落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 番外編まとめ   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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第四線「世界一いい男になって、世界一いい女に告白するんだ」

 

「極東、武蔵アリアダスト教導院所属、副長、近接武術師(ストライクフォーサー)、――――那須・蒼一だ」

 

三征西班牙(トレス・エスパニア)、アルカラ・デ・エナレス所属、第一特務、近接武術師(ストライクフォーサー)――――立花・宗茂です」

 

 停泊した武蔵から三河へと続く東側山岳街道の関所。

 沈みゆく夕日の中、そこで俺は立花・宗茂と相対していた。

 赤の装甲を纏う金の短髪の青年。一見線が細いが筋肉が絞り込まれているのがわかる。手握るのは、黒と白の剣砲。大罪武装(ロイズモイ・オプロ)、悲嘆の怠惰だ。

 対しては俺は何時も通り無手だ。もっとも全てが何時も通りではなく身に纏うのは武蔵の制服ではない。前の世界からほぼ唯一持ちこめた俺の戦装束。蒼の着流しと袴、腕から指先まで巻かれたバンテージ。かつてと違うのは首や腰に備え付けられたハードポイントぐらいだ。

 互いに睨みあう。

 遠くからは戦闘音が各地から響いてきた。

 

 三河が消失して、既に一夜が開けていた。そして、またなにもかも変わっていた。

 まず三河消失の責任として、松平元信公の嫡子P―01s――ホライゾン・アリアダストが自害を迫られ聖譜連合に捕縛された。同時に武蔵アリアダスト教導院、副会長の正純を除いた全役職持ちの権限が剥奪された。

 なにもできなくさせられたのだ。

 そして――――なにもできなくなった俺たちは、一人の少女の“お願い”と馬鹿の意思で動き出す。

 行われた臨時生徒会。 

 シロジロと直政、ネイトと鈴、トーリと正純、そして本多・二代と喜美。四つの相対を経て、俺たちは再起し、在りし日の約束を胸にホライゾンを救いに行くのだ。

 

 そして、その為に、俺は副長として、立花・宗茂と相対している。

 

「正直、貴方と相対するとは思いませんでした」

 

「ん、そうか? そりゃ、お前さんの持っているソレはウチの姫様の感情の一端なんだからな。あの馬鹿を送り届ける以外のことなら最重要だろ? だったら副長である俺が来てもおかしくないだろう」

 

「それは本来の副長ならば、でしょう。“落ちこぼれ(ゼロ)”、そんな(アーバンネーム)を付けられる副長が私と相対しに来るとは思えませんでした」

 

「あ、そ」

 

 まぁ、確かに碌な二つ名でも、強そうな字でもない。不可能男(インポッシブル)といい勝負だろう。

 

「ま、そんな(アーバンネーム)の俺でもやらなきゃいけないこともあるんだよ。……それ、返してもらうぜ」

 

「できますか?」

 

「やるんだよ」

 

 宗茂が強いということは昨夜の本多・忠勝との戦闘で分っている。大罪武装保有者、八大竜王の名は伊達では無い。

 でも、あの馬鹿に頼まれたのだから、やらなくちゃだめだろう。アイツは昔と変わらず馬鹿のままだったのだから。

 

「やらせませんよ」

 

 拳と剣砲を構える。闘気と覇気、そして殺意と殺気が互いの間を充満する。もとより語ることは用意していない。ノリキほどではないにしろ、口でベラベラ語る事は苦手な部類だ。

 だから、後は拳で語り、奪い返すのみ。

 

「いざ、参る!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 加速する。足を踏み出し、地面を踏みしめ、反動を用いて体を前に進め、それを連続させて疾走とさせる。

 同時に加速術式を発動。二代が用いる、禊や祓を利用したものではなく、もっと単純に前方へ落ちる(・・・)ことで加速する術式だ。つま先や膝、肩の前に表示枠(サインフレーム)を通り抜ける。それによってさらなる加速を得る。

 だが、

 

「遅いです」

 

 眼前に黒白の刃が付きこまれた。

 

「ーーっ!」

 

 とっさに頭を背け、膝を落とすことでなんとか回避する。耳の横と右の肩をギリギリで通過していく刃に肝を冷やす。だが、すぐに反撃にでようとするが、

 

「ぬ、っく!」

 

