」

 

 そうかもしれないけど、今ので確実にエル・ドラゴの態勢は崩れた。それを見逃すはずがない。飛びあがってから繰り出される、踵を斧刀に見立てた三回転踵落とし!

 

「落花狼藉ィーッ!」

 

「くぅ……!」

 

 エル・ドラゴが顔をしかめながら下がる。

 

「ケツに火が付いたねこりゃ」

 

「馬鹿なこと言ってないで――宝具で決めるぞ、エル・ドラゴ!」

 

「アイサー!」

 

「来るぞ主殿!」

 

「えぇ――手筈通りに(・・・・・)

 

 空気が変わる。間桐慎二とそのサーヴァントエル・ドラゴ。新世界の開拓を担った英霊、その真骨頂が露わになる。

 

「野郎共、時間だよ!」

 

 エル・ドラゴの背後に巨大な帆船、それに伴ういくつもの火砲を積んだ小型船が虚空より現れる。

 『黄金鹿と嵐の夜(ゴールデンワイルドハント)』それこそが彼女のマーブルファンタズム!

 

「嵐の王、亡霊の群れ――ワイルドハントの始まりだァッーー!」

 

 号令と共に全ての砲門が火を宿す。魔力によって構成された砲弾。発せられればその名の通り嵐のように全てを蹂躙する無敵艦隊。

 そんなものを打たれれば回避もできない。

 だからこそ、

 

「――『私に触れぬ(メリ・メ・タンゲレ)

 

「なーー!?」

 

「シンジ!?」

 

 もう一つの礼装『マグダラの聖骸布』を発動する。二つの衣装と共に持ち込んだこれはカレン・オルテンシアの固有礼装。今までの人生を共にあったカレンの半身。その効果は男性に対する絶対捕獲。

 かなりの距離が開いていたがそれを無視するように赤布は伸びて間桐慎二の全身に巻き付く。それによって簀巻き状態になって、エル・ドラゴの意識をそらし、砲撃の発射を遅らせる。

 

「見事だご主人」

 

「しまっ――」

 

「遅い」

 

 遅れた僅かな合間を縫ってアサシンはエル・ドラゴの下にたどり着いていた。そして放たれるアサシンの連撃。拳、掌底、拝むように合わせた両の張り手をぶち込み、跳躍。踵を斧刀に見立てた三回転かかと落とし。着地の瞬間にさらに跳んで膝頭を叩き込み、着地しながら広げた両腕も手刀をバツの字に。連撃の締めに五指を揃えた貫手を射出――そしてそれらの猛攻によって崩れたエル・ドラゴを蹴り飛ばし距離を開ける。

 

「な、くそ、ライ」

 

「勝ちなさいアサシン!」

 

「極めて諒解!」

 

 間桐慎二がなにかをする前に()は叫び、ありったけの魔力をアサシンへと注ぎ込む。確かに今の八撃はエル・ドラゴの体力を大きく削ったが、残っているのも事実だ。だからこそダメ押しの一撃が必要で、それこそが今朝の魂の改竄によって取り戻されたアサシンの一つ目のスキル。

 

「蒼の一撃第一番――」

 

 アサシンの体が沈む。先の連撃の勢いを余さず体に内包し、疾走の糧としているのだ。

 行った。

 黄金鹿号の甲板をエル・ドラゴの二丁拳銃による弾丸を構うことなく、爆発的な加速を以て駆け抜け、

 

「――乾坤一蒼!」

 

 疾走の勢いを余すことなく注ぎ込んだ一撃がエル・ドラゴに叩き込まれ、それこそが決殺の一撃となった。

 

 

 

 

 

 

「勝ったぜ、主殿」

 

「……そう、ね」

 

 勝った、そう勝ったのだ。いまだ信じられないけど私は間桐慎二に勝利し生き残った。

 

「う、ウソだろ? なんだよこれ、ぼ、ぼくが……僕が負けるはずがないじゃないか! おい、なにしてんだライダー! 立って戦えよ!」

 

「無茶言わないでくれマスター。さすがアタシのマスターって言いたいところだけど……負けを認めるのも大事なことさ」

 

「ふ、ふざけんなぁ!」

 

 言っている合間にも私とアサシン、間桐慎二とライダーの間にオレンジ色の障壁が走った。間桐慎二側を赤く染め、二人の体の至る所に黒いノイズが生み出される。

 

「お、おい、なんだよこれ……げ、ゲーム、ゲームなんだよなこれ!?」

 

「ゲームさ。でも遊びじゃない、命がけだったって話だよ。単純な話さ、アンタも私も掛け金足りなかったんだよ、命も意志も魂も」

 

 そんなことはない。私は、カレン・オルテンシアにはそんなものはない。

 

「だったら、それを見つけておくれ。私たちに勝ったんだから、負けないでくれよ。アンタのサーヴァントは最強(・・)なんだからさ」

 

 そう苦笑して女海賊は消失する。世界を築いた英雄の末路としては呆気ないもので、彼女のマスターである間桐慎二もほぼ全身を黒いノイズで覆われていた。

 

「い、嫌だ。死にたくない、死にたくない!」

 

 その様子はどうしようもなく哀れで、

 

「……アーメン」

 

「僕はまだ八歳なのにいいいいい!!」

 

 そして間桐慎二は消え去った。

 

「……私だって十四よ」

 

「え」

 




一回戦終了。

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