落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 番外編まとめ   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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第十四海「迷って、苦しんで、悩んでさ」

 決戦場から帰還し、エレベーターの外ではシオンが待っていてくれた。彼女は私たちが上がって出てきたのを見るとほっ、と息を吐いて、

 

「お帰りなさい、カレン。また会えて嬉しい」

 

 そう言ってくれる。

 

「……えぇ、私も貴方に会えて嬉しいわ」

 

 疲労困憊で返答が遅れる自分と違ってシオンは随分と余力を持っている。二日目あたりの時点で相手の英霊の真名を看破し攻略法も見つけていたのだから当然と言えよう。それに彼女自身一流の魔術師だ。いや一流どころかアトラス院最後の一人である以上は超一流だろう。それこそあのレオナルドとガウェインたちが相手ならばともかく早々負けることはあるまい。

 そう思い、

 

「いや、シオンは随分君のことを心配していてね。指示を受ける身としては冷や冷やしたもさ」

 

 シオンの背後に突然現れた女がいった。

 長身の白髪の女だった。黒と白の騎士甲冑を纏い、随分な美形だった。美女ではあるが異性よりも同性受けしそうな女性だった。男装の麗人、という言葉が似合う。

 当然人間ではなく、

 

「ランサー! なんですかいきなり現れて! それと、別に貴方への指示は計算通りでした。一部の狂いもありません!」

 

「いやぁ、どうかな。私にはそう感じたという話さ」

 

 にやにやとシオンをからかう様に笑う女性はシオンのサーヴァント、それもランサーのクラスだ。

 彼女の言葉を信じるならば、

 

「ありがとう、シオン。えぇ、本当に」

 

 素直に礼を言うべきで、私自身もそうしたいと思える。聖杯戦争という状況で、それだけ他人のことを慮れるというのはそれだけシオンがお人よしなのだろう。そういうのは慣れていないけど。

 嫌じゃない。

 私の言葉でシオンは少しだけ頬を赤らめてそっぽを向く。その姿は少しだけ微笑ましい。

 

「……ふむ。なぁ、ランサー」

 

「ん、なにかなアサシン?」

 

 アサシンが唐突に口を開いた。それまで私たちのやり取りを微笑みながら眺めていた彼はランサーへと声をかけた。

 そして彼は一度腰の動きだけで背を向けた。

 振り返りながら両手でピストルのような形を作りながら勢いよく振り返った。

 

「お前……これか?」

 

「な……!」

 

 ランサーが驚愕と共に後ずさった。

 

「アサシン?」

 

「ランサー?」

 

 私とシオンが呼びかけるが二人は聞いておらず、

 

「なぜ君がそれを……!?」

 

「いやぁ俺、実はファンだったのよね。嫁も含めて」

 

「マジでか!?」

 

「おう」

 

「ということは……ん? ん……あぁ! なるほど!」

 

「あー、解るよな。というかもう一人いたよな。今思い出したけど彼女も同じで、そっちは?」

 

「魂は同じでも平行存在のようだからね。別人さ。さつきに関してはまだ見ていないな」

 

「影薄かったからな……」

 

 なにやら二人で意思疎通を完成させていた。

 どういうことかシオンと共に問いかければ、

 

「真名バレた」

 

 声を揃えて言った。

 

「!?」

 

 息をのむ。これだけのわずかなやり取りでお互いの真名を把握できるはずがない。できるとしたらそれはつまり、

 

「俺とランサー、同時期っぽいからな」

 

「正確にいえば私の場合は少しややこしいが、大部分は同じだね。面識はないとはいえ噂はかねがね聞いていた。まさかこんなところで会うとはね。合縁奇縁極まれりだ」

 

「……これは流石に計算が狂いました。ランサー、マイルームに戻って詳しく話を聞かせてもらいます」

 

「勿論さ」

 

「アサシンも……」

 

「解ってる。でも、とりあえず今日は休め」

 

 抗議の視線を向けるがアサシンは苦笑しながら、

 

「話ならまだできるさ、俺たちはまだ終わっていないんだからな」

 

 

 

 

 

 マイルームに帰って来た瞬間に崩れ落ちそうになった。それでもなんとか気力を奮起してベッドへ。粗末なソレに倒れこみ、恐ろしくホッとする。

 疲れた。

 ブラックモア卿とアーチャーとの決戦。アーチャーの殺戮技巧にブラックモア卿の決着術式、それらを打倒して今生きているのが奇跡だ。実力でいえば彼らの方が完全に上で勝率なんてものは零に等しかった。