 全方位から鋼鉄の刃が降ってくる。斬撃の連撃だ。上下左右、単発も連撃も含めて異常な速度で刃が来るのだ。

 速い。

 なるほど、今朝神格武装『蜻蛉切り』の受け渡しの際に二代を超えたのも納得の速度だ。俺以上の速度を持つ二代よりさらに速いのだから越えようもない。

 速度面では完全に劣っている。

 だからこそ、技術面で対抗するのだ。

 

「――――スゥ」

 

 息を吸う。

 

「ハァ――――」

 

 息を吐く。

 前を向き、迫りくる刃を、

 

「な……!?」

 

 受け流す。

 上下左右、単発連撃含めた宗茂の斬撃。それは確かに速いし俺には出せない速度だ。十数メートルあった距離を一瞬で無くしたのがその証拠。だが、全てが同時に迫るというわけでもない。

 だから、一撃一撃を全て受け流す。

 

「よっと」

 

 斬撃は刀身に拳を当てて逸らす。刺突は掌底で軽く刃を弾く。横薙ぎは真後ろへのステップで回避。全ての攻撃を受け流す。

 

「これは……柔ですか!」

 

「Jud.ポピュラーで、わかりやすいだろう? 相手の動きと合わせて受け流す技術だ」

 

 柔、柔術、古武術。武芸十八般にも含まれる極東ではポピュラーな体術だ。実際直政も似たような投げ技を使っているし、点蔵も基本的な動きもできるだろう。だが、武蔵で最も練度が高いのは俺だ。

 

「これでも副長なんだよ」

 

 迫る斬撃を受け流し、刺突も手刀で下へ落とし気味の弾き脇へと流す。刺突が流れて隙が生まれる。狙い目は剣砲を持つ手首だ。宗茂の右手首を掴みまた下に落としながら引く。

 

「く……!」

 

 それに反発するように腕を上げながら引き戻す。それには逆らわなかった。宗茂が引いた手は握ったままだが、力は抜く。だから、宗茂が目を見開くも、当然距離は詰まり、

 

「よい、しょっと」

 

 体を回しながら懐に入った。上がった宗茂の手はそのまま、逆の手で襟を掴み、

 

「おんどりゃあ!」

 

 投げる。変則的な背負い投げだ。地面に叩きつけようとするが、

 

「なんの……!」

 

 背中から地面に落ちていく宗茂の右足が跳ね上がる。つま先が俺の鼻先へと放たれる。

 

「ちっ」

 

 手を離し、後ろへ跳ぶ。今度は数メートルほどの距離だ。その間に宗茂もしっかりと受け身して立ち上がっていた。

 

「……驚きました」

 

「ん?」

 

「なるほど確かに副長なのは伊達ではないようですね。“落ちこぼれ(ゼロ)”だとしても……いいえ、貴方がその名を付けられた経緯を考えれば、この字も理不尽でしたか」

 

「Jud.俺がこの字貰ったのは“那須”の姓持ってるくせに遠距離系統の術式をまったく使えないってことが大きいからな」

 

 俺の身に宿る呪いまがいはやっぱり世界を超えてもなくなってくれない。相も変わらず投擲射撃系のダメだし、術式も使えない。武蔵に来て翻訳術式貰って名乗った時、まず考えられたのは源平時代にいた“那須与一”の縁者であること。身よりもなかった俺は身柄解明のために、聖連やそれにわざわざ清武田の総長兼生徒会長で源義経にまで会いに行って調べてもらったのだ。

 

 結果は関係全く無し。

 

 義経が言うには顔は全く似てないし、それ以上に俺が遠距離系の術式を全く使えなかったことも大きかった。なんでも源平時代に“那須与一”を襲名したのはかなりのキチガイアーチャーだったらしく、ズドン巫女の浅間以上の射程距離と威力を誇ったとかなんとか。

 

 結局なんの関係もないから引き取りてがいなくてそのまま武蔵にいるのだ。

 そんな俺が武蔵副長について、聖連が付けたのが“落ちこぼれ《ゼロ》”の字だ。まったく余計なお世話と言いたい。

 

「ま、別にこの字自体に文句はないけどな。実際勉強面とかでは落ちこぼれ気味だし。愛着も……あるしな」

 

「?」

 

「こっちの話だ」

 

 手を軽く横に振りながら苦笑する。

 

「だとしても。素の体術でここまでの腕前とは。どこで身に付けたのでしょうか」

 

「さてな、忘れたよ」

 

 まさか異世界で、とはいえない。そんなこと言ったらメガネが狂喜してウザいに決まってる。

 

