落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 番外編まとめ 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
カレンの想いを受け、気持ち新たにした翌日。今日も今日とてアリーナへと赴かなければならない。昨日はあの吸血鬼のせいでトリガーを取り損ねたのだから今日は手に入れなければならないだろう。思い、張り切ったのに、
「保健室でシオンと話してくるわ。ついで、桜を弄りに。……え? 何かしらアサシン。貴方は花も恥じらうガールズトークに乱入するという紳士にあるまじき行為をするケダモノかしら? 『拳士最強』というのは殴る蹴るしか能がないということなのかしら?」
などと微妙に否定できないようなことを言われてしまった。
「なんだかなぁ……早まっちゃったか俺」
そんなわけで保健室では本人曰く花も恥じらう乙女たちのガールズトークらしい。ぶっちゃけ毒舌サドシスターに錬金系女子の二人はそれに入れていいのか迷うところだ。桜だったら多分枠に入れてもいいだろう。本人たちに言ったらひどい目に合うから絶対言わないけど。
それにしたって暇だ。
ふと視線を動かせば廊下の先に言峰がいた。
何も言わずにいい笑顔で麻婆豆腐の皿を見せつけてきた。
無言で目を逸らした。
ぶっちゃけあれはトラウマだ。カレンが平気で食べているのが不思議でしょうがない。レキも普通に食べていたが、電波系ヒロインの秘訣なのだろうか。
ともあれ、視線を言峰からずらして反対方向に向けた。
「あ、アサシンさん」
「ほう」
「げ」
さつきとランサーが中庭への出入り口から現れた。さつきは昨日と同じ姿だが、ランサーは赤い帽子と丸いサングラスを付けていた。教会から来たということは魂の改竄でもしていたのだろか。
「こんなところでどうしたんですか?」
「うちの主殿がこの中でガールズトーク中だ。野郎は追い出されたよ。お前さんもどうだ? 入って花も恥じらう乙女とやらの話をしてけば」
「え、でも……拙くないですか?」
「別に大丈夫だろ。雑談くらいなら」
俺の言葉に、さつきは迷ってからランサーを伺う。
「好きにすればいい。マスターは君だ」
「じゃあ行ってきますー!」
元気よくさつきが保健室に乗り込んでいた。
騒ぎ声とか銃声とか叫び声とか悲鳴とかカップぽいのが割れた音とかしたが少ししたら落ち着いたので大丈夫だろう。大丈夫だと信じたい。まぁ、さつきはそれほど好戦的でもなさそうだし、カレンも喧嘩を売るというのはしないはずだ。しないと信じたい。信じたいということばかりだけど信じるしかない。
そして残ったのは、
「……」
「……んだよ」
やたら笑う吸血鬼が一人。サングラスで目は隠れているが、それでも鋭い歯をむき出しで嗤うその姿は不気味な事この上ない。
「随分と殊勝な犬になりさがったな。こんなところで主の番犬気取りか」
「うるせぇよ、お前だって犬だろ。お前こそ犬だろ。きゃんきゃん吠えて餌でも食い散らかしてろよ。あと慣れ慣れしいぞてめぇ。お前の知ってる俺とこの俺は別人だって言っただろう」
そう、こいつが同類と呼ぶ俺と今この俺は別人だ。確かに起源は同じだろう。趣味嗜好主義主張も似通っているだろう。それまで歩いてきた道のりも近い。
それでも、決定的な分岐点があるのだ。
それは例えば実家を失ったとき。
それは例えばあの人と戦ったとき。
それは例えば――戦友と雌雄を決した時だ。
それらの可能性の一つとして、人外になった俺がこの男とであったという記録はある。それでもそれはあくまでも記録でしかないのだ。
「アンタは化物で、俺は人間だ。そこらへんの線引きちゃんとしてくれないと困るぜ」
「あぁ解っているのとも。アーカイブを覗いたさ。なるほど貴様はそういう存在だったのか。では言い直そうか人間よ。初めましてこんにちわ。私が化物だ」
「知ってるよ。俺が人間様だ」
芝居がかったコイツの物言いに付き合うつもりはない。人外の俺がまともにこの人外を相手にした時は――
「どうなったのですか?」
「……なんでいるんだよ」
いつの間にかレオがいた。背後には当然ガウェインが。ただ黙して付き従うだけではなく、さり気なく手が剣の柄に充てられているというのは俺たちを存分に警戒してのことだろう。
「ちっ」
小さく耳に届いたのはランサーの舌打ちだ。それはまぁ不思議ではない。こいつは吸血鬼としての弱点をほぼ完全に克服したが、それでも太陽は嫌いだったはずだ。そしてガウェインは太陽の騎士だ。もっといえばレオも太陽が擬人化したような存在だ。苦手とは言わなくても、鬱陶しいくらいには思ってるのだろう。
「いえ、アリーナに向かおうと思ったらこんなところで貴方たちが楽しそうに会話していたので、何事か思いましたので。あと、できればこれまでの話の続きも聞きたいと思いました」
物好きな王様だ。こんなしょうもない話を聞いて何が楽しいのか。
「それで? 先ほどのお話の続きは何ですか?」
「あー、えっとなー。この化物をまともに相手して」
「時計塔が崩れ落ち、ロンドン橋は落ち、霧の都は粉塵の都となったな」
