落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 番外編まとめ   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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第三十七海「貴様らが再起するのを」

 

 

「これは……拙いですね」

 

 力を失ったアサシンと共にマイルームへ帰還し、シオンを些か強引に連れて来て彼の様子を見てもらっての第一声がそれだった。彼女は最初は驚いていたがアサシンの様子を見て何も聞かずに彼の診察をしてくれた。私が未熟なメディカルチェックをするよりも彼女のエーテライトを用いたほうが正確だ。

 

「……一体何が?」

 

 エーテライトを走らせたままのシオンにアリーナであったことを説明する。

 アリーナに一人佇んでいたユリウス。相手アサシンの奇襲。私を護ってその奇襲を受けたアサシン。そしてそれを受けて力尽きた。

 

「……なるほど。彼ですらギリギリ反応できるような隠密スキル。単なる気配遮断ではないようですが。いいえ、今はその話は置いておきましょうか」

 

「シオン」

 

「えぇ、アサシンの状態ですね」

 

 そう言って普段私がベッドにしている所に横たわる彼の顔色は悪い。汗も多いし、些かやつれているようにも見える。シオンはアサシンからエーテライトを取り外し、ホロウィンドを展開する。

 

「彼の魔術回路がズタズタです。そのせいで貴方とのパスも断絶されています。外装(フレーム)自体はさほど損傷がないですが内部の被害が甚大です。今は彼自身の魔力で形を保っていますが、マスターであるカレンからの供給がない以上は二、三日が限界です」

 

 それはあまりにも明確な真実だった。

 パスがない。それはとうに気付いていた事実だったがそれでも、二日ないし三日という期間を告げられてその意味が重くのしかかる。

 

「カッ……、二、三日ね……」

 

「アサシン!」

 

「おう……アンタの駄犬のアサシンですよっと」

 

 力ないがそれでも冗談を言える余裕はあるようだが、それでもやはり辛そうだ。腕で顔を覆い口端を歪めている姿は痛々しい。普段飄々としている彼がここまで疲弊しているのがあのアサシンの一撃の重さを語っている。

 

「しくったわまじで……内部破壊の一撃、内臓をシェイクされた気分……」

 

「同じようなものです。どころか内臓と血管がまとめて破裂させられたようなものですから。こうしてまだ現界しているのが不思議なくらいだ」

 

「ヒットの瞬間に打点をほんの少しだけズラしたからな……まともに喰らってたら即死だった」

 

「アサシン、それは」

 

「カレン」

 

 掛けた声は彼に止められた。

 本当ならば、あのアサシンの言葉が正しければ彼は反撃ができたはずなのだ。なのに私を庇ったせいでなにもせずに攻撃を直に受けてしまったのだ。

 なのに彼は何も言わない。寧ろ、私の言葉を遮って苦笑するだけだ。

 何も言わなくていいというように。

 

「ともあれ、カレン。貴方は一度保健室で休んでください。自覚がないかもしれませんが貴方の疲労も激しい」

 

「けど」

 

「大丈夫だよ、マスター。二、三日しか持たないってことは、最低でも一日二日は持つんだ。俺が治ってもアンタが疲れてたら話にならない」

 

「その通りです。安心してください、私が必ず回復させて見せますから」

 

「……解ったわ」

 

 シオンとアサシンの二人にそこまで言われれば逆らえない。それに彼女も彼も諦めていないのだ。

 いや、諦めきれないのは私も同じ。ここまで四人を殺して、その中には友達もいた。彼女たちの分まで私は生きなけれなばならないのだから。

 

「ちゃんと休めよ」

 

 そんな声を背に受けて私はマイルームを出た。

 

 

 

 

 

 

「……それで、体よく追い出して……なんか考えあるんだろ?」

 

 カレンが去ってからアサシンがあからさまに辛そうになった。先ほどまではカレンがいたから無理していたのだろう。

 この英霊はそういう存在なのだから。

 

「えぇ、本当のところこういう時の対処法は簡単です。パスを繋げなおして魔力を注ぎ、乱れた回路を修復すればいいだけ、言ってしまえばその程度です。ですが」

 

「俺にはそういうの無理だろ」

 

「ええ」

 

 問題はそこだった。

 今の私には彼を修復させる方法がある。あるが、しかしそれは絶対に彼は受け入れない(・・・・・・・・・・・)。私側の問題ではなく彼側の話。対魔力や自己に対する改造への耐性が高いというわけではない。むしろこのアサシンはそういうことに極めて疎い。四回戦までの彼ならばともかく()の彼では不可能だろう。

 五回戦が始まって、いや話に聞いた通りならば四回戦の決戦の最中にその在り方を変えてしまったのだから。

  自己改造とは、少し違うだろうか。

 

「一途、なんだ、よ」

 

「ならば――解っていますね?」

 

「…………あぁ」

 

 

 

 

 

「おう、やはり諦めていなかったか」

 

 一階へと降りた瞬間に声が届いた。知っているどころではない。まだ二度しか聞いてないがそれでも忘れることなどできない。姿も見えず気配もなく、声でしか存在を認識できないのは、

 

「アサシン……!」

 

「あぁ、そう身構えなくていい。今は何も命を受けていないからな! 気ままにブラついているだけよ」

 

 確かにこちらを殺す気ならばこんな声を掛ける意味はない。私のアサシンならばともかく、私相手ならば完全に奇襲できるのだ。四回戦直後に向けられた刃のような殺気はなく、カカと笑う声だけがあった。

 

「やはりあの男は死んでいなかったか。結構結構、できるならばあの男とは全力で死合いしたい」

 

「貴方、何度か言ってるけど……暗殺にこだわっていないのかしら?」

 

「暗殺者というよりは武人、いいや殺人鬼だ。そこらへんのこだわりはない。だが……あれだけの武威を見せられては一人の武人として滾るものがあろうて。故に儂は期待しているぞ」

 

 嘘は言っていない、と思う。事実アサシンを救うことを諦めていない私をこの男は危害を加えるつもりはないのだから。言葉通りにアサシンとの直接勝負を望んでいる。それはユリウスとは思想が異なるはずなにの。あの徹底した暗殺者はこのアサシンの渇望を認めていないはずだ。

 

「さぁて。どうするつもりかは知らぬが精々励んでくれ。貴様らが再起するのを待っているぞ」

 

 その言葉を最後にユリウスのアサシンは去ったのだろう。声は消え、場を支配していた緊張感は消えていた。大きく息を吐き、全身の気だるさが私を襲う。励めと言われたが、私には何もできない。魔術の素養はない。戦闘の心得もない。観察眼も人並み程度。結局今自分はシオンに任せきりなのだ。

 

「それでも……」

 

 アサシンは、私を信じてくれているから。私を主とし共に勝利を願っている。

 だったら――今はこの無力を噛みしめよう。

 いつか、この悔しさが糧になると信じて。

 再び彼と共に立ち上がるために。

 

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