落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 番外編まとめ   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

38 / 71
第二十一海「平和を愛し世界を救う」

「……最悪の気分だったわ」

 

 『固有結界・名無しの森』。

 そう評するしかないだろう。キャスターが展開したそれは名前概念の喪失による存在の崩壊。なんて性質が悪い。アリーナからマイルームに帰還した瞬間に全てを取り戻したが、それでも記憶はある。自分のなにもかも、サーヴァントであるアサシンのことも、自らを形成するなにもかもを忘れさせられるという筆舌にし難い恐怖。

 

「どうにか攻略しねぇと、トリガーも取りに行けねぇよなぁ。結局あいつら解除せずに消えたしさぁ」

 

そうやって言うアサシンの顔も鈍い。あの結界はサーヴァントにも及ぶのだから当然だろう。彼の固有スキルでも固有結界は防げないのだ。

 

「そういえば、貴方あの時色々姿がぼやけていたのはどういうことなのかしら? 銃を使っているようにも見えたけど」

 

「あー、それな」

 

 アサシンは少しだけ困ったような顔をして、頬を掻く。

 

「英霊っていうのはムーンセルが現在過去未来を観測することによって座に登録されてそこから呼び出される。まぁこんなのは言うまでもないけど……ムーンセルはマジ観測キチガイだからな。核となる俺とは別の俺――つまりは平行世界の俺も観測して、追加されている」

 

「……貴方は、そういう存在だったと?」

 

 平行世界に関与する英霊。まず聞かないが、それでもいないとも言えないだろう。

 

「あぁ、いや。そういう訳じゃなくてだな」

 

 だがアサシンはそれを否定して、

 

「少しばかり気が多かったってだけさ、恥ずかしいことにな。普通の英霊に比べれば可能性が多い。どこぞの妖怪みたいに可能性の塊ってわけじゃないし、そこからスキルを引き出せるのもできない……っていうわけでもないけど、今の段階じゃあ無理だ。――あ、ちゃんとそれぞれの俺は一途だったからな」

 

「……ふうん」

 

 どうにも変な英霊だ。落ちこぼれで拳士最強、本人曰く気が多いが一途。どうにも掴めない。

 

「俺のことは今は置いておけって。それよりもキャスターの固有結界だ。ほら、なんかメモとか拾ってただろ? それなんかの手掛かりにならないのか?」

 

 言われてありすのメモを取り出す。

 小さな紙に丸っこい文字の鏡文字で、

 

『あなたのなまえはなあに?』

 

 と書かれている。

 

「名前の概念が消える世界で名前聞くっていうのは厭らしいなぁ。どうする? こういうの俺は得意じゃねーぜ?」

 

 どうするもなにもない。苦手なのは自分も同じで、寧ろ経験がない分アサシンなんかよりもまったく役に立たない。それはまぁいつものこと。私が使えないのもアサシンが脳筋なのもいつもと同じだ。 だからこういう時は、

 

「シオンに頼りましょう」

 

「放課後路地裏同盟ッ!」

 

 アサシンがポーズを決めたのでマグダラの聖骸布で捕獲した。

 

 

 

 

 

 

「手にでも書いておけばいいじゃないですか」

 

「……あぁ」

 

「……なぜ出てこなかったのか」

 

「はははは、盲点というやつだね」

 

 校舎二階の廊下にたシオンに説明したら一発で解決法を教えてくれた。

 流石地上最後の錬金術師。

 

「いえ、この程度で褒められても」

 

 いやしかし本当に盲点だった。少し考えればすぐに出てきそうな答えだ。名前概念がなくなったからとしても物理的に記された情報までもが消え去るわけではないはずだ。シオンの言う通り手や紙でも書いてアリーナで読み上げれば変わるだろう。

 

「助かったわ、シオン」

 

「いえ、この程度ならば問題ないですが……しかし、固有結界ですか、それも一日以上……? サーヴァント二騎以上に魔力を消費してもおかしくないはずですが……いえ、どうあれ突破が先ですか。気を付けてカレン。宝具がEXというのは例えステータスが最低であろうとそれらを帳消しにするような英霊です」

 

「……えぇ、解っているわ」

 

 彼女と別れアリーナへと向かう。固有結界の打破を終えた後にはトリガーが必要なのだから探索の準備もしなければならないし。

 

「あ、もしメモがうまくいかなかったらアトラス院の技術で魂に刻み込みましょうか。まぁ痛みがあって、下手をしたら魂が砕ける可能性も」

 

「全力で遠慮させていただきます」

 

 

 

 

 

 

 再び足を踏み入れたアリーナには未だに固有結界が健在だった。あらかじめアサシンに魔力を渡しておいたので昨日よりは持つだろうし、私自身もマグダラの聖骸布を体に巻き付けている。それでも、徐々に自分の中から名前が消えていく。踏み入れて周囲を見回しただけでもう名前を思い出せない。このまましばらく止まっていれば昨日と同じように何もかも消えていくのだろう。

 だから手に書かれた名を読む。

 

 

 

「――終末少女シスター・カレン!!」

 

 

「ぶふぉ!?」

 

 何もないところでアサシンがコケた。

 しかし固有結界は変わらない。困った。これでは魂がやばい。

 

「主殿ぉ! 変な電波受信してないでちゃんとやろうよ!」

 

「電波。なんのことかしら? 私は実は平和を愛し世界を救う魔法少女だったのよ? 因果応報、天罰覿面。悪なるものには偽善の鉄槌、善なるものには巨悪の銃弾。無差別調和少女キューティーカレン! 従わないならムーンセルごと木端微塵と知りなさい」

 

「うわぁなにこの主めんどい。つか名前変わってるし」

 

 アサシンが頭を抱えだしたのを見るのは愉しいが、遊び続けるのもアレなので真面目にメモに書かれた名前を読む。

 

「――カレン・オルテンシア」

 

 瞬間喝采音と共に世界が砕ける。配色が滅茶苦茶だった光景に正常な色が戻り、固有結界が破壊された。同時に毎々になっていた自分も復活する。アサシンも安心したように笑みを浮かべ、

 

 転移音と共にありすたちが現れる。

 

「あぁ名無しの森がこわれてしまったわ、あたし」

 

「そうねあたし」

 

「もう他の遊び場がないわあたし、どうしようかしら」

 

「大丈夫よあたし。もう少しで時計がなってしまうもの――その時は思い切り遊べるわ」

 

「本当? 壊してしまっても大丈夫?」

 

「えぇ大丈夫よ。だから今は我慢しましょう? 楽しみは取っておくものね」

 

「そうね。じゃあねお姉ちゃんたち」

 

 消えた。二人のありすは相変わらず――ではない。白と黒の二人には違いはあるだろう。白いほうはまさしく純真無垢であり、戦いという概念すら見られない。しかし黒いありすは違う。昨日今日の言葉の端々に悪意と殺意があり白いありすを誘導している。

 

「……あぁ」

 

 やはりこれは生存闘争だ。

 あんな少女のような外見でさえ、命を奪い合う――。

 どちらが魔術師でどちらがサーヴァントなのかは未だに判明しないけれど、それでもどちらがどちらであろうと私たちは殺し合うのだ。

 

 後、二日。

 




タイコロアッパーのカレンはマジ可愛い。
CCCくらいからあんな感じじゃねーかなと思う


感想評価お願いします
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。