落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 番外編まとめ   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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第二十二海「精神体と見て間違いない」

 モラトリアムは今日を除けば後一日しかない。決戦日の朝に相手のサーヴァントの情報をまとめ上げるにして、明日までには全てのマトリクスを得る必要がある。固有結界を破ったことで新たなマトリクスは手に入ったし、あともう一歩というところだけれどその一歩が届かない。

 だからこそ今日も今日とて学食にて食事と共にシオンと相談だ。

 

「固有結界を突破したことは嬉しいことですが、やはりどうしても解せないことがあります」

 

 彼女は言う。

 

「固有結界、それは前時代の魔術の秘奥です。魔法に最も近い魔術、なんて言われているくらいですからね。実際、固有結界を使えればそれだけで封印指定になるのは十分でした。アトラス院にもそれらしき記録は残っています。」

 

 封印指定。

 確か通常の手段では習得できない魔術、あるいは固有の体質のみが発現を可能にさせる希少能力保有者に贈られる称号だ。それだけ聞けば名誉あるものなのだろうが実際にどうなるかといえば魔術協会に保護されて脳髄のホルマリン漬け。だから封印指定を受けた魔術師たちは俗世から離れその身を隠匿するか、自ら領域に引きこもって研究をする、というような話だったはずだ。

 

「えぇ、その認識で正解です。もっとも全ては過去形ですが。今の時代には魔術教会なんてものは機能していませんし、この時代にそんな希少能力者を保有しているのは……」

 

 シオンの言葉が区切れる。

 バツの悪い顔をしたが、私は構わずに言う。 

 

「えぇ、私くらいでしょうね」

 

 魔術協会はとうの昔に廃れているから存在しないので封印指定も最早ない。でももし残っていたら自分はどうなっていたのだろうか。地上に残された最後の聖痕保有者。魔術協会と聖堂教会は犬猿の仲だったらしいので殺されていたが、それとも見向きもされなかったか。ともあれ、意味のない話だ。

 

「話を戻します。つまり固有結界とはそれほどの能力です。ソレに特化したサーヴァントならばそれ以外にステ―タスが劣化していても頷けますが……解せないことが。当然ながらそれほどまでのスキルないし宝具を用いれば大量の魔力を消費します。それこそ人間の容量では足りないくらいに」

 

 これまでのシオンの話を思い出す。

 サーヴァントを二騎従えるのはルール的にも容量的にも不可能だと言う。そして固有結界の展開にはそれ以上の魔力が必要なはずだと。昨日は突破に専念するために深くは掘り下げなかったが、

 

「これが相手側のキーになるでしょうね」

 

 いいですか? とシオンは指を立てる。教師ぽくて実に様になっている。もしかして気に入っているのだろうか。

 

「固有結界を発動する。そしてアリーナに発動し続ける。これは人間の限界を超えています。在りえないと言っていい。だから、もし可能性があるとしたら――それは初めからが死んでいること」

 

「最初から、死んでいる?」

 

「えぇ。このムーンセルでは死亡したマスターはサイバーゴーストとして電脳空間に焼き付けることなく完全に消滅します。私たちは魂を情報としてセラフに侵入しているので、死んだ、即ちもう必要無いデータを残すことがありません」

 

 これまで消え去ったマスターの情報は完全に消滅している。

 間桐慎二も。

 ダン・ブラックモアも。

 彼らの情報はセラフのどこにもなく、唯一例外として私の記憶の中にあるだけだ。

 

「しかし、初めから死亡している状態であればムーンセルもそれをデフォルトとして、ゴーストであろうとも許容するかもしれません」

 

 死んでいることが真っ当(デフォルト)。幽霊。電子の亡霊。それはまるで――

 

「さて、私ができることはこれくらいまでです。きっと、私以上にそういうことに詳しい存在もいます。ここからは貴女自身で解決するべきだ」

 

「えぇ、ありがとう」

 

 本当に彼女には頭が上がらない。本来であれば敵同士であるにも関わらず、ここまで協力してくれる。今の自分には彼女の協力に応えられることはできないけれど、いつかちゃんとお返しをしたいと思う。

 

 

 

 

 教会へと足を向ける。

 そこで行われる魂の改竄はステータスの弱体化しているアサシンには必要不可欠だ。これまで最低でも一日に一つはレベルを上げて改竄を行っている。

 教会にはいつも変わらず蒼崎姉妹がいる。三回戦五日目でそれなりに頻繁に訪れているから三週間近く顔を合わせているが見慣れたものだ。

 この姉妹が傍から見れば引くくらいに仲が悪そうなのも。

 ともあれ下手にちょっかいを掛けなければいい話なので、

 

「ん? 魂の改竄……というわけでもないか。何か用か? 私も暇ではないのだがね」

 

 改竄は改竄で行う。ただ蒼崎橙子にも聞きたいことがあるのだ。さすがというべきかこちらを一見しただけでそれを見抜いた彼女は面倒くさそうではありながらも耳を傾けてくれる。いつ気が変わるか解らないので、一通りの二人のありすとゴーストについての話をする。

 

「亡霊か。また前時代的な事を……いや、君にとってはそうではないのか」

 

 彼女の言葉に頷く。不本意ながら私としては所謂亡霊のほうが、この電子の海よりもよっぽど馴染みがある。

 

