落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 番外編まとめ 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
階段を左に曲がり、その一番奥には用務員室があった。ということはつまり先ほど会ったばかりのダンが使う部屋ということになるのだろう。あの恰好はまさしく用務員であり、つなぎ姿の教師というのは想像しにくい。自分たちが生徒というロールに当てられているだから、彼も用務員に当てはめられていても不思議ではない。
故にここはある意味彼の私室と言っても良かった。
だが、
「ほうほう、一九七〇年に神秘学の値崩れ、オーバーカウント一九九九が発生、と……。オイルショックみたいなもんすかねー。これで魔術師は軒並み近代化することになったすか。ま、ボクには関係ない話ッスけどー。それにしても、この快適さはどうだ。校舎のデッドスペースを利用して衣食住総てタダときた! ふふふ、どんな状況でも引きこもれるスキルこそ最強。ジナコさんはもうここからでないっすよー」
「豚の鳴き声ね」
「どわぁ!?」
中にいたのは物置のような部屋の中にパソコンや布団、菓子を所狭しと散乱させた長髪の女。あながち比喩でもなく太い。どことは言わなくても色々なところが太ましい。布団に来るまって液晶画面をニヤケながら閲覧する姿はまさしく畜生の類。そうでなかったら粗大ゴミ。
彼女を私は知っていた。
表の校舎でも同じように用務員室を占拠していただらしない女――ジナコ・カリギリ。
「そーですよジナコさんですよオルテンシアさん。目が覚めてよかったすねー、これからもお元気で。はい挨拶終わり出てってくださいねー」
タックルで押し出されそうになった。
腰を落として踏ん張る。
「ぬぐぐ……!」
「ふん……!」
「カレンさんカレンさん乙女に有るまじき声出てますよ! というかなんでそんな堂に入った自護体を……」
数秒間私とジナコが押し合いをして、
「ふぬぁ!!」
「くっ」
押し負けた。主に体重のせいだ。残念ながら今の私での力量では倍近くはあるだろう体重差を覆せない。体重差は大きい。私が軽すぎるし。ジナコは重すぎるし。
「そんなに体重強調しなくてもいいっすよ! ぐあーこれまた負けた気分! 精神的にもついでに体重的にも負けたぁー!」
はじき出された直後に鍵が閉められた扉の向こうでジナコの叫びが聞こえてきた。しかし私としてももっと、こう、なんとかあんなタックルを受け止められるようになりたい。いや、あの場合が受け流すのが正解だったか……?
「あーうん。受け流すか、受け止めるなら動きなしでの発勁とかできるといいんだろうけど……え? なんでそんな体術燃えてるの? いいんだよ? 戦うの俺だから。というか嫌な予感しかないんだけど俺的に」
「気のせいよ。折檻術に飽きたから八極拳覚えて制裁のバリエを増やそうっていうことではないわ」
「ぐ、ぐぅ……! 俺は止めるべきなのか……止められる気がしないけど……!」
よくわかっている。やめる気はないし。
「ちょっとー、扉の前でいちゃつかないでくれないっすかー。ロックかけまくったのにストロベリーオーラ来るとかなんなんすか。つーかそれでいちゃつきになるとかなんすか、アサシンさんマゾすっか、そうっすか、レベル高いすねぇ」
余計なお世話だ。それに今更なことを言わなくてもいい。
それよりも目的は彼女の説得だ。この畜生女が戦力になるのかは知らないが、そこら辺はあの王様やユリウスに押し付ければいい。弄られキャラぽいのでシンジとポジションの喰い合いでもして私を楽しみを増やしてくれれば尚素晴らしい。
「いや、そんな悪い丸出しの言葉でホイホイ付いていく馬鹿がいるわけないじゃないすかー。いやマジで。つーかここから出るとかジナコさん的に在りえないしー。ネットし放題、ゲームし放題、居眠りし放題。ゲーム寝落ちゲームのエンドレスを延々と続けられるここから出るとか御免蒙りたいすねー」
これはひどい。
これが廃人か。
「廃人はどの世界でもぶれないなー。いや、でもこいつ、もしかして……そういうことだと関わらない方がいいかなぁ。俺もカレンも元々そっちよりだけど、この状況ならできるだけ近づかない方が……」
「アサシン?」
「いや、なんでも。ジナコは諦めよう。こういう輩は何言っても無駄だ。放っておこう次に行こう。どうせ生徒会のモニタリングくらいはするだろ。だから、行こう」
「あーそうっすね。ここから出るつもりも協力する気もないけどオルテンシアさんたちの頑張りを茶化すくらいは指せてもらいますよー」
「……微妙にムカつくわね」
「だから相手するだけ無駄だって。女相手に聖骸布も使えないしなぁ。はい次ー」
●
「あらあら」
「おやおや」
