落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 番外編まとめ 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
その日、マイルームの外は静かだった。朝起きて、身だしなみを整えてから部屋を出た。昨日で私の三回戦は終えたが全体的に見ればそうでもなかったらしい。端末には四回戦の相手は未だ表示されないままだ。
だからなにはともあれ朝食だと思ったところだった。
「――」
そして彼女の背中を見た。階段から決戦場へのエレベーターへと足を踏み入れるシオン。昨日よりも静かに。昨日よりも激しい。その背中には必勝の意志と殺人の覚悟が確かにあった。部屋の外が静かだったのは、静かにさせられていたのだ。あのシオンの気配は尋常ではない。地上最後の錬金術師。その名は飾りでもないということを今の彼女が示していた。
昨日の言葉を思い出す。
『これから決戦だな。相手は……先にエレベーターか』
アサシンの言う通り対戦相手は姿を現す気配はないから、すでにエレベーターの中でシオンを待っているのだろう。
「……」
声を掛けるか迷う。
迷っている間に彼女は足を進めていた。こちらに気付いていたかは解らない。どちらにしても彼女は迷うことなく足を踏み出していた。姿が消えて、エレベーターが動き出す。
『主殿』
「……えぇ、解っているわよ」
今の私にできることはない。余裕も力のどちらもだ。精々彼女が帰ってくることを祈るばかり。相手が誰だか知らないが、それでもシオンはこの聖杯戦争の間に何度も世話になっているから。
「朝食に行きましょうか」
『あいあい』
●
地下の食堂で朝の麻婆豆腐を食べ、アサシンにも食べさせたら嬉し涙が出るほど喜んでいた。これからもちゃんと食べさせよう。サーヴァントの食生活を管理するのもマスターの仕事の一つだ。食事を終えて二階のマイルームへ帰ろうとして見慣れない人影を見た。
黒い、変わった服装の男だった。
「ユリ、ウス・B・ハーヴェイ?」
『知ってるのか? そういや何度か見たことがある気がするが』
「聞いたことがある、かしらね。西欧財閥の殺し屋よ。それなりに有名な男よ」
確か予選の時は『葛木』などと名乗って教師をロールプレイしていたはず。殺し屋の教師なんて今時流行らないような設定なのに。
彼はこちらを一瞥し、すぐに視線を離して三階への階段を上がっていく。
「ふむ……追ってみましょうか」
『物好きだなぁ。危なくなったら引き返せよ』
アサシンの言葉に頷きながらユリウスの背中を追う。ちょうど四回戦の相手も発表されず暇だった所だ。これではアサシンで遊ぶことしかない。
『サァイコウゼー』
彼を追う。一応ばれないように足音を気を付ける。簡単な気配消しはアサシンが教えてくれていたので実践する。なにかと役に立ちそうだ。ユリウスは階段を上がって三階の廊下の奥へ進む。私が廊下を上がり切ったと同時にユリウスは廊下の奥の部屋に入っていた。視聴覚室だった。
あそこは確か基本的にはマスターには解放されていないはず。
とりあえず視聴覚室の前まで行ってみた。
やはり中にユリウスがいるのだろう。中から微かだが声が声が聞こえてきた。
「ぴとっとな」
『ノリノリだねぇ』
アサシンと共に扉に耳を付けて中の様子をうかがう。なにやらぶつぶつと聞こえるがコードキャストかなにかだろうか。
「やはり決戦場ともなると最高レベルのセキュリティか。これはさすがに……」
それで彼の用事は終わったのか動く気配。扉から離れるも隠れる場所も時間もない。
出てきた。
「……貴様は」