「侮ったのは謝罪しましょう。故にここからは“西国無双の武”をお見せします」

 

「なら“極東の武”で迎え撃つまでだよなぁ」

 

「Tes.」

 

「Jud.」

 

 行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やはり速度では劣る。全方位の単発連撃混成攻撃は健在だ。いや、聖譜術をさらに重ね掛けしてきているから速度はどんどん上がってきていた。宗茂の首後ろ全身の各部の熱を排出する十字型複合ラジエーターから陽炎を上げている。速度を重ねて来ているのだ。

 対して俺は速度は棄てた。

 最初の攻防で速度に関しては届かないと判断したのだ。ぶっちゃけ高速戦闘は得意ではない。武蔵の副長として一定レベル以上のスキルは持っているつもりだが、やはり得意ではない。得意でないことを使って勝てるような相手ではない。

 

「――――」

 

 だから弾く。流す。捌く。迫る黒白の刃を全霊で受け流す。

 受け流しのコツは力の入れ方だ。

 拳や手刀が刃に接触する瞬間に力を込めることで弾く。

 手のひらで受け止める瞬間に脱力し衝撃を腕や体を使って受け流す。

 手の甲を刀身に滑らせながら腕からの螺旋運動で捌く。

 無論言うほど簡単ではない。弾ききれず、捌き切れず、受け流しきれずに傷を負い、血が吹き出る、衝撃が骨を揺さぶる。

 

 だが、その程度では止まらない。

 この程度ならかつての世界でなんども潜った修羅場だ。

 

「――――シッ」

 

「クッ――――」

 

 宗茂の連撃の間に狙うのはカウンターだ。弾いたり捌いたりした一瞬の隙の中に手刀を射出することで反撃する。

 

 宗茂が走る。俺が弾く。

 宗茂が加速する。俺が受け流す。

 宗茂が疾走する。俺が捌く。

 

「…………?」

 

 ふと既知感。

 俺が止まっていて、宗茂のみが動いているこの状況。どこかで見憶えのある気がしないでもない。

 なんだろうと、思考の片隅で考えて、

 

・俺:『なんかさっきの姉ちゃんと同じじゃね?』

 

「ああ、なるほど」

 

 なるほど臨時生徒会の時の喜美と二代の相対と似てるな。あっちほど華やかじゃないけど。

 とかそんなこと考えてるからいけなかった。

 

「あ」

 

 一瞬、本の一瞬生まれた意識の空白が生まれ、それを宗茂が見逃すはずもなく、

 

「ガッーーーー!!」

 

 悲嘆の怠惰の刃が俺の胸にぶち込まれた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・あさま:『きゃっーーーー! 蒼一君、トーリ君が意識逸らしたせいで死んじゃいましたよーー! 真っ二つ!!』

・約全員:『お前酷いな!』

 

 まったくだ、勝ってに殺すなよ。

 だが、

 

「が、っ、ぐ……っ……!」

 

 致命傷だ。寸前で身を引く事で真っ二つは防いだが、それでも重傷には変わりない。

 口から血の塊が吐き出される。

 

「はっ……ぐ……!」

 

 痛い。普通にというか普通に胸を斬られた痛み。尋常じゃない激痛と熱さが全身を犯す。指先がかすかに動くことしかできない。

 

「は、はは……」

 

・俺  :『おいおい痛みで頭いかれたのか笑ってね?』

 

 やかましい。

 これはマジでヤバい。

 ああ、いや、笑えてきたのは頭がおかしくなったとかじゃなくて。ただ単純に懐かしいなと思ったのだ。このレベルの怪我っていうのはこの世界来る直前のあの時くらいじゃなかっただろうか。いや、さすがにあそこまで酷くはないか。この世界に来た時はこのくらいだった気がする。

 

「かはっ」

 

 零れる血を見ながら、進歩ないなぁって思う。

 あの人に失望されて、あの子も救えなくて。この世界に来て――――結局変わらない。

 なにも為せていない。

 

 ――――頼りにしてるぜ?

