落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 番外編まとめ   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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第十六章 「さぁ――あの子を呼ぶとしましょう?」

 

 事前の準備をしっかりしてアリーナへと足を踏み入れる。

 購買部でアイテムを買った。

 シオンにあって挨拶をした。

 アーチャーとの戦闘で得た経験値で魂の改竄をした。

 

 あ、桜で遊ぶ、もとい支給品を貰うのを忘れた。

 

 帰ってきたら行くとしよう。

 

「主殿がなにやら怖いが俺に飛び火すると怖いので黙っておく俺は悪くない」

 

 背後でアサシンが何やら言っているが気にしない。それに彼をいじるのは基本だ。

 赤紫と黒い彩色のアリーナ。ここが今回の最初の戦場。周囲をぐるりと見回しエネミーたちを観察しながら少し足を進めば、

 

「おねーちゃん!」

 

 通路の先に待ち構えていたようにありすがいた。彼女はにっこりと笑いながら私たちへと手を振ってくる。周囲にサーヴァントとらしき気配はなく、彼女自身あまりにも無警戒だ。私もアサシンも困惑

気味だったがそれでもありすは変わらずの笑顔で、

 

「お姉ちゃんが遊んでくれるんだよね!」

 

 遊ぶ。

 遊ぶとはつまり――彼女のトラウマなりをほじくればいいのか。

 

「そんなわけないだろ。常識的に考えてくれ主殿」

 

 ちょっとふざけただけだ。

 とりあえず彼女に向かって頷いてみる。そうしたらありすは笑顔を濃くし、

 

「じゃあ、鬼ごっこしよう? お姉ちゃんが鬼だよ!ありすを捕まえられたらお姉ちゃんの勝ち! よぉーい、どん!」

 

 アリーナの奥へと去っていく。 

 

「鬼ごっこねぇ。子供らしいといえば子供らしいが。気をつけろよ主殿。アレでも三回戦まで上がってきているんだ。ただのロリじゃなくて実は凶悪ロリの可能性が高いというかあれ俺の知ってるロリって基本全員凶悪だなぁ……」

 

 途中から落ち込みだしたアサシンはともかくとして。

 確かにあのあどけない少女は私と同じように二人の人間を殺してここまで来ているのだ。油断すればこちらが殺されるだろう。

 ともあれここで突っ立ていてもしょうがないのでアリーナを進む。幼女ながら中々の健脚らしいのか姿は見えないので、

 

「経験値稼ぎにPPT稼ぎ、そしてなにより主殿の経験を積まなきゃな」

 

 一回戦から変わることの無いこととして私の魔術師としての腕はへっぽこだ。修道女としてはそこそこの自負があるけれど、それはこの聖杯戦争ではあまり使い道がない。

 だから門外漢であっても魔術を学ばなければならない。

 

「追いかけながら、積み重ねましょうアサシン」

 

「応とも」

 

 幸いというべきかエネミーはありすに反応することなく残っている。

 

 

 

 

 

 

 エネミーを倒しながらゆっくり進んでいたが、ありすはちょこちょここちらを気にして誘導してきたので追いかけるのにはそれほど苦労しなかった。寧ろマップに表示されない隠し通路が多かったので進むのが楽だった。本人の言う通り完全に遊び感覚だ。その間に私たちは順調に経験値やPPTを稼いで行く。

 

 しかし途中で出てきた鍋はなんだったのだろう。

 

 しばらく進んで出口付近まで行き着いてありすを発見した。背後に小部屋とアイテムボックスがあるエリアだ。

 

「あーあ、見つかっちゃった。でも楽しかったよ。お姉ちゃん!」

 

 少女はまるで変わることなく微笑んでいる。そこには喜色しかなく不安のような負の感情はない。そこらへんは修道女の仕事としてなんども経験しているから解る。サーヴァントを連れず、相手のマスターとサーヴァントと向かい合っている状況であるにも関わらず彼女はまさしく子供のように楽しんでいる。

