落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 番外編まとめ 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
愛の為に。
彼はまさしくその為に生涯を駆け抜けていた。
それはいつかの夢の続きだ。古びた映画のフィルムのように所々は不鮮明でつぎはぎだらけになっているけど。それでも彼の愛だけは輝いていた。
あらゆる世界、あらゆる生、あらゆる自分。平行世界という無数に存在する可能性の中で常に彼はその為に生きていた。当たり前のように人生においては幾つもの分岐点というものがあり、彼の場合それは特に顕著だった。
家族を失い、師を失い、自らの命すらも失ってきた。
その度に彼は生きる理由と戦う意味を失くして、ソレを得て彼は生きてきた。
勿論簡単な道ではなかった。
なにもない空っぽのままただ生き続けていた彼がいた。
人外に成り果てて、死ねずに生き恥されした彼がいた。
依存し合って傷をなめ合うだけしかできない彼がいた。
見ていられないような有様だ。今の彼を知っている自分からすれば別人ではないかと疑うようだった。
それでも彼は迷って、悩んで、呆けてしまっても。それでも何度も進み直し、彼だけの愛を手に入れて走り出す。彼はそうやって生きていた。自分が触れているのはまだまだ断片だろうけど、きっとどの彼もそうやって生きていたのだろう。
『愛の為なら、■■の為だけなら俺は勝てる』
最低で最悪で勝つことも負けることもできない過負荷な彼は同じく出来損ないの少女と共に幸せになろうとした。
『世界一いい男になって、世界一いい女に告白するんだ』
自らを屑と称した最底辺の彼は高嶺の華が咲く頂に行くと、そう決めた。
『なぁおい。■■■――■■■■、お前が俺に幕を引いてくれ。唯一無二を終焉を俺に見せてくれよ』
終わりを求めた彼は生きて、始めようとした少女と戦い幕を閉じた。
『行こうぜ■。四国乱世、ケリをつけてやろうじゃねぇか。俺とお前なら余裕だよ』
天下に我在りと叫んだ彼は赤き最強の少女共に乱世を駆け抜けた。
そして、
『――俺と■■が共に在れない道理なんて認めない』
落ちこぼれの拳士最強は魔弾の姫君と共に在り続けた。
それらの記憶が、夢となって流れ込んでくる。彼は記憶と言っていたけれどそれぞれの想いはそんなレベルではなく確かに今私と共にいる彼の力になっていた。
これまでずっとそうやって生きていた。
これからもずっとそうやって生きていく。
それこそが彼の魂の証明。
瑠璃色の益荒男。求道の守護者。
そう、彼の名は――
●
「那須蒼一。それが俺の真名だ」
朝目覚めて彼は言った。普段着の着流しでいつもの姿で極々当たり前のように、起きぬけの私に彼は自らの真名を名乗った。
「英霊としてはかなり近代出身の英霊になる。大体二、三十年前だしな。幸い俺のいた世界は魔術とか超能力とか訳の分からんスキルとか当たり前のようにあったから神秘がないわけじゃない。ま、どっちにしても俺は関係ないけどな」
未だにちゃんと目が覚めていないけれど彼の話は続いていく。
ちょっと待ってほしい。
「アサシン」
「ん? どした。というか、真名名乗ったんだからそっちで呼んでほしいんだけど……」
「ちょっと黙って」
「え、あ、はい」
シーツで体を隠したままに起き上がる。別に必要があれば脱ぐにしても露出の気はないのだ。それにしても体の気だるさは残っているので座布団を纏めて作った背もたれに体を預ける。アサシンの和風趣味で所々和風だが、私の趣味でピアノや十字架の飾りがあって、さらには藤村先生がくれた照明とか植木とかもある。四回戦にもらったのは写真立て私とマグダラの聖骸布で簀巻きになったアサシンがいる。にぎやかというか随分カオスになったなぁと思う。
「あの……カレンさん?」
「なにかしらアサシン、……あぁいえ、蒼一だったかしら」
「あ、うん。蒼一ね。そうやって呼んでくれるのは嬉しいんだけど……あれ? なんかもっとこうないの?」
何の話だろう。真名のほうで呼んでほしいからそう呼んだのだけれど。
「いや、そうだけどさ。あれじゃないの? こう真名開示っていうのはさ、厳かで、粛々とシリアスな雰囲気で行われるものじゃないの?」
「そんなものは記憶喪失の万能型救世主人公に任せておけばいいのよ。それより朝ごはん」
「あ、はい。お結びでいい?」