ユリウスが私の姿を見てわずかに目を見張る。そして放たれたのは指すような殺気だった。しかしすぐに何事もなかったのかのように立ち去った。
彼が何をしていたのかは興味があるので視聴覚室に足を踏み入れる。薄暗い大きな部屋だ。普通の教室の倍あるかないかくらいの広さ。大人数で映像を見るときに使うのだろう。人気はなく、私と実体化したアサシンだけ。
「ん、主殿。アレ」
アサシンが指したのは部屋の中央に置かれた映写機だ。資料でしか見たことのないレトロなもので中々に趣深い。けれど問題はそこではなく。
明らかに周囲を構成するデータが不自然だった。ここ最近少しずつだがハッキングの練習もしているから、いやたぶん素人でもわかるくらいのおかしかった。
「あの黒いのがいじってたのはこれか?」
「そのようね」
何かわかるかもしれないと思って、手を伸ばし映写機に触れて。
脳に衝撃が走る。
「――――」
一瞬後には消えたがしかし突然のことで体から力が抜ける。
「カレン!」
支えてくれたのは言うまでもなくアサシンだ。顔に焦りを浮かべながら私のことを抱きかかえていた。一瞬視界がぼんやりとしていたが、すぐにそれも回復し自分の足で立つ。
「大丈夫かカレン? しっかりしろ」
「……声が響くわ。大丈夫、だから。少しふらつくだけよ」
そう返したら、彼は困惑気な顔をしながらも私を離さない。
「本当、か? けど、今のは……ともかくなにかあったらすぐ言えよ」
「え、えぇ」
いつになく真剣のアサシンの言葉に頷きながらも彼から離れる。軽く自分の体をスキャンするが、本当に異常はない。先の一瞬だけは衝撃があったけど今では普通に歩けるし、アリーナに行っても大丈夫なくらい。
アサシンは未だにこちらを心配そうに見ていたが――すぐに、黒板に映し出された映像から目を離せなくなった。
「これは……」
決戦だった。
向かい合うのは二人の英霊。
白黒の騎士法衣に銀髪の女性。右腕には身の丈もある盾と槍が合体したような武器を装備している。彼女と相対するのは落ち武者めいた初老の男だ。髭が濃く、黒髪もざっくばらんにまとめられていた。身に纏う和装もボロボロ。左目の眼帯が異様に目立っていた。手に握っていたのは火縄銃だろうか。何百年前の日本で用いられてきた旧世界の武器だ。連射できるような性能はなかったはずだが男は馬鹿みたいに撃ちまくっている。
そして彼らを使役するのは二人の少女。
一人はシオン。
そしてもう一人は紺の短髪の私とよく似た意匠のカソックの少女。指の間黒鍵と呼ばれる武装を挟んでいるのは――、
「『弓』のシエル!?」
「知り合いか」
「……教会、埋葬機関の代行者よ。異端の私とは違って、埋葬機関内でも屈指の実力者。まさか彼女がシオンの相手だなんて」
言っている合間にも戦いは続いていく。
音声はないが、男が哄笑を上げているのが解る。狂ったように笑い叫んでいるその姿は一見してバーサーカーと解らせられる。銃というならアーチャーか、一回戦のようなライダーも考えられるがアレは違う。正真正銘、見るから狂っている。放たれた弾はアリーナの大地を抉り、徒手空拳や銃での殴りつけは大気を震わせる。防御のことなど無視した戦い方だった。
対して銀髪の女――シオンのランサーは防戦一方だった。バーサーカーの攻撃を防いではいるが、それでも攻撃に移る機会が少ない。
「いや、あれはカウンター狙いだな。あのランサーは防御が得意だからあえて攻撃をほとんど捨ててる。多分、隙を付いて宝具かなにかで決めるつもりだろう。……けど」
言いたいことは解った。
バーサーカーの猛攻に対してランサーがカウンターを狙っているとアサシンが言うならばその通りなのだろう。だから問題はマスターたちだ。
「代行者、ね。生身でサーヴァントとも戦えるキチガイか。そりゃあ錬金術師のシオンにはきついだろう」
