落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 番外編まとめ   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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第五線 「俺は今、生きている!」

 駆ける、奔る、走る。

 そのための初動に単純な動きとして、足を踏みしめ、大地からの反発を糧とし、一度沈めておいた膝や腰を爆発させる。

 それにより生じたのは大地の砕きと、

 

「おお……!」

 

 加速だ。体術により得た加速を初速とし、それと同時につま先は膝頭、肩の前面に生じた表示枠を通し、さらに加速する。

 加速の余波で胸に喰らった傷が痛むが、構わずに前進する。

 それ以外にすることなどないのだから。

 右の拳を振りかぶり、向かう先は、

 

「っ……!」

 

 “西国無双”立花・宗茂。

 迷いなく正面から加速俺に対し、少しだけ目を見開きながらも、

 

「シッーー!」

 

 悲嘆の怠惰を振う。長大な剣砲で、たしか重さは七キロほどはあるはずらしいがしかしそれを感じさせず、再び全方位単発連続混成攻撃が振ってくる。

 やはり、速い。

 俺には出せないし、全てを対応するのも不可能な速度だ。それに対し、先ほどまでは受け流しや捌きで凌いできたが、今度は違う。

 もはやそんな選択は選ばない。これまでは良くも悪くも受けの姿勢だった。だから今度は、

 

「攻め一択……!」

 

 攻める。

 迫る斬撃は最早構わずに双拳をぶち込む。悲嘆の怠惰の刃が俺の体を切り裂き、血がしぶく。だがそれでも全てを無視して両の拳による弾幕を形成する。それのほとんどは刃と激突し甲高い音を立てる。それでもいくつかは、宗茂へとヒットする。数は僅か三。

 

「……!?」

 

 だが、僅かに入った拳は確実の宗茂の肉を潰し、骨を砕く。宗茂が目を見開き後退するが、しかし余裕を与えるつもりはない。とっさの動きとして後ろへ跳ねた宗茂へと放った追撃の一撃は蹴りだ。

 前に出した右足を支点として体を回す、両腕を振って加速を追加させてだ。そして放ったのはつま先を伸ばした左足による回し蹴り。初速から音を超え水蒸気を纏った一撃は大気をぶち込みながら宗茂へ。鋭く伸びるそれを宗茂は空中で身を捻ることで回避する。

 

「ぬ、く……!」

 

 空中で身を捻らせる強引な回避だ。無理な動きで筋をいくつか痛めただろうがそれでも回避する。回し蹴りを放ち終え、自然体に戻った頃には互いに十数メートルの距離が開いていた。

 

「それは……なん、ですか?」

 

 問われた宗茂の視線の先は当然俺だ。いや、正確に言えば俺自身ではなく、

 

コイツ(・・・)か?」

 

 軽く掲げた手を握ったり開いたりし、その手が纏うのは蒼い光。

 いや、それは手だけではなく俺の全身を薄く纏っている。

 

「流体……ではありませんね? 流体反応は感じられませんし、なんらかの術式という気配でもない」

 

「Jud.流体光でも術式の効果でもない。もともと俺は内燃拝気とかかなり少ないし、術式も日常的なものや単純なものしか使えない。ま、そこらへんが“落ちこぼれ(ゼロ)”の字の理由の一つでもあるんだが……これはな?」

 

 一度区切る。

 そして、手に宿る蒼光を眺めながら言う。

 

「コイツはな――――俺自身の生命力だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 表示枠や通神から皆の息をのむ声が聞こえる。だが、それには構わず言葉を続ける。

 

「流体とか術式は関係無くてな。俺が元々持つ、生来より保有している生命力をこういう感じで具現化してるんだよ。まぁ俺は単純に“気”って呼んでるけど、“気功”でも“オーラ”でも“波動”でもいいぜ?」

 

 こういう時に真っ先に突っ込んできそうなネシンバラからの反応が来ない。結構驚かせてしまっただろうか。宗茂も目を見開いたままだから言葉を繋げた。

 

