落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 番外編まとめ 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
「……脳波の正常活動を確認しました。アルファ波、ベータ波平常。覚醒状態です」
意識の浮上と共に聞こえた声はよく知る少女のものだった。目を開けようとするが瞼は重く、全身にも力が入らない。指に足の先まで、少しずつ意識を循環させて体を目覚めさせていく。寝起きにも似たような感覚であり、本来のそれとは少し違うもの。
「センパイ? この声が聞こえますか? ゆっくりでいいですから、瞼を開けてください」
恐る恐ると、曖昧な思考しかできない頭でゆっくりと瞼を開いていく。まず、感じたのは黄金色の光。夕暮れのソレが眼球に染み渡っていく。数度瞬きをして光に目を鳴らしていく。
「大丈夫ですか? センパイ。バイタルには問題ないですが、なにかおかしいところは?」
私が今横たわっているベッドの傍らで心配そうに桜が声を掛けてくる。その言葉に頷くが、その動作だけでもやたら疲れてしまう。一体どれくらいの間自分は寝ていたのだろうか。
「それは後でレオさんが説明してくれます。あ、まだ無理して起きないでくださいね? データはともかくセンパイ自身のメンタルはかなり疲弊していますから」
マスターの管理AIである桜がそういうならそうなのだろう。確かに身体が重く、気だるい。しかし、これだけの疲弊があるということはそれ相応の理由があったということで――、
『――おはようございます、オルテンシアさん。目覚めはいかがですか?』
古風な保健室のスピーカーから声が。声が誰か、など考えるまでもない。レオ――レオナルド・B・ハーウェイだ。あの金髪と真紅の姿を思い返しながら言葉を返す。
「悪くはありません、ただ些か状況が呑み込めないのでその分悪い方でしょう」
虚空に語り掛ける形になったがちゃんと向こうには届いていた。苦笑を含んだ声が再びスピーカーから聞こえてくる。
『でしょうね。では早速ですが、生徒会に来てください。状況を説明しましょう』
「あの、まだセンパイは目覚めたばかりです。あまり無茶をさせるようなことは……」
『申し訳ありませんがその余裕はありません。自体は一刻を争います。それにそんなことを言っても無駄でしょう。僕の知っているカレン・オルテンシアという人間ならば、自分で勝手に歩き回るでしょう』
「……」
確信に満ちた声だった。よくぞ、自分のことを知っているな、寧ろ感心する。確かに今の自分はレオの言葉通りに動くつもりだった。肉体に異常はなく、精神は結局は心持の問題でしかない。だったら足踏みしていないで、前に進むのべきだろう。自分でも驚くほどすんなり生まれた判断だった。
「そういうことよ桜。看病に関してはお礼を言うけれど、それとこれとは話が別よ」
「……もう、仕方ないですね。無理しないでくださいよ?」
苦笑する桜に頷きながら立ち上がる。僅かに立ちくらみがあったが問題になるレベルではない。少しくらいなら走ったりしても大丈夫だろう。
「生徒会は二階に上がって左側の教室に、それとセンパイのサーヴァントは右手の教室で待機しています。凄く心配していたので顔を見せに行ってくださいね」
『それはもう思わず笑って録画してしまうような有様でしたよ。後でお渡ししましょう』
何やら含みを持たせた声で癪に障るが、今は我慢する。桜から教えてもらったことを胸に止めて、
「いってらっしゃいです、センパイ」
私は保健室を後にした。
●
外に出れば変わらずの日暮れの日差しだった。古めかしい木造の校舎の世界を黄金色に染めている。あまり見慣れない数世代の日本の作りだ。これはこれで悪くないと思う。何人かのNPCらしき生徒がいて、彼らは一様に学ランかセーラー服。
かく言う私自身も紺色のセーラー服に服装が変わっていた。アイテムフォルダにはカソックの類が入っておらず、この恰好がこの校舎でのデフォルトなのだろう。
二階に上がる。
左を行けばレオがいるという生徒会らしいが、今は右だ。廊下を右に進んで手前の教室の前に。
この中にアサシンがいるという。あの蒼い拳士が。目覚めたばかりのせいか記憶は曖昧で、共に戦った聖杯戦争のことは思い出せない。
それでも、あの永遠の奈落の中で私の手を掴んでくれたことは覚えている。一言くらいは礼を言わなければなと思い、扉を開ける。
「おはよう、我が主殿」
