落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 番外編まとめ   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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第二十八海「久しいな、同胞」

 

 アリーナに侵入する。どの月想海も一層目のディテールは極めてシンプルだ。簡素な廊下は緑色と黒に分割され、それ以外の装飾は特にない。これが二層目からになると、各月想海固有の特徴を得ていくのだろう。

 隣のアサシンは外見上は変わりない。蒼い着流しに袴。胸にある大きな十字傷。そういえばこの傷をのことをまだ詳しく聞いてなかったが、彼の生前のことに関係あるのだろうか。

 いや、それを言うならば。

 昨日のアリーナの道をこじ開けた時やシエルのバーサーカーと戦っていた時の事。このアサシンは物理特化だ。気配遮断はデフォルトで備わっていて、かなり高レベルのが常時発動しているらしいが、本人曰く趣味で真っ向からの殴り合いを好んでいる。一体これのどこが暗殺者だと突っ込みたいが、とにかく彼の攻撃手段は殴る蹴るに限定されている。これまで共に戦ってきて、それくらいのことは理解している。

 なのに昨日は虚空を殴り、それによって道を拓いた。

 あの時の喝采音は耳に残っている。それにバーサーカーを蹴りつけた時に、身に纏っていた光。『瑠璃色之守護』に似ていたがアレは別物だった。アサシンの残された最後の固有スキルに関係あるのだろうか。

 改めて思う。

 自分はこのサーヴァントのことを知らない。マトリクスには彼の性質として『落ちこぼれ』と『拳士最強』や二つの固有スキルがあるにしろ、彼の真名は解っていない。

 自分と同じ呪いのような生まれでありながら尚幸福だったと胸を張れる彼は、どうしてそんなことが言えるのだろうか。

 

「主殿……ってどうかしたか?」

 

 ぼんやりと視線を送っていたら目が合った。何でもないと言い返しつつ言葉の先を促す。

 

「マスターとサーヴァントの気配がある。アリーナのどっかにいるな。気を付けろよ、気配がやたら禍々しい。さっちんの気配じゃないからサーヴァントだろうけど……あんま真っ向から行かないほうがいいかもな」

 

「……貴方に正面から真っ向勝負以外の選択肢があったの?」

 

「あるよそりゃあ」

 

 驚くが、それはつまり相手がそれだけのサーヴァントであるということか。これまでの相手は直接戦闘がメインの英霊ではなかったが、それでもアサシンは構わずに正面から戦っていた。その彼がそういうならばなるべく接触は避けた方がいいだろう。

 

「経験値とアイテムメインで行きましょうか」

 

「おうよ」

 

 遠目で見る限りアリーナにいるのはこれまでにも戦ったことがあるような形状のものもいれば初めて見るのも多い。相手がどうであろうと経験値稼ぎは必要だ。相手のパターンを記憶し、先読みしながらアリーナを進む。

 

 

 

 

 

 

 

 弓塚さつきとまだ見ぬサーヴァントをアサシンが気配を探って、遭遇を回避しながらアリーナを進んでいく。慎重に進んでも全体を歩き回るにはそれほど時間は掛からない。目についたエネミーを倒し、アイテムを得ていけば、

 

「あら……?」

 

 ふと通路の中に光る何かがあった。

 アイテムのようなものではないし、素通りしてもおかしくないようなものだったが、それでも一度目についたら離れられない。

 

「データの塊か?」

 

 アサシンがそれを見て言う。データの塊といえば今の自分たちもそういうもののはずだ。なのにそういうのはどういうことか。

 

「あぁ、言ってみれば単なるバグだよ。ムーンセルはアホみたいに情報集めまくってるからな。それこそ平行世界まで手を伸ばして。そんだけやってればバグだって生まれて当然だろ? その中で解りやすいのコレさ。ムーンセルの隙間、とでもいえば言いのかね。これに干渉すればムーンセルの情報をいくらか閲覧できるはずだぜ?」

