ありふれた日常生活の中で……   作:月詠 秋水

1 / 1
今回は1話だけの短編を書いてみました。
内容は……ネタバレはしませんけど、中々良いんじゃないかなと言う感じには仕上がりました。
語彙力が全く変化ないのは放っておいてください(涙目)


ありふれた日常生活の中で……

離婚しよう……。この無慈悲かつ冷静な言葉は、スーツ姿の男性の口から発せられた言葉だった。その言葉に女性は、ただ涙を流しながら頷くだけだった。事の始まりは数か月前に遡ることになる。

「2月14日、○○の喫茶店で聡美さんは浮気相手とお茶を飲んだ後ホテルへ直行しました……」

受け止めたくない現実が、今年入社半年で結婚から2年たつ私……風花 楓に突き付けられた。この言葉を発した人は今回浮気調査を引き受けてくれた探偵さんだ。数か月前に妻の携帯の着信履歴を偶然見てしまった事があり、その時に私の知らない人からの電話が数えきれないくらいに刻まれていた。その後自分の家を粗探ししていたら偶然妻の荷物の中からゴムの箱が出てきた。しかもかなり使用した形跡があり、残りは数少なかった。そして調査を依頼する数か月前からずっと私に対してよそよそしく、家事放棄をすることも多かった。すでにその時から嫌な予感はしていた。……してはいたが、的中してしまった以上後に引くことは出来ずにいた。

「そうですか……ありがとうございました」

深々と頭を下げ依頼料金を支払ってから、証拠となる写真(コピー)を数枚頂きその場を後にした。家に帰ろうにも足取りが重くとても晴れやかな気分ではなかった。気分を少しでも晴らすために愛車のRX-7を転がすことにした。宛もなく適当に転がし、帰路についたのはすっかりと日の暮れた午後8時過ぎだった。駐車場にFDを止め玄関の方へ歩を進めつつも窓に視線を向けた。しかし誰も居ないのか中は真っ暗だった。

「はぁ……今日も遅くなるのかな」

一人ぼやきながらも家の中に入り、スーツを脱いで冷蔵庫の中で冷えていた缶ビールを飲み干しさっさと寝てしまった。

翌朝、今日は有給休暇を取っていたので休みだった。リビングに行っても誰もおらず、ため息をつきながらソファーに腰を下ろし麦茶を飲んでいた。突如携帯電話の着信音が静かな部屋に響き渡った。

「はい、風花です」

電話に出てみると、前々から相談していた法律事務所からだった。私自身も用があったのでFDを転がし法律事務所へと向かった。そこで色々な話をし、その後は離婚届を発行して記入したり弁護士を確保したりいろんな事があって1日がすっかり終わりかけていた。翌日私は上司に連絡し有給休暇を伸ばしてもらった。そして冒頭にも合った通り、離婚しようと妻に面と向かって言い放った。この時すでに妻には愛はなく、心にあったものは絶望感と失望と軽蔑だけだった。最初は妻も起こりながら反対したり、散々ごねて時にはビンタまで飛んできた時もあった。しかしそんなものを食らうわけもなく、適当にあしらった。一番驚いたことと言えば……泣きながら包丁を私に突き立ててきた時かな。あの時 はさすがに笑い事ではなく生きた心地すらしなかった。そんな感情を抑えつつ離婚届を提出しに行き、裁判やらなんやらで慰謝料を浮気相手から頂いた。妻の両親は必死に仲直りしろと言ってくれていたが、私にはその気はなくぶっきら棒に断った。

そしてその日から私はおかしくなってしまった。女性の事がすっかり苦手になったというか……信用することが出来なくなってしまった。会社でも女性社員の事に内心怯えてしまったりすることから精神科に行くことを決意した。すると、医師からとんでもない事が告げられた。

「これは厄介ですね……女性恐怖症と不信症が同時に発症していますね」

という事は、私はもう二度と女性の事を好きになれないという事なのだろうか……等と落ち込んではいなかった。むしろそうなんだろうなという気はしていた。実質本心ではもう結婚なんてするつもりはないし、むしろあまり関わり合いたくないとさえ思っていたほどだ。その後医師の診断を終え会社に戻ると上司が心配してくれた。その上司の長谷川さんは中年の男性で、私が新入社員の時から物凄くお世話になっている人でもあった。