 それでも勝った。

 私たちが勝って彼らが負けた。

 私たちは進んで彼らは終わった。

 一回戦の時と同じように、間桐慎二を終わらせたのだ。

 心が軋む。これは戦争であり他人を殺さなければ生き残れない。戦って、勝って、前に進むことこそが王道なのだ。

 それでも苦しいという感情を得る私は、争い事に向いていないのだろう。

 

「そんなことないさ」

 

 ベッドに倒れこんだせいで姿は見えないアサシンの声が聞こえた。

 

「ダンの言葉を思い出せよ。いいんだよそれで。迷って、苦しんで、悩んでさ。清算しきれなかったら抱えて進めばいい。俺はそれまでそうして来た。だから主殿、アンタにもそうしてほしいよ。いや、それができるからこそ俺はアンタの叫びに答えたんだ」

 

 ダン・ブラックモア。

 〝遊び”であった間桐慎二とは違って、彼は確かに必勝の渇望を以て決戦に挑んだ。いや、間桐慎二でも、遊びではあっても本気だったはずだ。自らの勝利を疑わずに己の欲を抱いていた。あの八歳の子供だってそういう風であった。

 ならば私の願いは、欲は、渇望とは何なのだろう。

 無為に消え去ることを是とすることができない私は熾天の玉座に至ったとして何を願うのか。

 解らない。今の私にはそれの答えを持てない。

 ブラックモア卿は言った。

 

 戦いに意味を見出せと。

 

「あぁ俺も同感だよ。それが一番肝要なんだ。生きる意味を、戦う理由をどうか見出してくれ。それがなければただの木偶で屑で天狗でしかないんだ。アンタはそうじゃないって俺は信じている」

 

「あさ、しん……?」

 

 疲労は限界で、思考は徐々に止まっていく。決戦にて大幅の魔力と精神力、それにアサシンの背にしがみついて高速移動を経験した身はここら辺が限界だった。

 意識は浮遊を始め、身体は鉛のように重くなり体から力が入らない。

 閉じ行く感覚で背後彼が苦笑した気配があって、

 

「起きたら色々話したいことがあるけど……今はおやすみ、カレン」

 

 

 

 

 

 

 ――凍てつくような夢を見る。

 

 どうしようもなくどうしようもなくどうしようもない。寒い、冷たい。凍えるような世界。煮え滾る冷血と激情の涙が全てを支配していた。一歩先ですら前が見えない暗闇。何もない無明の闇。

 暴力しかないわけではない。

 苦痛しかないわけではない。

 絶望しかないわけではない。

 ただどうしようもないくらい全てが終わっている。

 

『下らねぇ……』

 

 その地獄を進みながら彼は吐き捨てる。

 

『解らねぇ……』

 

 無明の中で、しかし彼は幽鬼のように歩いていく。双眸からは涙を、全身からは血を流し、心は亀裂だらけで壊れきっていた。

 

 ――なにより彼はどうしてそうなっているかすらも解っていなかったのだ。

 

 明確な理由なんかなかった。

 出生に秘密があったわけではない。

 裏で糸を引いていた存在がいたわけではない。

 隠された謎があったわけでもない。

 誰かが真実を覆い隠していたわけでない。

 

 彼はただそういう風に生まれてしまっただけだ。

 

 なんて救いようのない。

 だからこそ彼は気づかないのだ。何一つ理解できないのだ。闘争によって命を削りながら、他人のお命を損なわせながら。それでも己の真実に届かない。何も持つことができなかった彼だからこそ、その砕けた心に残った最後の欠片を理解することができない。

 だから彼は終わっている。

 何も為すことはできない。

 真実から目を逸らし、理解することを放棄していた。

 友達も仲間も戦友も何一つない。生きる意味も戦う理由もどこにもない。

 想ってくれる人はいた。彼の為に命を懸けてくれる人もいた。

 

 それでも彼はそれらに応えることができなかった。

 

 だから彼が、終わっていた彼が何一つ残さず消え去るのは当然だったのだ。

 

 凍てつく夢はそこで完全に途切れる――

 




さつきさんにはたして出番は……!


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