落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 番外編まとめ   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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第二線「私がアイツをフォローしてるみたいじゃない」

 空がある。見慣れている蒼く澄みわたる空だ。空には二つの薄白い月がある。今この武蔵アリアダスト教導院の屋上からは見ることが出来ないが、眼下には森林が生い茂っているだろう。

 

「ふわぁ……」

 

 腕を頭の後ろで組みながら、屋上で寝転んでいる俺は大きくあくびをする。この屋上は俺のお気に入りの場所だ。八艦構成である準バハムート級航空都市艦・武蔵、その中央後艦である奥多摩だからこそもっとも武蔵全体を見渡せる場所だった。

 よく晴れていて、前を開けている制服の中に風が吹きこんで心地いい。絶好の昼寝日和だ。

 目の端に展開している表示枠も温度湿度天気風のどれもが昼寝に適していると教えてくれていた。

 だから、なにをするでもなく、ただまどろんでいた。

 何よりも至福の時間だった。腕に付けた、“副長 那須・蒼一”の腕章が揺れたり、前髪が目元をくすぐる感覚さえ心地いい。

 なのに、

 

「はーい、せんせーこれから品川のヤクザの事務所までヤクザ殴りに全速力で走って行くから、全員ついてくるようにー」

 

 なんて頭のイカれたアマゾネス教師のイカれた発言が聞こえた。

 

「…………」

 

 若干の頭痛を覚えながら上半身を起こす。教導院の正面、橋の上に、人影がいくつもあった。  

 人影の正面に立つのはジャージ姿の短髪で、背中に長剣を背負った女だ。

 真喜子・オリオトライ。いくつもある人影や、俺の、つまりは武蔵アリアダスト教導院三年梅組の担任だ。

 確か、今日のこの時間は体育の時間だったはずだが、それでヤクザに殴りこみとかどういうことだ。

 明らかにおかしい関係だし、関係は見えない。

 同じことを思ったのか、“会計 シロジロ・ヴェルトーニ”と撃たれた腕章の腕が上がる。

 

「教師オリオトライ、----体育と品川のヤクザとどのような関係が。金ですか」

 

 同じことは考えてなかったらしい。

 んなわけないだろ。せめてもうちょっとマシな理由にしてほしい。いつも通りに、金のことしか考えていないシロジロをこっそり半目でにらむ。屋上からだし、一応気配消してるから気付かれないだろうが、あの守銭奴にはあんまりいちゃもんつけれる理由を与えたくない。慰謝料でも要求されたらかなわない。

 

「馬鹿ねえシロジロ、体育とは運動する事よ? そして殴ると運動になるのよね。そんな単純なこと、----知らなかったら問題だわ」

 

 問題なのはアンタの頭だ。

 謎解釈を教えられたシロジロの袖を金髪のロングヘアの少女が引いた。“会計補佐 ハイディ・オーゲザヴァラー”の名札を付けた彼女は笑顔で、

 

「ほらシロ君、オリオトライ先生、最近表層の一軒家が割り当てられて野放図に喜んでたら地上げに遭って最下層行きになってビールのんで暴れて壁割って教員課にマジ叱られたから。----つまり中盤以降は全部己のせいなんだけど初心を忘れずに報復だと思うのよね」

 

「報復じゃないわよー。先生、ただ単に腹が立ったんで仕返すだけだから」

 

「同じだよ!」

 

 まったくだ。しかし気にする風もなく、長剣を鞘ごと脇に抱え、

 

「休んでいるの、誰かいる? ミリアム・ポークウは仕方がないとして、あとは東は今日の昼にようやく戻ってくるって話しだけど、他は----」

 

 皆が互いを見回す。

 なんとなく気まずくなって、うつ伏せになって本格的に覗きの体勢に入る。多分、俺の姿はばれていないはずだ。

 最初に口を開いたのは、“第三特務 マルゴット・ナイト”の腕章を付けた有翼の金髪巨乳だ。

 

「ナイちゃんが見る限り、セージュンとソーチョーとフクチョーいないかなぁ」

 

 その言葉に、マルゴットの腕を抱いている“第四特務 マルガ・ナルゼ”の腕章の黒髪貧乳が首を傾げる。

 

「正純は小等部の講師をしに多摩の小等部教導院に行ってるし、午後から酒井学長を三河に送りに行くから、今日は自由出席の筈。総長……、トーリは知らないし、副長の蒼一は、いつも通りどっかで昼寝でもしてるんじゃないかしら?」

 

 ここにいるよ。屋上で皆のこと覗いているよ。

 

「んーまぁ、“落ちこぼれ(ゼロ)”の蒼一の体育サボりは何時も通りだからいいけど……じゃあ、”不可能男(インポッシブル)”のトーリについて知ってる人いる?」

 

 問いかけに皆が見たのは一人の少女。茶色のウェーブヘアの彼女は腕を組み、

 