「実は……。」

医師から伝えられたことをそのままいうと、上司は苦虫を噛んだような渋い表情になった。どうやらその人の話によると、今年の4月から新入社員が入ってきて私はその女性社員の担当にされていたらしい。そのことを聞いた時物凄く驚いた。

しかしこれも仕事の一環、女性恐怖症だからってその仕事を投げ出すわけにもいかなかった為引き受けてしまった……が、内心とても怯えていた。表情には絶対に出さないが。

その日は仕事をサクッと終わらせ早めに自宅へと帰った。誰も居るはずのないのに”ただいま”と呟き、リビングへ直行しスーツを脱ぎ風呂へと向かった。普段シャワーだけなのだが、今回は浴槽も入れてみた。その結果長湯してのぼせそうになったがとてもさっぱりした。その後寝間着へと着替え冷蔵庫で冷えていた麦茶を飲み干し、その日も早めに寝てしまった。

それから数か月後、ついに4月を迎えてしまった。我が社には計5名の新入社員が入り、そのうちの1人の女性を私が受け持つことになった。見た目は黒髪のセミロング、スタイルもよくそこまで主張していない控えめな胸……周りの人からの印象は最高潮だった。しかし私の視点から見れば、この人も絶対に何かを隠しているという疑心暗鬼の心が出てしまい、綺麗な人でも綺麗だと思う事が出来なかった。

「篠原 真衣です。よろしくお願いします、先輩」

にっこりと微笑みながら私に挨拶してくる真衣さん、しかしその笑顔に私はとてつもない恐怖心を覚えた。

「あ……あぁ、よろしく」

自己紹介を終え早速作業へと取り掛かった。だが驚いたことに、真衣さんはとても仕事の飲み込みが早くあっと言う間に作業の手順などを覚えてしまった。上司はほほう……と感心していた。デスクワークの仕事を教えてる最中私に緊急の打ち合わせがあると言って、他社へと訪問しなければならなくなった。これで彼女から解放される……そう思ったのも束の間だった。上司が余計なことを言わなければ1人になれたのに。

「じゃあ真衣くんも付いて行き給え、打ち合わせとはどういう物なのかしっかりと学んでくるとよい」

「ちょ……待っ……」

私の言葉むなしくかき消され、2人で打ち合わせ先へと向かうことになってしまった。早速必要な書類をまとめ駐車場へと足を運ぶと、真衣さんが突然こんな話題を切り出してきた。

「先輩、私の車と先輩の車……どちらで行きます?」

そう、この会社には会社の車なんてものはなかった。なので乗用車を持っていることがこの会社の採用条件となっていた。

「急いでいるし、私の車でいいよ」

そう言ってFDの元へと速足で歩み寄る。彼女は私の車を見て驚いていた。そんな事を気にせず彼女がシートベルトを付けるのを確認した後急いで駐車場を後にした。

しばらく走っていると、彼女がこんなことを言ってきた。

「先輩って意外と運転上手いんですね。シフトアップ時に伝わる衝撃も少ないし、なんというか……重力変化みたいなので引き起る気持ち悪い感覚もあまりないですし……隣に乗っていて、とても安心感があります」

「……誉め言葉として受け取っておく」

そんな他愛もない話をしながら他社へとFDを転がした。僅か数時間で到着し、至急会議室へと向かった。そして3時間にも及ぶ長い会議は終わり、再び会社へ帰るために愛車を走らせていた。途中牛丼屋へ寄り夕食を2人で済ませた。そして食事中彼女があることを聞いてきた。

「先輩はなんでそんなに私と距離を置いているんですか?」

「そ、それは……いろいろあるんだよ」

「え~、気になりますよ」

その後しつこく質問攻めにあったので、離婚したこととその理由だけを話してあげた。彼女はとても可哀想なものを見る目で私を見ている……と思っていたが、彼女の方に視線を向けてみるとなぜか少し瞳が潤んでいた。

「ど、どうして泣くんだ」

「分かりません……でも、先輩が可哀想で。私結構先輩の見た目格好いいと思うんですよ、はっきり言ってしまうとかなりタイプです」

その言葉に一瞬言葉を詰まらせた。別に照れているというわけではない、ただその言葉が信用に足る言葉なのか本当に疑わしく思えただけだった。驚きの表情を浮かべつつも彼女の表情を見てみると、決して冗談を言っている表情などではなく真剣な表情だった。

