シンデレラガール祝賀会当日。
俺が家でソファに座ってボーッとテレビをみているとインターホンの鳴る音がした。
「ん、来たか。」
既に準備して置いてあるカバンを手に取って玄関へ向かった。
「はーい。」
ドアを開けると、黒いスーツを着た男の人が立っていた。
「おはようございます。お迎えに来ました。」
丁寧な言葉使いで話す彼は周子のプロデューサーだ。
一目でいい人であるというのがわかるほど温和な雰囲気を常に醸している。
以前に何度か会ったことがあるのだがよく気が利き、親切な人だった。
そんなプロデューサーさんがなぜ家に来たのかというと、なんとなくわかると思うが、祝賀会に参加する俺を迎えに来てくれたのだ。
俺も軽く挨拶を返し、そのまま玄関から出ようとした時、プロデューサーの隣にもう一人、人がいることに気がついた。
「ふふっ、半年ぶりくらいかしら。」
そういってはにかんだ彼女の名前は速水奏。独特の妖艶な雰囲気をもっており、大人びて見えるが実はまだ高校生だ。
彼女は周子のプロデューサーが担当しているアイドルの内の一人で、周子とは友達であり同僚でありライバルであるらしい。
「どうも、久しぶりだな。速水さん。」
なぜ俺と彼女が面識があるのかというと、それは周子経由で出会ったわけではなく、わけあって彼女たちのプロデューサーと数回会った時に、最後に会った時を除いて、毎回プロデューサーについてきていたのだった。
そしてその時の様子と俺の人間観察眼から推測するに、どうやら彼女はプロデューサーに惚れているらしかった。
雰囲気は大人びているといってもやはり高校生。
好きな人は一緒にいたいのだ。
今もこうしてプロデューサーに着いてきて隣にいる。
そんな乙女な彼女の行動に思わず頬が緩んだ。
「…なにをにやにやしてるの。」
「悪い悪い、なんでもないから気にすんな。」
怪訝そうな目でこちらを見てくる彼女を適当に誤魔化しておいた。
「そう?…わかったわ。ならとりあえず車に向かいましょう。あまり長居して誰かに騒がれたりしたら大変だから。」
あまり納得してなさそうだった速水さんだったが、一人つかつかと歩きはじめたので俺とプロデューサーもそれに続いた。
ーーーー。。。ーーーー
祝賀会の会場となる346プロの事務所へと向かう途中の車内は誰も喋ろうとせず静かだった。
ちなみに速水さんは助手席に座っており、後部座席の運転席の後ろ側の方にいる俺からは彼女が2、3分に一度、運転するプロデューサーの顔をちらっと見ては、少し顔を朱くしてすぐに背けるということを繰り返しているのがわかった。
窓から見える景色はどこもかしこもビルや何かしらの建物だらけだが、空はまだ一月だというのに青々と晴れていて綺麗だった。
「そういえば。」
突然、車内の沈黙を破り、話しはじめたのは速水さんだった。
「この前、周子に見せてもらったんだけど、あなたが書いた周子の絵とても綺麗で美しかったわ。」
「ん?絵ってなんのことだ?…確かに俺は絵を描く趣味はあるけど塩見の絵を描いてプレゼントしたことなんてあったっけなぁ…」
記憶の彼方を探ってみても俺が周子にそんなことした覚えはなかった。
周子も俺が絵を描くことが趣味だということは知っている。何度か描いた絵も見せたことがある。だが、自分が描いた絵を、しかも当人の、プレゼントするなんていうことはシャイガイの俺には到底できないことだった。
「本当?確か、ノートのページをちぎった紙に描かれてて周子が高校生の格好で椅子に座って楽しそうにおしゃべりしている絵だったわ。」
「…!」
「あら、思い出したかしら?ならよかった。周子、その絵をかなり大切にしてるのよ?いつもどこに行くときも持ち歩いているわ。」
確かに俺はその絵のことを思い出していた。
しかし、あの絵は、いや絵というほど立派ではなくどちらかというと落書きに近いが、あれは確かに俺が周子を描いた絵だが本当ならとうにどこかのゴミ処理場で処分されているはずのものだ。
懐かしい記憶が俺の身体を駆け巡った。
それは俺が塩見周子という人間を知り、彼女の優しさに救われた、苦くてほんのり甘い思い出だ。
この話ではシンデレラガール総選挙が毎年、一月の初めにあるという設定にしています。