「えぇ」
おっかしいなぁと首を振ってエプロンを付けながら蒼一は台所へと向かう。どこからかおひつを取り出して米を握りだした。背中に微妙に哀愁が漂っている。それでもお結び程度にはそれほど時間はかからずに完成する。
「はいどうぞ」
差し出されたお茶とお結びを受け取る。
彼の作るお結びはぶっちゃけ凄いしょっぱいだろうけど、被虐霊媒体質のせいで味覚が死んでいる私には悪くない。セラフに来て視覚は改善され、全身の傷も修繕されているが味覚に関しては補正が効かなかったのか少しましになった程度だった。だからあの麻婆豆腐も好きなのだけれど。
「……なぁカレン」
「なにかしら?」
「その……さっきの話の続きしてもいい?」
「えぇ」
「え、えっとそれじゃあ……どこからだっけ。なんだろうなぁすごい出鼻挫かれたからどこから話していいのか……」
というな何故あんな目覚めに言い出したのか。それこそ寝起きのタイミングで言う話ではないだろう。
「いや、なんかここまで来たらちゃんと話さなければならないと思ったら先走ったんだよ」
そうではなくて、と一つ咳払いして。
「そう、俺の真名は那須蒼一。日本の源平時代の武将那須与一の子孫に当たる。まぁ俺は一族切っての落ちこぼれだったりするんだけどな」
「それは納得ね」
「ですよねー。俺は最低傑作。ちなみに妹のほうはもう才能とか色々受け継ぎ過ぎて最高傑作だったりしてな。あー、アイツも英霊になれるだろうけど確実にムーンセルから出禁喰らってるわな。金ピカと喧嘩してたらどうしような多分ふるぼっこにしてるだろうけど」
ムーンセルに出禁喰らうってどいうことだ。というかふるぼっこにしてる方か。
「多分なぁ。アルクェイドとかだったら危なそうだけど。我が妹ながら規格外すぎるわー。いやまじアイツいたら聖杯戦争とかYU☆U☆GAに終わるわー」
それはなんか敗北フラグではないのだろうか。
というか話がズレている。
「あぁうん。そういうわけで俺は一族きっての落ちこぼれだったっていう話。そこらへんはこれまでのマトリクスで開示しているな。それでもまぁその妹がちょっとやんちゃして一族滅んで、俺はちょっと拳士最強に弟子入りして、六年くらいかけて拳士最強になった。これもマトリクス参照」
確かに今更言うまでもないことだ。端末に保有されている彼のキーワードだ。
「んで、これが俺の宝具」
言葉と共に端末がなる。表示されたのは最後の固有スキルと宝具。
固有スキルに関しては昨夜の夢を見た後では納得である。それでもこの宝具は――、
「言ったろ。俺はアンタに惚れている。そして俺はアンタの愛を証明してみせる。この宝具がその証だ」
「……」
宝具の性能よりもその意味を反芻し思わず顔を押さえる。勿論性能に関しては記憶して、使うべき時を見極めなければならないが。それでもその宝具の意味を今さら理解できない自分ではないし、理解すればいくら私でも気恥ずかしさは抑えきれない。
「お、顔赤い? 照れてる? 照れてる主殿?」
「フィッシュ」
「ふもがぁっ!」
ムカついたので吊り上げた。ついでに目隠しもして照明に吊り上げる。
「あ、ちょ、カレン!? 目が、あと逆さにされると頭に血が上って……!」
「しばらくそうしていなさい。私は保健室にでも行って来ましょうかしら」
「え、ちょ、放置!? これが放置プレイ……!?」
やれやれと息を吐きながらベットから出てカソックを切る。そして昨日放り出した端末を手に取って、
「盗み聞きは愉しかったからしら?」
『……!』
端末の向こうで何やら騒ぎ声や叫びとか物音が聞こえてきた。シオンや桜の声だ。解っていないと思ったのか。こういう時のセオリーくらいは知っている。
「な、まさか聞かせるほうがこうふ、あいたぁ!?」
「そんなわけないでしょうがこの変態が。なにこの前あのダニ神父から聞いた折檻術を試したくてね。早速あの二人に試しましょう」
端末から抗議の声が聞こえたが、聞く気はないので通信を切った。
あのダニ神父はかなり性格が悪いので人が嫌がることを実に厭らしく解っている。そこに私が少しだけ手を加えたオルテンシア流折檻術もある。
「なにそれこわい」
「いつも貴方がうけているじゃない」
「まじで!?」
黄色会話だからシリアスと思ったか!?
残念ギャグ回でした!
シリアスさんは犠牲になったのだ(
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