「そうだったねこれは失敬。さて、私達がマスターを通してサーヴァントに施している魂の改竄というのは詰まる所、魔術回路の変革だ。君らの霊体を改造し、サーヴァントの力をより効率的に具現化できるようにする。それが改竄だ。あのありすという少女も何度か見たよ。双子かどうかは君が調べるべきことだから私は知らないが――確かにあの少女は君たちの言う精神体(ゴースト)と見て間違いない」

 

 蒼崎橙子はそれを断言する。シオンの話と組み合わせ、掛けていたピースが少しずつだが埋まっていく。

 

「確かにサイバーゴーストには肉体がない。だからあらゆる身体的制約に縛られることはない。つまりはどれだけ大出力の魔力を生み出しても脳が焼き切れることはないし、リミッターもない。魂が燃え尽きるまではその分だけ魔力を生み出すことができる」

 

 あぁ、ならばあの固有結界の継続展開も連続転移も納得がいく。マスターである方のありすがゴーストであることは確定した。

 

「しかしただのゴーストが固有結界を張れるほど魔力を持ち合わせるとはよっぽど相性がいいのだろう。相手のサーヴァントのクラスは解るか?」

 

「確証はありませんが、キャスターかと」

 

「だろうな。双子のマスターなど在りえないし、聞いた話からすればキャスターが妥当だろう。キャスター以外に固有結界が使えないわけではないから一概には言えないがな。ま、そこら辺はマスターである君の仕事だ。こう見えても忙しくてね。絶賛雑務中なんだ。……まったく。腕が良くて、気が利いて、美味い珈琲を淹れる社員が恋しいよ」

 

 そう苦笑してから蒼崎橙子は雑務とやらを始める。紙媒体を取り出したのは以外にアナログで驚きだ。すでにそちらに集中し始めたのか、こちらへの関心は最早まったく感じない。だから彼女から視線をズラし、改竄の為に妹の方を見れば、

 

「いってく?」

 

「いっちゃおうぜ?」

 

 激しくムカついた。こっちの赤頭と蒼頭も変わらずやたら仲がいい。

 

「なに? もしかしてあの子妬いてる? やーね、アンタどこの世界でも女作ってさぁ」

 

「おいこら微妙に否定できないこと言うのやめろ。そしてどの世界でも俺は超絶一途だぞ。……というか、え? 主殿妬いてるの?」

 

「――フィッシュ」

 

「あぼば!?」

 

 非常に不愉快だったのでマグダラの聖骸布で吊り上げて中央に飛ばす。改竄シークエンスが起動して、中空で逆さ吊りのように浮遊する。中々よい光景なので今度から改竄するときはこの体制でやらせよう。

 

「あはははは! うっけるぅー。あー、それで?今日はどこ伸ばすの?」

 

 アサシンは変わらず敏捷メインだ。今のところ敏捷がC+で筋力耐久がD。幸運と魔力に関しては振っていないし、これから先も伸ばすことはないだろうから、必然選択肢は三つだ。既にアサシンはスキルを一つ取り戻している。その折に筋力と耐久がDにまでなったのだ。

 と、なにやらアサシンがもごもご言っていた。

 だが聞き取れない。

 

「ちゃんと喋りなさい」

 

「ほれほっへ!」

 

「え? なにかしら? 私は人類の言葉しか解らないので駄犬語ではわからないわよ?」

 

「ほへんはふぁい! ひょうひふぉいふぇふいあふぇんふぇふぃふぁ!」

 

「うっわー。ここまで来ると哀れだわー」

 

 哀れだし面白いので拘束は解かないが、口回りだけ緩める。

 

「あーもうなんだろ一周回って気持ちよくなってきた。やだこれもしかして調教……!?」

 

「うわだめだこいつ」

 

「いいから、話しなさい」

 

「あ、えっとだな。筋力と耐久をお勧めする。多分、今日と明日で経験値稼ぎまくれば決戦までには間に合うと思う」

 

「そう。なら、そうしましょうか」

 

 青子に視線を向ければ、なにやら面白い物をみたというような顔で口端を歪めながら、

 

「いいの? 私の方じゃ、ちょっと解らないけど。あいつの勘違いかもよ?」

 

「えぇ、構わないわ。これがそんなこという訳ないでしょう」

 

「むふふ」

 

「……なにかしら」

 

「べっつにー。んじゃ」

 

 浮遊しミノムシになっていたアサシンが光に包まれる。先ほどの橙子の話ではアサシンだけでなく私も改造されているらしいがあまり実感が湧かないというか微妙な気分だ。改竄が終わったがステータス自体に変化はない。それでもアサシンが言ったのならば、今日明日頑張れば成果があるだろう。その上でありすたちと戦わなければならない。

 

「んじゃがんばってねー」

 

 気の抜けた青子の声に返しながらアサシンを引きずったまま、外に出る。

 

「あれ? お姉ちゃんたちなんの遊びしてるの?」

 

「ありすたちも混ぜてもらっていい?」

 

 教会を出た瞬間に二人が現れた。

 なんだろう、いい加減相手をするのも疲れてきた。

 

「ぬあっ……あ、ちょ……! 主殿! だからと言って蹴らないで……! 目覚める! ガチで目覚めちゃうから……! あ、らめぇ……!」 

 

 そして五日目も終わっていく。

 モラトリアムはあと一日。

 決戦は二日後。




いつから目覚めていないと錯覚していた……?(


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