落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 番外編まとめ   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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最低の男と高嶺の華
プロローグ「……■■」


----結局、お前では無かったのか。

 

 記憶にある最後の言葉はそんな失望の声だった。

 俺は、那須蒼一は。あの人との因縁とある少女への想いを確かめるために戦い、闘い、殺し合い、そして負けた。胸に拳による一撃を受け、受け流すことも防ぐ事もできず、そのまま喰らい、武偵高の校舎を破壊しながら倒れる。そして俺はもう動けない。何もできない。

 走馬灯が走る。

 拒絶し、死んでしまった俺の妹。

 子供みたいな理由で、狂ったように殴り合って、でも俺のことを助けてくれた戦友。

 いつも付きまとわれて、疎ましく思いっていた少女。

 そして、どうしようもなかった俺を救ってくれて、今俺に留めを指した男。

 それ以外だと実家の糞爺共や結局全く仲良くなれなかった武偵高の生徒たち。幼い頃に修行にて立ち会った者たち。

 なにもしてあげれなかったのに、俺に色々な事を与えてくれた人たち。彼ら、あるいは彼女らの顔が浮かびは消えていく。もう何もできない。身に纏っていた蒼の着流しと髪は血でズッシリと重くて、指先一つすら動かすことはできなかった。ほんの少しでも動こうとすれば、口のから血が吐き出る。全身の骨に亀裂の入ったせいで激痛などという言葉すら生易しい痛みが走る。かろうじて耳に届いたのは血混じりの掠れた呼吸音。それだけでなく全身にに刻まれたキズから血という命が流れ出ていく。徐々に体が冷たくなっていくのが分った。そしてそれは降り注ぐ冬の雨だけではない

 

「…………っぁ」

 

 もう、なにも聞こえない。あの人は失望の言葉以外に何かを言っているのだろうか。冷たい雨音も、掠れた呼吸音も最早聞こえない。血に染まった視界は、色を失ってスローになっていく。これで終わりだ。ジ・エンド。ここで那須蒼一の人生は終わったのだ。心残りは、あの少女への想いがなんなのか結局理解できなかったことだ。知ることはできても理解しえない。結局俺は彼女のことをどう思っていたのだろうか。二カ月間、お互いに嫌いで、邪魔で、鬱陶しくて、消えてほしくて、それでも何時も隣にいてくれた彼女。俺は彼女へどんな感情を抱いていたのだろうか。わからない、わからない、俺にはなにもわからない。

 

 戦う理由も、生きる意味も見つけられなかったのだから。

 

「…………?」

 

 色を失った視界に色が生まれた。それは見たことが無い色で光。海のように深くて、空のように高い、生まれて始めてみる、そして、これかも見ることはないであろう瑠璃色の光。あの少女のことを思い浮かべさせる色。

 

 その色を見て、意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

●  

 

 

 

 

 

 

 

「……カッ、ハァッ………!?」

 

 意識が覚醒した。唐突な目覚めに頭が付いていけない。なんだ、なんだこれはなにが起きた。どうして俺は今息を吐いた? 理解できない。視界は定まらず、周囲を確認できないから混乱は深まるだけだ。ただ、体の背面から硬い感触があるから、自分が地面に横たわっているのはわかる。だが、おかしい。あの人の一撃をモロに受けたせいで、俺は大地を破壊していたはずだ。なのに背中から伝わる感触は整えられたソレだった。勢いよく肺から吐いたことにより背中を軽く浮かしてしまい、落ちて痛みを感じた。

 

「グッ……っ、うぅ……?」

 

 痛い。確かに痛い。だがそれだけで済んでいる。どういうことだこれは、最後の記憶では指先動かすことすらできず、それをするだけで形容しがたい痛みがあった。なのに、痛い、というレベルの痛みで済んでいる。理解不能だ、なんだこれ。

 倒れていた身を起こす。だらりと垂れていた両腕に力を入れ、それを支点として立ち上がる。痛みはある、だがやはりそんな程度で済んでいた。全身を粉々にされていたはずなのに。なのに動ける。

 起き上がり、痛みを振りはらう余裕すらあった。その上で周囲を見渡し、

 