「……言っておくが、食事に誘ったのだって変な意味で誘ったわけではない。ただ私の部下になる以上親睦という物をだな……一応深めなければいけないわけで」

咳払いをしつつ釘を刺しておく。こうでもしておかないと変な誤解を招いてしまうことがあるからだ。彼女に至ってそんな心配もないかもしれないが念の為……特に彼女は気にしているようなそぶりを見せずにいた。それなのでこちらも気にしないようにした。

注文していた品が運ばれてきたのでそれを平らげ、勘定を済ませ愛車に乗り込んだ後会社へと急ぎ足で直行しようとしていた。しばらく愛車を走らせていると彼女は寄り道にコンビニに寄ろうと言い出してきた。早く会社へ帰って書類を整理したい私は少し考えたが……私も少しお手洗いに行きたかったので寄ることにした。コンビニの駐車場へ愛車を止め彼女と二人で店内に入った。私は手洗いへと直行し、しばらく後に出てきた。その時には彼女の姿は店内にはなく、外に止めてある私の愛車の横でお茶を飲んでいた。

「すまない、待たせてしまって」

「いえいえ、いいんですよ」

柔らかな笑顔で微笑みながらお茶のキャップを閉めた。そしてそのまま会社へ戻ろうとコンビニを後にし、2つ目の交差点に差し掛かった時……唐突に事故は発生した。

青信号になったのでクラッチから足を離しそのまま少しずつエンジンの回転数を上げて直進を始めた。そして交差点の半分以上に差し掛かろうとした瞬間、突然真横からとても眩しい光が入り込んできた。横目で見てみると……1台の大型トラックが携帯を弄りながら赤信号を無視して突っ込んできたのだ。周りにいた人も騒然となり、私自身も……そして隣にいた彼女もまたこの後起こる大惨事が脳裏に浮かんだ。

(せめて……彼女だけは守らないと、会社の資料をまとめて貰わないと。ごめんFD……)

心の中で愛車に謝りつつ左手で彼女をシーターに押さえつけるような感じで手を伸ばした。

「せ、先輩……?」

「喋るな、舌を嚙まないようにな」

それだけを言い残し、アクセルを少しずつ抜きサイドブレーキを思いっきり引いてスピン状態にさせる。そして思いっきり右にハンドルを切りスピン角度を斜めから真横にした。(危うく信号待ちの車のフロント部分にテールをぶつけそうになったが、間一髪の所でかわす事が出来た。)そしてアクセルを細かく踏んだり離したりを繰り返し、ドリフト状態で間一髪トラックをかわす事が出来た……ただし私側のサイドミラーはトラックと接触し壊れてしまったが)その後カウンターを切り何とかドリフト状態で交差点を無事に抜け出せれる……と思っていたら、思っていた以上にタイヤが滑りガードレールがすぐそこまで迫っていた。もう駄目だと観念した私はアクセルから足を離しブレーキのみを強く踏ん で少しでも衝撃を和らげようとして……運転席側の方から勢いよくガードレールへと衝突した。とても強い衝撃に少し気を失い、目覚めたときに助手席の方を見てみると彼女も気を失っていた。しかし特に目立った外傷はなく、安心した。さて……問題は私の方にあったようだった。頭から多量の出血に左肩の脱臼に骨折、更に運が悪いことに首を鞭打ちしたらしい。多分腰骨にもひびが入っていると思う……少し動かしただけでとんでもない痛みに襲われた。

「ちっ……運が悪いな」

愛車から出ようにもドアがガードレールにぶつかった衝撃で歪んでしまい、尚且つ接触しているためびくともしなかった。ここで無理しても仕様が無いので痛む体を必死に動かしながらも彼女を起こした。頭から血を流している私の姿を見てかなり驚いていたが(むしろ怖がっていた)彼女の話によると私がシートに押さえつけていたおかげで大した怪我をせずに済んだという……救急車のサイレンの音が聞こえる頃には私の意識は闇の中へと手放していた。後から聞いた話なのだが、私の容体はとても不安定で血も足りずいつ死んでもおかしくない状態だったそうだ。それでも社長や上司達が来てくれて、とても励まされて、とても嬉しかった。ただ一つ気になったのは彼女……真衣さんがお見舞いに来てく れなかったことだ。上司曰く彼女なりに怖かったのだろうって言っていたけど……まぁ、そうなんだろうなと納得しておいた。そう、その時は……。

