落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 番外編まとめ 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
シオンとの邂逅から一日。昨日アリーナを巡ってそれらしきものを探したけれど良いものはなかった。彼女の言っていた期間はあと二日だけれど相手のマトリクスやトリガーのことを考えるならば早めに見つけることに越したことはない。
三日目、今日も朝の麻婆豆腐を食べアリーナへと行くために一階へ続く階段を登り切り、
「……?」
空気が重い。いや、重いというよりも痛い。極限にまで張りつめられた糸を思わせる気配だ。思わず体の動きが停止する。どころか本能が止まれと訴えかけているかのように足を踏み出せない。
「気づいたか主殿」
背後にアサシンが現れる。いつになく緊張した風で声をひそめながら、
「殺気と狙撃の気配だ」
つまり――この校舎ないで誰かに狙われている。これまで感じたことの無い明確な意志を持った誰かが私たちを殺そうとしている。
いや、誰かなど言うまでもない。
ブラックモア卿とアーチャーだ。
「あの爺さんがやるとは思えないからアーチャーの独断だろうな」
一昨日覗き見たブラックモア卿は誇りや騎士道精神を重んじていたがアーチャーはそうではなかった。それによって彼らの不和を起こしていたからそこに付け込めると思ったがまさかサーヴァントの独断専行。
「まったく躾くらいちゃんとできないのかしら……」
「合図を出したら走れ、主殿。ここに棒立ちでもどうしようもない」
彼の言葉に軽く顎を引いて足に力をためる。激しい運動は苦手だが、そんなことを言ってられない。止まっていればこんなところで死んでしまう。
「……ッ!」
それに顔をしかめながら、ついでに背中を押されながらアリーナへと走る。
校庭や校内という選択肢もあったけれどダメだ。校庭は視界が広がりすぎていて狙撃主に都合が良すぎて自衛も困難。校内だとまたあの毒などでトラップを喰らうかもしれない。アサシンから聞いた固有スキルならば被害は軽微といえど積極的に嵌りたくない。必然的に逃げ場所はアリーナに限られる。
走る。
法衣ではなく修道服なので些か走るのには適していないが、それでも力の限り走る。
「シッ!」
背後、なにやら甲高い音がなる。直前に風切り音のようなものがあったから敵の狙撃をアサシンが撃ち落したのだろう。アリーナで戦闘を行えば向こうもペナルティを免れない。だから来るのは狙撃だけでそれならばアサシンでも十分可能だ。
故に全力でアリーナへと駆けこむ。
光が体を包み込み、一瞬後には緑色の回廊だ。
久しぶりの全力疾走で乱れた息を整えている間にもアサシンが私を守るように前に出た。数秒ほど周囲を警戒し、
「ちっ……しつけぇな」
「どうし……たのかし、ら?」
「まだ狙われてる……たぶん、下手に戻れば即狙撃だな。リターンクリスタル使っても、転移の瞬間にやられる」
つまり、
「進むしかない、ということね」
「そういうこと」
ならば仕方ない。相手サーヴァントとの接触は必要だ。相手が狙撃主ならば近かづいたらアサシンに分があるはず。呼吸もようやく整ってきた。アイテムには些か不安があるが割り切って、
「行きましょう、躾のなっていない駄犬を去勢しなければ」
アリーナを進み始める。当然、エネミーもいるが今回はなるべく戦闘は避けておく。下手に戦って、その瞬間を狙撃されるかもしれないのだ。一一戦闘を避けるのはかなり遠回りで労力も使うが頭を撃ち抜かれるよりはましだろう。
そうやって進んで行ってアリーナの中央へとたどり着く。このアリーナの中心は文字通り大きく開けているのだ。待ち伏せとしても迎撃としても適した場所。
「――予想通りだな。解りやすいマスターで助かったぜ」
頭上から声。アリーナの壁の上にアーチャーがいる。それを認識した瞬間、
「アーチャー!」
既に放たれていた一矢をアサシンが蹴り落とす。
「降りてこいや、てめぇに風穴開けてやる!」
「……風穴空いてるのは誰かなぁ」
――全身に激痛が走った。
「あ、あ……!」
「マスター!?」
灼熱した視界のな中で、腕に小さな傷があった。
アサシンは確かに矢を迎撃したが、一つではなかったのだ。先日の毒とは比べ物にならない。一瞬で体から力が抜けて立っていることも困難になる。崩れ落ち、アサシンに支えられる。視界は朦朧とし、ぼんやりとしか認識できない。その中でアサシンはこれまで見たことがないような形相だった。
「アァチャァァッッーー!」
「悪いねぇ、恨んでくれてもいいぜ? 旦那の為に死んでくれればさ」
言葉と共にさらに矢が放たれる。
「くそッ……!」
私を抱えたままアサシンが回避する。いくら彼でも私を抱えたままで回避を完璧にこなすのは難しい。万全の彼ならば近接格闘のスキルを使えば全て避けられるはずなのに。
「あさ、し……」
「黙ってろマスター! ……ッ」
いくつかの矢がアサシンの体を掠める。彼の身体が突然ぐらりと揺れて崩れる。
「一丁上がりっと」
地面に落ちて――そのままアサシンが瞬発した。
「なっ!? 毒は確かに……!」
アーチャーが叫ぶがしかしアサシンは構わない。私を抱えたままに敏捷任せに駆け抜け
アリーナを脱出する。
「マスター! すぐ保健室に……!」
「アサ、シン……」
意識が落ちていく。激痛はいまだ濃く体を動かすこともできない。それでも意識は曖昧でありながら残っている。
――この程度慣れたものだわ。
だからそうやって思っても口に出すことはできなかった。でも、そう。慣れているのは確かで、だからいつになく焦ったアサシンの顔を眺め愉しむ余裕があった。
愉悦。
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