 

 内容よりもこのアサシンがそういうことを知っているのに驚いた。

 

「ひでぇなぁ……まぁ確かにアーカイブ覗いてそのまま言ってるだけだけどさ」

 

 愚痴を言うアサシンからその隙間とやらに視線を動かした。ムーンセルを閲覧できるということは一瞬のハッキングということだ。

 

「まぁ今の主殿ならそこそこのことは読めるんじゃないのか? 流石に相手サーヴァントの情報は無理でも、例えば地上のこととかさ」

 

「……生憎、そこまで知りたいことなんてないのだけれどね」

 

 言いながら光に手を伸ばす。ムーンセル。それはつまり森羅万象の観測機。地上のあらゆる情報、果てまでアサシンのいう様に平行世界のこともあるはずだ。

 あぁ、つまりそれは。他の世界の自分も記録されていることではないのか。

 この私のような落ちこぼれではなく、単なる一人の少女としての自分が。あるいはこの呪いを宿しながらそれでも笑っていられる自分が。もしかしたら幸せだと言い張っている自分がいるはずではないのだろうか。

 光に手が触れる。

 キンッ、という甲高い音が鳴り、端末に情報が送られた。それの閲覧はマイルームに戻ってするとしてアサシンへと視線を戻す。

 

「―――」

 

 彼は極めて無表情だった。

 何時ものように笑みを浮かべるわけでもなく、昨日のように困惑するわけでもなく、私がアーチャーの毒を受けた時のように激昂するわけでもなく、その後の申し訳なさそうな顔や、子供のような笑いでもない。決戦の時に私を励ましてくれた優しい笑みでもなかった。

 字のごとく表情が消え去っていた。

 能面のようなそれは、まるで――感情が爆発する前触れのようだった。

 声を掛けるをためらわれた。常に飄々している彼をなにがここまでさせるのが解らず、それでも声を掛けようとした時だった。

 

「あ、カレンさんだ! さっきぶりでーす!」

 

 緊張感ゼロの声がアリーナに届いた。視線を向けた先にはやはりというべきかさつきだ。現れた彼女は先ほど会った時と変わらずに天真爛漫というような笑みを浮かべてこちらに手を振っている。微笑ましいという光景だが――隣のサーヴァントが全てを台無しにしていた。

 黒髪の長髪に中世的な美貌の青年。身に纏うのは赤いコート。些か古風のデザインだがどうもても現代風のファッションだ。その恰好だけみればモデルかなにかに見えただろう。

 けれどその真紅の瞳が全てを台無しにしていた。

 まるで奈落のような、地獄のような真っ赤な瞳。アサシンの蒼とは対極であるようなその瞳は見るだけで背筋が凍る。気持ちが悪い、怖気がはしる。吐き気がすると言ってもいい。

 

「――」

 

 そのサーヴァントは私たちを見て、軽く目を見張った。いや、正確にはアサシンを見て――

 

「ははははははははははははははは!」

 

 嗤った。笑った。哂った。

 あまりにも突然に腕を広げながら、その真紅のサーヴァントは嗤う。となりのさつきはぎょっとするように彼を見るが笑い声は止まらない。そして私は耳をふさぐので精一杯だった。何かしらのスキルなのか聞いているだけで吐き気が止まらない。精神が浸食されていくように。

 唐突に嗤い声が止まった。

 

「――」

 

 それでも口元には笑みが張り付いたままで――

 

「ちょっ、ランサーさん!?」

 

 こちらへと歩いてきた。思わず身構えるのと同時にアサシンも前に出る。私を庇うように背で隠し、相手のサーヴァント――ランサーと同じように足を進める。そうして私とさつきの中心点で彼らは向かい合い、

 

久しいな(・・・・)同胞(・・)

 

 ランサーは言った。

 

「え……?」

 

 その言葉に私は耳を疑った。

 同胞とランサーは言った。それはつまりあのランサーとアサシンが同類だと? 昨日シオンのランサー、リーズバイフェにそう言っていたのは記憶に新しい。それは解らなくもないが、この奈落のような男とアサシンが同類だと?