私の怪我は全治2週間、それでもそんなに有給を取るわけにもいかないので1週間弱で会社へと復帰した。退院後警察の取り調べなどあり、数日は潰れてしまった。腕にギブスを巻き愛車のFDが治る……と言ってもサスペンションも駄目になってしまったし、これは手の打ちようがないらしいので新しい車に買い替えることにした。といっても保険が下りてくれたので何とか半額以下の出費で購入できたのだが……何でだろう、また私はFDを買ってしまった。アクセルを踏み込んだ時のエンジンの音がたまらなく好きなのだ。まぁ……この話は置いておくとして、友人からFCを借りて会社に出勤していた。腕が治るまでは友人に運転をしてもらっていた。

友人に送ってもらい会社の中へ入ると……何故か背筋がゾクッとするような、何とも言えぬ嫌な感覚に襲われた。そして何より気になったのが……皆の視線が氷のように冷たかったことだ。幸いなことに上司だけは普通に接してきてくれていたものの……昼休みに屋上へと呼び出された。真衣さんはというと、あの時以来私と会話をしなくなっていた。顔も合わせてもくれないし、完全に私を避けている感じだった。

(変なの……)

そう感じながらも午前中普通に仕事をこなし、昼食を食べる前に屋上へと向かった。すると先に上司が来ていた。

「あの……何で呼び出したんですかと聞く前に一つ聞いていいですか、なんでこんなに皆……」

ため息交じりに質問しながらも上司の方見てみると、少し怖い感じの表情で私の方を見ていた。唐突に変わった雰囲気に息をのみながらも黙り込んでいると、上司の口からとんでもない一言が飛び出してきた。

「お前……トラックが迫ってきている最中真衣君をシートに無理やり押さえつけた挙句、無理にスピンして事故起こして血まみれで彼女に言い寄ったそうじゃないか」

「はっ……?」

余りにも唐突かつ意味が分からない言葉に、上司という事も忘れて聞き返した。上司の話によると、あの時の話は正確には伝わっておらずさっき上司が口にした通りの事が真実とすり替わって広まっていたようだ。私は心底怒りと動揺を隠しきれなかった。

「ちょっと待ってくださいよ……トラックはあの時真横から来てました、そのせいでドラレコには映らなかったけど……でも、あそこでスピンして逃げなければ彼女諸共お陀仏だったんですよ?まぁ……その後スピン状態から立て直せず事故った無能は私ですけども……。それに言い寄るって意味深な言い方はやめてくださいよ、私はあの時彼女の意識確認及び外傷等が無いか確かめていただけです」

見苦しい言い訳だとは自分でも分かっている、だけど誤解されたまま自分だけが悪いなんて言われるのには耐えられなかった。元々といえばあのトラックの運転手の前方不注意が招いた結果だ、私が悪く言われる筋合いはない。……だが現実は無慈悲で残酷だった、私の言い分を聞いてくれる所か全く相手にもせずに責任をすべて私一人に擦り付けた。

湧き上がる怒りを抑えつける為にため息をついた瞬間、とある疑問が浮かんだ。私は確かにあの時左手でシートに抑えつけたが、彼女もあの時の事を把握出来ているのであればあれは止むを得ないスピンだったと分かってくれているはず。仮に何が起きたか分からずとも、無理やり押さえつけられたは無いと思う。確かに事故を起こしてしまったのは私のミスだったけど、血まみれの姿で言い寄ったりなんてしていない。その事はちゃんと理解してくれているはず……では何でこんな噂が独り歩きしているのか、理由は二つある。まず一つ目は彼女自身が事実を改変し、私を貶めるような形で噂を流した……じゃあ何のために?考えられるのは……1つ目は私を退社まで追い込んでその座に就くため。だがこれ は考えにくい、彼女ほどならあと数年で今の私と同じ座にまで這い上がれるからだ。では何故?考えうる2つ目は……私が不利なことを言いふらし、皆から蔑まれ壊れていく私を見て楽しむためだ。これは最も可能性が高くもはやこれ以外ありえないと思えるくらいの理由だった。つまり最初に思った通り、彼女は根が腐りきった性悪だったという事だ。

