落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 番外編まとめ 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
電脳空間であるセラフでもはお腹は減らない。どれだけ食べてもデータ的には大差ないし、それで体調が左右されるということはない。マスターの中には食事を全くとらずにアリーナでの攻略に勤しむ者もいるらしい。最も購買部で売られている焼きそばパンやカレーパンは食べるのにも時間はかからないし、魔力回復にもなるので大半のマスターがこれらを食事としている。
それでも購買部に隣接している食堂でならば普通の食事も食べられるのだ。
『……んで、それなのか』
「えぇ」
背後で霊体化しているアサシンが恐る恐る皿をのぞき込んでくるが構わずに食事を続ける。
赤い皿だ。蓮華で赤を掬った。
口に運ぶ。
「うまいわ」
「……」
ダニ神父特製激辛麻婆豆腐。
アレはどうにも存在そのものが気に食わないがコレを食堂に導入したことだけは認めてやってもいい。
『マジかよ……微妙にトラウマが』
アサシンの顔が引きつっているがこの従僕は虐げられることに慣れているようなので、放っておく。今はただアリーナへの英気を養う。
「失礼。席良いですか?」
目前に見た目年齢同じくらいの少女が前に現れた。薄紫色の三つ編みの髪に、濃い目の紫色の服。自分のサーヴァントと同じで紫色が好きらしい。随分理知的なイメージを与える少女だ。
「……他に空いてますが」
『いや、多分主殿目当てだと思うが』
「いえ、貴方には話があります」
まさかのアサシンの的中だった。これは驚きだ。ひどい話だなぁと彼がぼやいているが、とりあえず彼女に視線を向ける。
「シオン・エルトナム・アトラシアです。カレン・オルテンシアさん」
「……アトラシア?」
「えぇそうです。
「……その称号は私には過ぎたものですよ」
「これは失敬。それで、席に座っても構いません?」
「……どうぞ」
ありがとう、と言いながらシオンは私の前の席に座る。机の上に置かれたのはトーストとコーヒーと一般的な朝食だ。それから私の麻婆豆腐を一瞥し、
「…………前から会ってみたかった。貴方の噂はかねがね聞いています」
「碌な噂じゃないでしょうね」
「ま、否定はしません」
さっぱりとした性格だった。
いや――彼にはまだ事情を話していないだけ。
『いいさ主殿。アンタが話したいと思った時に話してくれれば』
――ありがとう。
口にはせずとも思う。きっと彼は私の性質のことにも少なからず気づいているのだろうけど、私が言い出すのを待っていてくれているのだ。おせっかいなサーヴァントだ。
「貴方の二回戦の相手はあのブラックモア卿とか」
「そうだけれど、なにか?」
「いえ、だとしたら大変でしょう。何かしら手伝いましょうか? 無論直接的な支援は無理ですが」
「……なんのために」
この聖杯戦争はトーナメント方式だ。言うまでもなく最後に残るのは一人きり。場合によっては三回戦で彼女と当たる可能性もないわけではない。それに彼女自身の戦いもあるだろうに。
「こうして同席させてくれたお礼……いえ、正直な話なのですが」
そこでシオンは困ったような、そうでないような微妙な表情をして、
「既に私の対戦相手のサーヴァントも攻略法も判明しているので正直暇なんです。アリーナでの修練を入れても尚」
「それは……なんとも」
よっぽどシオンが優秀なのか、相手側が解りやすかったのか。いまだ二日目の朝でそれとは確かに手持無沙汰なのだろう。
だったら。
『いいんじゃないか? これといった敵意もない。使えるものは使っておけ』
「解りました。お願いしてもいいですか」
「ええ。では、そうですね。ブラックモア卿かそのサーヴァントの物を手に入れて持ってきてくれますか? 三日後にそれを持ってきてください。占星術で占うとしましょう。なに、専門ではないとはいえアトラス院の最後の一人です。損はさせないと誓います」
「では、そういうことで。よろしくお願いします、シオン」
「えぇ、カレン。例えこれから先戦うことになっても貴方と良き友であれることを願います」
「……はい」
凛?ラニ?否、どっちでもないシオンさん!
ラニと凛はでません(