落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 番外編まとめ   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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第三十六海「あぁ、でも――護れたか」

 

「ん……」

 

 昨日の戦いで疲弊した身体での目覚めは気怠く重い。ランサーとの戦いの後のアサシンの襲撃。この身に課せられた緊張感や威圧感は尋常ではない。そういえば三回戦の後もシオンたちの決戦に割り込んだわけで、これで二回戦続けての連戦というわけだ。

 こんな経験したマスターはそうはいないだろう。

 こんな経験なんて要らなかったけど。

 

「おーう、起きたかカレン。おはようさん」

 

 ぼんやりと開いた寝ぼけ眼で、アサシンの声の方を見る。彼は既に起きていたらしい。最近はずうっと部屋の端っこで壁にもたれて座りながら寝ている姿は犬みたいだとよく思っていたりする。大体の場合において彼の方が早起きだ。本人が言うには時間を決めれば、ほぼピッタリ定時に起きることができるらしい。昔のアサシンの知り合いのとかいう人のスキルらしい。なんかすごい複雑そうな顔をしていたが。

 そんな彼の姿を視線に入れて、

 

「……なにしてるの?」

 

「ん、いやたまには朝飯をだな」

 

 着流し姿に前掛けというどこかの板前のような恰好だった。昨日まではなかったはずのキッチンスペースがマイルームの一角に生まれていた。それほど大きくないし、かなり簡易的なものだがキッチンはキッチンだ。そこでアサシンがお握りを握っていた。

 

「……お握り?」

 

「うむ、お結びともいうな。古き良き日本のソウルフードだ。食べたことある?」

 

「ないけど……」

 

 存在くらいは知っている。米を手で握ったファーストフードの一種だろう。私は食べたことないけど、簡易さゆえに欧州でもなんどか見たことある。

 いや、それはいいのだけど。

 問題はどうしてアサシンがお握りなんか作っているのだろうか。

 

「え? いや……そんな聞くなよ」

 

 なぜ照れるし。

 

「ははは、言わせるでない。俺は別に露出の気はないんだ。言うべき時に言ってこそだしな。というわけで、顔でも洗って食べようぜ」

 

 まぁこの電脳空間では汚れというのは普通にしていれば、汚れとかないので顔を洗うというのは単なる気持ちの問題だ。いつだったかアサシンも心の余裕は大事だと言っていたし、そういう普通のことをなるべく行っている。

 

「……いただきます」

 

「はいどうぞ」

 

 少しだけ歪な形のお握りを頬張る。出されたのは三つ。たらこと昆布と鮭だという。食材はどこから入手したのか少し気になったので聞いてみれば、

 

「タイガーと道場で遊んでたらくれた」

 

 ……そこはかとなく不安にある答えだ。

 とりあえず、

 

「……しょっぱいわね」

 

「ありゃりゃ」

 

 悪くはないけど。

 

 

 

 

 

 

 食事を終えてマイルームを出る。どこにいくのか言うまでもない。迷わずに一階の掲示板まで進み、

 

『第五回戦対戦者――ユリウス・B・ハーウェイ

 決戦場:五の月想海』

 

 その名前を認識する。

 同時に全身を突き刺すような殺気。

 

『努力と根性で耐えろカレン。女が股に力を入れて努力……!』

 

 貴様後で締める。

 しかし、それで私の中で緊張感は消え去ったので、臆することなくその殺気の主を見る。昨日のアサシンと酷似した鋭い刃のような凍り付く様な殺気。それらが私の体に突き刺さるように放たれる。最早疑うまでもなく、確認のためにその姿を見る。

 

「……」

 

 黒衣の男。

 ユリウス・B・ハーウェイ。

 五人目の対戦相手は私を睨めつけながら、黙していた。彼との面識は少ない。ちゃんと会話したことはないし、まともに視線を合わせたのは三回戦直後の遭遇のみ。それでも、この男は単なる対戦相手以上の殺意を以て私の前に立っていた。実際に昨日はあのアサシンを差し向けてきたのだ。確証がなくともあのサーヴァントがユリウスの従僕であるのは間違いない。

 

