剣と魔法の世界に転生するはずがB級パニック世界に来てしまった件   作:雫。

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 やはり「敵」は、明確に人の多いところを攻撃しようという意思のもとにサメを飛ばしているようだった。俺たちの車が山の麓まで来ると、頭のすぐ上を舞うサメはいなくなったのだ。

 

代わりに山の中腹辺りからサメが飛び出し、遥か高高度で放物線を描いて、街に向かって空を泳いでゆくのが確認できる。

 

「……やっぱり、この山はクロみたいだな」

「ねえ、見て、この看板」

 

 降車して空を切り裂いて飛びゆくサメの群れを見上げていると、キャサリンが朽ち果てて地面に落ちた看板を拾ってきた。

 

「立ち入り禁止の看板か。何々、原因不明の失踪事件多発につき、当登山道及び狩猟場の封鎖を実施する。……なるほど、観光客の行方不明もこの山に原因があるって訳か。都市伝説の類いじゃあなかったらしい」

「ひゅう。クロもクロ、真っ黒ってレベルじゃねぇな!」

 

 ダニーは口笛を吹いた。彼の気持ちが良くも悪くも高ぶってきた時の癖だ。

 

「でもその正体がわかるものはまだ何も無い。もう少し、山道を進んでみるか――」

「……しっ、二人共伏せて! 誰か近づいてくるわ!」

 

 更なる情報を集めるべく俺が歩みを進めようとすると、何かを感じ取ったキャサリンが俺の頭を押さえて自信と共に地面に伏せさせた。ダニーも戸惑いながらも俺たちに倣って姿勢を低くする。

 

「いきなりどうしたキャサリン。ここはベッドでもジュードー・ジムでもないぞ」

「気配を感じたわ。手練れの気迫よ」

 

 どうして仮にも一介の高校生であるはずのキャサリンにそんなことがわかるのかとツッコみたいところだが、聞いたら面倒なことになると本能が警告してくるので、そういうものなんだと受け入れる他ない俺。

 

 しかしキャサリンに言われるままに伏せていると、なるほど、確かに人の気配はあった。ある程度近づいてくれば、俺のような凡人にも感じ取れる。

 

 気配だけではない。腐葉土を踏みしめる足音、それも数人分のものが、やがてはっきりと聞こえるようになってきた。

 

「お待たせしました~。州軍のデリバリーっすよ~!」

 

 しかし姿を現した気配の主を見て、拍子抜けした。

 

 別にこの山に巣食う怪しい集団ではなく、調査のために派遣されてきた州兵の分隊であった。それも、やはり空からサメが降り注ぐなど与太話の類いだとでも思っているのだろうか、言葉の端々にはほとんど士気というか、真剣味を感じられない。

 

「何だ、州兵か。驚かせるなよキャサリン」

 

 相手が敵でないとわかると、ダニーが真っ先に彼らの前に出ていく。じっとして様子を伺うとかはあまり好きではないダニーだった。

 

「誰だ。ここで何をしている?」

 

 隊列の先頭を歩いていた女性兵士が、ダニーに小銃を向ける。

 

「おっと。まずはその物騒なものを下ろしてもらおうか。悪いけど女の子に棒で突かれる趣味は無いんだ、むしろ突っつきたいもんだ。……なあ、君たちもこの山を調べに来たんだろ?」

「黙れ。先にこっちの質問に答えろ」

「あー……初対面なんだからもっと優しくだな……」

 

 しかし俺はその女性兵士の声に、聞き覚えがあった。

 

「クレア……クレアか?」

「お前は……ライアンじゃないか。どうしてここに?」

 

 聞き覚えのある声の主の前に意を決して出てみると、やっぱりそうだ。

 

 州兵としての軍装に身を包んだ短髪で長身の彼女の、凛とした顔を忘れている訳が無い。

 

「誰? その州兵と知り合いなの?」

「ああ。クレア・アームストロング。彼女とは実家が隣だった、幼馴染みって奴だ。三つ年上だけど。州兵になったって話は聞いたけど、まさかこんなところで会うとは」

 

 こういう事態で再開しても、普通に喜べないのが残念なところではあるが。

 

「まあライアンがいるならちょうどいい。この話にならないお調子者に代わって、状況をおれに説明してもらおうか」

 

 クレアは背後の州兵たちを制すると、そう言って俺に詰め寄ってきた。


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