落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 番外編まとめ 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
「くそったれが!」
主殿と共にマイルームへ帰ってきて、俺は思わず叫んでいた。衝動的に壁をぶん殴って亀裂が入る。主殿が目を見開いているが、構っていられなかった。それくらいに気分は最悪だ。脳みその中は煮えたぎるようだし、腸も煮えくり返りそうだ。これに比べればロビンフットの奇襲なんて生優しい。サーヴァントとしてこれまではなるべく飄々と、昔の俺に似た彼女を支えるために年長者らしく振舞ってきたつもりだ。彼女は驚くことに十四歳で、その時の俺なんてまだ屑だった頃だ。導く、なんて口が裂けても言えないがそれでも彼女の力になろうとしてきた。
それでも今回ばかりは我慢できなかった。
「ア、アサシン?」
戸惑うような主殿の声。銀髪と琥珀の瞳の少女。俺と同じように――俺よりも救いようがない少女。なにがあったと聞かれ、しかし乱れた呼気では返答ができなかった。荒い息が煩わしい。思い返すのはあのランサー――ではない。
その直前に触れた情報だ。
「……くそがっ」
思い返したらまた吐き捨てた。
今の自分は二十歳前だ。平行世界の自分がいくらか混じっているから正確には言えないがそれでも基本的には『極東戦線』にて死んだ俺がメインだ。元々熱くなりやすい性質だったが『極東戦線』に於いてそういうのはキンジに任せてきたから、冷静さを失うことはあまりなかったがそれでも。
「ちょっと、アサシン……」
「あぁ、悪い。すぐ話す。だから少し待ってくれ……どこから離せばいいのかわからん」
「え、ええ……」
乱暴な言い方だった。軽く自己嫌悪しながら、それでも今は言うべきことをまとめ、赤熱した頭を落ち着かせる。考え事は苦手だ、なんて言ってられる場合ではない。振り返ってカレンと向き合う。
「カレン。落ち着いて聞いてくれ」
「なにかしら? 落ち着いたなら早く話を」
「――アンタはもう死んでる」
「――」
カレンの動きが止まった。それは当然のことで、それでも俺は言葉を続けた。
「多分、地上の肉体がもう消えてる。だから、今のアンタはありすみたいな
カレンの琥珀の瞳が見開かれる。毒舌を付く平素の彼女の様子はなく、ただの生に惑う少女でしかなかった。それは見ていて痛々しくなるような儚げな少女。それでも目を逸らすことはできなくて俺は語り続ける。
「違和感は、ありすの言葉からだった。彼女はカレンのことを同じだと言っていた。その言い方に疑問は持ったけど、それは俺やナーサリー・ライムみたいな守護者の英霊に守られている存在だと解釈した。だからそれは違和感で済んでいた」
けど決定的だったのは、
「昨日のアリーナへの干渉だ。ユリウスがあれを放置したのは、放置するしかなったからだ。あの時アリーナの防壁に干渉したけど……常人なら脳が焼き切られてもおかしくなかった」
だからあの時は焦った。そしてそれ以上に、なんのこともなかったように済ましたカレンが信じられなかった。そしてそのことを追及する間はなかった。決戦の観戦とシオンの救出。それが予断を許さなかった。
あの時のカレンの選択が俺にとってはなによりも眩しかったから。
「それでも極めつけはさっきのムーンセルの隙間だ。カレンは平行世界の自分にアクセスしてたけど、俺の方はアンタを通して地上の情報に干渉させてもらった。そして――知った」
カレン・オルテンシアがもう存在しないことを。地上のどこにも彼女の肉体がもうないことを。ほぼ間違いなく、地上の教会の連中が殺したのだろう。捨てたのだろう。廃棄などといって彼女を捨てたのだろう。いや或はその希少性から死体を弄っているのかもしれない。前時代の聖堂教会なら確実にそうしている。頭が怒りで弾けそうだ。地上の連中はカレンが勝手に死んだと決めつけたのだ。
いつから、というのは解らない。おそらくは三回戦よりも前。もしかしたら予選の段階からそうだったのかもしれないのだ。
「ごめん。すまないカレン……俺は、俺には何もできない。すまない。殴るしか能がない俺には、何もできないんだ」
たまらずに目を伏せた。合わせる顔がない。
何が英霊だ。
何がサーヴァントだ。
何が守護者だ。
何が拳士最強だ。
結局俺は――なにも守れない。
「ごめん、カレン……」
「アサシン」
掛けられた声に応える顔ができなかった。今自分はどうしようもく情けない顔をしているだろう。そんな顔を見せたくはない。だから、答えず、
「アサシン。アサシン。聞きなさい」
「なん、だよ」
「しゃがんで」
「は?」
耳を疑った。しゃがめ? しゃがめとは体を縮めるあれか。こんなことを言われるような話をしていたつもりはなかったけれど、再度言われてしゃがんだ。
次に言われたことは、
「床に手を付いて」