そしてもう一つの理由、それは第三者があの事故現場を見ていて、尚且つあの真っ暗な車内をも見ていた奴がそう勘違い、もしくは私を追い込むために皆に言いふらしたという事も考えることが出来る。しかしあの時は夜遅くだったし、外から車内が見えるはずがない。つまり……。

「ははっ……そういう事かよ」

誰にも聞こえないような小さな声で呟いた。しかしその声には心の底からの絶望も混ざりこんでいた。

「……誰が皆にそんな下らないこと吹き込んだか知りませんけど、そう思うんだったら勝手にしてください。そんな証拠も、ましてや真実も知らないやつにそんなホラ吹かれると非常に目障りですけど、もう放っておきます。」

何かを言おうとした上司の言葉を聞き流し、その場を後にした。オフィスの中の自分の席に戻ると、一切れの手紙が置いてあった。読んでみたがこれまた酷い内容だった。

「一体誰だよ……」

沸々と湧き上がる殺意と怒りと絶望を抑えながらも、冷たい視線の降り注ぐオフィスの中で黙々と作業をしていた。時折ヒソヒソ話で私の悪口が聞こえて本気で泣きたくなったが、今は私が悪いと思い込まれている以上そんな事が出来ようはずもなく……ただひたすら仕事に没頭し定時になるまで待った。

そして定時になり、私は一足先に会社を出て友人に連絡しようとポケットから携帯を取り出そうとした……が、机の引き出しの中に置いてきてしまったようだ。もう今日はあそこには戻りたくないが、携帯がない以上不便なので取りに戻った。オフィスがある会の部屋の扉に手をかけた瞬間、中から笑い声が聞こえた。息を潜めて立ち聞きしていると……どんな顔をすればいいか分からないような会話が聞こえた。

「まじかよ」

「そう……らしいです。先輩が私のここを抑えつけたかと思えば、今度は急にハンドルを切ってスピンさせたんですよ。そしてそのまま事故って……気が付いた時には先輩が血まみれで私の方を向いていました」

「それは完全にアウトやなw」

「乱暴運転酷すぎワロチwww」

「ちょwww皆笑いすぎwwww」

「お前だって笑ってるやんw」

聞こえたのは事故起こしたときに私の隣にいた……いわば同じ被害者であったはずの真衣さんの声だった。そしてその話を聞いて爆笑しているオフィスの皆……。

(畜生……分かっていたけど、やっぱり自分で聞くと辛いな)

心の中で愚痴を零し思いっきりドアを開けた。するとさっきまで賑わっていたはずのオフィス内がとても静かになっていた。なるべく動揺を悟られないように表情を無にしつつ自分の席に行き携帯を取り出し、帰ろうとした時だった……。

「おいおい、自慢のFDで乱暴運転して事故った挙句血まみれで部下に言い寄って気を失った奴が帰ろうとしてるぜw」

「うわぁ……死んじゃえばよかったのに」

「さっさとおっちネよ!」

そんな野次と共に空き缶が私に向かって投げられた。そして最悪なことにへし折れた腕部分に直撃、言葉にできないほどの激痛が走った。だけどこんなことで音を上げていては思うつぼだ……と、心に渇を入れ扉を開けて振り返った。そして……。

「ろくに真実も知らず、あまつさえ普段仕事も出来ない無能が偽りの真実に惑わされ踊らされている……大層なこと言うのは仕事をきちんと終わらせられるようになってからいうんだな、ご愁傷様」

と鼻で笑い、吐き捨てるように言葉にしてからその場を後にした。だがあの時自分でも分かったことがあった。それは……”笑うことが出来なくなっている”という事だ。さっきも鼻で笑おうとしたが、実際に笑っていたのは口元だけで、眼は完全に……死んでいた。そりゃあそうだ……今日一日中であんなに、あんな人数からコケにされれば誰だってこうなると思う。頭の中で悶々と考えながらも友人に連絡し、迎えに来てもらい家まで送ってもらった。そして友人と別れ、風呂に入りソファーで一人何も考えずに呆けていた。すると突然携帯からメール受信音がした。読む気にもなれなかったが、気力を振り絞って見てみた。するとこんなことが書かれていた。

