落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 番外編まとめ 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
「貴女は死を悼んでいるのですね」
ありすとの戦いを終え、校舎へと帰還した私を出迎えたのはそんな言葉だった。
彼女たちの死は私の中で確かに残った。それがどういうものか解らないけれど、それでも心に刻み込まれたものがあった、私はそう思っている。聖杯戦争というものはそういう風にできているけれど、ありすの笑顔とアリスの涙はきっと尊いものだから。
そう、噛みしめていた私へそんな言葉が掛けられた。暖かい声。沈んでいた私に染み渡るような声だった。
レオナルド・B・ハーウェイ。彼は私に向けて言う。
「命が失われることは悲しいことです。それがこのような無慈悲な戦いであれば尚の事」
無慈悲。
無意味ではなく、無慈悲。意味がないのではなく、慈悲がないと。
「ええ。憎しみによって殺し合ったわけではなく、互いの目的があり、それの為に戦うしかなかった。無慈悲です。人の心を持ったまま、人を殺めるのは悲しいでしょう。渇望するからこそ、人は聖杯へと手を伸ばし、采配を委ねる。誰しも――自分がこの世で一番正しいと信じることができないから」
それをレオナルドは悲しいという。哀しくて、哀れで、救いようがなく、救われることがない。彼は私たちをそう見ていた。彼はこの前会った時と同じだ。見下しているつもりはない。見下そうとしているわけでもない。
ただ単にどうしても、立っているステージが違うから。
彼の思想は――どうしようもなく救世主の言葉だ。
救世主。
世を救う主。
彼自身はきっと当たり前のことを言っているのだろう。彼は今自分がいったことを何の迷いもなく信じている。ただそれを常人には理解できない。決定的な落差がある。どうやっても埋められない千尋の谷が。
「待っていてくださいオルテンシア嬢。僕は世界の王になるために生まれました。貴女の悼みも彼女の痛みも認めて、誰も無意味な死を迎えないように。地上の貧困も同じです。足りないから奪う。それら調停するために、僕はここにいる。徹底した管理と秩序を。欠乏がなければ争いは生まれません」
傲慢でも虚栄でもなく彼は語る。それが彼の真実で、それ以外見ていない。
生きる理由を。
戦う意味を。
明確に見定めているのだ。
彼の言う通り、現状地上の争いのほとんどは貧困と欠乏だ。資源と魔力ほほとんどが消失し、中東では内乱が絶えない所を西欧財閥に聖地を奪われた。あわや宗教戦争となりかけたが中東に最早戦力はなく、西欧財閥の侵略を止めるだけで精一杯。それでも世界の資源のほとんどは西欧財閥のものだ。地上に残された魔術機関はアトラス院と形骸化した聖堂教会。
それは曲がりなりにも祓魔師として世界を巡って来た私もよく知っている。
「彼女の消滅を悼んだ貴女なら賛同してもらえるはずだ。完全に平等で、無欠に公平な。それこそが世界のあるべき姿、理想社会だと」
彼の言葉は抗い難い毒のように。
或は救いの癒しのように。
彼の語るディストピア。それは確かにある意味では幸福の一形態だ。彼という王の下に全て均等になり管理される。彼は暴君ではない。こうやって話しているだけでも解る。きっと彼は理不尽な制度や規則を作ることなく本当に人々の幸福に即した世界を創るだろう。
さながら世界を照らす太陽のように。
仮にも所属は西欧財閥の聖堂教会だからこれまで今の理想に近いものは触れてきたが純度が違う。
故にそれに当てられてざるを得ず――
「あからさまな勧誘はそこまでにしてもらいたい」
シオン・エルトナム・アトラシアが割り込んだ。いつも通りの理知的な瞳の中に僅かな怒りを揺らしながら彼女校庭の方から現れた。アトラス院最後の錬金術師。地上に残された最後の魔導。私のようなもどきではなく真正なる魔の担い手は太陽の少年に臆することはなく、
「決戦の後で疲弊した精神や肉体にそういった印象操作を行うなどナンセンスだ。それが西欧財閥のやり方となれば私としても考えを変えなければならない」
普段のような冷静さの中に優しさを秘めた彼女ではなかった。
「ミスエルトナム。貴女方アトラス院は僕たちのことには興味がないと思っていましたが。なにか意見が?」
「えぇ、もちろん。話は聞かせてもらいました。確かに私は仮に世界が貴方の言うようなディストピアになったとしても構わない。しかしだからこそ言わせてもらう。それはあくまでハーウェイの、西欧財閥の理想でしょう」
「万人にとっての、理想ですよミスエルトナム。理不尽な死が待つ世界は、誰しもが避けたいものでしょう」