「……」
「おい引くなよ」
まぁ人外の俺はロンドンへ行ったときに、この吸血鬼と一戦やらかしたのだ。当然ながら人外二体がぶつかり合ったわけで被害がアホみたいに拡大したのは言うまでもなかった。まぁ何十年か前に同じような規模の戦乱がロンドンを襲ったらしく、やたらと一般への対処が早かったのが救いと言えば救いだったろうか。まぁその時の俺もこいつも見も知らずの人間なんてどうでもよかったのだから気にしなかったが。
「まぁ俺の話じゃないから。別人だから、別の俺だから、一緒にしないでね」
「見苦しいぞ落ちこぼれ。貴様小物臭くなったな」
人が気にしていることをあっさりと。これだから人外は嫌だ。
「んで、いつかの話の続きか。ちょうどいいや、こいつにも聞けよ。人間とはなんぞやってな」
「ほう。これはまた素敵なことを聞く少年だな」
「素敵、ですか」
面食らうようなレオにランサーは言う。口端が歪められているし、目元は見えないが確実に嗤っている。
「人間とは素晴らしいぞ。実に素敵だ。すぐに死ぬ。血を流せば死ぬ。首が飛べば死ぬ。心臓をえぐり取られれば死ぬ。腕一つもがいで放っておけば死ぬ。死ぬ死ぬ死ぬ。人間とは実に簡単に死ぬ。それなのに人間は人間であり続けようとする。素晴らしい、夢のような存在だ」
「死んでしまうから素晴らしいと?」
「死ぬしかないのに諦めないだろう。決してあきらめない。絶望に落としても希望を根こそぎ奪っても、周りに死が積み上げられても、化物と戦おうとする。それこそが人間だ。人間とは意志の生き物だと私の宿敵は言った。なるほど間違っていないだろう」
「……我想う、故に我在り。ですか」
神妙に言うレオにランサーは笑みを深くする。
人間という存在を学んでいるレオを。彼が王としての存在であるというのはランサーとて気づいているだろう。それでもレオはまだ未完成だ。この少年は負けを知らない。こいつはどう見てもほぼ完璧なのだろうけど、それでもほぼだ。敗北を知らない。挫折を知らない。苦悩を知らない。
苦悩に塗れ、挫折の従僕を率いた覇王のように。
可能を全て友に託し、自らは不可能を担った王のように。
負けて、這い上がって、築き上げた愛と絆で結ばれたアイツのように。
完全な人間は完全であるが故に不完全が欠けているのだ。完全無欠の存在なんてあってはならないし、在りえないのだ。
それをレオナルド・B・ハーウェイはそれを知らなかった。
まぁ、この聖杯戦争では敗北は即ち死であるから、学べるような状況ではないから仕方がないと言えば仕方ないのだが。それでも彼は今学ぼうとしている。
俺という人間から。
吸血鬼という人外から。
王である前に人間とは何かを。
「貴方はどう思うのですかアサシン。人間とは、こちらのランサーの考えに対して」
「ん、別に否定はしねぇよ。寧ろ賛成だね。人間とは意志の生き物だ。なるほどその通り。俺もそう思うよ。コイツの言った事ともこの前言ったこととも被るけどな、人間は弱いのに、それを是としている。自分の弱さを受け入れられる。それには魂と意志が必要なんだ」
それができるからこそ――、
「人間とは素晴らしい」
吸血鬼と言葉が被る。人外ではない俺でも、この想いはコイツと共感できるのだ。
「……勉強になりました。守護者、伯爵。貴方たちのどちらが勝ち進もうともまた良い話が聞けそうだ。良い戦いを願っています」
レオは言葉少なに去っていく。彼なりに思うところがあるのだろう。それをガウェインは邪魔することなく付き従う。俺たちが番犬ならアレは忠犬だ。彼らがアリーナへと向かい、残されたのは俺とランサー。こいつと顔合わせ続ける嫌だなぁと思ったら、
「お待たせしましたランサーさん」
「待たせたわねアサシン」
カレンとさつきが戻って来た。雰囲気は悪くない。花も恥じらう云々はともかくとして、二人とも近い世代の少女だ。保健室という非戦闘領域でなら聖杯戦争を忘れられてただの少女としての会話ができるだろうし、それくらいの時間はあってほしいと思う。
例え殺し殺される運命だとしても、それではあまりに、
「悲しいよあぁ」
「どうかしたのかしら?」
「ん、別に。それでどーすんだこれから」
「教会に行くわ。貴方の改竄をしてからアリーナに。さつきはすぐにアリーナに向かうそうだから」
「あいあい」
時間をずらしたのはまぁ正解だ。もうカレンにはこの吸血鬼の真名も能力も粗方説明してあるのだから、無駄に戦闘を重ねる必要はない。最低一回、様子見くらいでもいいだろう。
「じゃあ、また。カレンさん」
「えぇ、それでは」
カレンは中庭の方へ、さつきはアリーナの方へそれぞれ進んでいく。
そして俺とランサーがすれ違い、
「良い戦争を」
「要らねぇよそんなもん」
振り返ることはなかった。
人外蒼一&アーカード「人間同好会」(肩組んでガシットナ
レオ「」
殺シノンの前日譚的なので、人外の蒼一がイギリス言って旦那に喧嘩売ったらロンドンが大変なことになった。
インテグラがもう年だなぁとか黄昏た
セラスが引いた
ペンウッド泣いた(
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