「単純に俺の生命力だから、いろいろ面倒臭い概念やら解釈を必要とする術式とかより大分単純でな。纏うだけで単純な膂力強化できるし、一か所に集中させれば筋力やら耐久力も上がる。まぁ、そこらへんは結構イメージ頼りで曖昧だけどよ」

 

 実際明確な操作方法はない。ぶっちゃけフィーリングだし。こっちの世界に来てからはほとんど使わなかったが、そう簡単に忘れる物でも無い。元々小難しいことは抜きの概念なのだ。意思とイメージありきなのだ。

 

「待ってください!」

 

「ん」

 

 宗茂が声を上げる、それは焦ったようなもので、

 

「生命力といいましたね……? それを戦闘に使用していると。そんなことをしていたら体に差し支えるんではないですか……!?」

 

 問われた。それは鋭いもので、だから髪をくしゃくしゃとしながら答える。

 

「ああ、うんそうだな。生命力を戦闘力に転換してるわけだからぁ……俺、あんま長生きできんよ」

 

「……!」

 

・約全員:『……!』

 

 誰もが驚いたような声を上げる武蔵側も聖連側も等しくだ。ああ、うん。こういう反応あるだろうから黙ってたし、これまで人前では使わなかったのだ。

 だがしかし、最早使わない余裕は無いし、隠す必要も無い。

 

「なぁ、つまりわかるか? 俺がコレを使う意味をよぉ」

 

「わかりません! なぜ貴方が、武蔵の副長が己を損なわせてでも戦うのですか! 武蔵は、失わせないために戦うのではなかったのでは!?」

 

「Jud.そうだな。俺たちは姫様を失わせないために、喪失を祓うために戦っている。それは間違っていない」

 

「ならば!」

 

 

「――けどな、喪失ってのは無くならないんだよ」

 

 

 そう、喪失は生きていくうえで消して無くならない。喪失を喪失させるなんてことはできないんだ。

 かつて俺が妹を失い、師を失い、戦友を失い、好きな女の子を失った俺だからこそ思う。

 どれだけ願っても、祈っても、渇望しても、切望しても、熱望しても。

 生きていく以上は失わずにはいられない。それはかつての世界でも、この世界でも変わらないんだ。

 どれだけトーリが嘯いても、王さまになって誰の夢をも叶えても喪失はなくならない。

 必ず何かを失うんだ。

 

 でも、俺はアイツらに喪失なんて味わってほしくない。あの馬鹿たちには笑っていてほしいと思う。一度味わった身だし、一度味わって壊れかけたトーリを見たからこそ思う。

 そう、だから。

 

「俺が武蔵の喪失を担おう」

 

 そうだ、これこそが俺の“副長”としての在り方だ。

 

「ああ、そうだ。武蔵は喪失を祓う。だがこれは喪失を恐れてるわけじゃあない。王は喪失を望んではいない。騎士も巫女も、きっと姫様もそう願ってくれるだろう。だからこそ俺は喪失を己のものとしよう。王にも民にもこの武蔵のなにもかもに俺は失わせない。失うのは俺で十分だ」

 

 この力は俺の命を失わせる。喪失を以って己の力とするのが俺だ。

 

「いいか、覚えとけよ世界。俺たちは喪失させない、だが喪失を恐れない。武蔵の武は喪失こそを武器とするんだ。そんなもんで俺たちは止まらないんだよ」

 

 そうやって俺は世界と向き合い、戦う。

 これぐらいできないと世界一いい男には到底なれないと思うし、

 

「昔、約束したからなぁ……」

 

 ずっと昔、俺がこの世界に来てから間もなくの頃、馬鹿は言った。自分が皆の夢を叶えさせる王様になると。そして馬鹿の仲間の馬鹿も、馬鹿がその夢を抱き続けるのなら馬鹿を手伝うと。

