二振り 依頼
まだ日が昇り切っておらず、薄暗いころに目が覚め、何時ものように動きやすい服装に着替えてから外に出る。走り、ある場所へとたどり着く。
ここは空き地である。レインボーブリッジに立てかけられた巨大な看板の裏側なのだが、人目に付きにくいため訓練にはもってこいの場所だ。
イメージするのは未来の姿。その姿に追いつくために今日も剣を振り続ける。
しばらく鍛錬した後部屋に戻り、朝食をとり、制服に着替えて登校する。
そういえばここに来てからしばらくしてわかったことだが、吸血衝動が以前に比べて圧倒的に少なく、意思だけで自制できるようになった。それに、日光にも強くなっているらしい。
まあ日光に当たった部分がバラバラになりそうなぐらいに痛かったのだが。
おかげで日中にも行動できるようになったけど余計に気をつけなくちゃいけないな。
武偵高でも普通の高校のように一般科目の授業がある。
一時間目から四時間目までが普通の授業で、五時間目以降はそれぞれの専属科目に分かれて実習を行うらしいが、今日はしない。
否、できないのだ。
なぜなら、まだ新しいバイトが見つかっていないからだ。
こっちの世界では前の世界の知り合いはおらず、当然のことながら家族もいない。
よって、生活費その他は全て自分で稼ぐ必要がある。
本当なら一定の研修期間の後からしかできない
日雇いのバイトは資金集めとして武偵高に来る前にやっていたけど、ここで生活していくことを考えると安定しないバイトはよくない。
そんなわけでバイトが見つかるまでは研修期間中でも依頼を受けてもいいことになっている。
4時間目の授業が終わり昼休みになる。
この時間に食事をしたり、依頼を受けることができる。
で、依頼が張り出されている掲示板に来たのだが……
「どうしたものかな?」
俺には依頼を受けるにあたって条件がある。
条件の一つ、他の武偵高の生徒一人を同じ依頼に同伴させること。
まあ、まだ危険かどうかも分からない生徒が一人で行かせるなんて武偵の信用にかかわるだろうし、当然のことだ。同伴とはいっても見張り役の方が正しい気がする。
本当なら迷惑をかけてしまうがキンジに手伝ってもらおうかと考えていたのだが、キンジは授業が終わるとともに走ってどこかへ行ってしまった。
まだキンジぐらいしか頼めそうなやつがいないので、正直困った。近いうちに武偵高に色々払わなきゃいけないんだが。
「んふふ~、シローくんお困りの様かな? 理子が助けてあげようか? 一緒に依頼やってあげようか?」
後ろを向くと理子がいた。それにしても俺の事情をどうやって知ったんだろう。
渡りに船なんだろうけど、なんだか非常に申し訳ない。
「申し訳ないんだけど、頼めるか?」
「いいよぉー! 理子に任せなさい!」
そんな感じで依頼は始まった。
「今回の依頼ってなになに? 理子にも教えて」
「えっと、今回の依頼は害獣駆除にした」
害獣駆除。それが今回の依頼だ。最近になって熊が人里に降りてきて畑を荒らしているらしい。
しかもこの熊は人をすでに何人か襲っていて、重症になっている人もいるようだ。
モノレールに乗って被害に遭った畑の近くに行き、近隣の森の中で熊を探す。
「やっぱクマ耳とか付けたり着ぐるみとか着た方がよかったかな?」
「くまみみ? ってなにさ。いや、一応武偵活動中なんだから制服じゃないとまずいだろ」
「もーっ。シローくんはわかってないなぁ。そーゆーのは気分の問題なの!」
など意味もない会話をしながら森の中で熊を探していた。
強暴そうに感じる熊だが実は意外と臆病な性格をしていて、熊よけの鈴をつけたり、歌を歌ったりするだけで近寄ってはこないものだ。
「あるーひ、もりのーなーか、クマさんに、であーった」
楽しそうに歌っているのはいいのだけど、こっちは熊を見つける必要があって、
「はなさくもーりーのーみーちー、クマさんにであー……」
歌っていたらいつまで経っても見つけられないのだが、
「……た」
目の前に熊がいる。
「クマだーっ!」
理子の声に驚いたらしく、熊はこちらに襲いかかってきた。
まずはポケットから取り出すように見せかけながら小型のナイフを投影し、熊の胴体目がけて投げる。
ナイフは熊の体に突き刺さり、空中で三回転しながら吹っ飛んで行った。
魔術などは使っていない純粋な体術だけの技だが、当たると吹き飛ばされる。
埋葬機関秘伝の投擲技法らしいのだが、シエルさんに一ヶ月ずっと付きまとって教えて欲しいと頼み込んだら教えてくれた。
修行は地獄のように大変で、何度も鉄甲作用をこの身で味わった。文字通り血反吐を吐いたこともあった。
俺の魔術の特性上、使えると戦略が広がるために教えてもらったのだが、結構な迷惑をかけたと思う。別れるときは笑って許してくれたのだが。
その鉄甲作用を熊に試してみたのだが、成功してよかった。
転がっていった熊が起き上がるのと同時に熊の腕を掴み、背負い投げをする。
倒れているところを先程のナイフと同様の物を投影し、熊の首を切り、心臓に突き立てる。
「ん、終わったぞ」
「シローくんすっーごい! さっきのナイフ何だったの? 理子にも教えて教えて!」
「企業秘密」
「シローくんのけちー! ぶーぶー!」
そのあとも理子はぶーぶー言っていたが教えなかった。正しくはナイフではなく投げ方に秘密があるんだが、わからないならそれでいいだろう。
熊を担いで
ちなみに熊は依頼人と、理子と一緒においしくいただいた。
今は帰りのモノレールの中にいる。
「今日はありがとうな、理子。助かった」
「理子は何もしてないよ? ただついてっただけだし」
「いや、理子がいなかったら依頼すら受けられなかった。礼と言ってはなんだけどいつでも呼んでくれ。できる限り力になるからな」
理子はわざとらしそうに考えるポーズをして、真剣な顔で答えた。
「なら、理子と一緒に鬼退治でもしてくれる?」
「鬼? そんなのがいるのか?」
「冗談だよシローくん! 今時そんなのいるわけないって。子供でも知ってるよ?」
笑いながら肩をばしばしと叩いてくる。
「鬼退治だったとしても手伝うからさ、きちんと言ってくれよ?」
理子の頭をなでる。
「ん……」
気持ちよさそうに目を細める理子を見ると、武偵と言う特殊な状況下にいるとはいえやっぱり女の子なんだと思う。
理子が見せた真剣な顔。冗談とは言っていたが、何かしら関係があるのだろう。
俺にできることなんて数えるほどしかないだろうけど、重荷を少しでも軽くしてあげられたらな、とは思う。
9月24日 指摘された部分を改訂しました。