画面の向こう側でサーヴァントとは別にマスター同士の戦闘が行われていた。黒鍵を用いるシオンと拳銃とエーテライトと呼ばれる錬金術師の鋼糸を用いていて戦っている。本来は電脳空間へのハッキングに持ちいるものらしいが精神ジャックや物理的な戦闘にも転用できるらしい。
そして二人の勝負は完全にシオンが押されていた。
シオンが放つ弾丸やエーテライトによる攻撃をシオンは全て回避し迎撃する。放たれる黒鍵はただの刃ではない。徹甲作用とかいうこれまたキチガイの技で投げたらトラックの衝突事故とかそれ以上の衝撃を生み出すという。シオンのジリ貧だ。
このままではシオンが負ける。
このままでは彼女が死ぬ。
それは――
「――不可能じゃないぜ」
「え……?」
唐突に言った言葉に体が硬直する。どきり、と心臓がなった。
「顔に出てるぜ主殿。何が言いたいのか丸わかりだ」
アサシンの顔には笑みが。これ以上ないというように、嬉しそうな笑みがあった。解らない。この状況でどうしてそんな顔がしているのか。いや、私の考えていることは、つまり。
「助けたい、んだろ。世話になってるもんな。アンタの友達だもんな。負けそうになってるんだから、そう思ってるんだろ」
「それは……っ」
間違って、いない。確かに今私はそう思った。
シオン。
彼女の存在は言うまでもなく大きい。彼女がいなかったら私は今ここにいなかったから。
助けたいと思う。
「でも、そんなことは」
「できる」
アサシンは断言した。
「ここでこうやって決戦場が見れるってことは何かしらのパスが繋がっているってことだ。そこをこじ開けてシオンを回収すればいい。そうすれば彼女は助かる。ただ、出力不足。今の俺じゃあ無理だ。だから」
アサシンが示したのは私の手のひらにある痣だ。令呪だ。
「それを使えば俺の力もブーストして、ある程度なら本来の力を取り戻せる。行くのに一画。帰ってくるのにもう一画。それだけ消費すれば救出は可能だ。 令呪っていうのはつまりはブースト装置だから。結構無理できる」
でもそれはつまり。
ここで彼女を助ければそのブースト装置二つを失うということ。賢い選択をするならば絶対に使ってはならない。この聖杯戦争で生き残るのは一人だけなのだ。ならばどうせシオンも戦わなけれならない相手だった。だから、ここでそんな選択をするのは愚か者だ。
あぁ、ならば――、
「私は――愚か者よ。駄犬、貴方の馬鹿っぷりが映ったのかしら」
「まさか。アンタそういう風だから俺はアンタに召喚されたんだ」
「そう。……ならアサシン、カレン。オルテンシアが令呪二画を持って命ず――彼女を助けて」
「――委細承知」
手の甲の令呪が二つ、弾けるように消え去る。
同時に、
「咲き誇れ高嶺の華――今こそお前を摘んでみせるから」
アサシンが拳を振るった。何が変わったのかは私には解らなかった。しかし確かにアサシンの内面では何かが改変された。
腕を振りかぶり、足を踏み出し、身体の回転と共に拳を射出する。これまで何度も見た動き。それが行われ、
喝采音と共に黒板に穴が開き、アリーナへの道が生まれた。
「行こうカレン。アンタの意志が求める先に」
行く。
僅かな浮遊感が一瞬。その次の瞬間にはもう先ほどまでの画面の中の決戦場にいた。
「な、カレン……!?」
「馬鹿な、乱入者!?」
「これは……」
「ほほう……?」
反応は四者四様。マスター二人は驚愕し、サーヴァント二人はわずかに目を細めながらも戦闘態勢を解かない。少なくともサーヴァント同士では強度は同等だ。
「インカーネイト……!」
「ぐぉ!?」