 

 そうあの馬鹿は言ってくれたのに。

 なさけない。だから屑男なんて呼ばれるのだ。

 

「――――は」

 

 そういや、このくらいに適度に死にかけてた時に出逢ったのが喜美だった。あの時はなに言ってるのか分んなかったけど。

 起きろとか、寝るなとか、そんな感じのこと言ってたらしいが。

 

 ――――喜美。そう喜美だ。

 

 なんだろう、なんか引っかかる。なにが、と言われれば困るのだけれど、なにかこう、喉の奥の何かしこりみたいなのがあるのだ。わからない、がなんだか懐かしいようなむずむずするというかくすぐったい感覚だ。

 

「ぁーー」

 

 なんか宗茂が悲嘆の怠惰構えて叫んでるが。なんだろう、スゲーこれが重要な気がする。欠けていた何かに手が届いたような、届いていないような。

 待て待て。記憶を掘り起こそう。とりあえず、今日一日のとこ。

 なんだっけ。  

 朝に自由作文の課題が出たんだ。お題は『私のしてほしいこと』。俺はなにも書けなかったけど、鈴がトーリを起こしてくれた。そして臨時生徒会。

 シロジロの勝利。ネイトの勝利。トーリと正純の引き分け。

 武蔵にも戦力があると証明した。騎士は武蔵を見捨てないと証明した。

 ホライゾンの自害に意味はないと叫んだ。

 これで一勝一分け一敗だった。うん、ここまではいい。

 んで、なんやかんやでガリレオ教授が介入してきて、二代も介入してきて。

 んで二代と喜美が相対して、喜美がマジ説教して二代倒して、トーリが王さま権限手に入れたのだ。

 大分端折ったけどこんな感じだったはず。

 

「――――」

 

 なんか違う。

 えっとだ、そうだな。もう少し巻きもどそう。喜美が高嶺舞発動してマジ説教。うんそれはいい。アイツ、なんか女のことに関してはマジうるさいし。

 それで、なにがあったか。大体こんな感じだったはずだったが。そういえば、久しぶりに喜美が傷付いてた。なんかあの時はすげー胸の中ざわざわしてたが、それでも浅間が、

 

 ――――喜美は負けませんから。

 

 言っていた。俺だってあの変な女が負けるなんて思い難い。

 そして、

 

 ――――皆、知ってますよね?喜美が、一回しかないたことがないのを。 

 

「――――ああ、そうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「喜美さ、泣かないんだよなぁ」

 

 辿りついた答えに痛みも傷も何もかも忘れて立ち上がる。そして、それの答えを口に出す。

 

「……?」

 

 宗茂が振り返り、眉をひそめる。俺が立ち上がったことにも、俺が言ったことにも。

 というか、今から凄いこと言いそうだが。まぁいい。

 

「ほら、お前も臨時生徒会の時の相対見てただろ? んで、あの変な女さ、昔から一度きりしか泣いてないんだよ」

 

 浅間も言っていたが、ホライゾンが死んだ直後のトーリはひどかった。人形みたいで、でも俺たちにはどうしようもできなかった。なんというかあの子の被って、動けなかった。でも、そんなトーリを救ったのが喜美だったのだ。

 その時にアイツは、喜美は泣いていた。トーリと一緒に。

 そして、そんな時に俺は何もできなかった。

 それからアイツは泣かなくて、いつも笑ってて、馬鹿を向こう側に連れて行かなかったから俺たちの誰も頭が上がらなくて。

 

「でも……それってどうなんだろうな」

 

「どう、とは……」

 

「だから、泣きたい時ないのかなってことだよ」

 

 誰も頭上がらなくて、皆無意識の内に頼ってて、馬鹿やってるかと思えば、皆のこと見守ってて。

 凄いよな、凄ぇよ。でもどうなんだろうなって俺は思うんだよ。

 あの女は泣きたい時どうしてるんだろうなって。

 

「もし、泣きたい時に泣けないなら……それって辛いよなぁ」

 

 ああ、こんなこと言ってるけどアイツどんな顔してるんだろうか。白けてるかな、笑ってるのかな。ここからだとわかんねぇや。

 だから言葉を紡ぐ。

 

「んでさぁ、それが、自分は泣いてる場合じゃないとか、そんなこと思ってたら。そんなこと思わせてるんだとしたら……ダメだよなぁ」

 

 ああ、くそ。上手く言葉にできない。今のは起りそうだなアイツ。

 

「えっと、つまりあれだ。あー、なんというかだな」

 

 髪をぐしゃぐしゃと掻いて。

 

「女が泣きたい時に泣かせられない男もどうだってんだよ」

 

・約全員:『うわぁ……』

 

 うるさいお前ら。

 ああ、でもそういうことだ。

 なんだこれ、なんか頭すっきりしてきた。

 

「ああ、そうだよな。うん、つまりこういうことだ」

 

