落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 番外編まとめ 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
それはこれまで見ていた夢とは違っていた。
凍えるようなものではなく、最後の散り際の夢でもなく――それはどうしようもない悲嘆の夢だった。嘆いている。悲しんでいる。大切なものが欠けていることに悲鳴を上げている。緑と青の星があった。赤に塗れた街があった。それはなんなのだろう。これが平和か。これが幸福か。泡沫の存在である私にはそれは解らない。私はこんなものは知らないのだから。
ただソレは問い続ける。世界の意味を。平和の意味を。幸福の意味を。森羅万象の意味を、人間の意味を。誰もいない、何もない、しかし全てが記された熾天の玉座で。
彼はただ答えを求め続けている。
●
四回戦も半ば過ぎて四日目に入っていた。これでももう聖杯戦争自体が半ば終わったということになる。相手のサーヴァントに関する情報はアサシンから手に入れたが、それはあくまでアサシンが肉体を持っていていたころの話で、この聖杯戦争でのランサーとしてのステータスは別だ。
「俺もアイツの時と俺とはずいぶん違うからな。向こうもそうでない可能性もないわけじゃないからな」
アサシンの言葉だ。それにマスターであるさつきのことは全く情報がない。昨日話した限りでは普通の少女というイメージしか受けられなかった。普通、凄い普通。一回戦のシンジよりも普通の、もっといえばシンジよりも幸薄そうな少女だ。どうして聖杯戦争に参加したのかも不思議なくらい。いやそれは人のこと言えないのだけど。まぁ、彼女にも彼女なりの理由があるはずだ。
「それで? どーするよカレン。一回バトるか? あんまアレとやるのもやだけどしょーがねぇかな。あ、それとも改竄行ってくか?」
「……あなたなんか慣れ慣れしいわね」
「え、だめ?」
「別に……」
ここ最近微妙にキャラが変わっている気がする。若干子供ぽくなったのだろうか。微妙にうざい気もしないでもない。
「アレ、なんか酷いこと思われてる? でも気にしないからねー。慣れてるからねー」
何故涙目なのだろうかこのサーヴァントは。ランサーが知り合いだったから情緒不安定か。
「とりあえずは昨日の分の貴方の改竄ね。スキルはどうかしら?」
「ん。あともう少しで取り戻せるぜ。これとあと一つが戻ってこれば『蒼の一撃』はフルコンプだ」
『蒼の一撃』、というのは現在のアサシンの攻撃スキルの総称だ。彼曰く全十三種、その中で単純な筋力ダメージは統合し、その一番目と七番目と最後だけに付与効果を付けて分割しているらしい。それの残りというわけか。
「ならば行きましょうか。できれば四回戦中に全て取り戻しましょう」
「おーけい」
マイルームを出て、教会へと向かう。一つ目のトリガーは昨日取ったし、二つ目もそろそろ通知が来る頃のはずだ。教会で改竄し、保健室でシオンや桜と話してから行けば丁度いい時間だろう。そう思いながらマイルームから二回の踊り場に出た所で、
「あぁ、ようやく会えましたねカレン」
「――」
シエルがそこにはいた。決戦場で見たようなカソックではなくてどこかの学校の制服だ。ミニスカートに黒のブレザー、その中に来ているベストはさつきのよく似ている気がした。加えて眼鏡も掛けていた。制服の第二ボタン辺りまで開けられているのが妙に様になっている。
思わぬ遭遇に後ずさり、アサシンが実体化する。
「あぁ、そう警戒しないでください。少し話を聞きたいだけですから」
「……確かに敵意はないな」
アサシンが耳打ちしてくるのを聞きながら自らも観察するが、確かにシエルに敵意は見られない。困ったように苦笑しているだけだ。それでも気を抜くのは拙い。三回戦において結局はシエルが勝利したとはいえ、邪魔をしたのは確かだ。それによっての報復に来たのではないのか。
「いや、違いますって。なんでそんなことしなければならないんですか」
「え……? 報復は基本ではないのですか?」