 なるほど。

 

「頭のおかしい子なのね」

 

「おいこらやめてやれよ」

 

「お姉ちゃん?」

 

「いいえ、どうぞ。先に進めて構わないわ」

 

「はーい」

 

 笑って、

 

「あのね、ありすはね、ずっと昔はこことは違う国にいたの」

 

 その言葉と共に――ありすの隣に人影が現れる。

 

「そしたらね、戦車とか飛行機とか、鉄のかぶとと鉄のてっぽう、黒いしかくの国がやってきて空はまっかっか、おうちはまっくろになって、気づいたらありすは真っ白な部屋にいたの」

 

 白い髪に黒いゴシックロリータ。十歳くらいの幼い顔立ち。配色はことなるが、ありすに瓜二つ。双子のような二人だが、マスターが二人なんてことはありえないはず。 

 だから、

 

「どちらかがマスターでサーヴァントってことになる……はずだが」

 

 アサシンが警戒を強めながら言う。彼の言う通りに今この状況では彼女たちがどちらなのか区別するのは難しい。私たちが驚いている間にも二人のありすは言葉を紡ぐ。

 

「まいにち変わらなくて、おともだちはいなくて、ママもパパもいなくて」

 

「あたし、ころんでも、けがをしても、おぎょぎよくがまんできたの。いたいっていうとパパにおこられるから。でも、がまんできないくらいいたいコトがあって。気づいたらここにいたの」

 

「でもいいんだ。だって、ここはとっても楽しいわ。いろんな人がいて、みんなみんな、あたしにやさしくしてくれるの」

 

「ええ、そうねありす。ここなら力いっぱい遊べると思ったでしょう?」

 

「でも、思いっきり遊んだらこわしちゃうかも。くびもおててもとれちゃうかも取れちゃったら大変だわ」

 

「壊しちゃったら直せばいいのよ。ママからもらったお裁縫道具があるもの。ママほど上手じゃないけれど、ちゃんと直るわ」

 

「直せば大丈夫?」

 

「大丈夫よ」

 

「ならいいわね!」

 

 ――背筋が凍る。

 この二人の少女に悪意は全くない。無垢であり、純粋であり、穢れなく、悪気もない。遊んでいるし楽しんでいる。少女だから、少女だからこそ。今の状況を戦争とも、戦いとも思っていない。

 

「……ッチ。そういうことかい、嫌な話だねまったく。どこの時代もどこの世界でも変わらねぇ」

 

 憎々し気にアサシンが吐き捨てる。歪なこの二人に思うことがあったのだろう。

 それは私も同じだ。

 彼女たちは歪すぎる。

 

「じゃあ力いっぱい遊びましょう! さぁ――あの子を呼ぶとしましょう?」

 

「うん、呼ぼう! あの子もきっと楽しめるよ!」

 

 ありすが元気よく手を振り上げた。

 

 そして二人の背後にソレが出現する。

 

 大気が震える、床も壁も。このアリーナを構成する全てが振動する。あまりにも規格外である故に私たちだけでなくアリーナすらも鳴動させていた。翼を持った赤い魔人、右の単眼が妖しく光り輝く化物。見た瞬間に本能が叫ぶ。

 逃げろ、逃げろ、逃げろ――!

 

「あはっ、すごいでしょ。ありすのお友達! さぁお姉ちゃん」

 

「この子と一緒に遊んであげて!」

 

 二人のありすは声高らかに謳う。

 遊んであげてというが、それは即ち戦闘行為だ。アレと戦うか否か。

 その選択は――

 

「引くわよアサシン」

 

「極めて諒解っと」

 

 私の判断にアサシンは即座に頷いて、私を抱えながら大きく飛び退く。

 

「いい判断だぜ主殿。アレはやばい。そりゃあ俺は何時だって絶対絶命で戦ってきたけど、できるのなら回避してぇよな。いやーよかった。今回は満身創痍にならなくてもよさそうだ、うわ、生きてるころから含めて初めてじゃね?」

