落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 番外編まとめ 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
あとカレンは微妙に本編と差異あり。
「被虐霊媒体質、というのを知っているかしら?」
聖杯戦争三回戦一日目その朝。
まだ三回戦の対戦相手は発表されていない時間、私とアサシンは向かい合う。いや、というよりも彼に私の話を聞いてもらうのだ。
二回戦分、わずか十四日間。言葉にすればたったそれだけでもこれまでの私の人生においてこれほど共にあった存在はいない。生まれてすぐには母は病気で死んだ。父は私を教会に預け姿を消した。預けられたそこで育ち、物心がついて少ししてから、
「私の体に聖痕が刻まれました」
聖痕。
スティグマ。
それは前時代ならばともかく、魔術師の本場が電子の海に移った現代では奇跡でもなんでもなくただの異端だったのだ。もっといえば私自身あまり公にできる出生ではなかったらしいので洗礼も受けず、碌な教育も受けることができなかった。
そんな自分に聖痕が出たのだ。
「まぁ、言ってみればただの小間使いの小娘だったのよ。神の教えなんていうのは掃除や手伝いの合間に聞こえる程度にしか知らなかった。できることは……何なのかも知らない神に祈るだけで」
当然、それまでの生活でいられるはずもない。
すぐさまに北欧財閥の中で細々と残っていた聖堂教会へと送り込まれた。かつて時計塔、アトラス院と並んで世界を三分した機関にはもうその名残はない。一部の代行者は電子の海に渡りなお高位の魔術師であるらしいがそれもわずかだ。
だからこそ聖痕が刻まれた私を使って、再興を企んだのだろう。
でもそれは無駄だった。
聖痕が刻まれたことによって発現したのは彼らが望んなものではなかった。
「被虐霊媒体質――言ってしまえば鉱山のカナリア」
悪魔に反応する異能と言えば簡単だろう。周囲にいる悪魔に反応してその被憑依者と同じ霊障を体現させる。悪魔祓いの最初にして最大の難関である人間に憑依した悪魔を容易く発見できる能力。霊障を体現する以上は生傷が絶えず、電脳空間に来る前の地上では右目はほぼ失明し、味覚や触覚もほぼ死んでいた。
曲がりなりにも祓魔師《エクソシスト》という役職に就けたのはそういう体質があった。
「でも……受け入れられることはなかった」
時代が悪かったとしか言いようがない。
私自身が望んで得た力でもない。
魔術師の本場が電子の海に移行し、前時代のオカルトチックな体質はすでに場違いだったのだ。
霊そのものを信じる者が減り、悪魔自体が召喚されることも滅多になくなっていた。世界のどこかで悪魔の事件が起こっても当事者以外からすればおとぎ話だ。一部の人間以外信じることはない。それに減ったと言っても広い世界のどこかでは発生しているのだ。偶発的、突発的に。
それらの対処に追われながら私は生きてきた。文句はなかったけれど、
「聖堂教会の方々はそれを良しとしなかった。せっかく出た聖痕持ちがそんな不浄の存在であることを赦せなかった。だから――」
「アンタをこの聖杯戦争に送り込んだって?」
私の話を黙って聞いていたアサシンは思わずというように口を開いた。彼は少し早口で、それでも無表情だった。
「えぇ。聖女気取りの小娘が調子にのって聖杯戦争に挑んで死亡した、っていう筋書きだったのでしょうね。これが私が聖杯戦争に参加した理由よ。……まぁ今のところその筋書きはうまくいっていなけれど」
それにうまくいかせるつもりもない。
「胸糞悪い話だ」
吐き捨てるアサシンに肩をすくめる。
私だってそう思うけれど、今の世では私のような異端は邪魔でしかないのだ。端的に気持ち悪いのだろう。それに私の身の上話は地上では有名で、今回聖杯戦争に参加するマスターならば大体が知っているだろう。
「それで、どうなのアサシン」
「ん?」
「私の話はこれで全てよ。私の体質を聞いて貴方がどう思ったのか……」
「俺の主がこんなひどい汚らわし体質だったなんて吐き気がする反吐が出るもうサーヴァントなんかやってられねぇあとは勝手にやってくれ」
と、一息に言って。
「……なんてことを言うとでも思ったのか? 見くびるなよカレン・オルテンシア。俺はアンタのサーヴァントだ。俺はアンタの刀だ。アンタが悪魔に反応する身体だろうと時代を間違えた不浄の聖女だろうと行き場のない落ちこぼれだろうと関係ない」
彼は少しだけ怒るように、心外だと憤るように私へ言う。
いや、彼は実際怒っていた。そうだ、私は一体なにを思っていたのだろう。
確かに彼が今言ったようなことを言われるのかもしれないという想いは僅かながらにあった。だってこれまで自分の体質を知った人たちはみな一様に気味悪がるか利用しようとするかただ憐れむだけだったから。
