落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 番外編まとめ   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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第三線 「頑張れ頑張れ」

ホライゾン・A・アリアダスト。

俺にとって俺たちにとっては思い出深い少女の名前だ。この世界に来て始めてであったのは喜美だが、その次にで出逢ったのがトーリとホライゾンだった。長い黒髪の無表情な少女。皆からは一歩引きながら、それなのにいつも馬鹿なことを言っているトーリにはマジ厳しかった少女だった。

 そして、十年前に死んだはずの少女なのだ。

 十年前のある日、三河当主松平元信公の乗る馬車に轢かれて彼女は死んだ。その時にトーリも身心共に傷を負った。それを救ったのが喜美なのだが、その話は置いておいて。

 

 その死んだはずのホライゾンにあの馬鹿は、葵・トーリは告白するという。

 

 死んだはずの彼女に。もういないはずの彼女に告るとトーリは言った。

 無論、彼女の墓の告るわけではないだろう。告白する相手は別にいるのだ。心当たりがない、わけではない。いや、むしろどういうつもりなのかは解る。誰に告白するのかわかる。俺も彼女をホライゾンに重ねていたからだ。でも、まさか告白するとは思っていなかった。

 

 これが、前に進むということなのだろうか。

 俺には解らない。何一つ解らない。

 そんな俺に出来ることは一つもないのだろう。だからとりあえず、今出来ることは、

 

「こうやって、見守るくらいなのかぁ……」

 

 教導院の階段から、後悔通りの前に立つトーリを見守っていた。学校の敷地の外、正面通りから延びる自然区画に一直線に延びる石畳の道だった。そこそこ距離はあるが高い位置から見ていることもあり見晴らしはかなりいい。

 トーリの姿も良く見える。

 だが、見えるのはトーリだけではなくて、

 

「…………」

 

 俺が胡坐気味で座っているところから数段下、二人分くらいの間隔を開けて、喜美も俺と同じように座っていた。肩膝を抱え、何も言わずに微かな笑みだけ浮かべトーリを見守っている。

 

 変な女だ、と改めて思う。

 

 基本的に、武蔵の人間は皆頭がイっている。人を撃つのが好きな巫女と薄めの忠犬騎士とか犬臭いパシリ忍者とか姉狂いの裁判官候補とか厨二病の小説家とと糞汚ない守銭奴とかそれにゾッコンな補佐とか百合な金黒とか無口な労働者とか無駄に男前な女技師とか貧しい従士とか何時も空腹な政治家とかロリコンとかよくわからないスライムとか淫魔とかカレーとか。大人だとリアルアマゾネスとかなにもしない中年とか変態には不足しない。中には清涼剤的な良心もいるけれど基本稀だ。

 

 その中でも喜美はかなりおかしい。いつもテンション高いし、ひゃはってるし、叫んでるし、明らかに頭おかしいエロ担当の淫乱系踊り子だ。そんなやつなのに、たまに、今のように達観したような、母のような目で皆を見ている時がある。よくわからないテンション差だ。

 

 だから、変な女だと、俺は思う。

 変な女はよくわからない。

 まぁ、俺はわかっている事の方が少ないんだけど。

 ともあれ、ただ二人で後悔通りに望むトーリを見守っていた。

 

「怖かったら戻ってきてもいいのよ、トーリ。――愚弟なんだから」

 

 トーリと、喜美が呼ぶのは何時ぶりに聞いただろうか。この数年近くはずっと愚弟って呼んでたから、なにかものすごい違和感を感じた。でも、何も言えなくて、

 

「……」

 

 頬杖をつく。できることは、ない。なにしてるんだろうな俺とか、思わないでもない。他にやることがなかったわけでもないのだ。現に他の面子で手が開いていたのはトーリの告白前夜祭のために買い出しに行っている。それに行ってもよかったのだけど、なんとなく気が載らなくて、手持無沙汰でここにいる。

 なんとなく。

 変わらないなぁ、って思う。思い出されるのはもうかなり薄れてしまった前の世界のことだ。かつての世界でも、なんとなく生きていてた覚えがある。妹が死んで、あの人に弟子入りして、学校行って、アイツにあって――あの子と出逢った。でも、それでも。俺が自身が確固たる意志を持っていたかというと怪しいだろう。今だってそうなのだから。

 

 今の俺が抱えているのは武蔵の副長としての責任と在りし日の約束くらいだ。

 

