落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 番外編まとめ   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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第二十三海「ありすはアリス」

 聖杯戦争三回戦六日目。モラトリアムの最終日であり、明日は決戦だ。

 急がなければ。時間はもう残っていない。今日中に残されたマトリクスを蒐集してありすのサーヴァントの真名を特定しなければならない。トリガーは既に昨日の時点で手に入れていてその点では心配することはないけれど相手の真名を知らないままでいるのもまずいだろう。

 だからまずなによりも真名探し――なのだけれど、

 

「わぁ! 大きなかち割り氷! ありがとうオルテンシアさん! お礼に私秘蔵のアロマ香をあげるから! 癒されるわよ!」

 

「ありがとうございます、タイガ」

 

 アリーナで見つけてきた大きな氷のデータをタイガに渡す。このやたら個性的なNPCにはこれまでの何度も変な注文を受けて色々お使い的なことをしている。正直面倒といえば面倒だけれど経験値稼ぎのついでにもなるし、景品となるインテリアは意外といいものだ。これまでも照明器具や観葉植物など貰って殺風景な部屋に彩を加えている。

 自分のような未熟者にそういったことは余計かと思ったけれど、

 

「余裕っていうのは大事さ主殿。いつでも気を張ってたらすぐに駄目になる。せめて寛げるところでは余裕があったほうがいいぜ」

 

 とアサシンが言っていた。今のところアサシンの進言で事態が悪化したことはないので言う通りにしている。彼のような武の英霊がいっているのだから中々説得力のある言葉だ。

 

「それでアサシン? 昨日言っていた件はどうなのかしら」

 

『あぁ、いい感じだぜ。昨日も結構稼いだからな。これならあとレベル一つ上げれば新しいスキルが復活する』

 

「そう、なら早めにアリーナに向かいましょう」

 

 アリーナへの入り口へと足を進める。

 その間に考えるのは二人のありすのこと。これまで得た情報は少なくない、というよりも多い。

 ヴォーパルの剣。

 ジャバウォック。

 鏡文字のメモと名無しの森。

 そしてありすという名。

 これだけあれば『不思議の国のアリス』と『鏡の国のアリス』にたどり着くことは難しくない。これまでの魔術や固有結界、彼女たちの言動は確かにそれを基にしている――それでも確証がない。

 第一物語のアリスがサーヴァントとして召喚されていたならば恰好がおかしい。

 アリスエプロンドレス、なんていう単語があって衣服があるくらいなのだ。サーヴァントが物語のアリスそのような恰好をしているはずなのに、あの二人は白黒のゴシックロリータ。少女らしいといえば少女らしいけど別物だ。

 いや、まず前提として。

 

 あの二人は似すぎている。

 

 蒼崎橙子はマスターとサーヴァントの相性がよほどいいのだろうと言っていた。それは疑いようのないことだけれど、それでもあそこまで瓜二つというのは不自然だ。ならばそこにこそ種があるのではないだろうか――

 

『主殿』

 

 アサシンに呼ばれ、思考から意識を浮上させた先にありすがいた。

 アリーナの入り口、つまりは用務員倉庫の鉄の扉の前で彼女は一人で立っていた。着ている服の色は白。

 少しだけ迷う。少しだけ。今の私には迷っている余裕などない。マイルームならばともかくここは校舎で、相手は明日殺し合う相手なのだから。

 

「あ、お姉ちゃん。……どうしたの? お顔が、怖いわ」

 

 怪訝そうにするありす。微かにおびえているのだろうか。それでも、問わなければならない。この少女に言葉の刃を差し向ける。

 

「ありす、貴方は――」

 

「――あたしはありすの夢。ありすが読んだお話の姿」

 

 いつの間にか隣にありすがいた。いいや、いつの間にかではない。今、この瞬間だ。転移ではないそれは常に横にいるアサシンが姿を現すのと同じように。そしてそれを証拠に、そして自らの口で黒いありすは――キャスターは言う。

 

「ありすが望んで、聖杯が叶えたお友達」

 

「そう、ジャバウォックにハートの女王、トランプの兵隊さん、チェシャ猫さんに兎さん、帽子屋さんにみんなみんな」

 

「でもあの子たちはサーヴァントじゃない。ありすの力でありすが生んだの」

 

 ジャバウォックはサーヴァントではなくキャスターの宝具による召喚だったのだ。

 

「あの子はアリス」

 

「アリスはありす」

 

「ありすはアリス」

 

 ありすとアリスは歌うように言う。

 二人の少女は色合いを除けば何もかもが同じだ。顔も服もしぐさも声もなにもかも。一度に離されたらどちらがどちらなのか解らなくなるくらい。

 まるで鏡だ。

 鏡。

 鏡。

 ――鏡合わせ。

 あぁ、つまりはそういうことなのだ。理解する。理解させられてしまう。

 瓜二つなのも鏡合わせなのも双子のように見えるのも当然のこと。アリスはありすのために生まれたのだから。アリスはありすの願う形を得ているのだから。ありすは夢を見た、それをアリスが叶えた。だから今この二人がある。相性がいいという話ではなく彼女たちは二人で一つなのだ。

 ありすがいるからアリスがいる。

 アリスがいるからありすがいる。

 幼い少女が夢見た姿をこのサーヴァントは叶えたのだ。

 遊んでいるように見えたのではない、実際にありすは遊んでいた。それをアリスは守ろうとした。

 それが正体。

 夢見る少女とそれを守る少女の幻想。

 英霊ではない架空の存在。少女の夢が英霊となったのだこのキャスター。

 明確な名が何のなのかは定かではないがこのサーヴァントを名付けるのならば、

 

 ――ナーサリー・ライム。

 

 子供に聞かせる童話の名がふさわしい。

 刹那、端末が音を立てて鳴る。マトリクスがレベル3まで到達したのだ。それを知ってか知らずか、二人の少女は笑みを浮かべて、

 

「明日だねお姉ちゃん! 新しい遊び楽しみにしてるてね!」

 

「楽しみにしててね!」

 

 消える。死の気配も戦いの事もまったく感じさせない無垢な笑顔でを残して。

 

「……」

 

 どっと力が抜ける。

 そして同時にどうしようもなく体が強張る。

 明日。ありすが言ったように明日が決戦。これまで機械的に数えていたモラトリアムはもう無く、彼女たちと殺し合うのは目の前のことだ。

 倒せるのか、と自らに問う。迷っている場合ではないのに。乗り越えなければ死ぬのは自分だ。だから戦わなければならない。

 

 ありすを殺さなければならない。

 

 生き残るためにはこれはどうしても避けらないこと。そしてそれを自分で選んだのだ。

 

「あぁそうだよ、主殿。アンタが選んだことさ」

 

 背後からアサシンの声。言葉は突き放すようなのに、なぜか私は彼の声に温かみを感じていた。

 

「どっちが正しい、なんてことはない。アンタ自身が選んでから正しかったって胸を張れるようにするしかないんだよ」

 

「……それは、貴方の体験談かしら?」

 

「あぁ、もちろん」

 

「なら……貴方の選択はどうだったの?」

 

 この蒼い従僕は、落ちこぼれの拳士最強は。未だ真名を知ることのできない彼はどうだったのだろう。私の問いに彼は変わらず苦笑して、

 

「さて。それはまだ何とも言えないな。でも主殿――アンタと共にいられれば俺はその答えを見出せるって信じてるよ」

 

 




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