「……なんじゃこりゃあ」

 

 そこは全く見憶えのない場所だった。

 いやそんなレベルではないだろう。十七年間生きてきたし、世界中もいろいろ旅をして田舎も都会も回ったけど、だとしてもこんな場所は見たことが無かった。

 基本的には、中世くらいの洋風の街並みなのだろうか。いくつもの家々が並んでいて、住宅らしきものがたくさんある。屋根は瓦や藁ぶきで、高低差も様々だ。道路もかなり整備がいいのか舗装されていて綺麗だった。問題なのは、

 

「…………し、CG……か……?」

 

 立体映像、なのか。まるで映画のように空中に投影された映像らしきものがあちらこちらにある。表示されているのは何かの字だろうか。まるで見たことのない言語らしきものが投影されていた。一応とは言え世界中を回っていたから、読み書きは出来なくても、見憶えがあるかどうかは判断できるがまったく知らない文字だ。まったく理解不能。なんというかやたら近未来風なのだ。どういうことだこれ。

 途方に暮れて上を見上げる。

 

「……ああ、青い……」

 

 当り前のことながら空は青かった。それがたまらなく安心する。個人的に青系統の色は自分のイメージカラーなのでそれも伴って安心は大きい。これで空の色まで違ったらどうなっていたか。もっとも真っ青、というわけではなく、少し白っぽい青。今気付いた事だが空気は僅かに肌寒く感じる。早朝、ということなのだろうか。見る限り周囲には誰もいないのだからそういうことなのだろう。早朝に人気は少ない、という常識は通じそうだった。

 

「く、う、ぅ……」

 

 息を大きく吐き出しながら立ち上がろうとする。痛いが、やはりそれほどでもない。我慢できるレベルだ。元々痛みには強い訳だし。まず右膝を立てて、両手で地面を押して体重を移動させる。同時に左の膝を立たせながら勢いに乗せて、

 

「っと」

 

 立った。

 が、

 

「…………ん?」

 

 またもや違和感。決定的におかしいことがある。とっさには思い浮かばなくてまずは周囲を確認する。やはりやたら近未来風の街並み見える、が、辺りを見回せば空の下のなのに街並みに比べて少し暗い。僅かに不審思ったが、つまり俺が今いるのは家と家の間か、路地裏かなにかなのだろう。人が全くいないのも納得だ。

 だがまだ違和感はあった。なんだろうか。まだわからない。さっきから混乱しているから頭がうまく動かない。周囲をもう一回見渡す。上、空。右と左、壁。前、やたら近未来な謎空間。後ろ、まだ薄暗い道。そして、下は、

 

「は?」

 

 下を見て思考は止まった。一瞬どういうことか理解できなかった。なんどか瞬きをして、目をこすってもう一度見れば。

 体が縮んでいた。

 いやいや、そんなまるで体は子供、頭脳は大人じゃあるまいし、なんて思いつつも現実は変わらない。手を広げて見てみれば、指が記憶よりもかなり短いし、丸っこい。血にまみれた着流しはそのままだが、体が縮んでいるせいでほとんど着れていない。肩とかずり落ちかけていた。多分、年齢が一ケタくらいにまで下がっているはずだ。

 

「いやいやこれはないだろう」

 

 言葉にしても体は大きくならない。なんだこりゃ。いくらなんでも意味不明すぎる。大体ホントにどういう事だ。記憶にある限りでは、あの人に負けて、意識が途切れた。それは俺は、死だと受け入れたはずなのだ。もともと死ぬために行ったのだからそれでよかったはずだ。

 

 なのに俺は今生きていて、こんな謎世界にいる。

 

「は、はは、はははは……なんだよ、ほんとに」

 

 いいかげん脳みその限界だった。もとより大した頭脳でも無かった。理解不能で意味不明なことを立て続けに詰め込まれればパンクもしょうがないだろう。せっかく立ち上がったのに、体から力を抜いてしまった。いくらか記憶よりはキズは少ないとはいえ、それでもそこそこの重傷には変わりなかったらしい。そのまま尻もちをついて、地面に倒れ込んだ。この路地裏から見える大通りらしき光景が見えなくなる。髪が散らばっていた。どうやら、髪の長さは変わってないらしいが、それでも纏めていた髪紐はないらしい。まぁ、どうでもいいか。

