剣と魔法の世界に転生するはずがB級パニック世界に来てしまった件   作:雫。

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「あれだな」

「うん、いかにもあれだな」

 

 その後俺たちは十数分ほどとりあえずは中腹を目指して歩いてみたのだが、いかにも怪しい施設が、とても俺たちの都合の良いように現れてくれた。

 

 いわゆるバンカーと呼ばれる地下要塞なのだろう、その入り口が山の斜面に口を開けているのだが、何と言うか、その入り口のデザインが、わざとらしいゴシック意匠にでかでかとハーケンクロイツを刻んだ必要以上に大きくて重々しい城門という、どうして今まで誰も気づかなかったのか不思議になるほどにわかりやすいものだった。

 

「さっき伏流の中にいたサメも連中が放ったものなら、伏流に連結した地下水道があるはずだ。正面から行く訳にはいかないから、そういうところを探して侵入しよう」

「そうだな」

 

 そして意外と簡単に潜入できた地下水道。それでいいのかナチス残党よ。

 

「見ろ、サメが泳いでいるぞ」

 

 地下水道は両脇にキャットウォークがあり、中央を水流が通っているスタイルであったが、その水の中には当たり前のようにサメがいる。

 

「どうもやはりこの水道は伏流に繋げてあるようだ。こうやって定期的にサメを送り込んで、侵入者を阻む警備システムにしてたんだな」

 

 どう考えてももっと合理的なのがあると思う。

 

「クレア、光と風が入ってきてるから、あっちの梯子から施設内に入れそうだ」

「よし、腹をくくるとしよう」

 

 まずはクレアから梯子を上り、上のハッチを少しだけ開けて安全を確認してから、ハンドサインで俺を呼ぶ。そして俺もクレアの後に続き施設内に侵入した。

 

 内部はというと、照明は薄暗く、壁や床は冷たいコンクリートが剥き出しになった不気味な印象だが、ところどころによくわからない電子機器類が赤い光を放っているのが気になる。あと、これ見よがしにハーケンクロイツの旗やら総統閣下の肖像画やらがわざとらしくあちらこちらに飾ってある。アピールし続けてないと死んじゃう病気か。

 

「とりあえず奥に進んでみよう」

 

 俺とクレアは顔で怪しまれにくくするために、ナチスの特徴的なヘルメットを目深に被り、入り口の反対方向に当ても無く足を進める。

 

「……こいつらの目、節穴だなぁ」

 

 奪い取った制服に身を包み、連中の自己陶酔の強そうな歩き方を真似て、後は目を合わせないように気を付けさえすれば、廊下ですれ違うナチ兵は全然俺たちに気付かない。たまに二度見してくる奴もいるが、大抵は気のせいか、とそのまま過ぎ去ってしまう。

 

 ……明らかに木の棒持ってるのに。

 

「んん? 見ない顔だな、お前たち。新兵か?」

 

 しかし流石に将校クラスになると誤魔化しにも限界があるらしい。立派な軍服に身を包んだ如何にも偉そうなナチス軍人が、二度見の後、引き返してきた。なるほど、流石に全員が全員無能の擬人化という訳ではないらしい。

 

「お前たち、所属は? 名前は?」

「え、ええと、自分の名前はエレンと言いまして……」

「ふーむ、何だかアメリカ訛りに聞こえるドイツ語だなぁ」

 

 まずい、クレアが怪しまれている。何で俺の木の棒にツッコまないのかは知らないが、とにかく侮れない軍人の前にピンチだ。

 

 何とかせねば。打開の鍵になるものはないかと周囲に視線を走らせた俺の視界に、あるものが入る。

 

 総統閣下の肖像画だ。

 

 最早今はこれで誤魔化すしかない、俺は決心し、将校に見えるように右手を高く掲げた。

 

「ハイル・ヒットラー‼」

「ハイル・ヒットラー‼」

 

 そして決まり文句を威勢良く叫ぶと、将校も脊髄反射のように呼応して、姿勢を正して忠誠の雄たけびを上げた。

 

 当然、この時将校の身体は硬直して隙ができる。テンションも高ぶるから心にも隙ができる。

 

「第四帝国に、栄光を!」

 

 そして俺たちはそのチャンスを逃さず、将校の横を走り抜けていった。

 

 訂正しよう、あの将校もちょろかった。

 

 そして更に進んでいくと、どうやら工場や研究所のエリアのようだ。廊下の両脇に口を開けた丸い窓から、広い作業場や、複雑な機械の置かれた実験室が見える。

 

「おい……どうやら連中、ここでサメを養殖していたみたいだ」

 

 その窓のいくつかからは、大量のサメが仲良く元気いっぱいに泳ぎ回っているいくつもの愉快な水槽の姿も見える。

 

「うん……確かにこの事件の核心だな。でもなぁ、隣にあんなのあったらなぁ……」

 

 しかしすぐそばの窓からは、何か空飛ぶ円盤を作っている工場も見えるので、何かもう、サメなどのことを気にしているのが馬鹿らしく感じられてくる。わざとらしく円盤の前で整列してハイル・ヒットラー三唱してる連中もいるものだから、なおさらだ。

