落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 番外編まとめ   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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第三十二海「さぁ狩りの時間だぜ」

 足を踏み入れたアリーナの第二層はこれまで以上に海の中という印象が強かった。ガラス張りの海中トンネルとでもいうべきか周囲には魚が大量に遊泳している。今の世界では海はほとんど枯れていて、これだけの魚を見るというのは滅多にない。幻想的な風景に目を奪われそうになる。

 

「いるな、この血臭。あからさまだぜ」

 

 アサシンの言葉通り、アリーナの奥から酷い血臭がする。間違いなくランサーだ。こちらに存在を隠そうともしないのは余裕の表れか。単純に遊んでいるのか。これだけ離れていても威圧感が感じるというのはランサーというよりもバーサーカーの印象が強いが彼の生前の行いがクラスに反映したのだろう。バーサーカーになって理性を失ってくれたほうが楽かもしれなかった。

 

「さぁ狩りの時間だぜ、カレン」

 

 シオンから借りてきた索敵用のコードキャスト走らせる。もうサーヴァントを失い、戦うことのできなくなった彼女は私に協力を申し出てくれたのだ。正直、未だに私の魔術は三流なので彼女のような一流の錬金術師のバックアップはありがたい。また借りを作ることになって申し訳ないと思ったけれど、

 

「何を馬鹿な。私は命を救ってもらったのですから、これくらい安いものです」

 

「それに友情っていうのは値千金なんだぜ?」

 

 というシオンとアサシンの言葉に頷いてしまった。

 プログラムに反応した数は七体。当たり前のことだが、明確に優劣が付くようになっている。対象となるエネミーはこれまでも何度か見た鰐のような姿をしているものだ。攻撃力が高かった気がする。

 

「さて、行くわよ。アサシン」

 

「応とも」

 

 アサシンの背中にしがみつく。マグダラの聖骸布で体を巻き付け、ヘッドホンが邪魔なので外して私がつけておいたら、なにやらアサシンは苦笑していたが、

 

 次の瞬間には飛び出した。

 

 私を背負ったままに身を低く沈め、空気抵抗を極限まで減らして疾走する。このサーヴァントが敏捷特化なのは今更言うまでもなく、速度は速い。すぐに対象のエネミーが見えた。そしてアサシンは速度を落とさず、私は彼に魔力を譲渡し、

 

「蒼刀・錻――『無空抜拳・零刹那』」

 

 アサシンがエネミーを殴り飛ばす。それは反応すら許さな全く同時に(・・・・・)放たれた(・・・・)無拍子の(・・・・)一撃(・・)多重次元屈折現象(キシュア・ゼルレッチ)。あるいは宝具に分類されていてもおかしくない絶技。旧世界に於いて第二魔法の一端とも呼ばれたそれを単なる技術でアサシンは体現する。それ相応の魔力を必要となるが、

 

「一匹目ェーー!!」

 

 すれ違い様にエネミーを撃破する。対象撃破と経験値とPPTの通知が来るが今は構っている暇ではない。

 四体。四体仕留めるまでは止められない。

 お互いに真名が解っているからこそ、決定的な情報を得て差異を付けなければならない。

 アリーナの奥でランサーの声と共に光の柱が見えた。向こうもエネミーを撃破したのだ。

 アサシンに送る魔力を増やす。言葉もなくアサシンは速度を上げて疾走する。廊下をただ走るのではなく壁や突出した岩を足場として入り組んだ迷路を駆け抜けていく。首にしがみつくだけで精一杯だ。聖骸布で完全に密着しているのでアサシンの動きがダイレクトに伝わってくる。体温や息遣い、加速の際に足場を蹴りつけた時の衝撃。アサシンなりに私への衝撃を和らげてくれているのか、思ったほど不快ではない。また、新たな光柱が。向こうは二本目。それを見て、首に回した腕を力を込め、

 

「任せろ……!」

 

 アサシンがさらに加速する。もう視界はただ水色や極彩色が流れていくだけ。それでも吐きそうになるほどの不快感はない。やはりこのサーヴァントの体術というのは一級品だ。一体どれだけの修練を積んできたのだろうか。

 

 そしてアサシンが止まった。

 

 わずかにふらつきながら見た端末には撃破数に四と記されていた。

 さつきとランサー側には三。

 

「とりあえずノルマ達成だな。大丈夫か? なるべく気を使ったつもりなんだけど」

 

「えぇ、なんとかね」

 

 ふらつきはあるもの、すぐに吐きそうというほどでもない。

 アリーナの彼方に視線を向ければランサーの気配は健在だ。威圧感、血臭ははっきりと存在している。このままアリーナでトリガーを手に入れたいし、経験値稼ぎもしたい。それでも今はまだランサーと戦うつもりはない。どう動くべきか迷ったが、