「死がなければいい話でもない。現にその万人の理想とやらに反旗を翻している勢力は少なからずいる。先の話にはそれが入っていなかった。だから私は干渉したのです。独占された資源、管理された幸福大いに結構。好きにやればいい。私は私の研究をするまで。ですがそれを望まない人がいるというのを除外されるのは見過ごせません」
彼女の言う通り――犯行勢力は確かに存在する。こと中東地域ではレジスタンスによるゲリラ作戦が後を絶たない。万人の理想に抗う者もまた存在する。
レオの言う世界は確かに正しいのだろうけれど、それを良しとしない者もいるのだ。だからシオンは横槍を入れてそれの存在を示している。彼女も別にハーウェイの理想に否定しているわけではないのだろう。それでもこの場にそれを否定する者がいないから、中立の立場として意見を言っている。
「それだけじゃないぜ、主殿」
「……解っているわよ」
シオンの言動は言葉の通りで――それだけではない。
助けられた。
今の私にはレオナルドの言葉に賛同も否定もできない。それが正しいのか間違っているのか判断をつけられないのだ。
管理された世界で末永く生きていくのもいい。
ただ今を次だけを求めて生きていくのもいい。
それに優劣を付けるだけの判断材料がないから。今までそんなことを意識してきたことがないから。
「だから、これから探していくんだろ」
アサシンの言葉に頷く。
判断できないから私は戦っているのだ。これまでの三度に及ぶ殺し合いの中でそれらは少しずつでも積みあがっているはずだから。だから今は答えがなくとも戦いの果てに得られると信じている。
「それでいいぜマスター。というわけだご両人。なにやら重要そうな話の途中で悪いがお暇させていただこう。こちとらバトル直後でお疲れでね。主殿も俺も休息が必要なんだよ」
アサシンが私の背を押す。そのままマイルームに帰れということだろう。彼の言葉は正しくて、正直疲れているから素直に従い階段の方へ向かおうとし、
「貴方はどう考えているんですか? アサシン」
「……俺?」
レオナルドが指名したのはあろうことにアサシンだった。
その場にいた全員が戸惑う。それまで姿を消していたガウェインも霊体化を解き、怪訝な表情で主を伺う。
「こういう時
この前っていつのことだ。
半目で睨んでやれば冷や汗を流しながら視線を泳がせる。後で折檻するとして、彼の返事を促す。
半笑いを浮かべたアサシンはレオナルドの方を体を向ける。
「えっと、なんだ。世界の在り方か」
そうだなぁと呟き、
「ぶっちゃけどうでもいいな」
「――」
絶句というよりは、茫然。
この
「管理社会も自分でなにもかも決めて生きていく世界でも、どちらでいいさ。好きにしてくれ、そういうことを考えるのは俺の役割じゃなかった。人選ミスだぜ少年王殿。本当は新世界の如何なんて俺は興味ないんだよ。ただ、そうだな。俺が言えることは一つだよ」
アサシンは笑みを浮かべながら言う。
「自分らしく生きていけばいいさ。管理されることでそうできるのなら管理されればいいし、管理が無理なら抗えばいい。生きていけば、きっと何とかなる。頭おかしいって後ろ指刺されても、案外生きていけるんだ。俺はそうした。俺は人間だから。人間だったから」
ただありのままに。
世界がどうなっても心から笑うことができるのなら。魂を、意志を貫いていけるのならば関係ないと彼は言っているのだ。
「一つだけ訂正するなら、世界にあるべき姿なんてないってことだよ。少なくとも俺はそう思う。あ、別に世界云々を問うことは否定しないぜ。寧ろどんどんやってくれ。それが世の興亡の証だ」
「……なるほど」
「何の解決にもなっていませんが」
レオナルドはアサシンの言葉に思うところがあったのか笑みを浮かべながら頷き、シオンは嘆息する。
「だから、そこらへんは任せるよ。俺はただ、大切な人と一緒にいられればそれでいい。今のところは主殿だなうん」
「折檻二倍よ」
「なぜに!?」
そんな取ってつけたように言われても嬉しくない。
「……興味深い話でした。また貴方の話を聞けることを願っていますよ」
そう言ってレオナルドは去っていく。ガウェインもわずか何か言いたげだったが、しかし無言で主の後を追っていく。
「カレン、私もマイルームに帰ります。まだ決闘が残っているので」
そう言ってシオンも背中を向けて立ち去った。いつもより淡白なのは言葉通り決戦前だからだろう。それなのにこんな討論に巻き込ませたのは正直申し訳ない。いつも世話になっているので、いい加減なんらなかの形で恩返しをしたいのだが。
「まぁ、それも今度だ。帰ろう主殿」
アサシンの言葉に頷く。ありすとの決戦の後のこれだ。きっとマイルームに帰ったらすぐに眠りに落ちてしまうだろう。
そうしたらすぐに四回戦。四回目の殺し合い。
また誰かと殺し合うのだ。
「その前に貴方の折檻ね」
「あ、本当にやるのね?」
なにはともあれ自分らしく生きていけばいいさ精神。
魔改造とかにもつながってくる考えですね。
次話はついにあれ。誰を救うかは明白ですが、さて誰から救うのでしょうか