 

「あのーランサーさん? お知り合いですか。そちらのサーヴァントと」

 

「あぁそうだマスターよ。この男は私と同類だ。同じ人外だ。同じ化物だ。まさかこんなところで相見えるとは面白い。あぁ何か言ったらどうだ。『ただ戦っているだけの人外』――」

 

 アサシンがランサーの顔面に足刀を叩き込んだ。

 

「――!?」

  

 その動きは一瞬だった。私もさつきも気付いたときはアサシンがランサーを蹴り飛ばし、飛ばされたランサーが顔面から血を吹きあげながら吹き飛んでアリーナに激突していたのだ。ムーンセルの干渉も入らないくらいの早業。完全に予備動作なく放たれた一撃だった。それを放ったアサシンは蹴りの姿勢から自然体に戻ってから言う。

 

「ふざけるな吸血鬼。俺とお前は違う。俺は人間だ」

 

 顔面から血を流し、たおれ伏したランサーへと言う。ランサーは動かない。それにも関わらずアサシンは我慢がならないというように言葉を続けた。

 

「お前の知っている俺とこの俺は別人だよ。そのくそったれの目でちゃんと見やがれ。あと勝手に真名ばらそうとするな。まだ主殿に言ってないんだ」

 

「ふむ」

 

 アサシンの言葉を受け、ランサーは何事もなかったように立ち上がった。

 顔に傷は――ない。

 アサシンが叩き込んだはずの一撃は消えていた。いや、それよりもよく見ればデータ的なHPは満タンのままだ。

 

「驚くなよ主殿。こいつはそういう存在だ。――一回や二回殺したって意味がないんだから」

 

「知らぬというには詳しいではないか守護者。私の知っているお前ではないだと? ならばなおさらお前はなんだ? お前の大事な主でもお前を殺した人間でもないそれは何だ?」

 

「余計なお世話だ。人のこと言えないだろうがこの婆専が今更女子高生に鞍替えかよ」

 

「処女に血を好むのは吸血鬼らしいだろう?」

 

 互いににらみ合いながらもアサシンとランサーの言葉を続いていく。会話というよりは悪態を付き合っているようにしか見えない。友達や仲間というには険悪だ。しかしそれでも互いに知り合っているのはまさしく――、

 

「主殿、ここは引くぞ。こいつと今戦うのはやめた方がいい」

 

「などと言っているがどうするかねマスター? 私はまだオーダーを受けていない。さぁどうする? ここで私に命を出し、こいつらを絶滅させるかね」

 

「え、えぇ!? まだ初日じゃないですかー! 駄目ですよ! ちゃんと決戦場で勝負しないと!」

 

「……そうか。ならばこちらも引くとしよう。あとマスターよ。相変わらず声が耳に響く。どうにかならないのかね」

 

「えぇー!?」

 

 ランサーとさつきが言い合っているがアサシンはそれに背を向けて私の下へ戻ってくる。

 

「戻ろうマスター。さっちんが命令していないならあいつも動かない。今の内に」

 

「え、ええ」

 

 トリガーを得ていないし、経験値稼ぎもまだ十分ではないがまだ一日目だ。明日行けばいいだろう。それに――あのランサーの近くにいたくない。視界に入れるだけでおぞましい。そして彼とアサシンの関係も聞かなければ。

 

「あぁ、かえって話す。色々長い話になるから」

 

 そう言ってこちらの背中を押すアサシンにはいつもの余裕はない。

 それほどまでにあのランサーは規格外だということか。

 それとも――先ほどの無表情がそこまでのことだったのか。

 

 




吸血鬼といえばこの人だろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお(白目

殺シノンの時に人外化したアサシンと旦那が知り合いだったという設定。
人外同士仲良くしたんじゃないかな(


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