 そんな奴らに馬鹿たちよりも酷い屑は言ったのだ。そんなこと出来る訳が無いって。絶対に失わずにはいられなくて、大事な何かを零れ落として、そんな夢は叶わないって。

 そんな糞みたいなことを言う馬鹿は言ってくれた。

 

 ――――だったらお前が、俺たちが失わないように手伝ってくれ。

 

 そんな単純なことを言ったのだ。あまりに単純過ぎて呆気にとられたのをよく覚えてる。いくらなんでも馬鹿すぎる。

 でも、だからその約束にJud.と答えたのだ。

 その約束はこれまで全く果たせなかったけど、

 

「今ここで果たそう」

 

 息を吸い、吐く。拳を構える。右腕を宗の前に、左腕は腰のあたりに。単純な構え。その構えに俺の命の蒼光を乗せる。 その煌めきは俺の命を損なわせるが、

 

 魂は、むしろ猛る。

 

 見据える先の宗茂は俺の話にいくらか思うことがあったのだろうか、少し顔を顰める。だがすぐにソレは消え去り、悲嘆の怠惰を構え、

 

「ッ――ならば」

 

 振りかぶりながら、

 

「貴方に敗北を与えれば武蔵は喪失の拠り所を失い、その機会を得るという事でしょう!」

 

「させるかぁーーっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 肩を引く。拳を顔の高さまで上げ振りかぶる。大地を踏みしめ、反動を膝や腰、体幹を用いて拳に力を乗せる。

 

「――」

 

 拳をぶち込む。

 

「――は」

 

 また、一度引き戻してから、 

 

「――はは」

 

 ぶち込み、着弾の際の飛沫を見る。

 

「――はははは」

 

 繰り返す。何度も、何度も。

 そして口からこぼれるのは笑みだ。

 ああ、果たしてこれまで愉しく拳を振ったことがあるだろうか。

 否、一度もない。

 

「ははははははははは!」

 

 かつて前の世界での幼少期においては強くなる為に必死だったし、たまにある実践や組手では自分より少し実力が上の相手ばかりで愉しむ余裕もなかった。

 一通りの修行を終わらせ免許皆伝を得て、かつて通っていた教導院――いや、向こうでは高校か、そこは今度は周囲のレベルが低すぎた。一年、二年では相手にならない。三年でも真っ向から俺と相対できる存在はいなかったはずだ。

 高校生活一年間でまともな戦闘はわずか三回だった。その三回も一回はあの子からの遠距離からの一方的な狙撃で、一回はかつての戦友と拳士として武偵としての技術もなにもなくただ殴り合っただけ。

 そして最後は、師匠と殺し合っただけだ。

 一つ目は不理解だったし、二つ目はただお互いに感情を吐きだしただけ。三つめは、ただただ悲しかった。

 

 だから、だから、こうして笑って喧嘩すると言うのは始めてだ。

 知らなかった。

 己の磨き上げた武勇を他人と競い合うのがここまで愉しいとは。

 惚れた女に見合う男になるために拳を振るのがここまで愉しいとは。

 自分とよりもいい男と殴り合うのはここまで愉しいとは。

 

「ああ――ああ……!」

 

 知らなかった。何もかも。そして知ると言う事は、

 

「おお、快なり!」

 

 叫び、笑みと共にさらなる拳撃を叩きこんだ。

 

「ぐ、お、お」

 

 俺が拳撃によって生じさせた瀑布だが、相対する宗茂も勿論劣らない。

 聖譜術をこれまで以上に重ね掛けし、全身にかなりの負荷があるのにも関わらず悲嘆の怠惰を振う。

 

「おおおおおーーーー!」

 

「はははははーーーー!」

 

 拳と刃が音を立て、大気を揺るがせる。“気”の使用に武器のアドバンテージはない。だからこそ、肉体と鋼が拮抗している。勿論完全にではないが。例え、鋼並みの硬度を持たせても、向こうも同じなのだ。激突の度に悲嘆の怠惰も刃こぼれしていくが、俺の拳も軋んでいく。いつ砕けてもおかしくないし痛みもある。正直心臓に悪い。