「いやそれは主殿だけだ」
「なんと」
随分と見解に違いがあった。やられたら百倍返しにしてその上で熨斗つけてやるのが普通ではないのか。
「いや、先日のことは寧ろ礼を言いたいくらいです。マスターを失ったのであのランサーの宝具の威力も落ち、倒し切るのもそう難しくなかったわけですから」
ならばどうして。
「決まっているでしょう。どうやって介入したかです。あんなことが平気で可能というならばそれなりの対処を考える必要があります」
それならば心配する必要はない。
あれはユリウスが残したものを勝手に私が使っただけだ。私個人ではアリーナへの防壁までたどり着けないし、ユリウスでは最後の壁を超えられないだろう。自分の肉体がもう存在しないことはあまり気持ちのいい話ではないので伏せておく。
「ふむ……まぁいいでしょう。もうないというのならそれで構いません」
シエルも全面的にこちらの言い分を信じたわけではないのだろうが、とりあえずは納得してくれた。
「そこまで心配になるならダニ神父に防壁の強化を頼んだらどうですか?」
「ダ、ダニ……? あぁ言峰神父のことですか。まぁあの人……あまり顔を合わせたくないというか、NPCなのにちょっと苦手なんですよね……」
「ダニですからね。しょうがありません」
「こほん。なにはともあれ相応の対処を願い出る必要があるでしょう。貴方やシオンのことは別に気にしていませんのであしからず」
「……それはどうも」
「では私はこれで」
何か用事でもあるのかすぐに一階へと消えていった。そういえばもう昼時なので食事にでも行くのかもしれない。あの代行者が何を食べるのか興味がなくもない。
「いや、それはやめよう主殿。なんかすごい地雷の気がする」
●
一回に降りたところで端末が鳴った。
そして。
「頑張っているかね、若きシスターよ」
「消えなさいダニ神父」
「ははは、相変わらずのようでなによりだ。人としてどうかと思うが、そこらへんどうだね?」
「ダニと対等に話す人間がいますか?」
視線の火花がぶつかり合う。このダニ神父が自ら話しかけてくるのは珍しい。
一体何の用か。
「何、ちょっとした通知だ。この聖杯戦争もついに四回戦、もう半分のプロセスが終了している。君たちもそろそろ単純な探索だけでは飽きているかと思ってね。私から、少し違う趣向を用意させてもらった」
強烈にいい笑顔だ。
気持ち悪い。
『うわぁカレン、そっくりだよ……』
「簡単な話だ。この試合、君たちマスターに特別ルールを追加させてもらう。それぞれのマスターには別のルールを追加しているのだが――そうだな、君はハンティングでどうだろう」
「あら、貴方のことだから他人のトラウマを見つけろ、みたいなのかと思ったのけれど」
「その手があったか」
『おいまてお前らやめろ』
アサシンに止められた。いい考えだと思ったのだけれど。
「それは確かに実に素晴らしいが既にアリーナに討伐目標となるエネミーが配置されている。君と君の対戦相手が同時にアリーナに入ったら出現するように設定されているのでもう変更不可能だ。それらをより多く狩ったマスターにムーンセルから相手サーヴァントについての情報を譲渡しよう」
『意外にまともだな』
確かに。もっと悪意に満ちた企画かと思った。
「帰還はモラトリアムの二日間。六日目に勝者にデータを送ろう。では、汗水たらして頑張るがいい」
嫌味を残して神父は去っていく。腹立たしいことにマトリクスが絡んでいるというのらなば参加しないわけにも行かない。
「狩り、ね。そんな得意な方じゃないけどそうも言ってられないか、何とかなるだろ」
何とかしてもらわないと困る。聞いてるランサーの情報が正しければ、向こうのほうがこういう類のことが得意かもしれない。対人戦闘ならばアサシン自身は極まっているが、それにしたって私の指示次第なのだから。
「まずは改竄に行きましょうか。敏捷でも上げた方がいいかしらね」
「ういうい」
「そしてガールズトークへ」
「俺はぼっちタイムか……」
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