床に手を付いた。必然的に四つん這いの姿勢になる。そういえば昔レキに頭抑えられながら街を歩いたのを思い出した。あるいは遙歌と再開した時に踏みつけられたというのも。場違いな記憶の再生と同時に、
「――この駄犬が」
「ぬがっ」
カレンの足が俺の頭を踏みつけていた。いつの間にか靴を脱いでいたのかストッキングで包まれた足が俺の頭を踏みつけていた。よくあるぷに、などという効果音ではなかった。ごすっ、である。若干浮いていたから床に鼻から叩き付けられる。冗談でもなんでもなく痛い。鼻や眉間というのを強打すると涙が零れるのはどうしようもない。目の端に涙を溜めて、顔を上げようとして
「な、なにを――」
「この駄犬が」
「ぐあぁ」
同じ言葉と共にまた脳天を踏みつけられた。痛い。痛いがしかし意味が解らない。こんなギャグパートの話じゃなかったのに。
「はぁ…………はぁ」
「な、なぜ、二回もため息を……」
「この駄犬が」
まさかの三回目だった。
そしてカレンはそのままに言う。
「そんなことは、解っていたことよ」
「な――」
「私が何のために聖杯戦争に参加したのか、もう貴方には解っているでしょう?」
「それは」
それは知っている。他でもない彼女から聞いたのだ。『被虐霊媒体質』という時代を間違えた聖女である彼女は地上から居場所を失い、この月へと送り込まれた。そしてそのために来た彼女は、それでも生を諦めることができずに俺と契約した。
「元より死ぬしかなかった。どうせ私が月に送ってからすぐに殺した、いいえ実験材料にでもしたのでしょうね。貴方はそれで怒っているのかも知れないけど、それでもそれくらいなら私にだって検討ついてたわ」
カレンは足を退かす。そうしてしゃがみ、
「それで? 貴方はそれを知ってどうするというの?」
目を合わせる。
「呪い持ちで、マスターとしての才能はなくて、戦闘の才も、読みの才能も。挙句の果てには体すらもない、マスターとしてはもう最悪の部類になってしまうような女はもう御免かしら? 私のことを見捨てるかしら?」
「そんなわけが……!」
「ならいいわよ」
別にいいと、カレンは言う。
「どうせ地上に居場所なんてなかったし構わないわよそんなの。どうしようもないのだから。それでもなにもない私には貴方がいる。貴方が私を生かしたのよ。まだ生きる意味も戦う理由も見つけられていない私に、それらを見つけろと貴方が言ったの」
まだ私はそれを見つけていないから。
「貴方が共に戦ってくれるのならば地上の肉体なんて些細な事よ。――今私の魂は、貴方と共にあるのだから」
「……は、はは」
知らず知らずの内に口から零れたのは嗚咽にも似た笑い声だった。俺が勝手に絶望しきっていたのに、彼女は前を向いていた。導くなんて、支えるなんてとんでもない。あぁ勘違いしていた。俺はどっかの神様でも王様でもないんだ。いつだって俺は追いかける側だった。追い求める側だった。勝手に惚れて、命張って来たのだ。
「……あぁ、やばいなこれは」
困った。実に困った。これはやばいなぁと思う。自分という英霊は基本は彼女に惚れているが、それは記録に近い。多分、俺たちのような成れの果てではなくてちゃんと始まって、進んで、生きている俺がいるのだろう。だからあくまで英霊である俺とそれは別だ。
どうにも頭が痛くなるけど。
「……悪くない。むしろいい」
「なにを勝手に自己完結しているのかしらこの駄犬は」
「あ、ちょ、踏まないでっ。くせになるから。若干癖になりつつあるからっ! ぐりぐりしないでまじで!」
●
それはいつかの夢の続きだったのだろうか。
体は重い。鉛のように。指の一本でさえ力は入らず、視界はもう機能していなかった。見えるのは、これまで自分が歩いてきた道のり。走馬灯というのは彼にとっては二度目で、一度目のそれよりも随分長く感じたから彼の生にはそれだけの重みがあったのだろう。
「あー……くそ」
彼は言った。周囲になにがあるのか、誰がいるのかはもう解らない。誰かいるのだろうか、誰もいないのだろうか。それすらも判別できなかった。それらの原因は胸に縦に刻まれた大きな刀傷だ。それまで彼にあった十字傷、その縦のほうを塗りつぶすように叩き込まれた斬撃はどうしようもなく彼を死へと追いやっていた。肉体の修復という手段を持っていた彼でも
「ちくしょう……勝ちたかったなぁ」
彼は言う。声にならない声で。いや、彼がそう思っているだけで、実際には音として発生していない。それでも彼はその命の炎が消え去るその刹那まで、あるいは死してなおも、ずっとずっと想いつづけてきた。
「……護りたかったんだけどなぁ。ごめん、ごめん。ごめんなぁ」
■■、と。
彼は誰かの名前を呟いた。
こ、こんなのカレンさんじゃないよ!とか思わなくもない。
半オリキャラだけど大丈夫なのだろうか。
CCCでは原作に近い感じ書きたいです。
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