 

「けど、これが」

 

 痛みがあり、

 恐れがあり、

 震えがあり、

 ――喜びがある。

 自らの魂の底から叫び、笑っているという実感がある。

 

「そうだ……これが、今の俺の、本気……!」

 

 自分の限界を超えようとしている。

 その先にある境地を。この戦いの先の幸いを。

 願い祈り渇望し、本気でいられる。

 そう、つまりは。

 

「俺は今、生きている!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――距離を取った。十数メートル程。

 相対が始まってどれくらいたったのかはわからないが、それでも互いの戦装束は血まみれで、互いの傷が無い所はない。俺は“気”による負荷で、宗茂は聖譜術によるもの。どちらも筋肉やら骨やらにかなりの負担が掛っているだろう。

 だが、距離を取ったのはそれによる不利のせいではなく

 

「おおおおおお!!」

 

 むしろ、決着の前の静けさだ。

 叫びが変わる。哄笑から咆哮へと。

 

「はあああああ!!」

 

 それに伴うように、宗茂も咆える。

 そして、

 

「っ!」

 

 同時に飛び出した。加速の表示に大地を砕き、全身各所に水蒸気の尾を引く。

 俺は拳を腰だめに、宗茂も同様だ。正拳と刺突。もうフェイントを掛ける余裕もない。真っ向勝負だ。

 十数メートルなんて、本当に刹那で終わる。

 その刹那のなか、目が合い、

 

「は」

 

「ふ」

 

 笑みを浮かべ、

 

「おおおおおおおおおおおおお!!!」

 

「はああああああああああああ!!!」

 

 叫ぶ。

 

「結べ――」

 

 超疾走の中、停滞した感覚の中で聞いたのはその言葉。“蜻蛉切り”と同じ割断機能の始動語。恐らくは大上段からの斬撃を仮に外したとしても、横に避けた俺を刀身に写すことで割断させるのだろう。この速度では後ろに引く事はもはや不可能。

 なるほど見事な連携だ。後手に回っては避けらない。だが、速度では俺が劣っている。故に宗茂は自分自身の勝利を確信しているだろう。

 

 だが、それは誤りだ。

 俺にはあるのだ。速度(スピード)ではなく技術(テクニカル)を用いた絶対先制の奥義が。なにもかも超えて駆け抜ける極みの一。必要攻撃時間ゼロ秒。無拍子ならぬ零拍子。同時になけなしの内燃拝気を消費し流体を拳に纏わせることで、拳撃を概念的に補強する。

 終ぞ、あの人に見せることはできなかった技。

 拳士最強の奥義。

 放った。

 

「悲嘆のた――」

 

「――天上天下・蒼」

 

 ぶち込む。

 悲嘆の怠惰は避け、宗茂の大斬撃よりも先に。

 そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ……、ハァ、ハァ……」

 

 足がふら付く。視界は霞んでいた。血を流し過ぎたのだろう。かなり体を酷使させたからかなりヤバいだろうが、もうなんか痛覚とか感じななくて、しっちゃかめっちゃかだ。

 だが、それでも。

 

「……は」

 

 足元に落ちていた悲嘆の怠惰を拾い上げる。 

 視線の先は俺の一撃を受けてぶっ飛んだ宗茂。ピクリとも動かないが、胸だけは微かに上下し息をしている。まぁ、この男ならそう死なないだろう。

 意識を失った男に、それでも語りかける。

 

「……アンタが弱かったなんて言わない。今回は俺の想いが勝ったてだけだ……まぁ、次も負ける気ないけど」

 

 それでも、これで一人目。やれやれ我ながら厳しい道のりだ。

 

「まあ、でも、今日の所は言わせてもらうぜ」

 

 悲嘆の怠惰を掲げ、腹に力を入れて、他の戦場の皆へと届けと思いながら、

 

「敵将、立花・宗茂、討ち取ったりーー!」

 

 勝利の雄たけびを上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

     

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