”差出人:真衣

 要件:先ほどはごめんなさい

突然メールしてすみません、私どうしてもあの時の本当のこと知りたくて……今から会ってくれませんか?場所は東京駅の入り口で……待っています。

                                             真衣より”

「……ふざけんなよ」

内心思っていたことがつい口に出てしまった。こんな不貞腐れてる状態で会えと、しかも会社で私の居ない所で散々悪口言っていたくせに?そんな事しておいて……今更信じろと、馬鹿言うのも大概にしろよ。

私は即座に返信した。

” もういいです、放っておいてください。あと私に関わらないでください。”

送信されたのを確認して、また呆けていた。しばらくするとまた真衣さんから返信が帰ってきた。

”どうしてですか?もしかしてあの話……本当だったんですか?”

その言葉に、平穏を取り戻しかけてた心はまた揺さぶられた。

”本当なわけないだろう、だけど何を言っても信じてくれない……だから勝手に思い込ませてることにした。妄想は個人の自由だ、好きにさせてやればいい。だから……”

だから……もう私に関わらないでくれ。それを打とうとしたが打てずに送信してしまった。こんな時に意気地のない自分が時折嫌になる……。しばらく返信の来ない静かな時間が続き、そして数時間たった後に一つ返信が来た。

”そうですか……。”

とだけしか書いてなかった。向こうも諦めてくれた……とホッとしたと同時に、何故か悲しくなり涙が溢れ出てきた。こんないい年したおっさんが一人で泣いているなんて……恥ずかしいけど、涙が止まらなかった。しばらくの間一人で泣き続けていた。

翌朝、気が付いたらリビングのソファーで寝ていた。昨日泣きつかれてここで寝てしまったみたいだ。今日は休日、しかもしばらくの間上司から出社しないようにと言われている。

「ははは……どうせ首だろうな」

明日からどうしよう……そんな不安を抱えつつも車会社へと歩を進めた。新しい愛車を引き取りに行くためだった。一回ガレージを覗かせて貰ったことがあるが、とても酷い有様で特に運転席側の方がぐしゃぐしゃに潰れてしまいこれ以上は走れそうになかった。その有様を思い出しつつも会社で起きたことも思い出し、いい事が無かったことを思い出し涙目になりかけた。

(後でお払いにでも行った方がいいのかな……)

そんな事を思っているとあっと言う間に車会社に到着した。中に入ると担当の人が出迎えてくれて、新しい車の契約などを手っ取り早く済ませ車のカギをもらった後新しいガレージに案内してもらい新品のFDに乗り込みその場を後にした。まだ新品でまったく馴染んでない愛車を転がしながら黙々と考え込んでいた。

(どうすっか……)

一旦気持ちを落ち着ける為にコンビニに寄り、お茶を買い車の中で飲みながら携帯を確認した。すると1件電話が入っていたのに気付き見てみると、まったく知らない番号からかかってきていた。気になり折り返し電話してみると、意外な相手に繋がれた。

「もしもし、ようやく反応してくれたんですね……先輩」

電話の相手は真衣さんだったことに気付き、とても驚いて切りそうになってしまった。電話を切る赤いボタンに指を触れさせようとした瞬間、向こうから焦りながら制止してきた。話をすることは特になかったはずなので、何の用だと問いただしてみた。

「いえ……会ってくれなさそうなので直接電話をしたんです。どうしても納得いかないことがあって。先輩がそんな酷い事するはずないって……」

「だから、そんな事なんで私に聞くんだ。メールでも言った通り、勝手に思い込んでいればいいじゃないか……もういい、切る」

「せ、先輩……」

真衣さんの言葉を中断し携帯を仕舞った。これ以上今日は誰の声も聴きたくなかったからだ。私は深いため息をつきながらハンドルに項垂れるように手をつき、そのまま自宅に車を走らせる……と思ったが、今回の騒動の原因は何なのか気になったというか何というか……真実を突き止めたく警察署へと車を走らせた。中に入ると私に事情徴収した警察官が私の姿を見てこちらに来てくれた。