 なにが言いたいのか納得が言った。自分と自分が噛みあう。魂と肉体が合致する。なんだ那須蒼一ってこんなに単純だったのか。我ながら笑える。トーリすまん。先に俺がやっちまうよ。

 

 

 

「――――惚れた女泣かせられない男になりたくなんか、ないんだよ」

 

 

 

 そりゃあ、泣かれると弱いよ。泣き顔は見るとキツイ。

 でも、泣く事で救われることもあるだろう。楽になる事もあるだろう。 

 泣きたいと時に泣けないっていうのは苦しいだろ。

 

「自己満足、男の独り善がりって言ったらそれまでだけどよ。でも男の矜持ってやつだよな」

 

 ああ、なんというかこの後怖い。喜美、なんて反応するかなぁ。

 アイツイイ女なんだから今の俺なんか見向きもしてくれないだろうなぁ。屑男とか言われてたし。

 でも、だからこそ。

 

「なぁ、立花・宗茂」

 

「Tes.なんでしょうか」

 

「アンタ、惚れた女は?」

 

「最愛の人が」

 

「いい女か?」

 

「Tes.」

 

 ああ、きっとお前みたいないい男が惚れるんだからいい女なんだろうな。“立花・宗茂”の妻“立花・誾”というのは関係なくて、この男が惚れた女だからいい女なんだろうと思う。

 

「……でも。きっと俺が惚れた女の方がいい女だぜ」

 

「……っ」

 

 宗茂の眉がピクリと動く。はは、そうだ、癇に障ってくれよ。アンタとはそういう理由で喧嘩したい。

 そう、喧嘩だ。

 

「なぁおい、だから喧嘩しようぜ。どっちの惚れた女がいい女なのか、どっちはいい男なのか。ああ、そうだなコイツはお前だけじゃねぇや。どうせ姫様の感情取り戻すためにこれから俺たち世界回るからよ。なぁ、色男共。俺と喧嘩しようぜ。んでもって世界一いい男になってさ」

 

 笑う。

 こんなに笑ったことがかつてあっただろうか。

 すっげーテンションヤバい。

 

 

 

 

「――――世界一いい男になって、世界一いい女に告白するんだ」

 

 

 

 

 

・賢 姉:『…………フッ』

 

・約全員:『なにその笑い超気になる!』

 

 まったくだ。でも、なんか怖いから後回し。

 視線は真っ直ぐ、まず最初の相手に。

 

「させません」

 

 宗茂もまた真っ直ぐ俺へと言う。

 

「そんなことをさせるわけにはいけません。立場的にも、一人の男としても」

 

 悲嘆の怠惰を構えてくる。そうだろう、コイツだって嫁がいて、そいつの惚れて惚れられてるんだから。俺みたいな餓鬼が言ってることを認められないだろう。

 でも、それくらい越えなきゃあの高嶺には届かないと思うんだ。

 

「ああ、だからさ、そこら辺は拳で、刃で語ろうぜ。正直口じゃ足りないからさ。それでいいだろう?」

 

「Tes.」

 

 ははは。笑いが止まらない本当にいい気分だ。憑き物が落ちたようだ。 

 いや、実際そうなんだろう。

 もう一つわかったことがある。俺はかつてあの子のことが好きだったんだ。だから、あの人と闘ったんだろう。

 それをさっきまで引きずってたんだろう。我ながら女々しい。でもゴメンな■■。今の俺は喜美に惚れちゃったから。俺はもう、前に進むよ。

 息を吸い、吐く。そして構えるのは握りしめた拳だ。

 

「那須・蒼一」

 

 名乗る。さっきまでの俺は腑抜けていたから。前に進むための第一歩として自らの名を名乗るのだ。この世界での名前を。

 

「立花・宗茂」

 

 それに宗茂も応えてくれる。ああ、やっぱいい男だ。これならきっといい戦友になれる。

 でも、まずは。 

 打倒するのだ。

 

 足に力を入れて、加速の支点とする。術式ももうフルに使って真っ向勝負だ。使えることは全て使う。己の全身全霊で相対するのだ。

 そして疾走の直前。

 

『…………』

 

 視界の隅に表示枠が展開された。それは喜美で、でもなにも言わない彼女はただ苦笑しただけだった。

 ああ、マジいい女過ぎる。

 そんな彼女の見合う男になりたいから。

 

 

「行くぞぉぉぉーーーーーッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

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