 

「ん、帰ったか」

 

 アリーナからランサーの気配が消え去る。張りつめていた空気が消え、穏やかな幻想的な世界へと変わっていく。ランサーがいなくなったということに思わず嘆息する。話に聞いた限り、あのサーヴァントは地上で私が祓ってきた悪魔など比べ物にならないくらいの化物だ。同じ空間にいるというだけで、そこそこのプレッシャーを感じずにはいられない。

 

「さてと、カレン。経験値行くか?」

 

「えぇ」

 

 先ほどのエネミー狩りで既にアサシンのレベルは一つ上がっている。できることならばこのままついでに一つか二つレベルを上げたいところだ。ランサーが消えたので少しだけ、身体から力を抜く。

 

「大丈夫か? 辛かったら言えよ。さっきみたいに背負って戦ってもいいんだぜ?」

 

 遠慮しておく。別にそこまで疲れているわけではないし、これくらいなら移動に問題ない。

 

「そりゃ残念。じゃあ行こうぜカレン」

 

 アリーナを進んでいく。明日もここでハンティング勝負なのだから今日中にマップ情報はコンプリートしておいたほうがいいだろう。ついでに宝箱から回復アイテムを回収していく。そうしながら話すのは対戦相手のさつきやランサーのことだ。

 

「あいつは基本的には馬鹿でかい二丁拳銃を使ってたはずだ。普通に人間にはまず使えない大口径を吸血鬼の膂力任せでな。普通の人間が当たれば一発で即死だ。俺にはあんま関係ないけど、対魔効果もあたはずだな。人外にも効果的なものだ。ちなみに俺もそれに腕を零距離で乱射されて腕吹き飛んだ」

 

「……それでどうしたのよ」

 

「再生させてぶん殴った」

 

 そんなスキルあったのかこのサーヴァント。それだけの便利スキルあったのならもっと戦法があるのだが。

 

「いや、今の俺にはないよ。アレと関わった俺がそういうスキルを持ってただけだ。ぶっちゃけその俺はかなり例外的だからな。あんまり使いたくない」

 

 それがあのランサーに同類と呼ばれたアサシンのことだろうか。

 人外である彼。

 あぁそうか。彼は自らが人間であることに何よりも誇りを持っているのだから。 

 

「ならば、せめてその時の戦闘経験は話してよね」

 

「勿論。でもあんま引かないでね?」

 

 内容による。グロ耐性は人一倍あるつもりだけどあんまり血生臭いが好きではない。

 

「あーそっかぁ。でも、結構グロ系の話なんだよな。あいつとバトったのは一回きりだけど、お互いに頭吹き飛ばしたり、吹き飛ばされたり、腕とか何本再生させたかなぁ……」

 

 これは一体どういう存在だったのだろうか。地上に昔いた死徒に近いものだったろうか。

 

「そんな感じだな。それこそ上位の二十七祖級と言っても過言じゃなかった。俺もあいつも、腹立たしいことにな」

 

 死徒二十七祖。旧世界に存在したという吸血鬼の中でも最上位の正真正銘の化け物たち。記録は碌に残っていないが、昔の埋葬機関は何体も討伐なり封印したりしたらしい。そこらへんはシエルが詳しそうだ。

 

「まぁその俺は間違いなくバーサーカーだな。俺がなれるのはバーサーカーとアーチャーにアサシンだ。イレギュラークラスは別してな。アーチャーだと百二十パーセント一回戦で負けていただろうし、バーサーカーの俺だと色々危ない。一番安定しているのアサシンの俺だ。俺みたいな武人系のアサシンは暗殺技術じゃなくて修練の果てに世界に溶け込めるようなレベルの気配操作とかができるようになって暗殺者のクラスに当てはめられているわけだな」

 

 つまり、アサシンでさえも彼の本来のクラスではないということか。

 その本来のクラスというのがなんであるかというのはそれなりに推測できる。

 

「あぁきっと間違ってないさ」

 

 そうして話していればトリガーを発見した。電子化された鍵が端末に転送される。これでももう一レベルくらい上げたい所だ。

 

「結局俺は敏捷特化のサーヴァントだからな。魔力と幸運犠牲にして残りの三つを上げるだけだから改竄にもそれほどを気を遣わなくてもいい俺のスキルは物理ダメージばっかだけど敏捷上がればそれだけ威力が相乗効果で上がっていくからな」

 

 改竄のポイントを半分を敏捷に回し、もう半分を筋力と耐久に振ればいい。解りやすくていい。

 

「ありがとさん。んじゃあ、もうちょっと頑張ろうか」

 

 

 

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