「フフ、皆、ウチの愚弟のトーリのことがそんなに聞きたい? 聞きたいわよね? だって武蔵の総長兼生徒会長の動向だものね。フフ。----でも教えないわ!」

 

「ええっ?」

 

 キチガイ染みたセリフを叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というかアンタ達、蒼一のことも触れてやりなさいよ。アレでも一応武蔵の副長なんだし、以外に寂しがり屋という属性持ちなんだからって、なんか私がアイツをフォローしてるみたいじゃない、複雑!」

 

「なにがいいたいんだよっ!」

 

 皆が突っ込んでくれた。そして余計なお世話だ。

 眼下でクネクネしながらわけのわからないことを叫んでいる少女、葵・喜美。

 彼女との付き合いは十年飛んで十二年だ。

 十二年前、俺、那須蒼一は気付けばこの世界にいた。なぜ、どうして。そんな俺の疑問に答えはなく、理由もわからずにこの武蔵にいたのだ。前の世界、つまり元々俺がいた日本とはどこか違う異世界。文字や言葉は最初はまったく通じなかった。

 おまけに最大の謎は体が縮んでいたこと。俺の前の世界の最後の記憶では十七歳であり、ある少女への想い、ある男との因縁を全て解決するために男と闘ったことだ。いや、正確に言えば、殺し合った。そして、負けた。そこまでは覚えているのだ。致命の一撃を喰らい、走馬灯すら見えて、最後には死に体のせいか意味不明な謎の光を見て、この世界にいたのだ。

 意味不明理解不能、いくらなんでも謎すぎる超展開だった。今時ライト草子でもないだろうに、そんなのを体験するなんて思いもしなかった。

 そんな感じで超混乱しているところを、喜美の母親に拾われて、世話になりながら今に至るのだ、というのは省き過ぎか。

 十二年だ。

 いろいろあった、としみじみ感じる時間だっただろう。気付けばもう前の世界での自分の年齢も越えているし。前の世界でも中々濃い人生だったと思うが、こっちの世界も大概だ。いろいろ面倒臭いことがある。

 

 例えば葵・トーリ。

 “不可能男(インポシッブル)”。

 喜美の妹であり、俺とも幼馴染である少年の名前。特徴馬鹿。凄い馬鹿。どうしようもない馬鹿だ。この武蔵アリアダスト教導院のトップである総長兼生徒会長。

 なにせこの極東、武蔵は罪人の流刑地だ。かつて神州と呼ばれた地は百六十年前の重奏世界騒乱以降、各国に暫定支配され、追いやられた武蔵の、極東の総長と生徒会長は最も能力が低く、何も能がない者が選出されるのだ。そう、葵・トーリのようにだ。

 なにもできない男なのだ。葵・トーリという人間は。

 

 例えば世界。

 来年、一年後の1648年の年末で世界は終わるらしい。

 眼下でオリオトライが皆に話しているが、そういうことになっているらしい。歴史の預言書である聖譜が原因不明の解析不明で更新されなくなったから、最後の記述である年末のヴェストファーレン会議を経て、世界が滅び、末世を迎えるであろうと。実際にここ数年は各地で怪異の発生の割合も増加しているらしい。

 そういう世界だ、ここは。

 

 例えば俺、那須蒼一。

 俺那須蒼一は武蔵の副長だ。そして副長という存在は一国の武の象徴だ。一国の最強の存在でなければならない。

 戦闘能力に関しての自信は、それなりにある。今の学生の中では本気で戦えば、誰よりも強い自信がある。

 かつての世界で得た力も技術も未だに残っているのだから。無論、 “落ちこぼれ(ゼロ)と呼ばれる所以もある。それだけのハンデとうか不利なことが俺にはあるが、それはあくまで他人から見た不利であり、俺自身にとっては当たり前のことで不利ではない。 

 だが、しかしだ。

 今のままでいいのだろうか、なんてことを思う。

 

「追え……!!」

 

 艦橋を飛び出した皆を見ながら思うのだ。

 俺はまだ、何一つ副長としてすべきことができていない、と。いや、副長として、やるべきことをやる時はいつか来る。昔、そういう約束をして、その約束をした相手はその約束のことを忘れていないのだから。

 だから、思うのは、不安に思うのは。

 その時が来た時、俺は俺の意思で、俺の望みで、その約束に応えられるのだろうか。

 約束をしたから、その約束に応えなきゃならないな、なんて義務ではなくて、俺こそが、その約束に応えるのだと、胸を張れるのか。

 それができるか、俺は不安なのだ。

 だって、だって俺はまだ。

 

 ----生きる意味も。

 ----闘う理由も。

 満足に見つけられていないのだから。

 

 走って行く、走り去っていく皆を見て、俺は、そう思うのだ。

 走り去っていく皆の中で、どうしても目が行くのはやっぱりこの世界で初めてあった喜美で。

 何故か、もう顔も思い出せない彼女と被った。

 

   

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