 それで十分なのかもしれない。でも足りない気がするのだ。那須蒼一にとって、もっとなにか、わかりやすくも単純な何かがあるはずだと、思う。その何かが、わからないのだけど。

 

「……はぁ」

 

 もう、なんども繰り返して、答えのでない思考に溜息を吐く。堂々巡りもいいとこだ。

 そうだ。今は俺のことなんかどうでもいい。

 大事なのは、トーリのことなのだから。あの馬鹿が過去と向き合い、自らの喪失と向き合おうとしているのだから。故にアイツの幼馴染としては見届けてやらねばと思いっていたら、視線を戻す。トーリが動いた。

 

 なんかくねくねしたり、反復横飛び始めたりして、街灯の柱で低姿勢型ポールダンスを始め出した。

 何だあれは。

 

「おいおい、せっかく真面目な雰囲気出してたのにぶっこわすなよ」

 

「フフフ愚弟、結構いい雰囲気だと思ったらぶちこわしてくれるじゃない」

 

 なんか同じことを思っていた。思わず視線を向けたが喜美の様子には変わりはなかった。代わりにトーリが虫みたいに柱を昇りだした。その時だった。

 

「トーリはなにやってんの? あれ。新種の遊び? それとも叩き落とした方がいい?」

 

「先生?」

 

 酒瓶を抱えたジャージ姿の先生だ。

 

「フフフ学食で酒飲んでたって話だけどそっちこそなにしに来たの?」

 

「まぁ、先生は涼みに来たのよ。二人は……」

 

 最後まで告げずにトーリを見て、納得したように苦笑しながら座る。喜美の隣だ。そのままトーリを眺めながら髪を手で直しだした先生に喜美は眉をひそめ、

 

「フフフ、先生、手櫛はファッション以外にしちゃダメよ。トーリや蒼一もよくやるけど、髪が傷むんだからちょっと私に任せなさい」

 

 そう言って隣の先生の髪を梳いていく。

 そういえば、昔からそんなこと言われた。肩まである髪は昔からの名残で、やはりなんとなく続けているわけだが、昔からよく怒られた。身なりに関しては意外なほど、いやある意味彼女らしく細かい。

 やっぱり変な女だ。よくわからない。

 先生と雑談を始めた喜美を見てやっぱり思う。

 

「なに? アンタも梳いてほしいの? 蒼一」

 

 俺の視線に気付いたのだろうか、振り返らずに聞いてくる。

 

「いるかよ。ていうか、男がいちいちそんなの気にしてられるか」

 

「フフフ、アンタ馬鹿? 愚弟でも気にしてるのに気にしてないってそれつまり愚弟以下よ。はいおめでとう! 愚弟以下、つまりは屑男!」

 

 屑男って。

 

「お前酷いなぁ」

 

「ならそうじゃないって証明しなさいよ」

 

「はいはい、そのうちな」

 

「くくく」

 

 急に先生が笑いだした。禁断症状でも出たのだろうか。

 

「アンタ達も、相変わらずねぇ」

 

 相変わらず。その言葉に喜美は肩を竦め、俺はなにも言うことはなかった。見つからなかった、というべきかもしれないけど。

 先生が首もと、そこにある鎖に触れながら、

 

「頑張れ頑張れ」

 

 言う。

 頑張れ。そう、それを言う事しかな出来ない。俺も喜美も先生も。この場では見守って、頑張れっていう事しか出来ない。それに意味が無いとは言わないけど、成果があるともいえない、と俺は思うのだ。

 

 世界が変わっても変わらない事はいくつかある。そしてこれも一つだ。

 

 

 ――――結局、誰かのために何かはできない。自分のことは自分でやるしかないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、しかし。こんな子供染みたことも言ってられなくなるのだ。この日を境に世界は変わる。

 普段と変わらない日常。当り前のような陽だまりの日々。

 いつも通りだったはずの朝は、日が沈んだ時には世界は変わっていた。

 地脈路の暴走による三河消失と松平元信公や本多忠勝の死亡。

 大罪武装の真実そしてトーリが告白するであっただろう自動人形P―01s―――ホライゾン・A・アリアダストの真実。

 なにもかも一晩で変わってしまったのだ。

 

 これも変わらないことだ。世界が変わっても同じこと。どれだけ大事でも大切なことでもたった一瞬で崩れ落ちる。

 

 かつてと同じように。

 ならば俺は。失敗してしまった俺は、なにをするべきなのだろうか。  

 

 

 

 

 

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