 わけわかんねぇ。

 もうなんかどうでもよくなっていく。目を、閉じた。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………?」

 

 なにかおかしかった。違和感とかじゃなくて、普通に、視線を感じた。少なくとも、俺の常識、世界では視線に類されるものだった。それがズレていなければ、誰かが俺の顔を見ている、ということになる。

 

「…………」

 

「…………っ」

 

 視線はなくならない。なんなんだ一体。話しかけてくるわけでもなくただ見てくる。しかた無しに右目だけを開けた。

 

「* ***********」

 

「は? なんだって?」

 

「* ***********」

 

 目に入ったのは一人の少女だった。長い茶色の髪と同色の瞳。多分年齢は今の俺と変わらないくらいだろうか。もし、俺の頭平常通りならば、その女の子がかなりの美少女というか、幼女だということに気付いただろう。それでも今の俺にはまったく余裕がなくて、驚いたのは彼女の服装だった。俺の知っているような洋服や和服でもない。肌にピッタリと張り付くような、黒と白メインのボディースーツ。なにかのコスプレにしか見えない。

 だが、それよりも問題なのは、

 

「**** ************」

 

「言葉が通じねぇ……」

 

 やはりというべきか、なに言っているのか全く理解できなかった。これまでに聞いたどの言葉にも当てはまらない。なんだこれ宇宙語かよ。

 

「あー、なんだ。なにいってるかわかんねぇんだけど……」

 

「****** ****************」

 

 なんか怒ったようにまくし立てている。やめてくれこっちだってかなり参ってるんだよ。正直全身まだ痛いのには代わりないし、体だってかなりだるいんだよ。少なくとも、記憶の中では直前に派手なバトル繰り広げてたんだから精神的な疲労も大きいし、ついさっきもう嫌になって全身から力を抜きかけたんだから。

 

「****** ***********」

 

 その可愛らしい顔を歪ませて、どこかにいってしまった。後ろ姿でもかなり怒っているのがわかった。少しだけほっとする。いまさら他人との関係で気を使うのなんて面倒以外の何ものでもない。再び目を閉じた。

 

「******」

 

「んがっ!」

 

 大した間もなくて、頭を蹴られた、なんだってんだこんちくしょう。文字通り踏んだり蹴ったりだ。かなり痛い。それでもなんとか目を開けてみれば、

 

「*****」

 

「**********」

 

「***************」

 

 頭上に三人。先ほどの少女。それに彼女に良く似た短髪の少年と黒髪の長髪の少女。茶髪の少女は怒っているような顔をしていて、少年は笑っていて、黒髪の少女は無表情だ。三人とも一様に俺のことを覗いてきている。

 

「……もう勘弁してくれよ……」

 

 もうなんなんだ。頼むから日本語で喋ってくれ。まぁ英語でもいいから。とりあえず知ってる言葉ならなんでもいい。なのに、思いは届かず、

 

「** *******」

 

「*** ******** ***************」

 

「******* ***********」

 

「…………もうやだ」

 

 なんかまだ叫んでいるが、目をつむる。謎言語は止まらないが、もう知るか。大体俺は死ぬためにあの人と闘ったんだ。それで結局負けたんだ。だったらこんな夢か幻だかわけわかんない世界で生き恥晒してなんかいられない。もう放っておいてくれよ、誰だか知らない御三方よ。とりあえず、一日くらい放っておいてくれたら勝手に死んでるからさ。な? もういいだろう? 俺一人が勝手に野たれ死ぬだけんだからさ。

 

「…………ぁぁ」

 

「***** ******」

 

 言葉は理解できないけど、なんとなく俺のことを叱咤しているような気もしないでもない。いい子だな、と思う。見ず知らずの俺に対して感情を動かしてくれるのだから。けど、その優しさが俺には辛い。

 

「…………■■」

 

 意識が無くなっていく。感覚が曖昧になっていく。その中で呟いたのは、あの子の名前で。

 その名を呟いて、俺の意識は消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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