左に進んで盛大に外れだったわけだが反対側に行けば外れなどというレベルではなかった。進んだ先、保健室や図書室のさらに奥の廊下に居た。
カソック姿の女。予選では藤村大河と名乗っていた彼女はその蠱惑的な笑みを崩さずに私を迎えいていた。本名は知らない。あるのは強烈な嫌悪感。それは向こうも同じようで、笑みは浮かべても目は笑っていない。
あまりの剣呑な空気にアサシンが霊体化するほどだった。
「これはこれはオルテンシアさん、目覚めたようでなにより。改めて自己紹介を。殺生院キアラと申します。そしてついでに申し上げるならば――私は貴女に、貴女たちに協力することはできません」
「理由は」
「一身上、あるいは私の力及ばないが故だからでしょうか」
首をかしげるという仕草だけでも同性の私から見て扇情的だった。頭部まで全身を覆う法衣ながら腰から足元に掛けて入ったスリットもまたそう。
魔性の女。
魔の性――そんな言葉がふさわしいのが殺生院キアラという女だった。
まったくもって聖職者にあるまじき女である。
『恰好に関しちゃ人のこと言えないだろう……』
「ここに落ちてきて、貴女が寝ている間に私なりに脱出の手段を講じてみましたが、不可能だと判断しました。そしてこの校舎という安全地帯がある以上、危険を冒してまで出る必要がないと。一度諦めた私が、これから立ち向かう貴女たちの力になるというのも難しいでしょう」
彼女は諦めていた。私が寝ている間というのを態々強調しなくてもいいと思うが、つまり精神的な問題だ。先ほど発足したばかりの生徒会はこの月の裏側から脱出しようと始まったばかり。そこに精神的に敗北した自分がいては邪魔であるからと。確かに精神面での影響は重要だ。モチベーションの如何は任務作戦の成功に大きく関わる。
けれど、
「気に入りいませんね」
「なんとでも。まぁ、少しばかりの助力程度ならばさせてもらいますが」
「結構。……いいえ、安全地帯とは?」
「言葉通りに意味です。今回、私たちをこの校舎に閉じ込めた何者かは私たちを放任している。聖杯戦争という枠組みを壊すだけの力を持った彼、或は彼女ならば私たちを消すのはいとも容易きことでしょう。慈悲がある、というのでしょうか。早急に私たちに干渉する気がない。故に安全地帯です」
「……」
慈悲――。
自分たちをこうして月の裏側に落とし、サーヴァントとマスターとのペアリングすら断ち切る何者か。ただの存在でないことは言うまでもない。そしてそれだけの力を以てしてでも私たちに手を出す気配はない。実際、順番に目を覚まして顔合わせに回るという余裕があるのだ。
だからこそ彼女の言葉は正しい。
少なくとも現時点で言えば。
「ハッ! 正しい物か。その女はただ自分が楽をするために言っているだけに過ぎない。そのことも見抜けないのか」
「――」
キアラの隣に現れたのは青い髪の少年だった。幼いが顔立ちは整っている。けれどその瞳には暗く、濁っていた。燕尾服のような恰好をする彼は突然光を纏いながら現れた。つまりそれはサーヴァントという証であり、
「……どういうつもりかしらアンデルセン」
「知れたこと。貴様と相性のいい人間など存在するとは思っていないがそこのシスターほどになるとも珍しい。実に愉快だ。そうやって醜く駄肉を見せつけながらその貧相な聖女と言い合いを続けていろ。そうだな、面白かったら俺が筆を執ってやる。ほら続けろ」
可愛い外見をしながらその口から吐き出される言葉は私ですら驚くほどに毒に満ちている。
けれど驚くべきはキアラが口にした名前。クラスではなく、真名。聖杯戦争において最も重要な要素であるはずのそれを彼女はごく当たり前のように口にしていた。
アンデルセン――ヨハン・クリスチャン・アンデルセン。
人魚姫やマッチ売りの少女など誰もが知っているような御伽噺を生み出した世界三大童話作家の一人。悪童染みた口端の歪みを持つこの子供がそんな人物だとは些か信じられないが、嘘をいう訳ではないだろう。
だからこそ信じられない。
真名を明かすというのは聖杯戦争においては最大のタブーであり――だからこそキアラの諦観を表していた。
キアラはアンデルセンに対しため息を吐き、
「このように口の悪いサーヴァントですが、戦闘以外には役に立ちます。貴女の力でどうにもならないことがあれば、どうぞ頼ってください。先ほども言いましたがある程度ならば力を貸します」
その言葉を最後にキアラとアンデルセンと別れる。来た廊下を戻って生徒会室へと帰還する。
「アサシン」
「ん?」
「貴方仮にも暗殺者の英霊なんだからあの女暗殺できないかしら」
「無茶言うな」
非協力的というか非協力敵というかつーかあれな感じのゲフンゲフン
CCC色々思い出し中ですねぇ。
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