「楓さん、今日は如何なされました?」

私はどうしてもあの事故の事が気になると言い、もう一度交差点に設置された防犯カメラを見させてもらうことにした。会社で起きている騒動……と言っても噂だけが独り歩きしているだけなのだが、その事を警察官には一切伝えず終いだった。そして準備が整ったと部屋へ案内してくれたのでその部屋に入り、私のFDがスピンするところから何度も見せてもらった。この警察官の話によれば、トラックの運転手は赤信号無視や余所見運転などの罪で免許取り消し、そして罰金を支払ったらしい。まぁ、そんなことはどうでもいいとして……やはり何度見てもおかしい所は(不自然なところ)一切見当たらない。ならば、何故会社であんな噂が広まってしまっているのか。真衣さんは話を聞いている限りでは まず犯人ではない(疑わしいが)、ならばどうして……その答えは意外とあっさり見つかった。

「これは……」

私は驚き立ち上がった。そこに映っていたのは事故の後のFD……そして、運転席側を覗き込む一人の人影。どうやら彼は誰かに電話をしながら私の所を覗いていたみたいだ。そのシーンを見た瞬間、壮絶な吐き気と悪寒に襲われた。

(まさか……そんな、こんなことって……。)

ビデオ視聴を終え、警察官にお礼と少し立ち話をしてから署を後にした。自宅につき携帯を確認してみると、上司からメールが入っていた。内容は明日の事だった。

”明日会社に出社しろ”

その一文しか書いていなかったが、その瞬間私はほぼ全てを悟った。そして分かりましたと了承の返信を送り、友人ともう一人に電話をかけてその日は寝た。

 

翌日、いつも通り友人と2人で会社へ向かっている最中だった、背後からトラックが来ていることに気が付いた。妙な胸騒ぎを抑えつつも会社へと1歩……また1歩近づいていく。そんな時だった、人通りの少ない信号で止まった友人。しかし車の背後のトラックの速度が一向に落ちる気配がしなかった。その様子をバックミラーで見ていた私は青ざめ、運転席の方に目をやった。すると、この前と同じで携帯電話を見ながら運転していたのだ。思い過ごしであって欲しい……そんな願いを一瞬で打ち砕かれた。友人に合図をすると、頷いて急発進させた。幸い人通りが少ないためか多少無視しても怖い事は無い、だが恐怖はこれでは終わらなかった。なんと目の前からも猛スピードで余所見運転のトラックが 走ってきた。これはもう凶器としか言わざるえなかった。

「ちょっと強い衝撃来るから固まってて!!」

「あぁ!」

私はサイドシートで衝撃に備え固まった。友人は急ハンドルで車をスピンさせ、次の瞬間……この前の事故の時とは比べ物にならない程の衝撃が襲ってきた。やがて衝撃が収まり後ろを見てみると……後部座席の所がトラック同士に挟まれ無くなっていた。横を見てみると、幸いにも友人に怪我はなかった。ホッと一息つき、こっそりと外へ出て座った。周りを見渡してみると、誰かの足音が聞こえた。

(これは……革靴?)

コッコッコッコという音色を響かせ、こちらに向かってきている。だが幸いトラックの向こう側だった。そしてその人は何かを確認し誰かに電話し始めた。

「あぁ……成功したか分からん、念の為安否を確認次第会社へ戻る」

そういってこっち側へ回り込もうとする。そして……そこで居るはずのない人と出くわした。

「は、長谷川さん……」

擦れそうでも必死に声を絞り出した。上司は少し残念そうな表情を浮かべ、僕の元へ駆け寄って来た。

「大丈夫か、おい……お前最近事故にあい過ぎだ、ちゃんとしろよ」

私は無言で俯いた。そして上司が立ち上がりこちらに背を向けた瞬間……友人が上司をなぎ倒し、手錠をはめた。

「午前9時37分……殺人未遂の容疑で長谷川俊彦を逮捕」

無線でパトカーを呼び、上司は友人の下でもがいていた。

「な、何故だ……貴様、楓の友人ではなかったのか!」

「残念だったな、私は警察官だ。楓さんの友人さんは今は署で待機してもらっているんだよ」

「は、嵌めたな……楓!」

私は立ち上がり、上司の方を見た。

「長谷川さんは私がどんな時でもきかけてくれた、心配してくれていた優しい人だった……それなのに、どうしてこんな事を。」

そう呟くと、まるで初めて聞いたかのようにしらを切った。

「何を言っている、何のことだかさっぱりわからんぞ!」

そんな上司に怒りが湧き上がり、胸元に隠しこんでいたボイスレコーダーを見せ再生した。そこに入っていたのは先程の上司の声と会話の内容、それを聞かせると上司はさらに喚いた。