そして彼はいた。レトロな木製の机が多くならぶ教室の中で、窓枠に背を預けながら私を待ちかまえていたように、入室の瞬間に声を掛けてきた。肩まで伸ばした黒髪に黒い目。飄々とした笑みは記憶と何一つ変わらず――だからこそ目に見えてその変化は際立っていた。
彼は蒼い着流しと袴、それに露出した胸の十字傷が特徴的だったはずだが、それはなかった。ノースリーブで首の根本まである肌に張り付く様な黒のシャツ。下は同じ色のツナギめいたゆとりをもったズボンだが、腰には鎖が何十にも巻き付いてる。足には無骨な軍靴で、腕から手首に掛けてはかつてのバンテージの代わりにまたもや鎖が。手はこれも肌に張り付くような素材でできたオープンフィンガーグローブ全体的にほぼすべての衣類は黒で、鎖だけが鈍い銀色を放っている。イメージカラーであった蒼はどこにもない。
唯一黒と銀以外は一つだけだ。
「……首輪?」
「うむ。外せないんだよねこれ」
薄紫色の首輪だ。シャツの真上の首輪があって、正面からは鎖が胸前まで垂れている。かつては目立っていた十字傷は完全に隠されている。和風なイメージのサーヴァントだったのにこれは果たしてどういうことか。
「裏側に落ちて来た時に勝手にこの恰好になってたんだよ。対サーヴァント用の拘束具みたいなもんだ。脱げないしなぁ。……だからあれぞ、趣味じゃないからな? こんなじゃらじゃら鎖とか首輪とか、首輪とか。あとそれに首輪とかな!」
「……本当かしら?」
「ホントホント。信じてよカレンさん。いくら何でもこれはないよ」
その割には随分に似合っている。このアサシンほど首輪が似合う英霊はそうはいないだろう。胸を張るとよい。
「嬉しくねぇ……ま、まぁ今はこの恰好がデフォルトになってるけど、カレンがなんか衣装データゲットしてくれればそれに着替えるから。というかこの首輪だけはどうにかしたいんだ」
「では衣装データを手に入れても首輪だけはそのままで」
「がっでむ」
崩れ落ちた。
「ははは……まぁいいけどね? もうこんなキャラだって解ってるし? ヒロインに虐げられるのが主人公の仕事だよなぁ……」
「多分、そんなの貴方だけでしょうね。あと、自分を主人公とか言うと痛さ全開ですよ」
「ぐぬぅ」
真にいい反応をするサーヴァントだ。げんなりする様子は服装は変わっても性格自体は変わっていない。そのことに少しホッとする。
「いや、それが全部一緒っていうわけじゃないんだ」
「どういうことかしら?」
「後でレオから説明あるだろうから詳しいこと省くけど、俺たちは聖杯戦争の途中に何者かの襲撃を受けて何回戦目かでこの月の裏側に落ちてきたんだ。記憶あるか?」
少し考え込むがない。というより未だに記憶の整理がついていない。とりあえず今ここが本来の場所ではないということを理解しておく。
「それでマスターは裏側に落とされて、サーヴァントも別空間に落とされて隔離された。何人かはそれをぶち破ってマスターのところにまで来たけど……なんか俺たちの場合だけやたら難易度ハードでな」
肩をすくめて彼は言う。
「もう無理ゲーってレベルの壁があった。それを宝具とスキル全開で無理やりぶち壊したんだけど……俺はあんまり器用な英霊じゃない。殴るしか能がないからそれだけで無茶して――色々代償があった」
「――代償」
「具体的に言えばスキルの消失だ。俺の
「……それは」
それは拙いのではないのだろうか。私はウィザードとしてはかなり未熟だ。本職が魔術師ではないのだから仕方ないとはいえ、それではアサシンへのバックアップや指示が覚束ないのでは……。
「ま、なんとかなるさ。これまでの戦いだって碌なもんじゃなかったし。それに」
「……? なにかしら」
アサシンは照れくさそうに頬を掻いて、言葉を続ける。
「変な話、生前の記憶も記録に劣化してる。――だから今ここにいる俺はアンタだけの守護者ってわけさ。なんか変な感覚だなぁとか、な」
「――そう」
あぁ、全くこの彼は変わらない。そういう恥ずかしいことを臆面もなく言えるのが私のサーヴァントだった。記憶とか記録ではなく、これは多分私の魂が知っていたこと。だからこれは当たり前のことで驚くべきでも照れるべきでもない。
頬が熱いくて、赤くなっているのも夕日のせいだ。
だから、この裏側でこの先どうなろうとも、何が待ち構えていようとも――
「俺はアンタと共にあるよ。これからもよろしくな、俺が惚れた俺だけの聖女」
「えぇ、きっと一緒に。私だけの守護者」
若干空いたのは魔改造とかノリだしてたり。
あと何故かデジモン二次もネタで書いてたり。
蒼一のCCCコスはシャイニングブレイドのレイジにいろいろ鎖が付いた感じ。あと首輪(コレダイジ
ちなみに首輪、垂れているところ一、二メートルくらいな伸びる。
……つまり、解るな?(