落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 番外編まとめ 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
ヴォ―パルの剣はシオンに話したら速攻で作ってくれた。
さすがは地上最後の錬金術師。剣の名前を出しただけで一瞬でこちらの事情を把握して作成してくれた。
それは短剣だった。
シオンらしいというべきか余計な装飾がない細見の短剣だ。私でも楽に振り回せるようなもの。だがこれは短剣として使うものではない。マグダラの聖骸布のような礼装だ。概念武装。理性のない敵に対して絶大の効果を発揮する架空の剣。それを携えてアリーナの最奥、ジャバウォックの目前へと行く。
ジャバウォックとの距離はまだ少しあるから動く気配はない。それでもこのどうしようもない威圧感は健在だ。アサシンが言うのは派手な強さというものらしい。
「さて主殿。ヴォ―パルの剣、頼むぜ」
「え?」
「え?」
ジャバウォックが動かないのをいいことに固まった。数秒止まって、
「……なぁ主殿」
「なにかしら従僕」
「俺さ、拳士なんだよね。まぁ五体を刀に見立てた拳法ならぬ剣法、虚しき刀の流れ虚刀流というものを使えるがしかしだな主殿、俺のマトリクス見たよな? 遠距離武装が使えない、ついでに言えば普通の刀剣もきついんだぜ? できることなら包丁だって持ちたくない。それにそれはマスター用の礼装じゃないのか」
「……ッチ」
「舌打ち!?」
まぁ冗談はこれぐらいにしておいて。
前に出る。数歩進んだけで
『■■■■■ーーーー!!』
ジャバウォックがこちらを認識し、声になっていない爆音の絶叫がアリーナ全体を轟かす。同時に握っていたヴォ―パルの剣に魔力を通す。通常の礼装でコードキャストを使うような感覚が体に駆け抜け、
喝采音と共に短剣が砕けて淡い光が溢れる。
『■■■■――』
瞬間、ジャバウォックから発せらる威圧感が消え去った。よろめき、わずかに後退する。今のこのジャバウォックにはアリーナを激震させるような力はない。少し強いという程度のエネミーでしかない。
『■■■■ーーー!』
ジャバウォックが吠える。ヴォ―パルの剣の剣によって弱体化したとはいえ、その凶暴性は未だに残っている。怒り狂うかのような激情の叫びと共にアリーナを蹴り、私へと拳を振り下ろす。例えエネミークラスまでに格が堕ちようとも、私からしたらどっちも同じだ。
だから。
「アサシン」
彼を呼ぶ。
「――!」
振り下ろされるジャバウォックの拳と私の背後から現れたアサシンの拳が激突し、
「っおおお!」
ジャバウォックの巨体が吹き飛ばされる。体格差で言えばジャバウォックはアサシンの優に倍以上はある。それにも関わらずジャバウォックが押し負けた。それを信じらぬというように絶叫と共に立ち上がった赤い魔人は尚もその拳を振り抜くが、
アサシンは当然のように避ける。
筋力や耐久ならばジャバウォックに分があるのかもしれない。それでも身についている技術が段違いだ。
「フッ!」
ジャバウォックの右膝にアサシンがローキック。例え化物染みているとはいえ形状は人間のソレだ。バランスが崩れ巨体が傾き、
「セイッ!」
正拳を叩き込む。踏み込みの震脚がジャバウォックの絶叫に負けず劣らずの振動を生んだ。真後ろへとまたもや吹き飛ぶ魔人の先にいつの間にアサシンは回り込んでいて、
「――花鳥風月」
貫手を射出する。それはジャバウォックの胸部を撃ち抜いていた。
『■■■――』
断末魔に力はなかった。胸を貫かれ四肢の端から消失していく赤い魔人にはたして何か意志があったのだろうか。滅びに抗うように体を震わせ――呆気なく消滅していた。
端末に音が鳴り経験値とPPTが振り込まれていた。
ジャバウォックを倒したアサシンは頬を掻きながら困ったように戻ってきて、
「あのなぁ主殿、あんまり前出るなよ。危なっかしいんだからさ」
「貴方が守ってくれるんでしょう? だったら前に出ても問題ないわ」
「……」
私の言葉に彼は目を見開き、嘆息して、
「まったくどいつもこいつも……いいよ、任せな主殿。好きに動けばいいさ。俺はアンタの従僕としてアンタを守るからさ」
苦笑する。
短めのお詫びというか近接格闘に変わる固有スキルです。
蒼刀・錻:A+++
とある刀鍛冶が生み出した完了形変態刀の一振り――ではもちろんない。
凡そ現存するありとあらゆる格闘技術を習得しているからこそ、これといった流派に属さぬアサシンが便宜上つけた自らの武威の名。人間が至れる領域の限界。拳士でありながら刀を名乗るのは最初は格好つけだったが、ある時期に戦友がある刀を手にしてから率先して名乗りだしたという経緯がある。他人がいなければ成立しないアサシンの求道の在り方の一つ。
今のところコレと異能無効と???が固有スキルですね