落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 番外編まとめ 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
二人のありす。
ジャバウォック。
ヴォ―パルの剣。
その単語から導き出されるのは――『不思議の国のアリス』、Alice's Adventures in Wonderland
あまり知られていないことだろうが、前身として『地下の国のアリス』、続編として『鏡の国のアリス』も存在している。ジャバウォックはこちらの鏡に登場していた。
これらの単語を耳にすれば誰だってそう思えるだろう。彼の童話は世界的にも非常に有名で各分野で取り上げられている。これだけで真名を断定するのは早計だとしても、何かしらの関わりがあるのは間違いない。
シオン曰く双子のマスターは在りえない。ならばあの幼女二人のどちらかがマスターでサーヴァントであるのは間違いない。
それでも解らない。『不思議の国のアリス』を流し読みながら読んでいる、コレという決定的な情報が足りない。一度図書室に行かなければなと思ってアリーナに向かう途中、一階の廊下へ着いた瞬間、
「みつけたー!」
眼前に黒いありすが現れた。
「みつけた」
背後から声。間違いなく白いありす。挟まれている。突然すぎる出現に驚く間もなく、
「なにをこそこそしているのお姉ちゃん」
「あそぼう! あたらしい遊び、かんがえたの。新しい穴の中ならできそうだからまってるね。ぜったい来てね!」
背後から少女の気配が消え、
「ふふふ、ぜったい来てね、やくそく、だから」
黒い少女もまたアリーナへて駆け出していく。
相も変わらずあの二人は心臓に悪い。子供らしいといえば子供らしいがそれでも唐突さは性質が悪い。
二人が消えたのと同時に端末が鳴った。トリガーが迷宮で精製されたのだ。つまり、穴というのはアリーナのことだろう。なればこそ、
「行くわよ。虎穴に入らずんば虎子を得ず……というのは極東の言い分だったかしら」
『応とも。虎でも龍でも化物でも、好きな所突っ込めよ』
●
「……」
「……」
アリーナ第二層は強烈に寒かった。氷の国とでもいうのか、第一層の赤紫とは打って変わって全体的に透明感のある水色だ。遠くには氷でできた城があるし、眼下には氷山や流氷が山のようにある。そういったデティールの話だけではなく。ムーンセルがどういうつもりで設定したのかは知らないけれど身を切るような寒さだった。
「アサシン」
「なにを言いたいのかすげー解ってしまうのが嫌だけど聞こう――なんだ?」
「脱ぎなさい」
「ほらねー」
アサシンの悟ったような笑顔である。
「寒いわ。私のようなか弱い女の子をそのままに捨て置くなんて、男としてどうなのかしら? 私の頼れる従僕ならばどうにかしてくれると信じているわよ?」
「信頼に悪意が……」
まぁ冗談はこれぐらいにしておいて。
寒いのは確かだがアサシンも素肌に着流しという極めて軽装だ。ほぼ全身を覆うカソックを着ている自分よりだいぶ寒いだろう。
「さすがにそこまでひどくはないわ。どうかしら? 私の優しさにむせび泣いてもいいわよ?」
「今日も今日とて我が主は絶好調です」
とりあえずマグダラの聖骸布をマフラー代わりにしタところで、
「あ、お姉ちゃん! 遊びに来てくれたんだ!」
白黒二人のありすがいる。この糞寒いなかでなにも防寒対策をしていないということはなにかしらの魔術だろう。
「やっぱり、お姉ちゃんは優しいね」
「え、どこが?」
実に心外なのでとりあえず指先を踏みつけた。うぎゃあ、と悶絶している間に、
「待ってね、お姉ちゃん! 今新しい遊び場を作るから!」
二人のありすが両腕を広げた。
ぞくり、と背筋に戦慄が駆け抜ける。
「ここでは、鳥はただの鳥」
「ここでは、人はただの人」
そして世界は一変していた。
「な、固有結界だと……!?」
驚愕は隣のアサシンの叫び。それまで青かった世界は赤みがかかったベージュ色をメインに紫、青、オレンジ等、さまざまな色が入り乱れた世界になる。同時に全身に襲う違和感。アーチャーのようにだるさや辛さがあるわけではない。痛みもないし、ジャバウォックのような重圧が生まれたわけでもなかった。ただ莫大な魔力の消費、そして何かが決定的に変貌してしまったという結果だけがある。
「ようこそありすのお茶会へ! ここではみんな平等なの! アナタとかオマエとかヤマダさんとかスズキさんとか、いちいちつけた名前はみーんななくなっちゃうの。お姉ちゃんもお姉ちゃんもそうなるね!」
「それだけじゃないよ。だんだん自分が誰だか解らなくなって――最後にはお姉ちゃんm、そこのお兄ちゃんもなくなっちゃうんだから!」
「面白いでしょう!」
面白いわけがない。
それでも固有結界。それはすなわち前時代の魔術の秘奥義だ。ならば、それを扱える以上はキャスター。そしてそのサーヴァントは確実に、私たちを殺すためにこの固有結界を展開している。
悪意がないなんてとんでもない。
「じゃあ、鬼ごっこしましょう。鬼はお姉ちゃんだよ!」
「よーい、どん!」
二人のありすは元気よく走り出す、しかし確実に殺しに来ている!
「拙いぜ主殿。自我を曖昧にした固有概念の消失……長時間いたら俺も主殿も魂がなくなっちまう。急ごう、とっ捕まえて結界を解除させるぞ」
アサシンの言葉には普段ない焦りがある。自分が自分でなくなっていく。それは今の私が最も恐れるべきことではないのか。これまでの戦いで積み上げてきた私をこんなところで消すわけにはいかない。
走る。運動が苦手なんて言ってられない。とにもかくにもあの少女を捕まえることに全力を注がねば……!
「鬼さん此方! 手の鳴る方へ!」
ありすたちは転移を繰り返して私たちから逃げていく。だからあと一歩というところで逃げられる。
「袋小路に追い詰めよう」
「……ええ」
隣にいる青い青年の言葉に頷く。
いけない、今アサシンの存在を忘れかけた。
いや、すでに名前が思い出せない。私の名は――
「キャスター!」
「あはは!」
黒い少女が放った光弾を、
「あぁ、くそ。この俺はまずいだろう……!」
言っている合間にもカレの姿は変わっていた。蒼の着流しでも軍服でもない。どこかの学生服のようで、腰や首の周りに機械的なハードポイントパーツ。髪も蒼ではなく黒いし、長い。
しかし最早カレの姿が変貌していることに違和感を持てない。
「やっべぇ、この俺はまだこういうの防ぐ手段がないんだよ!」
カレの焦りは徐々に強く。それがなにやら悪いことだとは茫然と思う。しかし確固たる理由は思い出せず、とにかく全力で白と黒の少女を追いかける。
そシて、少女の行くミチが消える。
行くべきトコロはモハヤない。
「今すぐ結界を消せ、キャスター。遊びはここまでだ」
隣の蒼がイウ。
「なんでそんなに怒るの? ……ひっく、お姉ちゃんと遊びだかっただけなのに……」
「ここはもう危ないわ。いきましょうあたし」
「……ひっく……うぅ……ごめんなさい、お姉ちゃん……」
めのまえにいたダレカがキエタ。
「俺たちも行こう、主殿。これ以上は俺もアンタもキツイ」
トナリにいるダレカがいう。ソレにいわれるまでもない。イソいでここからたちサラナイとコトバまでワスれそうだ。
「……?」
そのマエにナニカがオちている。
ヒロう。
カクニンするヒマはない。
はは、ハヤク。イソいでモドラナケレバ。
テのナカでナニカをニギりツブしタ。