でも彼は。この蒼き英霊は違った。
アサシンだって私になにか曰くがあるのは他のマスターたちのとの会話で解っていただろう。それなのに無理に聞き出さず私が自ら語るのを待っていてくれた。
私の従僕とし、刀として。
ならばそれは、
「…………悪かったわ」
「え、お、おう」
「……なにかしらその反応は」
「いや、まさかそんな普通に謝られるとは……」
「私だって悪いと思ったときは謝罪くらいするわよ」
そっぽを向いたのは別に気まずかったわけでもないし、頬が熱いのも気のせいだ。アサシンは照れたように頬を掻いた。
互いに微妙な時間が過ぎて、
「まぁ、俺も似たようなものだ。気にするな、なんて口が裂けても言わねぇけどそれでも俺はアンタの味方だってことをちゃんと覚えていてくれ」
言葉と共に端末がなった。三回戦の相手が表示されたのかと思ったがそうではなかった。
アサシンのマトリクスだ。
これまでは各ステータスとキーワードの『拳士最強』と固有スキルに近接格闘と異能無効が表示されていたがキーワードが一つ埋められていてそこにあったのは
「落ちこぼれ……?」
「そうだ。ドレイク閣下もロビン・フットも言ってただろう? 俺のことを落ちこぼれって。主殿が理由もなく聖痕を刻まれたように、俺もまた理由もなくそういう風に生まれたんだ。俺が拳士、そして拳士最強である理由の一つはな」
遠距離系の武器が欠片も使えないんだ。
そう、アサシンは言った。
言われたことにマトリクスを読み進めながら同時に戸惑う。
遠距離系の武器、随分と範囲が広いが私でもさっと思いつくのは銃とか弓とかそういうのだ。
「そうだな、所謂
馬鹿な、と思う。確かに私だって銃を撃ったことはないし、弓だって当然ないし心得だって同じだ。
それでも銃ならば女性でも扱えるようなものならば撃てるだろう。銃というのはつまり科学の兵器であり、科学とはだれにも扱えるものなのだから。
それ以上に投擲すらできないというにはおかしいだろう。私だって石ころを拾って何かに投げつけるくらいはできる。
「それでも俺には使えない。それが何だろうと関係にない。狙いをつけて、放つ。ただそれだけの動作を俺はどうしてもできないんだ」
馬鹿な、と思う。それでも自嘲気味な彼の様子に嘘が混じっている気配はない。
まるでそれは――
「呪いだってよく言われたよ。実際そうとしか言いようがなかった。どうしたって、結局俺は死ぬまで、いや死んでもその呪いは付きまとう。俺の中にはその呪いを別の呪いで打ち消した場合もあったけど……結局どうしたって消えないんだ」
でも、
「でもな、カレン。俺はこの体質を誇りに思うんだ」
「……え?」
そんな馬鹿な。アサシンのこれはどうしようもない呪いだ。いくら拳士として大成してもそれを帳消しにするくらい。弓の一族というのならば確実にいい経験をしなかったはずだ。
私はそうだった。
それなのにアサシンは笑っていた。
「こんな体だからこそ得るものがあった。戦友がいた、仲間がいた、愛する人がいた。背中を預け合って、肩を並べて、命を懸けて守りたいと願うことができた。俺は確かに俺自身の魂を燃焼させて生きることができたんだ。落ちこぼれでも、出来損ないでも、屑でも――それでも」
俺は幸せだった。
「だからな、カレン。誇れ、とは言わない。それはアンタの感情だから。それでも忘れないでくれ。確かに俺たちみたいなそういう風にできていた存在っていうのはどうしようもない。けれどそれらと付き合って生きていくしかないんだ。可哀想なんかじゃない、同情なんか必要ないんだ」
俺はそうだったと、笑って言う。私にはまだそこまで言うことはできない。それでも、私と同じような在り方の彼はそうやって胸を張ることができていた。
つまり彼は見つけたのだろう。
生きる意味を、戦う理由を。
「ああそうだ。だからマスター、俺の主。アンタもまた見つけてくれ。どんな下らない物でもいい。他人に理解されなくてもいい。例え世界中の人間から非難されたとしても俺だけは絶対にアンタの答えを受け入れるよ」
●
アサシンとの会話を終えて丁度三回戦の相手が発表となった。
『第三回戦対戦者――ありす
決戦場:三の月想海』
ありす、それが今回の相手。どんな相手だろうと思いを巡らしたその時だった。
「次に遊んでくれるのはお姉ちゃんなの?」
声があった。
いつの間にかいたのは白いゴシックロリータの少女、おそらくは十歳程度の幼い子。そんな年頃の子までいるのかと驚くがよく考えればここで年齢なんていうのは不確かなものだろう。
「えぇ、そうよ」
「よろくしね!」
天真爛漫にありすは笑って去っていく。
間桐慎二。
ダン・ブラックモア。
その二人に続いて――ありす。
私は彼女と殺し合うのだ。
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