「……場違いな女だと思い放置していたが、まさかここまで勝ちあがるとは思ってもいなかった。まがりなりにも修道女ならば神に祈っておけばいいものを――だが、それもここまでだ」

 

 ゆるりと足を進めてくる姿に力みはない。しかしそれでも殺意は濃さを増していく。ランサーとの戦いを経験していなければ呼吸すれ困難になっていただろう。長く話すつもりはないらしい。ゆっくりとした歩みは私とすれ違い、

 

「貴様と貴様のサーヴァントはここで殺す。聖杯は王たるレオが取るのだ、イレギュラーはない」

 

 そう言い残しユリウスは去っていく。黒い背中が遠ざかっていき、

 

「……ふむ」

 

『どうかしたか?』

 

 少しだけ疑問に思うことがあった。

 今ユリウスは私とアサシンのことを殺すと言った。

 

『そうだな。それが聖杯戦争ってもんだろ? 何かおかしいか?』

 

「どうして、態々あんなにもはっきりと私と貴方を分けたのかしら」

 

『……それは』

 

 マスターとサーヴァントは二心同体だ。マスターが死ねば、単独行動というスキルを例外にすればサーヴァントは消滅するしかない。同じようにサーヴァントが死ねばマスターも敗北、すなわち死しかない。それが聖杯戦争の大原則で、シオンのような場合は例外中の例外だろう。

 なのに、あれだけ私たちを区別するというのはどういうことだろう。

 

『単純に決意表明っていうのは?』

 

「ありえなくもないけど……昨日の襲撃の時、あのアサシンはまるで貴方を殺すために私を狙うようなことを言っていたのよ」 

 

 ――馬を射抜くために将を落とすとは滑稽な話だが、将の方が手弱女というならばこれも一計であろう――

 

『……なるほどなぁ、つまりサーヴァントを殺すためにマスターを狙う? 勝ち方としては緑茶のやり方に近いけど、確かにおかしいな』

 

 そう、二回戦で戦ったアーチャーは確かにサーヴァントとの直接対決を避けて私を狙ったが、それは私を殺すのが目的なのだ。それで聖杯戦争では勝利となる。ただ勝つだけならそれは寧ろ常道だ。

 

『あぁ、自分のが下級サーヴァントで相手が神話級のサーヴァントとかなら寧ろ賢いやり方だ。けどあのアサシンは武威に関しちゃ俺と同等だった。俺らみたいなのは概念的なことはともかく、物理的な『武』はサーヴァント中でもトップクラスだ。……なのにその方法を取るということは』

 

 目的と手段が逆転している。

 勝利するために私を狙う訳ではなく、アサシンを排除するために私を狙っているように思えるのだ。

 

「貴方、彼によっぽどの恨みを買うようなことをしたのかしら」

 

『あー、やっぱレオ絡みかなぁ。王であるレオとか言ってたし……ぬあぁ、めんどくせぇ』

 

「まぁ、私の考え過ぎという線もあるけれど」

 

 それらしいことを言っても、考えすぎだと言われれば否定できない。ただなんとく引っかかったというだけだし。

 

『いや、そういうの直観ていうのは結構大事だ。アリーナでは要注意だな』

 

 彼の言葉と共にアリーナへと向かう。既にトリガーは精製されている。 

 トリガー、経験値というのは五回戦になっても必要不可欠だ。

 

 

 

 

 

 

「む、いるなこれは」

 

 アリーナに足を踏み入れた瞬間にアサシンが言った。

 オレンジ色のアリーナをにらむその眼は険しい。明らかに警戒を強めていた。それはつまり、

 

「あぁ。……けど、なんかおかしいなぁ。気のせいか」

 

 早速の対面ということか。これまで一日目から本格的な戦闘になることはなかったが、それも視野に入れておくべきだろう。少なくとも昨日の襲撃が最低限の知識はあるし、本人が言った通り真っ向勝負ならアサシンにも分がある。

 ひとまずエネミーとの戦闘を避けてユリウスを探る。雑魚にかまけて昨日のように襲撃されるのは困りものだ。ひとまず先に見つけて様子を見ることにする。

 少し進んだらすぐに見つけた。

 

「……一人か?」

 