だからこそアサシンがその拮抗を粉砕する。全身に蒼い光を纏ったアサシンはバーサーカーを蹴り飛ばす。防御されたがそれでもバーサーカーはぶっ飛び、シエルの下へ。
「ぬははは! 面白いことになってるなぁ!」
「笑ってる場合じゃありません!」
相手側の主従が叫びあっている間にアサシンとランサーが私たちの方に下がってくる。シオンは未だ動揺が消えておらずシエルとの戦闘でかなり疲弊している。それはランサーも同じだったはずだが、私とアサシンを見てわずかに目を細めてから、
「これで貸し借りチャラかな?」
「馬鹿野郎。友達に貸し借りあるかよ」
「それもそうか。じゃあ同胞、彼女を頼んだ」
「任されたよ同胞。一曲頼むぜ」
ランサーは前に出て、アサシンは私とシオンを両脇に抱えて膝を沈める。
「ランサー、なにを……? 話してくださいアサシン! 彼女は私のサーヴァントで――」
「謳え、ガマリエル。ラストナンバーだ」
シオンの言葉にランサーは構わなかった。振り返ることなく右腕の槍盾を掲げる。その前に輝く魔方陣が出現した。光を放ち、徐々に強くなっていくそれは言うまでもない。
「宝具! バーサーカー、防御!」
「おうよっ!」
相手側が防御態勢に入るが、魔方陣の輝きは止まらない。視界一杯真っ白な輝きが広がっていく。
「行け!」
アサシンが飛んだ。
同時にランサーがその宝具を開放する。
「祈れ! その魂が奇跡を宿すなら、裁きのあとに救われよう!」
叫びともに轟音と衝撃が決戦を揺るがした。視覚と聴覚がシェイクされて感じることができたのは自分を抱えるアサシンの感触だけだ。でも、最後に耳に届いたのは私ではなく彼女に向けられた言葉で――
「さよならだシオン。君は生きろ。あぁ、今度は君を守ることができて嬉しいよ」
決戦場からはじき出された。
帰って来たのは先ほどまでいた視聴覚室だ。肩で息をする自分とシオン。それに、
「……」
笑みを浮かべたアサシン。彼は言葉なくしかしたまらないというような笑みがあった。令呪を使う前と同じ。
その令呪も今では一つしか残っていない。
それでも、
「カレン……貴方は何故、いやそれよりもどうやって……?」
シオンを助けることができた。
「……」
彼女は私を信じられないというように視線を向けたが、
「っ……ぅ」
ふらりと意識を失って倒れこむ。とっさに受け止めたが私も疲弊が激しく受け止めきれずにアサシンに支えられた。
「シオンは保健室に運ぼう。桜に任せたほうがいい」
「え、えぇ……アサシン」
「ん?」
「ありが、とう」
これだけは言っておかなければならなかった。今回は完全に私の我が儘で令呪という切り札を失ってしまった。私のような未熟な魔術師にはもっと使うべき時があったかもしれないのに。
「は、いいんだよ。主殿。そんな時はない。あったとしたら今だった。友達の為に命懸けるとか、まさしく俺のマスターだよ。胸を張ってくれ。少なくとも彼女はカレンがいなかったら死んでたさ」
ならば彼の言う通り。
私は――自らの選択を誇ってもいいのだろうか。
私にはまだ、解らない。
もう一人はシエルさんでした。
カレーじゃないの。リメイク版のイメージなの。カレー臭はまだ隠されているの(
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CLASS:ランサー
NAME:リーズバイフェ・ストリンドヴァリ
MASTER:シオン・エルトナム・アトラシア
NOBLE PHANTASM:正式外典『ガマリエル』
KEYWORD:音楽家 タタリ
筋力:B+ 耐久:B 敏捷C 魔力:A 幸運:C
固有スキル:旋律詠唱
怪力
城塞の聖女
リーズさんのステータス。
全体的に高目で宝具も相手によっては即死級という結構強い人。
相手が悪かったんや。