「貴様……俺をはめる為に、小細工しおったな!楓!」

「……」

私はもう声も聴きたくないので、友人(警察官)にボイスレコーダーを渡し一足先に署へ戻った。その後は驚くほどにあっさりと終わりを告げた。

どうやら上司は昔から私の事が気に入らなく、監視を含め私の面倒を見ていたそうだった。このことに社長は関係なく、独断でやったことだという。ちなみにこの前の事故も上司が仕組んだことだったらしい。この事は全国でニュースになり、あっという間に全国に知れ渡った。

 

会社内の変な噂も上司の仕業らしく、このニュースが流れるなり皆私に頭を下げて謝ってきた。私は特に気にしていなかったのでいいと言って、会社を辞め逃げるようにその場を後にした。その場に真衣さんの姿はなく、今日は非番かなと思い会社の玄関を抜けると……駐車場に真衣さんが待っていた。

「こんにちは、先輩」

彼女は相変わらず微笑んで私に挨拶してきた。

「私はもう先輩じゃない……もう私の事は忘れてくれ」

そう言って彼女の隣を通り過ぎ、そのまま自宅へ戻ろうとした。その瞬間、彼女に腕を掴まれた。振り返ってみると、何故か切なそうな顔をして私の方を見ていた。ため息をつきながら理由を聞いてみると……。

「先輩……じゃなくて、楓さん。この前は疑ってしまい……本当にごめんなさい!」

深々と頭を下げ謝られた。

「別に……前にも言った通り、勝手に思い込んでろと言ったのは私で、真衣さんが悪いわけじゃない。と言う訳で、これ以上ないなら帰る」

掴まれた腕を振り解こうとしたが、一向に放してくれなかった。もう一度振り返ってみると……涙を零しながら必死に私の腕を掴んでいる真衣さんの姿が目に映った。

「な……何で泣いて……」

戸惑って顔を逸らした瞬間……頬に暖かくて柔らかいものが触れた。驚いて視線だけその方向へ向けてみると、真衣さんが私の頬に口付けをしていた。しかも顔を赤らめながらなのを見る限り、悪戯という訳では無さそうだ。そして驚いたまま飛び退いて後ずさりしつつも……自分は自分でかなり鼓動が早くなっていた。

少し沈黙が訪れたが、その空気を切り裂くように真衣さんが口を開いた。

「何で私から逃げようとするんですか……私前にも言いましたよね、先輩の事好みだって……それなのに、会社の上司部下の関係じゃなくなった途端何で離れて行こうとするんですか。私は先輩の傍に居たい……もっと、先輩のこと知りたいのに……!」

次々と涙を零しながら必死に訴えてくる。

「何で……私はあの時の事を冗談だとばかり思っていた。私の事を意識していないと思っていた……のに」

言葉にならない声で呟きつつ、俯いた。本音を言ってしまうと、この行為さえ私を揶揄う為の演技だとしか思えていなかったのだから。

「それに……私は女性が怖いんだ。また裏切られるかもしれない……今回の件だってそうだ、信頼していた人が裏切った。私はもう……何を信じればいいのか……分からないんだ……」

涙を堪えているせいか肩を震わせながら、堪えても堪えきれない滴を頬に伝わせながら言った。女性恐怖症だけではなく、本当に人間不信症になりかけていた。

「もう……裏切られるのは沢山だ!」

必死の思いで叫んだ。次の瞬間……真衣さんは震える私の体を抱きしめてくれた。力強く……でも優しく、暖かく抱きしめてくれた。

「裏切ったりなんて……しません、本当に先輩の事が……好きなんですから。信じてください……時間がかかってもいい、だから……ゆっくりと私の事も知っていってください……」

そういって真衣さんは、瞳を閉じ再びキスをした。誰も居ない駐車場で、2人は結ばれたのだが……それはもうちょっと後の話になる。




ご視聴ありがとうございました!
この日の後日談みたいなのを後に綴ろうと思っていますので、その時をお楽しみに!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。