 ユリウス一人だった。周囲にサーヴァントの影はない。アリーナにマスター一人は言うまでもなく危険だ。シオンは礼装を用いればある程度エネミーと戦えるらしいし、シエルなどはそれこそ単体でもエネミーくらいなら無双できそうだが彼女たちは例外だ。ユリウスがそれに含まれないとは言い切れないが、それでも危険なのは変わりない。

 

「気を付けろよマスター。あんまいい空気じゃない」

 

 アサシンの忠告を受けていつでも逃げれるように、あるいはマグダラの聖骸布を使えるようにする。相手がユリウスならばこれで動きを止めてその間に逃げることも可能だろう。 

 向こうもこちらの存在にすぐ気づいたようで、先ほど会った時と同じような刃のような殺意を向けてくる。英霊でもないただの人間が英霊と同レベルの殺意を生み出していることは直に恐ろしい。

 ユリウスは無言を貫き動かない。

 迂闊に背を向けることはできないし、ユリウスがいるのは通路の真ん中で避けて通ることも不可能だ。しばらく無言が続き、

 

 いきなりアサシンが抱き付いてきた。

 

「――え?」

 

 四回戦の時のように優しく抱きしめるようではなく、力なく倒れ掛かって来たように。

 いいや、それは比喩でもなんでもなく。

 アサシンは全身の力を失って、私に倒れこんでいた。

 唐突に、前触れなく――彼は力なく、身体をアリーナに投げ出している。

 

「仕留めたか?」

 

「――カカッ」

 

 背後から重圧と共に零れる笑い声が。すぐに振り返るが何もないし誰もいない。無人の空白であるがしかしそれでもいる(・・)。見えないし、感じないが、聞こえた声がその証拠。アーチャーのような透明化のスキル……!

 

「いや、見事という他ないの。こやつ、わしに気付きおった」

 

「なに?」

 

 アサシンが奇襲に気付いていた? 完全透明化のそれを? そのことはこのアサシンならば、と思えなくもないがならばどうして彼はこのような有様に。

 

「反撃もできただろうが、少しそこの娘に殺気を飛ばしたら反撃も防御も回避も棄てて己から受けおった。ほんの僅かでも主に危害が及ぶことを恐れたのだろう、いやはや敵ながら天晴というしかない」

 

「……損ねたのか」

 

「まさか、確と心穴は衝いた。抜かりはない。いずれ死に至ろう」

 

「ならばいい」

 

「わしとしてはこやつは真っ向から戦いたかったのだが。残念だ」

 

 言い残してユリウスと姿を見せないアサシンは去っていく。それに構っている余裕はなかった。

 死に至ると、アレは言った。

 そしてその言葉の通りアサシンは動かない。

 

「アサシン、確りしなさい……起きなさい、起きて!」

 

「……く、っあ……、起きてる、起きてるよカレ、ン……」

 

 反応があった。身を起こすが、顔に生気はなく言葉も震えている。明らかに普通の状態ではない。なにかしら特殊攻撃を撃たれたのだ。これまで満身創痍で戦ってきた彼がただ一撃を喰らっただけでここまでになるのは明らかにおかしい……!

 

「くそっ……痛いの最近嵌ってたけど、駄目だ。あれはカレンだからだ……愛がないとダメ……」

 

 なんとか立ち上がったが、真っ直ぐ立つこともできておらず震えている。すぐに肩を貸してリターンクリスタルを握りしめる。

 

「アサシン……!」

 

「あぁ、いや……大丈夫だ、なんとか、これくらいなら……。はは……、一撃必殺とか、そういうのは、どこぞの妖怪閣下だけで十分だっつーの……」

 

 零れる苦笑には力は全くない。自分で立っていることすらできないのだ。

 

「あぁ、でも――護れたか」

 

 そう言い残しアサシンの意識が消えた。

 

「アサシン……ッ、こんなところで……!」

 

 こんなところで彼を失うわけにはいかない。――こんなところで彼を失いたくない。

 リターンクリスタルを発動する。甲高い音共に光に包まれるのは一瞬で。

 けれどその一瞬は永遠にも感じていた。




五回戦ー。
つまりはそう宝具解禁とそしてエロイことを……!(

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