 

 とは言え、俺たちはこんなところで立ち止まっている訳にもいかない。更に奥まで進んでいく。すると巨大な鉄の扉が目の前に現れた。厳重にロックされていて、如何にもここに入ってみろという感じだ。

 

「どうやら、この扉を開けないと先には進めないようだな」

「よし、あの程度の旧型のロックならおれでも解除できるかもしれない。ライアンはちょっと待っていてくれ」

 

 クレアはバックパックから小道具を取り出しつつ、ロック装置の前にかがむ。

 

 そしてクレアが作業に取り掛かった直後であった。ブザー音が鳴り響いてサイレンの光が辺りを赤く染めた。どうやらようやく侵入者に気付いたらしい。これでよく半世紀以上組織を存続させてきたものだ。

 

「くそ、いい加減感づかれたか! ここにいたら袋の鼠だ、解錠を急がないと!」

 

 クレアは作業の手を早め、俺は鹵獲したMP5を構えて後方を警戒する。すると、急に俺たちの後方の天井がパカリと開き、そして上から何やら巨大で禍々しいものが、クレーンで降ろされてきた。

 

 そいつは、まさしく大型のサメであった――下半身が歩行メカに挿げ替えられていることを除けば。

 

「サメボーグ⁉ 馬鹿な、既に完成していたのか!」

 

 クレアがサメボーグとか唐突に呼んでるそのサメは、まるで鳥のような逆関節で、しかし太く頑健な金属に覆われた脚をゆっくりと動かしながらこちらへと迫ってくる。威嚇するように、ガオーと咆哮しながら、俺たちに狙いを定めている。

 

「ライアン、解錠はもう少しで終わるから、何とか時間を稼いでくれッ!」

「いやいや、そんな無茶な!」

 

 しかしそう言っている間にもサメボーグは迫ってくるので、俺はとにかくMP40の銃口を向け、そして放つ。

 

「あっ――!」

 

 しかし拳銃弾数発喰らったくらいでは逆に怒りを増すだけのサメボーグはその巨大な顎を力強く閉じながら、俺に向かって踏み込んできた。

 

 俺はすんでのところでバックステップで噛みつきを回避することができたが、しかし突き出した手に握っていた銃は凶悪なる牙に砕かれてしまった。

 

「畜生、こうなりゃやけくそだ!」

 

 何も無いよりはマシだ、俺はクレアに言われて持ってきた木の棒を構え、そしてサメボーグを突く。繰り返し突く。するとどういう訳か、サメボーグは木の棒の痛くもなさそうな一撃を喰らうたびに怯み、十分に牽制として通用した。

 

「クレア! 解錠はまだか⁉」

「もう少し、もう少し持ちこたえてくれ!」

 

 だが木の棒は牽制にはなっても致命傷を与えることは叶わない。そして牽制をしていても、そこはサメボーグ、ローペースながらじりじりと迫ってくる。

 

「くそ、何か武器は無いのか⁉」

 

 MP40も効かないのだ、今の俺たちにそう簡単倒せるはずがない。一応、木の棒以外のサメに効きそうなアイテムが手元に無い訳でもないが、できるだけ温存したい。そう思いつつも藁にも縋る思いで周囲を見渡すと、あるものが目に入った。

 

 これだ。サメボーグを倒すには、これしかない。

 

「クレア! 合図したら振り返って銃を乱射するんだ!」

「え、どうして⁉」

「いいから撃ってくれ!」

 

 俺はサメボーグに、より一層強烈な連続突きを見舞って怯ませ、まずは大きな隙を作った。

 

 そしてサメボーグが怯み、一歩後退したタイミングを狙って俺はさっき目についたもの――廊下の隅に備え付けられたガスボンベを手に取った。

 

 サメボーグは、再び俺に向かって、その巨大な口を開きながら大きな一歩を踏み込んでくる。

 

 だが遅い。俺はサメボーグの口の中に力任せにボンベをねじ込み、その反作用で倒れ込むようにして床に伏せた。

 

「今だクレア! ぶっ放してやれッ!」

「くたばれ化け物!」

 

 クレアが振り向き様にばら撒いた弾丸が、俺の頭上を掠める。

 

 そしてそのうちの何発かはサメボーグへと吸い込まれていき、そして口の中のガスボンベに穴を穿ち、誘爆を誘った。

 

 口内から壮大な爆発を受けたサメボーグの頭部は木っ端微塵となった。魚臭い肉片が辺りに散乱する。

 

 内部爆発故にボンベの破片の飛散などは最小限だったから、伏せて頭を庇っていた俺もある程度距離を保っていたクレアも無傷だ。

 

「おお……良くやったライアン。ボンベで内側から爆破とは、良く考えたな」

「ん、まぁ、お決まりだからな。様式美ってやつだ。それより、解錠は終わった?」

「ああ、丁度終わったところだった。じきに追手も来る、とっとと入ろう」

 


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