吐いた息は白く、空へと昇っていった。
夜空を見上げると、星が綺麗に輝いていた。
あたしは星に手を伸ばすけど、それが届くことはない。
過ぎた想い、過ぎた願い。
瞼を閉じるとそこに浮かぶのはあの人の姿。
かっこわるくて、でもかっこよくて、あたしの一番好きな人。
今すぐにでも会いに行きたいけれど。
今すぐにでもこの想いを伝えたいけれど。
それは叶わない。
だって、あの人の持っていたガラスの靴は、あたしのものではなかったのだから。
あたしはあの人のシンデレラにはなれなかった。
閉じた目から溢れた冷たいものが頬を伝って地面に落ちた。
あたしはそれを拭うことはしなかった。
それはあたしのこころを濡らす雨だ。
この先ずっとこの雨が止むことはないだろう。
ーーー。。。ーーー
空虚な生活。退屈な日々。
桜の咲く季節。
友だちはみんな、自分の新しい道を歩みはじめたけれど、あたしはずっと立ち止まったまま。
先生にはいい成績なんだから大学へ行けとしつこく説得されたけど、あたしは大学へは進まなかった。
今はなんとなくお店を手伝って、なんとなくぶらぶらして、そんな生活を送っている。
このままでもいいかなと思うあたしと、このままじゃだめだと思うあたしがいる。
あたしは、一体どうしたいのだろう、どうしたらいいのだろう。
表面上は涼しく装っているけれど、頭の中はぐるぐると渦巻くカオス状態だ。
あの人は今、どうしているだろうか。
唐突にそんなことが頭に浮かんだ。
東京へと引っ越すあの人を見送りにいったとき以来、会っていなければ連絡もあまり取っていない。
忘れられない人。忘れたくない人。
あの事があってから一年とちょっとが経ったけど、あたしは今だにあの人のことを想っている。
みっともないとは思うけど、そう簡単に割り切れるようなことではなかった。
店先に人がいるのに気づいた。
今はお手伝い中だ、しっかりしないと。
いらっしゃいませと声をかけると、その人はいきなりあたしに名刺を差し出してきた。
名刺には346プロダクションプロデューサーと書いてあり、その下に名前が書いてあった。
この会社の名前はきいたことがあった。
アイドルの高垣楓や城ヶ崎美佳がいるところだ。
その人はいろいろとあたしに話をしたが、ようするにあたしをアイドルとしてスカウトしたいということで、女子寮もあるし、親も安心云々かんぬんということだった。
その場はとりあえず、また気が向いたら考えるといっておいた。
その日の夜、あたしは名刺を取り出してながめていた。
別にアイドルに興味があるわけでも、芸能界に憧れているわけでもなかった。
だけどもし、あたしがこのスカウトを受けたとしたら。
あたしは生まれ育った京都から、346プロの事務所がある東京へと移り住むことを意味する。
東京。それはあの人が住む街。
とくん、と胸が高鳴る。
あの人と過ごした日々をあたしは忘れることができない。
甘い果実の味を知ったあたしはそれを忘れることができない。
あたしの身体の中で、強欲で醜い何かがどろどろと溢れ出した。
それを止めることは、もうできなかった。