 

 なにやら哀しい事実を再認識しつつあるアサシンだがもはや彼が鬱になるのは恒例のことなので気にせずにありすへ視線を向ける。

 

「えー、お姉ちゃん遊んでくれないの?」

  

 残念そうにありすは口を尖らせながら、

 

「じゃあ、魔力が切れるまでこの子はここに於いておくからまた遊んで上げてね!」

 

 そういってありすたとは転移して消える。あとに残されたのは赤い魔人だけだ。それだけは変わらずにアリーナにたたずんでいる。面倒なことにアレの背後のアイテムボックスにトリガーらしきものがある。つまりあれを倒さなければトリガーを得ることができないのだ。

 

「どうにかして倒さなきゃいけないってことな。困ったね。俺は近づいて殴る蹴るしかできないから真っ向勝負しかない。あの感じからするとバーサーカーぽいなぁ」

 

「……とりあえず一度戻りましょう」

 

 どうするべきか困る。あの二人のありすもおかしいし、一体だれがサーヴァントで誰がマスターなのか解らない。戻ってシオンに相談するべきだろう。

 あの赤い魔人をいつまでも向き合っていたら精神疲労が激しい。

 だから

 

「とりあえず――帰って桜で遊びましょうか」

 

「ぶれないなぁ」




近接格闘ってクラス名ぶちゃけダサいので変更予定。
次の更新くらいには変えておきます。


以下マトリクス



KEYWORD02:落ちこぼれ
 アサシンを最も簡潔に表した称号。弓の名士である一族に生まれながらありとあらゆる遠距離武装を扱うことができず、妹が化け物と呼ばれるほど才気にあふれていたからこそ幼いころに押された烙印。遠距離系武器だけでなく基本的な近接武器や車等の操縦すらも儘ならない。数か月かけてようやく自転車に乗れるというレベルである。
  これだけ見れば完全にマイナスの性質だが、とある人外はそれをこう言った。
“運命にも筋書きにも縛られない。君はそんな愚かな存在なのだよ”、と。
 そしてそれを指してプラスでもマイナスでもない『持たざる者(ゼロ)』と。プラスを持ちながらをそれを台無しにするマイナスがある。マイナスがあってもそれを帳消しにできるプラスがある。主人公体質でもヒロイン体質でもなく、降ってわいたご都合主義でもない。
 それこそが新世界の新たなる主人公と、人外は言った。
 そしてそれをアサシンは否定した。 愛する人がいる。背中を預けられる戦友がいる。大切な家族がいる。尊敬する大人も、肩を並べられる仲間たちも。受け継いだ想いは胸に刻まれていて、戦う理由も生きる意味もある。
 だから持っていないなんてことはない。ゼロはゼロでも、『持たざる者(ゼロ)』ではなく『落ちこぼれ(ゼロ)』なんだ、と。
 かつての孤独な屑の落ちこぼれではなく、絆を持って生きていく人間としてのアサシンの魂の証明である。

KEYWORD03:拳士最強
 その名の通り遍く拳士の中での最強を示す称号。アサシンが生きてきた時代のすべての拳士を打倒して得た、というわけではなく、彼が打倒し殺めた拳士が『拳士最強』であったが故にそれを襲名した。
その『拳士最強』こそが那須蒼一の師であり、育ての親。アサシンにとっては父と言える存在である。
人ではなく、人を外れた人外、初めから極点にいた化け物。ただ戦うだけの人外。プラスもマイナスも全て等価値である。それを指して悪平等。
 アサシンの師がそれであり、彼自身も一度至り、場合によってはそれであり続ける。
 それでも正史の彼は自分の主と生きようと願ったが為に、師を殺め、人外ではなく人間であり続けた。そして終わってしまった師の魂を引き継ぎ、刻み付けんが為に『拳士最強』を名乗るのである。


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